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少女は刀を握り姫となる!剣姫〜いざ行かん  作者: 榊 凪
1章 幼少期 殻を破る時
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覚醒

 61

 


 次の日になった。

 今日はテストの日だ。

 人はテストという言葉に憂鬱になる生物だと言うことを知ったこの日この頃であるが、まぁ赤点であったとしても落第や単位が取らないとかそういうことはない。ただ、カレンさんにしごかれるという拷問を受けるだけなので気に病んでいると言うことはないが、朝から少しだけ胃が痛い……。

 悩むと言うことはこう言うことなのかと、若輩ながらそう考えてしまう。


 顔を洗い、朝食を食べるためにテーブルに行くとカレンさんはいつにもなく真剣な表情でテスト用紙を眺めていた。多分いつもの癖で問題に不備がないかどうかの最終確認だろう。たまに師匠に聞いているが、師匠は首を横に振り「俺に聞くな」と口を酸っぱくしていっているのをよく聞く。あれだけクソ難しい問題を作るくせに神経はか細いとか……いや、案外図太いのかもしれない……。やっぱり女って怖い。私も女だけど。



 今日の朝食は目玉焼きに厚切りベーコンの炭火焼。それにバターしみしみのフランスパンだ。

 このフランスパンが素晴らしく美味しいのだ。

 香りがいいというか何というかこればっかりは食べてみないことには絶対にわからない魅力と味と香りがある……。


 いただきます


 手を合わせ朝ごはんを食べ終えた。


 食事が終わればジョギングだ。

 森を三週する。その間出てくる猪や鹿などは狩る。これは実技も兼ねている。というよりは昼飯のおかずを採取するという名目の方が幾分か強い気がする。

 ま、美味しいから文句はないけど。


 道中辺りを見渡すが何もいない……。昼飯は魚でも釣ろうか?


 なんて考えていると、目を赤くしたイボイノシシが目の前にいるではないか。というか猪って目赤かったけ?

 よく覚えてないけど、美味しそうだからよし。


 真剣を抜き、草むらに隠れる。まだこちらには気がつかれてはいない。気配を消す事はだいぶ上達していると自負している。

 猪を観察する。どうやら自然薯を掘っている様子……。

 ついでにあの自然薯も頂こう……くくく……。


 そう思っていた時期が私にもありました。



「なにこの猪……強すぎるでしょ。攻撃が当たらないし当たったとしても弾かれる……こんなやつ初めてだよ」

 弱音を吐き、下がっている刀を中段に持ち変えた。

 師匠は家にいるだろう。ここから逃げ出す事は多分容易だろう……だが、なんか嫌だ。こんな雑魚から逃げるなんてプライドがいくら低いと言われてきた私でも譲れない。



 息を吐き、肺をからにする。

 精神統一……。



 坂巻流剣術……居合……三式、陽炎。


 こうなったら、秘技で仕留める他ない。


 自らの景色そのものを歪め、存在すらも歪め、必殺の間合いまで、気配を殺し一束一足で加速する。刀はイノシシの単眼を捉え、その猛威を振るう。

 打ち出された必殺の横振りによる斬撃、衝撃波、そして殺すという明確な殺意がイノシシの後頭部に直撃した。


 イノシシは見えない私を音で辿り、死を覚悟したのか、それとも偶然かはたまた直感に頼り四肢に力を込め頭を少しだけずらし必殺の剣を僅かばかり数ミリ上にずらす。だだそれだけ……だが戦いにおいてその数ミリが命取りになりまた、己が命をわずかばかりのところで救う奇跡のような間合いである。


 受け流された必殺の横振りは芯を捉えることなく逆立つ剛毛と薄皮を幾分が斬りすてるだけで事なきを得る。


 そして、第二の構え薄皮を切られたイノシシは後方の足を高く上げ、斬り下がろうとする私の後頭部又は喉元に向けた強力な足蹴りを構えんと前方の足を縮めた。


 剣筋を避けられた!!

 ギロリと後方にいるイノシシに目を向けたその時。


 頭の後ろに猛烈な激痛が走った。

 今までに受けたことのないほどの激痛、首根っこからグギッという鈍い音が耳に届く吐血し頭から地面に受け身の一つも取れずに激突した。


 下は落ち葉で柔らかかったのが不幸中の幸い、コンクリートなら頭蓋骨が粉砕されているところだ。

 二度三度バウンドし二、三メートルほど紙面を削りやっと止まることができた。

 今の激痛により体に力が入らないそれに加えて技の反動により体が動かない。


 つば混じりの血反吐を吐き捨て歯を食いしばる。だが、体は言う事を聞かない。

 イノシシに眼を向けると切られたところから出血しゼェゼェと息を切らしている。どうらやイノシシも体制を崩しているらしい。

 ここで何か一つ手が打てるのであれば、勝機があるかもしれない。


 ポツリ……


 何かの滴る音がした。

 自然の音は全てかき消され、その一点の音が耳に強く届いた。

 体からどす黒いなにかが流れ出す。あの時と同じ、いや、それ以上の何かだ。


 彼女の姿はまるで鬼と人を掛け合わせたような姿に。


 髪は赤く、目は深緑色に……来ていた服はどす黒く染まる。


 ゆっくりと立ち上がり、枯葉を踏むしめる。

 踏まれた土は死に、生き物の尊厳そのものを踏みにじるその出で立ちはあらゆる生物を圧倒する。

 ……まさに、『覚醒』ーー


 絶望なまでのその強大なオーラは見るもの全てを強張らせ、萎縮させ恐怖させる。

 額からは青紫色の透明なツノが生えている。まるでアメジストのような輝きを放っている。


 神々しくもあり、地獄の主人でもあるそんな両極端を兼ね備えた史上最悪の狂乱の剣士が今ここに誕生したのだ。


 腕につけられている腕輪には細かなヒビが無数に入り今にも砕けそうにしている。まだ崩れないのはとどめの一撃が入っていないからなのだろう。壊れるのも時間の問題だ。



ここにきての覚醒の意味とは……

次回明かされる夜見の体の秘密、貴方はその事実と坂巻家の執念と怨念について知ることになるであろう。

くくく、書くの楽しい

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