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あれからひと月が立った……。
午前は剣の修行。午後からはカレンの英才教育だ。
どうやらカレンさんは元々教師を目指していたらしく、結構賢いとの事。それに、今のご時世先生なんてやってる人なんてごく僅か。だから、こういう機会を逃したくない!! との事で教師の真似事? みたいなことをしている。
教えてもらっていることは、国語、社会、数学、英語、フランス語、中国語、スペイン語の七科目だ。
特に英語は重点的に取り組んでいる。カレンさん曰く「これからの社会はグローバルに行かなくてはいけません。さぁ、世界へと羽ばたくのです」とのこと。
なぜか先生モードの時は美帆お姉ちゃんに若干寄せているような気もしなくはない……。
もともと真っ白だった黒板には今ではぎっしりと英語が書かれている。
必死に私はそれをノートにとる。たまに問題を出されては答える。初めからとばされた時は少し焦ったが今ではこれが普通だ。
「あら、もうこんな時間……今日はここまでね」
「……ふぅ〜疲れたよ……」
カレンはホワイトボードに書かれている英語を全て消し、愛用の|エプロン(戦闘服)に着替えて|キッチン(戦場)に行ってしまった。
背伸びをし、ノートと簡素な教科書を設けられた棚に入れた。
休みがない……初めの一週間は休みがあったのに今では一週間に一度きり……まるで、社畜にでもなった気分だ。
ごほん……
そんな感じで今は自由時間。といっても時刻は十九時……やる事もないし、外は暗いし。
それに、寒いし。
◇
春が過ぎ、初夏となった。
蝉が鳴き、散ってしまった桜を横目に釣り糸を垂らした。
横には美穂がいる。
火を起こして魚を焼く準備をしているようだ。
この子もだいぶこの生活に慣れたようだ。初めは私の背に隠れ震えていた。今では活発になりこんな風に私について色々なことをする事が多くなった。
なんだか、子分を連れているみたいですこし背中がむず痒い……。
「ついたよ!」
小枝を火を灯し、嬉しそうに笑っている美帆を見ると私もすこし嬉しくなった。
「あ、引いてる引いてる!!」
釣り竿を見るとさして大きくもないがお手製の釣竿の糸がピンと張り縦横無尽に川の中を泳いでいた。
ほんの少し力を入れて、釣竿を上に引っこ抜いた。
水しぶきをあげ、二十センチほどの大きなニジマスが釣れた!!
魚の独特生臭さを気にせず、素手で掴み針を取った。
ニジマスを美穂に投げ、そして、それを掴み流れる機械のように木の棒をニジマスに突き刺し、焚き火の脇に突き刺すのだった。
一時間ほど釣りをして、成果は五匹……二人分の昼ごはんとしては申し分ない程の食料だ。
釣りを終えた私は、道具一式を片しドングリを焼いている。
これが案外いけるのです。師匠に教えてもらった。
そう言えば師匠はどこに行ったのだろうか?
私が釣りを始めてから一度も見ていない。うさぎでも狩っているのだろう。何にせよもうそろそろお昼、太陽は真上を向いている。
「美穂、師匠知らない?」
「ん〜光物持って森の中入っていったよ」
「光物って……893じゃないんだから、はぁーまぁいいかな。どうせお腹が空いたら戻ってくるし。ほら、話をすれば」
「ん? なんだいい匂いがするな。ニジマスか……美味そうだな。っと、それとこれださっき美味そうなやつを見つけた。一緒に食べよう」
肩に担いでいる野鳥三匹。
名前は分からないけどかなり大きい。私の顔と殆ど変わらない大きさだ。あれはおいしそうだ。
美穂は無言で羽をむしっている。ある意味狂気だなと思うこの日この頃だ。
「それと、夜見……お前には話がある」
「え、何ですか?」
「大した話ではないのだけどな……冬に言っていた話だ」
「えーと……確か学校がどうこう言っていた話ですか?」
師匠は珍妙な顔になり、咳払いをしたい。
「その話しだ。お前の学校が決まった。正確には来年の四月からだが……」
「今って何月なんですか?」
「六月」
「はぁ……えーと後十ヶ月ってところですか?」
焼けたニジマスをほうばりながら師匠は小さく頭を上下に振った。
「……美味しいですか?」
「ーーそだな」
「さいですか。それ、私が釣ったやつですけど」
「たまにはわやるな」
(たまには余計だよ!!)
なんてない会話をしているとどうやら美穂が鳥の羽をむしり終えたらしく、調理法を迷っていた。というか食べたことがないらしい……。
私は焼けば何とかなると思っているので、そのまま火にくべようとしたら、師匠に止められた。
師匠曰く、「人には向き不向きがある」なぜかその含みを持った言葉に私は首を傾げたが、その言葉に美穂も苦笑いしていたのをよく覚えている。
「わ、私がやります」
「た、頼む」
私を差し置いて、美穂と師匠は忙しなく鳥を調理していた。
三十分もすれば鳥も焼ける。
香ばしい匂いと、炭の匂いで胃が刺激されてお腹が空いた。
味噌の香ばしい匂いが鼻腔が突かれる。空腹が頂点に達した時人はお腹が鳴った。
「おいおい、朝ごはん食べただろ。どんだけ食い意地張るんだよ」
「仕方ない……成長期だから」
「その言い訳はずるい」
「じゃあ、私も成長になので魚三匹……」
私と師匠の冷たい眼差しを受け美穂は萎縮し、隅の方でニジマスにかじりついていた。
「あ、師匠の魚はもうありませんからね」
「は? なぜだ」
「さっき食べたじゃないですか。しらを切るなら自分で釣ってきてください。この魚たちは私が仕留めて美穂が調理したものです。もらえるだけ感謝してほしいくらいです」
私の冷めた目を見て師匠は暗い木下で野鳥にかじりついていた。




