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ここから少しずつ動いていきます!!
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朝になると彼は走っていた。
いつもの日課らしい。
息一つ乱さず、十キロ地点を通過した。
その横を荒い息遣いで走るのは夜見だった。
何故かクソ早く起こされた夜見は寝起きで朝の森を走らされているのだった。
「ゼェゼェ……どこまで行くんですか。このやろう」
「その言葉遣いは助けてもらった人に対して失礼じゃないか?」
「いきなり、頭にゴム弾を何百発も撃たれたらこんなにもやさぐれるに決まってる。頭おかしいんじゃないの!!」
私の悪口を諸共せずただひたすらに前を向いて彼は走るのだった。
ようやく折り返し地点についたのはあれからまた数キロほど走った時のことだった。
やっとの思いで家に着いたのはあれから三時間ほど経った頃だ。
二人とも汗で服がびしょびしょひ濡れ、片方は千鳥足で水を浴びるので会った。
「こんなのでへばっているようじゃあの訓練は無駄に終わったかも知れんな」
(クソが……絶対に殺してやる)
悪態をつかず、表情だけは一丁前に出来ているようだった。
時刻は現在八時過ぎ……。日も完全に上がり、洗濯物がいくつも干されていた。
「ほれ、これで汗でも拭け」
渡された純白のタオルからは懐かしい匂いがした。
「…………どうも」
まだ完全には回復していない夜見の体。節々は悲鳴をあげ、お腹も空いている。
あの干し肉がどうやらあたったらしい。干し肉も腐るんだなと夜見は思ったが、今はそんなことを口にする余裕は全くなく、ただ、息を荒くし、芝生に横たわることしかできなかった。
「お帰りなさい……ご飯なら出来てるわよ? それと貴方、あまり初めから飛ばすのはやめたほうがいいんじゃないの?」
カレンからタオルをもらった師匠は少し照れ臭そうに顔を拭き、やれやれと顔を横に振った。
「そうは言ってもな、これからこの子にはやってもらわなきゃあならないことが山のように積み重なっているんだ。それをやるためにはまず体力だ。だから鍛えてるんだよ」
「そう……」
何か不満を抱いたのかカレンは頬杖をし、悲しそうに呟くのだった。
「いつまで伸びてるつもりだ!」
そういうと師匠はバケツいっぱいの水を私の顔面目掛けかけてきた。こんなクソ寒い時に水なんか被りたくはないのだけど、なにぶん体が言う事を聞かない。
大人しく、井戸水を身体中に浴びるのであった。
◇
「ハクション!!」
体が重く、頭が熱い……。どうやら先ほど水をかぶったお陰が風邪をまんまと引いてしまったようだ。
瞼を閉じ、目の前に出されたお粥(卵味)をチビチビと掬って食べていた。
美帆は私の真横に座り美味しそうに骨つき肉を貪っていた。
若干私が恨めしそうに睨むと、怯えた様子でにく(食べ掛け)を渡そうとしてきたが、流石に申し訳なかったので、首を横に振り遠慮した。
「子供から飯を奪うとか、クソだな」
「あなた、人の事。言えないんじゃないですか?」
カレンに咎められ、肩を落とした。
「ゴホン、冗談はさて置きこれからの事について話す。夜見、それからそこのガキ……えーと、なんだっけか?」
「…………美帆です」
顔を強張らせ、必死に私に美帆はしがみついた。
まるで、怯えた子犬のように。
「そんなに怖がられても話が進まないが……んーカレン後は頼む」
「はぁ……仕方ないですね。このダメな人はさて置き取り敢えず夜見ちゃんの今後について話そうと思います。しっかりと聞いてね」
「……はい」
項垂れて、生返事を返した。
「ま、そやな様子じゃまともに聞けるはずもないよね」
鋭い目つきで師匠をにらんだ。
それにびっくりしたのか、肩をピクリと動かし、ひっそりとコーヒーを飲むのであった。
「ごほん、夜見ちゃんこれから貴方はこの家で過ごしてもらいます。そうですね……後二年かな……それから夜見ちゃんには学校に通ってもらいます! どんな学校かはこの人から」
「えー変わりまして……じゃなくて。学校についてだが、夜見は将来鬼殺になるんだよな」
「まぁ……はい」
「でだ、後二年……つまりは十五歳になった時点でその学校に進学できる。が、その前に一般常識を叩き込まなければならない。そのための期間が二年というわけだ。ここまでの話でわからない事は?」
夜見は目をつむり、自身の将来……強いては今後について考えることにした。
といってもこれは半ば強制だと思うので考えるだけ無駄という事ははなから知っているのだが、やはり反抗したい……というのが幼い夜見の心情だろう。
「お肉が食べたい」
「……違う、そうじゃない」
ジト目で返され夜見は一瞬怯むが、すぐに戻し質問を返した。
「その学校に通うメリット……又は意味がわからない」
「ふむ、……成る程成る程……まず初めにメリットに関してだ。お前はまだ幼く何も知らない。
だからそこに行って学ぶ……というのは前提条件として、本命は仲間を作ること……。これがまず第一、次に二つ目の質問についての意味だったかな? 意味に関しては通って見れば分かる。あとは……そんなものかな?」
時折相槌を打ち話を聞いた。聞いた限りでは深い事情は特には無さそうだ。それに仲間を作るのは…………やはり止めよう。
「人は信用出来ない」
「……旅で何があった」
目を背け、ゆっくりとため息を落とした。
「…………言いたくない」
「……そうか」
「え、えーと、次に美帆ちゃんについての今後についてなんだけど……」
私と師匠に目配りをし、顔色を伺っていると美帆が口を挟む。
「私は…………私が邪魔なら出て行く。今までそうしてきた。だから……」
「美帆ちゃん……そうじゃない。そうじゃないの。貴方はもう、私たちの家族なんだからそんなに怯えなくてもいいのよ」
私は意味がわからず、首を傾げた。
「なんだ、夜見。呆気にとられたナマズみたいな顔をして」
「すみません、よくわからない例えを出さないでください。じゃなくて家族ってどういう事なんですか?」
「あぁ……それなんだけどな昨日カレンと話し合って決めた事だ。ま、文句の一つや二つあると思うが、黙って従え」
やり口には少しばかり気に食わなかったが、やりたいことに関しては感謝しているので黙ることにした。
「なんだ?」
「いえ、酔狂なこともするんですね」
「は! 無理を通して道理となすんだよ」
「そういうものですかね……?」
カレンが咳払いをし、一旦その場を収めた。
「さて、話は一様にまとまったが、何か意見等あるか? 無いなら無いで構わないんだが?」
「あの……」
「美帆ちゃんどうぞ」
師匠が美帆を指差し立ち上がらせる。
「私……この家に居てもいいんですか?」
「あぁ、勿論だ」
「私がしてきた事、知らないわけないですよね……」
「あぁ、もちろん」
師匠は鼻から息をもらし、コーナーを一口口に含んだ。
「それでもだ」
「私たち家族は色々な人を食べました。そんな鬼に落ちかけたような畜生を貴方たちは養うというのですか?」
赤く充血してくる両目、目尻には小さな水たまりが出来ている。その水たまりは今にも弾けそうにウルウルと奥からあふれ出ていた。
「それでもだ。あのな、美帆。お前達がやった罪は消えない。でもな人はそれを償えるんだよ。だからこれからの人生……君たちの肉親が殺してしまった人たちの生きたいという希望を背負って生きていかなければならない。だかってねそんなに気に病む必要はないとどう。だって、君は生きる為に|人(食べ物)を食べていたに過ぎないんだがら」
美帆は下を向き、ポタポタと小さな涙を滴らせる。
カレンが優しく背中をさするとダムが決壊したかのように泣き崩れてしまった。
師匠はその様子を椅子に深く腰掛けて窓から外の雲を眺めるのであった。
ふぅ、第2章の構成で疲れたなう
あと、九話……物語は転換期を迎える




