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先週はすみませんでした〜投稿再開とさせていただきます。
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振り上げられた刀はかなりのスピードで振り落とされる。
一切のブレ無く振り下ろされた刀は棍棒を綺麗に両断し、鬼の頭を見事にかち割った。
ピンク色の脳味噌がとろけたプリンのように器からはみ出す。
首筋まで入った刀の隙間からは死んだ血が噴水のように吹き出し、大人や子供達の体に降り注ぐ。
それを畏怖の目で見つめる子供達は足がすくみガタガタと体を震わせていた。
残った最後の鬼はわたしから距離を取りたいのか後ろに下がろうとするものの鬼の後ろには人の塊がある。
後ろに威圧をかけながら下がっているが、人々は腰が抜けて動けないようだ。
ギロリと私が目を光らせると人も鬼も背筋を伸ばした。
それでも恐れる事なく鬼は右手に持つ刃こぼれした少し長めの剣を私に突き刺さんと腰に溜めた。
そして、一気に腰をひねり剣を垂直に押し出した。
私がその程度の攻撃に当たるはずもない。
鬼の繰り出した剣に対し左に避ける。
鬼はまるで豆鉄砲でも食らったかのような顔をし、そのままの勢いで私に倒れてきた。
下に下がっている刀の刃を上にし迫りくる鬼の体を下段からの切り上げ。
当然避けることもできずに左に脇腹から右肩までの綺麗な刀傷ができた。
だが、その攻撃は致命傷になることはなく一時的に後ろへと下がらせただけとなった。
今の一撃で致死量の血を流した訳ではないが、傷を左手で抑え、これ以上の流血を塞ごうとしている。
剣を握る鬼の手はプルプルと震えていた。
怖くて震えているのかそれとも血が足りず神経が麻痺しかけているのかは分からないが、奴にはもう、刀を振るう事さえ難しくなっている。
そして、鬼は剣を地に落とした。
もう、戦う事を諦めたのだ。
「ふざけるな……剣を取れ。鬼というのは諦めの悪いものだろ。なぜ剣を捨てた」
鬼は何も語らない。
されど、その目を見れば大体分かる。彼は人の記憶を少し取り戻した。
自身の罪に気がついたのだ。
だからこそ刀を落とした。殺させるために。今までやってきた行の全てを清算する為。
「そうか……そうなのか……」
夜見は優しげな顔になった。
そして、剣先を彼の胸元に当てた。
彼はコクリと頭を垂れ私の目を見た。
覚悟を決めた目だった。
「分かった……なるべく痛みがないように殺してあげる。それがせめてもの弔いだ」
両腕に力を込め一気に心臓に刀を突き立てた。
その姿を人々は目にした。鬼の覚悟を決めた瞬間を、そしてそれが自らの命を差し出した瞬間を……。
彼は昔の人であった頃のことを思い出した。
妹と一緒に野原を駆け回ったこと、母さんの作った手料理の味、父さんのあの偉大な背中を……。
痺れるような痛みが彼を貫く間彼は精一杯の笑顔を作った。これから死ぬというのに、生き絶えて今までの思い出が全て消えてしまうのにもかかわらず。
大粒の涙を流し、彼は生き絶えた……。
「逝ったか……」
鬼を見つめ刀をゆっくりと抜いた。
慈悲を与え、許すために……ゆっくりとその刀を抜く。
心臓から吹き出す血。その本流を一身に受け唾を吐き捨てた。
「それで、お前達は私をおそれるか!?」
子供達は気絶し大人達は必死に頭を左右に揺らす。ここで恐れているなんて口にすればあれの二の舞になるに違いないとでも思ったのだろう。
私がそんな無意味なことをするわけがない。
こいつらは……死んでも構わないが一様人間生きる意志がまだある限り生かしてやる。が、死にたいのなら今すぐここで惨殺してやる。
「あっそ……」
ズカズカと大人たちの後ろに隠れている子供たちの中の一人……美穂を肩に担ぎ壊れた扉を踏み越えてその場を後にした。
大人たちは終始怯えていたがそんなものは私には関係のないこと……いつまでも怯えて暮らすが良い……。




