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少女は刀を握り姫となる!剣姫〜いざ行かん  作者: 榊 凪
1章 幼少期 殻を破る時
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遅れたー

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 あの村を出てから一時間ほど歩いた。

「この辺で良いかな?」


 大きな倒木があった。あまり苔の生えていない立派なやつだ。一月以内に倒された木だろう。

 ここからならあの村がよく見える。ここは少し高い山の山頂。あの村がよく見える。私はそんなに目が言い訳ではないが火の上がりがよく見えるからだ。


 何故か? 私は呪われている。

 私が訪れた町、街は……全て襲われる。

 それが見える特等席なのだ……ここに居座らない理由はない……。少し可笑しい……。


 まだ陽の光は真上を差している。

 まだ涼しい陽気だが流石に太陽に当たり続ければ暑くなる。

 上着を少しはだけさせ、冷をとる。

 それに少し歩いて疲れた……。


 昨日、買っておいたココアを飲む為火を起こした。

 火を起こすのは長旅で慣れている。

 適当な火打ち石を使い枯れ草に種火を作る。それが出来たら細枝にその火を移し風を送ればいい。

 初めは手こずったけど今ではベテランだと自負できる。


 鉄製のコップに水を入れ火のそばに置き沸騰させる。泡がぶくぶくと上がってきたら火から遠ざけ粉末状のココアを入れる。そうしたらよ〜くかき混ぜてから飲む。


「暖かくて甘くて美味しい」

 心が温かくなる……。

 ホッと一息つき、体を休めた。


 あの子はなにをしているだろうか……。

 きっと楽しくみんなと過ごしているのだろう。

 胸がチクリとする痛みが走る。


 胸が苦しい……嫉妬かな?

 私だけ除け者にされている気分だ。小さくため息を吐きそろそろ暗くなりかけの夕暮れを見た。

 野宿は慣れている。火も起こしてあるしそんなに寒くはない。


 でも、一人というのはいつまでたっても慣れないもの……。

 今夜は冷えそうだ。


 干し肉を枯れ枝に突き刺し火の上に焚べる。

 パチパチという枝が燃え割れる音がする。


 焼けた肉をそのまま貪るように食べ、その日は寝る事にした。明日を楽しみにしながら。



 次の日、生憎その日は雨だった。


 ポツリ、ポツリと雨粒が走る夜見の頭に落ちる。冷たいーーそう感じならがどこか雨宿りできるところを探し回った。

 やっとの思いで見つけた洞穴には先客がいた。少し小柄なクマだ。

「非常食ができた」

 刀を抜き、襲いかかるクマの胴体を真っ二つに切り裂き事なきを得た。


 山賊から盗んだナイフで皮を剥ぎ、肉と皮、それと骨の三種類に分けた。

 悲鳴が聞こえた。

 あ〜あの村か……。


 漸く襲いに来たか。やっと襲いに来たのか。

 少しだけ心を躍らせた。ここで私が登場すればあいつらも私を認めるだろ。認めざるおえないだろう。

 ニヤリと広角を上げ、笑った。


 その間、雨足は強くなる一方で視界がかなり奪われる。そんな事御構い無しだ夜見は洞穴を飛び出した。


 丁度クマをさばき終えたところで切りも良かった。そんな幸運も味方につけたのかと胸が高まる。


 走って十五分程度、村の柵が見えてくる。

 所々破壊された跡があった。

 どうやら鬼は一匹どころではないようだ。その光景にさらに心が躍る。


 まるで悪魔のような笑みだ。人々がそれを見たら恐怖し、足を竦ませ腰は抜けるだろう。


 いざ村の中に突入するとそこはもぬけの殻だった。人々はもう食い荒らされた後のようだ。

 だがまだ声は聞こえる子供の泣き声だ。聞き覚えのある声だった。そうか、あの子だけはまだ生きているのか……。

 ホッとする胸を撫で下ろし急ぎその声のする方へと足を向けた。


 その声は近くの小屋から聞こえる。

 ドアはズタボロに壊されている。


 そのドアを踏み中に入ると、子供を背に幾人のも大人たちが鬼から子供を守る形でそこにうずくまっている。


 もう、戦意なんてものは無いのだろう。皆完全に死を覚悟している顔だ。

 そして、それを見下し美味しそうな獲物を目の前にする笑っている鬼たち。


 どうやら鬼は三匹居るようだ。


 声になっていない言葉を話す鬼、それを聞き生きることを辞めた人々を見るのはこんなにも気分が良いものだと初めて知った。


 そして、そんな強者……鬼を殺した時彼らはどんな顔をして私を見るのか……ありがとうという言葉を発するのか、それとも呪いの言葉を数珠つなぎにまくし立てるのか興味がある。


「助けろ!! 鬼殺! それがお前達にできる唯一のことだろ!!! やれ、やれ、やれ!!」

 大人達が私にそう叫ぶ。

「…………私に石を投げたのどこのどいつだ。私に石を投げていない人達は助けてあげよう。それ以外は……あとはわかるよね」


 その言葉を聞きそこにいた大人たちの顔がどんどん青ざめていくのが分かった。


 何故、私を嫌った者を助けなければならないのか。私は偽善者ではない。現実主義者だ。

 やられたらやり返すでは無いが、受けた温情は返すつもりだ。では、石を投げる奴はどうか……そんなもの微塵も感じない。だから助ける意味など全く有りはしない。

 裏切りもまた然りだ。


「ふざけるな! あの時食べ物を与えてやっただろうが。その恩はどうした。それを返せ」


「その後に貴方が言った一言覚えてますか?」

 その言葉にあの時の老人が口をつぐむ。

 殺されればいい。それが私の恩返しだ。

 唾を吐き捨て私があの時助けた美帆だけその場から救い出す事にした。後はどうとにでもなってしまえばいい。


 鬼は目の前のご馳走に目が眩んでいる。そして、まだ私には気がついていない。

 今ならなんの抵抗もなく奴らを殺すことができるだろう。

 だけど、殺してやるものか。

 今日ばかりは後で殺してやる。

 今ではなく後でだ。


 私は一度家から出た。

 そして、家の扉の隅からその様子を伺うことにした。


 時を間も無くして鬼たちが棍棒を振り上げてそれらを大人たちに叩きつけた。

 バチィン

 というけたたましい程の音がし、大人たちの胴体がぺしゃんこになった。

 殴られた箇所には大穴が空き、その周りからは肋骨が浮き出る。口や鼻、耳からは体液がじわりじわりと流れ出している。

 それでも、大人たちはまだ死ねなかった。殺してもらえなかった。まだ意識があり口々にいたい、痛いと悲痛な声を各々あげている。

 

 私はそれを見ていて心が飛び跳ねるように嬉しかった。まるで欲しかったおもちゃを買ってもらえた時の子供のように喜んだ。


 笑い声が出てしまいそうになる口を手で塞ぎ、笑いを堪える。ここで笑ってしまったら鬼に気が付かれてもったいないからだ。

 鬼たちはまた棍棒を振り上げそして勢いをつけてまた同じところではなく今度は足を狙った。


 バキバキ


 骨が折れる音がした。初めて聞いた音だ。

 こんな音がするのかと私は歓喜に震えた。新しいことを知れたのだ。嬉しいに決まっている。

 大人たちはまだ絶命しない。いや、出来ないのだ。多分時間が経てば死ねるのだろうけどまだ死ねない。

 心の中では『もう、殺してくれ』と願っているのだろうけど、それは鬼と私が許さない。

 許すはずもない。もしここで鬼たちが帰ってしまったら私が変わりを引き継ぐだろう。


 大人達の奥で子供達が声を殺して泣いている。

 なぜこんな所に逃げ込んだのだろうか。村の外に逃げればまだチャンスはあっただろうに。

 ここが安全とでも思ったのだろうか。

 まぁ、ここが金属で出来た家ならまだ希望はあっただろう。だか、ここは木造建築。壊されない保証なんて一ミリたりとも存在はしない。


 そんな浅はかな希望でこんなところに隠れたと言うのならば、それはもう自殺と何ら変わりないではないか。そうか、そう言うことか。

 最後はみんなで死のうと言うことか……。

 ははっ、それは愉快だ。

 最高だ。


 人はそこまで落ちたのか……この村の人間は生きる事を諦めたと言うのか……糞食らえ。

 戦わずして何が人間だ。私なら最後の一人になろうともクワを持ち最後の最後まで抵抗した死ぬ。それが人だと思っている。だけどこいつらは違う。そこいらにいる虫の方がまだ抵抗してくる。生きる意志のないものは皆……生きる価値なしだ。


 胸糞が悪くなる。ここに居たくない。この場で全員私が殺したいくらいだ。あの洞窟にいた女どももそうだ。なぜ抗わない。なぜ戦わない。

 それが人というものなのに。今の今まで生き残って来れた理由なのに。


「つまらない……」

 私の口から出た言葉はそれだけだった。

 私は刀を抜いていた。

 そして、扉の隅から飛び出し一匹の鬼の首をまるでバターを切るかのようにはねてやった。

 無論、鬼たちは私の姿に気がつくだろう。そんなものもう、御構い無しだ。

 私は刀についた血を振り払うかたちで血を地面に吸わせ、再度刀を左手側にいる鬼の心臓あたりに突き刺した。

 グサリという鈍い音と共に刀はゆっくりと突き刺さり体全体をピクピクさせ口から大量の黒い血をドバドバと滝のように流した。


 恨めしそうに見つめるあいつの顔はクソほどに憎らしかった。


 刀を縦にずらしながら引く。

 骨が断ち切られる感触が手に伝わる。


 まるで、大きめの魚を捌いているようだ。

 刀を完全に抜き去ると私の拳ほどの大穴が鬼の心臓付近に空いた。


 刀を抜かれた鬼は立膝を付きそのまま地に伏せた。

 残った鬼はまだ争う気はあるらしい。棍棒を私に向け構えている。まだそこにいる人間よりは幾分かましに思えた。


 そんなもの私の前ではあまり役には立たないのだけど……。


 私が刀を振り上げると鬼は棍棒を盾がわりに頭に構えた。が、この刀の前でその行為は無駄に終わることをまだ知らない。



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