表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女は刀を握り姫となる!剣姫〜いざ行かん  作者: 榊 凪
1章 幼少期 殻を破る時
48/96

46人食いの人

 46


「お前達が、鬼だからだ」


 冷たく、冷え切った目だ。なんの感情もなく切り捨てる目だ。今から殺す人の目だ。


 彼らはそう思っただろう。

 現にそこに立っている女の子いや、バケモノは人の顔をしていない。言うなれば鬼のそれだ。

 悍ましいという感情を全て凝縮したような顔だ。


「助けてくれ……」

 まだ、良識のありそうな青年がつぶらな瞳で問いかける。


 だが……


「鬼の目……鬼は殺す」


 なんの慈悲もない。虫ケラに向ける目だ。


 彼は悔やんだ。ここに来てしまった事に……そして、嘆いた。こんな生活をしている事に。そして、懐かしんだ。あの頃の豊かだった昔の日々を。一番下の子、久留里くるりは知らない昔だ。


 今ではもう死体を貪るバケモノになってしまった。生きるためには仕方のない事なのだ。わかってはいるんだ。いけない事だって。みんなわかってる。

 だけど、生きるためには仕方なかった。見すぼらし俺たちに人々は振り向いてもくれなかった。だから、だから仕方のない事……。


 あ、あぁ…………そういう事か。


 散々人を食らってきた罰なんだろう。

 これは天使なんだろう。

 俺たちを救ってくれる救世主だろう


 握りしめた手から血が滴る。

 思い至ってしまった彼は空境を笑う。


「あははははははははははっ。感謝だ、圧倒的感謝だ! あははヒャヒャヒャャャャャャャア」


 狂ったように笑う。自らの喉をその割れかけた爪で何度も何度も深く深く掻き毟る。


 それでも彼は笑うことをやめない。


「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャゥ」



 乾いた笑みで彼は告げるのだ。



「さぁ、殺してくれ天使様!! 私たち罪人を地獄ゲヘナへと誘って下さい。我々は救われるのだ〜アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ」


 狂ったように、狂人かの様に、バケモノの様に高笑いする。

 狼男の様に何か救いを求めて鳴く。


「糞まみれのクソ野郎が……」


 その一言を最後に男は生き絶えた。彼女が告げた最後に聞こえた言葉……彼には何と聞こえたのだろう。


 もう、彼自身分かることは二度とないだろう。


 そして、それを皮切りに次々と殺されていった。

 殺される度、彼らは何かを叫ぶ様に死んでいった。

 中には人の言葉を話せない者もいた。

 もう、人では無いのだろう。いや、人ではあるのだろう。それを私が観測できないだけで。

 まるで、シュレリンガーの猫の様に。

 少し違うか?


 そして、最後の一人だ。

 小さな女の子。その目は狼のそれだ。


 犬歯を立て、ガルルルルルと唸る。

 出会う人が悪かった……運命が悪かった。

 憎むなら憎め。


 それで気が治るなら好きなだけ恨むがいい。

 そっと刀を首筋においた。

「せめて悔いだけは残すな」


 少し振り上げて、勢いよく振り下ろす。

 痛みを最小限にする為に。


 振り下ろされる直前……。

「まって……」


 そんな声が聞こえた気がした。

 私は、刀を止めてしまった。


 助ける事も救う事もできないというのに。


 歯を噛みしめる。やれ無かった私が憎い。

 先程までこの子達の家族を皆殺しにしたはずなのに、どうして、どうして私はこの子をやれなかった。



 私は刀をしまった。


 ほんの少し首筋に刀が入ってのか血がたらりと垂れている。

 痛みは感じないのだろうか?

 上着をその子に被せた。何故? という目をしている彼女……ひいては女。


 ここに置いておくとまた人を喰いかねない。

 仕方なく連れて行く事にした。


 言葉を一切話さない。

 分かるのは腹が減ったという事。


 たまに過るあの人の言葉……。それが私を苦しめた。どんな人でも嫌ってはならないという……。


 パッと後ろを振り向けば、誰の骨かも分からない足を必要以上に噛んでいた。


 歯茎を剥き出しにし、威嚇する。大人しく付いてきたのはまさか私を食べる為? なのだろうか……それはたまったもんじゃない。

 ここで殺すか……いや、一度助けた命だ。私が奪うのは本末転倒というものだ。気を鎮める。


 夜の暗闇、流石の私も疲れてしまっている。

 だが、ここで寝るわけにもいかない。


 こんな所で寝ればこいつに襲われる可能性もあるし、鬼にも見つかりかねない。寝ている時に斧でも振り下ろされるものならば避けられるはずもない。

 確実に死ぬだろう。だけど私はまだ死ぬ訳には行かない。


 目を細めて後ろについてくる肉食系女子を見る。


 それにしてもゲヘナか……彼はキリスト教だったのだろうか?

 興味はないが、きっと私が死んだらそんな所にでも落とされて永遠の苦しみでも味合わせられるのだろうか。


 クスリと笑う……。


 気を張り、大木を背にして寝る事にした。

 先ほど起こされて少しばかり機嫌が悪いのはあるのだが、私の横に彼女が寝るのは些か不愉快である。

 なんせ、人食いだ。私も食べられるかもしれないからだ。

 と言いつつも、私も鬼を先ほど食べた身だあまり人のことはとやかく言う権利なんて物はないと思っている。

 それでも、嫌なものは嫌ではある……。


 護身用に刀を抱き枕がわりにし眠る事にした。それはそれはとても薄い眠りだ。

 枕を高くして寝るなどあれは平和ボケしたそこいらの子供がやる事なのだから。

 私はそんな子供になる事は出来ないからだ。


 ゆっくりと目を閉じる。その寸前に横に横たわる女の子の顔をチラリと見る。

 死んだような目、悲しげな目だ。

 辛い現実から一時的に逃れる事の出来た目だ。

 気に止む事はない……そんな言葉を己に語りかけ目を瞑るのだった。




 夜が明けた……赤い太陽だ。

 空気が澄んでいる。気持ちいのいい朝だ。

 ひとつだけ懸念を除けていたらだ。朝っぱらから横の子供は何かを貪っている。よほど腹が減っていたのだろう。誰かの足を貪っていた。

「…………何を食べている」

「…………」


 無視か……だろうね……。

 人の言葉が分からないのだろう。年は大体六歳とかそんなもんかな?

 と言うか、私より下の子とあまり接した事は無い。接させてもらえなかったと言うのが本音なのだけど……。


 ま、私の肉を食べられてないだけ多少はマシか。

 そんなことを呟きながら、その子の手に持つ足を叩き落とした。

 恨めしい顔をしたが、一度地に落ちた肉は拾おうとする事は無かった。

 多分躾けられたのだろう。もっとやるべき事があるとは思うのだが……。


 そんな凸凹コンビは日が明けた林道を無口で突き進むのだった。




あぁー暇だなー

少しの間毎日投稿しますね。といっても二、三日程度ですけど……時間はいつも通りで。

終わる時はまた会いますね!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ