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少女は刀を握り姫となる!剣姫〜いざ行かん  作者: 榊 凪
1章 幼少期 殻を破る時
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44狩動(衝動)

 44


 随分と殺すのに時間が経った気がする。

 両手両足を切断し、悲鳴を上げさせた。

 大粒の涙をこぼし、あいつは苦しんでいた。幸い喉は最後に潰した。はは、あいつの苦しむ姿を見てみると今でも笑えてくる。


 はぁ……なんて私は幸せなんだろう……と。


 ここから移動しよう。

 他の動物達が寄って来てしまうかもしれないから。他の人に見られてしまうかもしれないから。

 私の姿を見た者、関わってしまった人たちはみんな、死んでしまう。


 もう、辛いなんて思わないけどできるだけ避けたい。そう思うのは夜見にまだ善意が残っているという事なのだろうか?

 又は、偽善なのかもしれない……それを唾と一緒に吐き捨て、真っ白になった頭で必死に考えた。


 まぁ、思いついた所でそれを実行できるだけの力なんて私にはありはしない……求めることもしないだろう…………。



 あれ?

 雨が降って来た……か。

 遠くの方で黄色い光が見える。

 どうやら雷もなっているらしい…………。


 あの洞窟に戻るのも癪だ……。

 早く、あの家に帰ろう……もう誰もいないあの家に。




 ◇



 数時間歩いた。

 ヘトヘトになり家の扉を開けた。


 誰もいない家、微かに匂うあの人の匂い。優しかったあのお姉ちゃんの匂いだ。つい数時間前まで一緒にご飯を食べていた大好きなお姉ちゃんだった。

 床を見渡す。


 生き絶えて、干からびているお姉ちゃんだった骸が無残に横たわっている。

「…………」


 なにも話す事なく、そのお姉ちゃんだったものの死体を雨が降り積もる外へと運んだ。


「…………」


 スコップで穴を掘る。いつもお姉ちゃんが使っていたものだ。少し泥が付いていて華奢なお姉ちゃんには少し大きかったのかな? 掴みの部分がノコギリで切られた後がある。

 感傷に浸り、心の傷を自身の舌で慰めた。


 穴を掘り終え、死体を穴の中に入れた。

 そして、鬼にならないよう脳髄にナイフを突き立てた。血は流れてこない。もう、死んでいるから……。

 せめて、来世では幸せになってくれと祈る。


 あらかじめ集めておいた石、花、ろうそく。

 土を被せ、その上に石を縦に積み上げる。

 ろうそくに火を灯す。雨で濡れないように傘も潤しておいて正解だった。


 最後にお花……お姉ちゃんが好きだったマリーゴールド。

 中二病的な事いつも口走ってたお姉ちゃん。

 私は好きだったような気がする。


「…………ありがとうーー」


 歯を食いしばる。

 頬を伝う涙。赤く充血する目。

 落ち着いている心の。なにも燃やす事なく涙が出てくる。

 はぁ……ダメだな……私はまだ子供なんだな……。


 やがてろうそくの火が消える。

 そんなに大きくなかったろうそくの火も無くなってみればいかに大きかったのか分かる。


 私にとってお姉ちゃんはロウソクみたいなひと……くさいなぁーー。


 くすくす……思い出しただけで…………。

 止めておこう。

 心が痛い。釘でも心臓に刺されたみたいだ。


 この気持ちは何なのだろう。

 今まで感じたことのない痛みだ。


 助けてなんて生易しい事は言いたくは無いけど、この気持ちだけは教えてほしい。


 独りぼっちはやっぱり寂しいよ。




 ◇



 私は旅に出ることにした。


 ここに長居する事は出来ない。

 あの家には火を灯して来た。近いうちに全焼するだろう。あの家から持って来たのもは何もない。思い出は残さない。私と関わらせない。それが私……。

 はは、まるで物語に出てくる悪魔みたいじゃないか…………。


 感傷に浸る暇なんてありはしない……。

 ここを離れ人気のないとこに行こう。


 そこなら人と出会わない。

 辛いけど、それが最善だ。


 私は歩いた。当てもない旅だ。


 持っているのは刀と少しばかりの食料、金だけだ。衣類は着ているものがある。


 その他には何もいらない。


 そこからの日々は何もなかった。

 いや、何もないというのは語弊があるかもしれない。

 ただ、私が経験した事は人のそれを軽く凌駕する。殺し殺されかけ奪い奪われた。


 幾多の洗浄を幼き体で切り抜けた。


 受けた傷は数知れず。


 ラ◯ボーか! とでも言いたくなるような始末だ。




 あれからいく日経った……お金が底をつき食べ物もない。体はボロボロ。何時ぞやあの時と同じだ。あの時はあの家族に助けられて一命を取り留めたっけ……。もう、顔すら覚えていないけど。

 吹き荒れる乾燥した風。大地には一本も草木が生えていない。

 死んだ土。時折地面を走るトカゲ。


 やけにハエが多い。


 木の棒を杖代わりにして、歩いている。

 寄った街には長居していない。交わす言葉など何もない。関われば人が死ぬ。死んでしまうかも知れない。私は呪われているのだから。



 目の前に干からびかけた鬼がいる。

 あぁ、棍棒を持っているようだ。


 ゆらりゆらりと死にかけの体を必死に動かしているようだ。

 …………殺す。



 刀を抜く。

 小刀から出てくる太刀は皆度肝を抜く事だろう。禍々しいその刀。目、鼻、口、血管、あらゆるものが浮き出ている。

 グロいという言葉を体現したかのようなその太刀は、人の死そのものを表しているかのようだ。


「おい、鬼…………死んでください」


 私が声をかけると鬼はニタリとエクボを沈め笑う。

 笑い方は幼児のそれだ。

 大きさは成人した女性の平均身長程度だろう。

 所々皮が剥け、筋肉が見え隠れしている。


 口をパクパクさせている。もはや話すことも叫ぶこともままならないということか。


 私は刀を鬼の首に突き刺した。


 グサリという鈍い音がした。

 ズブズブと刀が喉をえぐる。


 血が吹き出し、あたりを赤黒く染めた。生えていた草花は枯れ、萎れてしまった。

 哀れとは思うが、大した思い入れのないものだ。気に止めることは何もない。


 目が虚になり、鬼は絶命した。

 空を見上げる。

「はぁ……いい天気だ」


狩る狩られるは紙一重

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