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少女は刀を握り姫となる!剣姫〜いざ行かん  作者: 榊 凪
1章 幼少期 殻を破る時
45/96

43憎き者……

今回も少し胸糞回。


 43



 暫く、風の如く林をかけると男どもの悲鳴や泣き叫ぶ声が耳に届いた。


 何かと思い、そちらへと足を向けた。



 着いて見て、はじめに思った感想は。何もなかった。

 ただ、山賊とおぼしき男どもが無残にはらわたを抉り出され、首は有らず貪り喰われている。

 岩場には串刺しになった男の死骸。

 ピクピクと内臓から摘出された心臓が動き、ピュウピュウと血を吹き出していた。


 鼻をすませる。間違いない……こいつらが美穂お姉ちゃんを殺した人たちだ。


 そして、強く鼻を腐らせるこの匂いは鬼のそれだ。

 目を横にずらせば心臓を貫かれた鬼が横たわっている。

 どうやら山賊達と戦って死んだのだろう。


「……………………くそーー」


 力なく膝をつく。


「……………………くそ」


 目からは大粒の涙が。


「……………………くそ」


 拳を握り地面に突き立てる。


「…………………………くそ」


 突き立てた拳が赤く染め上がるほどに。


「くそ、くそ、くそ、くそ、くそ、くそ」


 どうして私は、私が仲良くしてもらった人、私に関わった人、私を知ってしまった人。みんなが不幸になってしまう呪いでもあるのか!!


 私が出会ってきた優しい人全て死んでしまった……。

 私なんて、私なんて生きていても誰にも幸福なんて与えられない……。


 歯を食いしばる。

 鼻水が垂れ、涙で顔がぐちゃぐちゃになる。

 真っ赤になった手には痛みなどない。



 糸を切られた人形のように地べたに横になり、空を見上げた。


 絶えず流れる赤い涙。痛く苦しい胸。

 仇を取れなかった私の不甲斐なさ。そして、大事な人を護れなかった私の愚かさ。力の無さを呪う。


 握り締める手に垂れる血なんてもぅ、どうでもよかった。


 このまま死んでしまった方がいいんじゃないだろうか?


 綺麗に輝く星々……もう夜か。

 楽しかったあの時を思い出す。つい先ほどまであった現実だった物を思い出す。


 許さない……


 壊してやる……


 憎しんでやる……


 呪ってやる……


 駆逐してやる……



 あらゆる憎悪が身体中をのたうち回る。

 その激動は夜見の思考を腐らせ、侵し、侵食する。

 その痛みは、死のそれを凌駕する。


 精神を歪ませ、感情を壊し、全ての優しさを混濁させる。

 それ即ち、人格崩壊となる。


 数時間もすれば、その衝動、激動、波動は治まりつつある。



 いつのまにか付けられていた焚き火は松明が下に落ちたものだろう。


 日が開けてきた。

 雲が少しだけかかり、日の光を遮る。

 ドス黒い目をした夜見が目覚めた。


「朝……ですか」


 不思議とこみ上げてくる笑みは一体なんなのだろうか?


 腰に差してある刀を引き抜く。


「ははは……ははは……」


 力なく無残に散って行った鬼達の血が付着している。

「たまには手入れしてあげないと……」

 刀を鞘にしまい込み、砥石を探すことにした。これだけ大きな洞穴だ。そして、こいつらはそこそこの武器を身につけている。手入れもされているようだし、そういったものの類は一つや二つ落ちているだろう。

 そう思い、私は山賊達の使っていた洞穴を少し探索することにした。


 一歩洞穴の中に足を入れた。獣が腐ったような臭いがする。炭の焦げた臭い、どうやらここは料理をしていた場所らいし。辺りを見渡せば食べ散らかされた動物の骨がいく本落ちているのが見える。

 焚き火らしきものの横には箱で出来ている小さな木箱の椅子が五.六個並べられ、特製の木でできているであろうテーブルの上には無造作にジョッキが置かれている。

 その横にはタルが置かれておりアルコール度数の高い酒が置かれている。


 奥へと進む。小さな小部屋が見えてきた。どうやら岩を砕きそこに小さな部屋を設けたらしい。

 扉に近づき開けようとするが鍵がかかっているようであげられない。中にまだ人がいる可能性がある。

「よし」

 近くにある少し大きめの石を扉にぶつけた。

 扉は木製、少し大きめの石を当てれば何楽壊れる。

 恐る恐る足を踏み入れるとそこは武器庫だった。といっても銃や近代兵器となると物騒なものはおいておらず、刀や剣、槍などの古風な武器類が置かれている。タンスらしきものが隅の方に置かれている。

 罠に警戒しながら、ゆっくりと引き出しを引いた。


「…………」

 どうやら罠はなかったようだ。

 引き出しの中を見ると、少し使い込まれた砥石と、火薬、小型のナイフが入っている。

 そのほかの引き出しを開けて見たが目新しいものは何一つ入っていなかった。とりあえず、火薬とナイフ、砥石だけは貰って置くことにする。何かの役に立つかもしれないからだ。


 武器庫から出た私は奥へ進む。

 此処には金銭、金目も物が置かれている。

 可愛らしいポーチも置かれていたので、これに詰め込めるだけ詰めた。

 金額にしておよそ三十万程度だろうか?

 金はいくらあっても足りない。


 そして、しばらく歩くと、牢屋みたいなのが見えてきた。

 その扉や牢獄はどれも木製で簡単に崩れてしまいそうなものばかりだ。


 近くにあったろうそくに火を灯し、中の様子を伺う。

 すると、光に照らされて幾人かの女や少女が目についた。どの子も身体中に切り傷やあざ。服などは着ておらず、皆全裸だ。

 酷い腐乱臭がする。人の肉が腐りかけているのだろう。


 先ほど手に入れた火薬を扉付近に流し込み、ろうそくで火をつけた。


 小さな爆発音と共に扉が吹き飛んだ。


 すっかりガラクタになった扉はボロボロになってそこらへんに倒れている。


 急いで、女や少女の元へかけた。


「大丈夫?」

「あぅ……あぁ……」


 もぅ、言葉は話せないのか?

 目には正気がなく、唇は乾燥している。

 肌は少し黒煮えていて、うじが湧いてる。

 吐き気を我慢して、その人の体を揺する。

「……こ……して」

「え?」

「……ころ、して」

「…………」

「殺して……」


 女の人の目はもう、死を望んでいた。


 死こそが救いだと、それこそが私に残された唯一の救済だと……。彼女は目で訴える。

 腕をあげようとするが、筋が腐り、ピクリとも動かない。


 ここにいる彼女達は、どうやら山賊達に拉致され、死ぬ寸前まで犯し尽くされ、ここに軟禁され毎日のように侵されたのだろう。次第に腐り、荒れ果て生きたいという気持ちすら踏み躙られたのだろう。


「…………わかった」

「あ、ありがと……う」


 彼女は目を閉じた。

 慈悲深く目を閉じた。これから私は救われるんだという明確な救いが目の前にある幸福に浸っているんだ。

 夜見はそっとナイフを彼女の首元に当てた。それは、自身の肉親を惨殺したナイフでもあるようだ。


 だが、目を瞑っている彼女はその事を知らない。

 知らずに、いや、もはやそんなことはどうでもいい。屈辱・・なんてもうどうでもいい。ただ、救われたいだけなんだ、と。


 彼女は祈った。

 せめて、次生まれる時は平和な世界である事を……。


 ゆっくりとナイフを沈める。

 たらりと流れる血。

 痛いのだろう。目からは涙が出る。だけど受け入れてしまった刃はもう、抜けない。引き返すこともできない。

 ならば、最後の抵抗にこれだけば言わせてほしい…………。

「ありがとう」と、だけど……そんな力は彼女には無かった。

 ピントを外したカメラのように目の前が霞む。

 ゆっくりと力が抜けていく感覚。

 死ぬというのはこんなにも……こんなにも救われた気分になるんだろうか……。




 死んでしまった彼女を冷たい目で見る夜見。

 同情なんてしない。死んだもに価値なんて存在はしない。


 左右を見渡せば、同じように死を求める女子達で溢れていた。

 刀を抜いた。

「もう、私にすがるのはやめてください」

 でも、あなた達にとってこれがまた救いとなるなら、喜んでその命を奪おう。

 それが最善だと、運命だと。



 女性達の首を全て落とし、私は洞窟から外へと出た。

 太陽はもう、あんなにも高いところにいる。

 忌々しい……。

 悪態をつき、洞窟に火を投げ入れた。

 既に男達と私が殺した女達は洞窟の奥深くに置いてある。

 大量に撒かれた可燃性の液体。

 あとは、察しがつくだろう。


 メラメラとその勢いを増して行く炎……黒い煙が立ち込める。引き込まれそうな風が中に吹き荒れる。

 人の体はよく燃える。


 人の肉を天ぷらにでもしたかのような匂いがした。


 決していい匂いではない。

 こうしなければ、恨みや苦しみで鬼になってしまうかもしれない……私からの些細なお土産だ。

 素直に受け取るがいい…………。さらばだ。



 泥だらけになった服には大量の血が付いている。

 もう、彼女は人には戻れない。

 人を殺めた夜見は人にはもう戻れない。

 無残に殺し、命を奪い……そして闇に落ちた。


「…………」

 赤く燃える目、赤く血管が走る腕。

 セミロングの髪には少し白髪が見える。


 納刀してある刀からは禍々しい霧が少し出る。


「行こうか……」


 その足取りは重い。まるで自らが奪った人の命そのものを背負っているかのように。


 一歩一歩、その大地を踏みしめる。

 歩くたび筋肉が軋む。骨が唸る。


 されど、痛みはもう感じない。


「…………んーー鬼」



 鬼の匂いがした。


 ガルルルルル……


 一匹か。

 今、無性に虫の居所が悪い。よし、惨殺しよう。苦しめてから殺そう。苦痛にもがき苦しみ自ら死を望むようにしてやろう。

 考えれば考えるほど、その方法が頭に浮かぶ。

 全ての筋を切り、歩けなくしてからはらわたに刀を刺すのもいい。

 ははは……。


「いた」


 瞬光


「やあ? 元気か?」

 山賊から盗んだナイフ。人の血が大量に付着している。手に取り、すれ違いざまに左手首の筋を切る。

 すんなりと入るヤイバ。なんの抵抗もなく切られた左手首の筋は張り詰めたピアノの弦のようだ。


 鬼の武具は単なる拳。大した脅威にはならない。

「雑魚」

 プランプランと垂れ下がる左手首を不思議そうに鬼は覗き込む。

 どす黒い血が動脈から決壊したダムのように溢れ出る。

「痛いかな?」

 弱者を一方的にいたぶり殺す。生殺与奪の権利は私にある。

 もう、周りの景色なんて見えやしない。

 感じるのは森の命のみ。悪意を根絶やしにしてくれと願う事のみ。

 笑いがこみ上げてくる。複雑な真っ黒な感情だ。

 鬼あのキョトンとした顔がツボにはまる。

『今何をされたんだ?』みたいな顔が最高に堪らない。

 ようやく気づき後ろを振り向く。

「やっとかよ」

 怒った鬼はまだ使える右手を拳にし殴りかかる。

「遅いな……」

 拳が私の顔めがけて飛んでくる。私はナイフをその拳の延長線上においた。

 グサリ。


 呻き回る鬼。中指と薬指の間に深く突き刺さったナイフ。抜く時は少しひねって取り出した。

 のたうち回り、痛みに耐えている鬼。

 なんて、面白いのだろう。

 お前達が人をいたぶり殺す時はいつもこんなことを考えているのか?

 そうだとしたらなんて楽しいのだろう。

 笑いが止まらない。

 広角が上がり、三日月型の唇。

 白い歯がちらりとのぞかせる。


 りんごより赤い目は真赤のルビー色に輝く。

 続いて両足のかかとの筋、太ももの筋、脇の下の筋。首筋を順番に切り落とした。

 とうとう動かせるのは口と目だけとなった。


 しゃがみこみ、鬼の頬をツンツンと木の棒でつつく。

「私が憎いか? 私はお前達が憎い。大好きだった人を貴様らに奪われてしまった。大好きだった人を殺した人の仇がうてなかった。そんなお前達が憎い。たしかに、直接的にお前に何かをされたわけじゃない。だけどお前はあいつらの同類だ。だから殺す」


 そうだよね……夏帆お姉ちゃん。


「安心しろ……すぐには殺さない」




次の次、新展開あり

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