42憎しみ穿つ者
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季節は巡り、春の少し手前。雪が溶けて雪の下や、タラの芽がゆっくりと新芽を出す頃。
すっかり農作業がお似合いとなってしまった美穂は、今日もクワを片手に畑を耕していた。
地面は少し硬くクワが刺さり辛い。雪で押し固められたのだろうか?
少しばかりやる気が失せてしまうのはナイショ……。
ふと目線を山袖に目を移せば夜見ちゃんがいる。私の事を心配した近くで刀をふるっているらしい。
なんともお節介な事で。
ここからでもわかるほどに激しく刀を振るうか……。
私も教えてもらおうと前したけど、めちゃくちゃ嫌な顔されたんだよな……なんでだろうか?
少しでも夜見ちゃんの助けになればと思ってやった事なのに。
って、その時拗ねたっけ?
久しぶりに見た気がしたその顔を私は頭の隅に置き、クワを振るのだった。
日が沈み、すっかり耕された畑を背にして、泥だらけの長靴をはき捨てるかのように脱ぎ、スリッパに履き替えた。
手は泥だらけで、水でふやけてシワだ浮き出る。先週買ったこの農作業着も年季を増してきているような感じかした。
家の左側に置いてある手洗い場に行き、おなじみの蛇口をひねれば少し生ぬるいミスがドバドバと焚きつけられた虫のように出てくる。
少し待ち、冷えた水が出てきた頃に手を突っ込めばヒンヤリとした流れのある水が火照った体を少しだけ冷ましてくれた。
後ろの方で私が脱ぎ捨てた長靴のてっぺんのところを器用につまみ、手洗い場に夜見ちゃんはそれを突っ込んだ。
長靴に跳ね返った水が泥を落とし、綺麗にしてくれている。
麦わら帽子を取り、頭から冷たい水をかぶった。
汗でベタベタになったタオルは少し臭う。
まるで、剣を振り終えた後の夜見ちゃんみたいだ。
私が臭そうにタオルの匂いを嗅いでいると、若干夜見ちゃんが引いていた。
「ちがうのこれは……夜見ちゃんの匂いがしたから」
「…………うん、人にはそれぞれ変わった性癖があるよね。うん、分かるよ」
目線をそらし、少しカタコトの夜見ちゃん。こっちを向いておくれ。
自身が植え付けたその中二病を少しだけ悔いる所でもあった。
次の日になった。
その日はひどい嵐で、森が泣いていた。
ビュービュー言う風はすべてのものに恨みがあるかのようだった。倒れる木、溢れてる川の水、ガタガタと揺れる我が家。
なに一つとっても世界に嫌われているかのようだった。
時刻はまだ昼頃なのに真っ暗で、ロウソクの火もつかない。
ガタガタと揺れる家はどこも安全ではない。どこに隠れても見つかり、喰われてしまいそうだ。
扉がノックされた。
夜見ちゃんはいまここにいない。
買い物に行ってもらっている。昨日行っておけばよかったのに、行かなかった。
何故だろうと悔やむが、食べるものがなければ人は飢えて死ぬ。仕方なく、扉の隙間から外の様子を伺った。
前来た盗賊、山賊、どちらでもいい。私を殺しに来た。いや、正確には犯しにきたのだろう。
あんな男たちにめちゃくちゃにされたらきっと私は壊れてしまうだろう。嫌だな……。
まだ、これでも処女なんだよ。
初々しい二十才になったばかりの女の子なんだよ。いくらなんでも厳しすぎるよを嵐の中ゲラゲラと笑う男ども。ここから見るだけでも三人はいるだろう。
奥にもいるかもしれない。はたまたそれぞれの窓の外にもいるかもしれない。
何人いるかわからないこの状況で私は逃げることも、抗うことも出来ずに犯され、穢され、殺されてしまうのだろうか?
唐突に来た絶望はすべてを飲み込むだろう。
弱きものはすべてを強者に差し出し、その身を全うする。強きものはその弱きものの生死を決めることができる。生殺与奪……。
やがて、絶望の金が鳴らされた。
蹴破られた木製の扉、一人は両手にはすべてのものを粉砕するかのような大斧、背中には盾。
もう一人は小さなナイフを持った大男。
最後の一人は剣を持った小柄な男。
服はどれも皮装備、レザーなどで作られたものだろうか? 少し死臭が臭う。
下卑た笑い、ふざけた声、おもむろに脱ぎ出すその装備。黒くて大きくて臭いあれが私の前に突き出された。
◇
ここからは一様引っかかると嫌なのでR18の方に載せます。
詳しくは私のページを見ていただけると幸いです。それでは続きを。
◇
夜見は走っていた。
不快なほどべっとりとついた服を引きずるようにたれ下げ、走っていた。
悪寒が体全身を走る。
何か嫌な予感がする。あってはならない事が起きたのかもしれない。
家が見えると、まずはじめに見えてきたのは、蹴破られた扉。なぎ倒された花壇。めちゃくちゃにされた畑。
全部、私たちのものだ。
こめかみにシワが入る。メキメキと歯を食いしばり、それら全てをやった犯人を殺したいと願った。
家に近づくたび強くなる男の匂い。腐った魚を焦がし、漬物にしたような匂い。
殺意が湧く。
家の中に入ると、そこには見たこともないひどい状態で死んでいる美穂お姉ちゃんがいた。
全身ボロボロに破られた服、脱ぎ捨てられたズボン、パンツ。イカのような匂いのするこの白い液体が全身にくまなくかけられていた。
そして股からは大量の白い液体とそれに混じるかのように赤い血が流れていた。
言葉を失った。
目はくすみ、最後まで抵抗したのだろうか爪には皮膚がこびりついていた。
心が腐っていく。
美穂の体はピクリとも動かない。
湧き上がってくる笑い。絶望感し、目から流れる血の涙。
殺すだけでは物足りない。懺悔させて、後悔させて、自ら死を望もうとも殺させず飼い殺しにして朽ち果てて死んでいくところをこの目に焼き付けるまで、絶対に殺させない。
地獄で味わう何百倍もの苦痛をその身に味あわせてから殺す。
そして、地獄に落ちたとて続くその痛みに耐えながら殺してやる。
床を見ると足跡があった。
黒い革靴だ。
臭い匂いがする。
ここから南東にこの匂いが続いている。確かあっちの方に洞穴がいくつかあったような記憶がある。
行こう。
『瞬光』
人知を超えたそのスピードで一気にかける。
そして、ここから夜見の地獄が始まる。
途中が読みたい人は十八歳以上であること!!
これ、お兄さんとの約束
https://novel18.syosetu.com/n0924fa/
こちらにありますよーw