41楽しげな日々
コンバンワ〜
41
くるくるさんことオボオボがどこかへと言ってしまってから数日が経った頃。
しんしんと積もる雪を窓から眺めていたとある昼下がりの事。
「野菜がなくなっちゃたな……買いに行かなきゃだけど。あいにく雪が降ってるもんな。私の今乗ってる車だと少し不安だな……という事で夜見ちゃん。その素早い足を利用して野菜をまた買ってきて欲しいのだけど? いいかな?」
「うん! いいよ〜」
夜見ちゃんはメモ用紙と手提げ鞄を携え、町へと繰り出したのだった。
「さてと、私は洗濯物でも干そうかな?」
流石に外干しとは行かないので、部屋の中に物干し竿を通す。少し手狭にはなるが元からそんなに洗濯物の量がある訳ではないのでよしとする。
最近の夜見ちゃんの服装は長袖長ズボンと言った現代人ぽい服装が好きなようで、買い物を行くとそればかり見ている。やっぱり女の子は可愛いくなければならないと、お母さんも言っていた。
最近やっと通すことの出来た電気を惜しげもなく使い、洗濯機と冷蔵庫、乾燥機も買った。
やっぱり便利だなと、文明の発達を心なしか祝っている。
テレビはまだ繋いではいない。ラジオは買ったけど。
それにしても、お金を稼ぐ方法があまりない。
今の経済状況を救っていてくれるのは夜見ちゃんが定期的に狩っている鬼とかイノシシ鹿といった生き物を殺しているからに過ぎない。
私もそろそろお仕事始めようかな?
いつまでもニートは良くない。
それに子供働かせるなんて……って死んだお母さんに面目が立たない。
まさに奴隷…………。
首を横に振り、そんな考えを頭から振り払った。
二、三時間もすれば夜見ちゃんは戻ってくるだろう。沢山の野菜とお肉、パンも買ってくるのだろう。
そんな姿を想像して、妄想に耽ける。
コンコン
家の扉がノックされた。
新聞なんて取ってないし、その他諸々の支払いは済ませてあるはずだ。
一体誰だろうか? この辺に住んでいる人なんて…………いないはずなんだけどな?
扉の隙間から玄関の前に立っている人をゆっくりと眺めた。
…………!!!
山賊だ……。
あぁ、これは死んだな。
こんな誰もいないところに住んでるんだ。こんな事もあるだろう。
はぁ、夜見ちゃん戻ってきてくれないかな?
じゃないと私殺されてちゃう。
扉が開かなかったことに山賊たちはイライラを隠しきれないのか、次第に扉を蹴り始めた。
ドンドンと蹴られる扉を必死に背中で抑えるが、女と男。力の差は歴然。
この扉も、数分もすれば壊されて、そして私は捕まって、犯されるのかな?
嫌だな……。
「おい、開けろ。居るのは分かってるんだよ。あのクソガキもいねー事だし。お前に抗う術はねーってことを知れ」
「兄貴、それはひでーぜ。ゲヘゲヘ」
「うひゃひゃひゃ。焦らされるほど心が燃えるってもんよ!」
下品な笑い声、くだらない罵声。どれ一つを取っても私は心地が悪かった。
ハンマーを叩きつけられる音、蹴られる音、剣を叩きつけられる音。四、五人と言ったところだろうか?
「おいおい、開けろ。大人しく出てこい」
「ふざけるな!」
「威勢だけはいいな」
震える声、笑う膝、目からは涙がこぼれた。
死にたくないな……。
ドスン……
そんな足音が聞こえた。
ドスン……
ドスン、ドスン、ドスン。
音が聞こえる。それと共に山賊たちの声やなにかを叩きつける音が消えた。
「おい、ふざけるなよ! こんな時に……」
「お前達逃げるぞ」
その言葉と共にも盗賊達は足音一つ立てず何処かへと行ってしまった。
ドスン
ドスン
ドアの隙間から様子を伺う。
鬼がいた。
大きくて棍棒を持った鬼。
赤黒くて、一本の大きなツノを生やした鬼。
生殖器はなく、服すら身に付けていない鬼がいた。
声を潜める。
物音一つ立てれば此方に気がつく。今は幸い山賊達に目がいっている。暫くは安心できるだろう。でも、なんでここに鬼が……この辺りはまだ居ないってラジオで言って居たはずなのに。大家さんとそう言っていたのにな……。引っ越さなきゃいけないかも。
危険地域に設定されるのも時間の問題か……。
警告地域に行くかな?
ここ最近の鬼の進撃は今までよりも少し早い。何かあったのかな? 素人の私が何かを考えたがなにも思いつくわけもなく。その場に項垂れる。
随分と足音も遠ざかった。暫くするという夜見ちゃんが帰ってきた。
泥だらけになって、体には血が付着している。戦ってきたのだろうか?
「夜見ちゃん血が……」
「あ……ぁ、近くに鬼がいてちょっかい出したら喧嘩売ってきたから買った」
「どこのヤンキーだよ」
「お姉ちゃん言ってたじゃん。売られた喧嘩は全て買えって……」
美穂は顔を背け、自身の発言を遡った。
あれ、私はそんなこと…………言ってたな……。
確かあれは……ひと月ほど前の事だろうか?
くるくるさんと話してた時に弄ってきたからくるくるさんにちょっかい出したら、くるくるさんが喧嘩売ってきたから、確かその時に……「売られた喧嘩は全て買う」とか言ったなー。
しまった……。
夜見ちゃんが出かけている時に起こった事は内緒にしておくことにした。あまり迷惑は掛けたくない……と言うか小さな女の子に大人の私が心配されるのってなんかプライド的に……ね。
そんな事を話し、私は夜見ちゃんが買ってきた食材たちを消して新しくはない冷蔵庫の中に詰め込んだ。
かぼちゃと玉ねぎ、人参、豚肉をテーブルの上に乗せ、それぞれ一口大に切って行く。
その様子を夜見ちゃんは楽しそうに椅子に座り足をブラブラさせながら私を見ていた。
「今日はシチューです」
「やった!!」
元気に喜ぶ夜見ちゃんよ……お風呂に入ってきてほしいな……と心なしか目線を送ると、何かを察したのか椅子からゆっくりと降りた夜見はバスタオルを片手にお風呂へと向かった。
袋の中からフランスパンを取り出して、トースターで焼く。
ふんわりとしたパンの焼ける匂いがした。
外は少し吹雪いてきたらしい。
ガラス窓がガタガタと震え出し、家自体が寒さに凍えているように見えた。
二十分程すると夜見ちゃんが頭にバスタオルを乗せた状態でキッチンに歩いてきた。
服とズボンはまだ着ていない。傷だらけの体がその目に入る。
なんとなくバツが悪くなり、鍋をかき回していると、隙間風が家の中に入ってきた。
ものすごい風で、テーブルに引いてあった花柄のテーブルクロスがなびいた。
暖房の薪がパチパチと音を立てて激しく燃える。未だにカマドを利用している我が家では風は大敵でもあるのだ。そしてその風は夜見ちゃんにもダイレクトアタックをしたようで、先ほどのお風呂で温まってきた体も一瞬で冷え上がったようだ。ブルブルと体を震わせていた。
「服着てきたら?」
そう私が言うと首を縦に振り、急ぎ寝室へと向かいタンスを漁っていた。
(風邪引くっての……)
そんな事を考えながら口笛を小さく吹く。
呑気に歌っていると、なかなかの厚着をした夜見ちゃんがキッチンへと戻ってきた。
唇が少しだけ紫色になっているところを察するに、かなり寒いんだろうな、と思ったが自業自得という言葉があるように、早く服を着なかった夜見ちゃんが悪い。と、区切りをつけた。
チィン、
パンが焼けたのだろう、トースターが鳴った。
「夜見ちゃん取ってきて」
「うん」
短くそう返事をした。
戸棚からいくつか皿を取り出し、小さめの皿にはパンを二枚ずつ、大きめの深い皿は私にくれた。
「ありがとう」
「うん」
ゴロゴロとした具材がたっぷり入った濃厚なシチューは誰が見ても美味しそうと呟くだろう。それ程までに丁寧に、愛情を込められた料理なのだ。
スプーンで一口すくえば、濃厚なシチューがとろりと滑らかに落ちる。
優しいバターの匂いと牛乳の風味が鼻に抜ける。
人参にスプーンを刺せばなんの抵抗もなく切れるだろう。
堪らず一口……。
野菜の甘み、肉の旨味が濃縮されたスープ。口どけの良いトロミ。うまい!!
そんな贅沢なひとときを過ごすのに余計な飾りなんて必要がない。あえてあげるとしたならば、それは家族や恋人、仲の良い友達だろうか?
そんな全てが満たされたこの食卓では会話が今日も絶えない事だろう。
和気藹々とした楽しげな声が誰もいない吹雪の外まで聞こえるようだった。
次の話がクソ重いよー!
あと、次の話はR18の話も入ってきます。その部分だけカットしてありますゆえ、興味のある方は私の作品一覧を見てもらえればありますのでよろしくです。
ぐふふ、




