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少女は刀を握り姫となる!剣姫〜いざ行かん  作者: 榊 凪
1章 幼少期 殻を破る時
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39日常に咲く花

もうちょっと日常は続く……

 39


 日もだいぶ落ちて来たので私達二人は川から上がりお家へと帰ることにした。


 あまり整備されていない歩道には草木が生え揃う。道路に行けばいいとは思うのだけど、万が一と言うこともある。仕方なく歩道の草々を押し倒して進むのであった。



 半ズボンの隙間からエノコログサが入り込み少しだけくすぐったい。


 青臭い草の香りが口一杯に広がり少しばかりの嘔吐感を覚えた。

 道中、とてつもなくデカイ蜘蛛を見た。

 夜見ちゃんが口元を押さえて、刀を抜こうとしたのを止めるのに必死になった事もあった。



「疲れた……」

「ごめんなさい……蜘蛛だけはどうしてもダメなんです」


 申し訳なさそうに頭を下げる夜見ちゃんは何故だか少しだけ可笑しかった。



 暫く歩くと茂みを抜けた。

 半ズボンには沢山のひっつき虫が付いていた。

 いやな顔しながら夜見ちゃんはそれを一つずつ取っていたが、次第に飽きてきたのだろう。ガムテープを使い出した。


 取りやすくなったひっつき虫をひと塊りにして、草むらへとリリースするのであった。



 小さなため息を付きながら夜見ちゃんはトボトボとあの小さな小屋へと戻るのだった。


 ヒグラシが鳴いている。

 赤く染まった夕焼けを二人して眺めていた。

 近くの草むらには赤とんぼが飛んでいた。


 夏もそろそろ終わるのかな? 暑い夏と別れてしまうのは少しだけ悲しかった。



 ひび割れたアスファルトから顔を覗かせるタンポポのワタが風に吹かれて遠くへといってしまう。

 いずれは夜見ちゃんも…………。


 そんな事を考えながら美穂は下手くそな口笛を吹いていた。


 繋ぐ左手は少しだけ冷たくて震えていた。




 ◇



 家に着いた私と夜見ちゃんはまずは玄関先にあるランタンに火を灯した。

 柔らかい光が窓から見える。

 耐火性能家だから燃えることはないけどやっぱり少し心配になってしまう……。


 そんな事をつい最近話したような記憶がある。



「今日はなにを食べようか?」

「ビーフシチュー!!」

「うげ〜まためんどくさいのを……」


 電気の通らないこの家では火を起こすのも風呂を沸かすのも明かりをつけるのもすべて人力で行わなければならない。

 それはそれで楽しいのだけど、毎日日常的にやるのはやはり少し堪える。

 昨日の残り火を簡素な暖炉からいくつか取り出して炉えと入れた。

 今朝方割ってある薪をいくつか見繕って来た夜見ちゃんから薪をもらい。それも炉に入れた。


 手元にある団扇を使い火を大きくすれば、たちまち大きな火柱が上がった。


「大きくしすぎたかも……」

「……そだね」


「鍋を置けば大丈夫」


 油を引き、夜見ちゃんが切ってくれたいびつな形の玉ねぎと、牛肉を鍋に入れる。

 ジューという音がお腹を空かせ美味しそうな匂いは頭をおかしくさせる。

 塩胡椒を適度に振り、玉ねぎと肉が焼けるまで混ぜる。


 その間、じゃがいも、人参、マッシュルームを一口大の食べやすい大きさに切る。


「焼けたね」

「うん」


 焼け玉ねぎと肉の中に、先程切っておいたじゃがいも、人参、マッシュルームを入れさらに水も入れた。


 その横では夜見ちゃんがフランスパンを一センチくらいにスライスをしている。


 表面は少しガタガタしていたけど、味には何の問題もない。


 表面を少しだけ火で炙ってやればそれだけで美味しいのだから。

 まぁ、たまに焦がしちゃうけど……。





 ◇





 料理を食べ終え、ランプの明かりを取り囲み私と夜見ちゃんは椅子に座り今日の事を話した。


 川遊びが楽しかった事、そこで大きな魚がいてそれを捕まえられなかった事、今度は魚釣りに行こうとか、帰り道のひっつき虫が取れなかった事、晩御飯の時、フランスパンを焦がしちゃって苦かったこと……。


 沢山の事を夜見ちゃんと話した。


 ランタンの火が風に揺られて消えそうになった。


 外にぶら下げてあるランタンを見ると既に消えていた。


「寝るか」

「うん」



 古い家、二人が寄り添って寝るには少しだけ大きい家。


 カビ臭くて、少しだけ人間味あふれたこの家では、今日も女の子の黄色い声が聞こえていたのであった。


 ◇



 翌朝、その日は雨だった。


 連日のカンカン照りで元気のなくなっていた植物達には久方ぶりの望んだ雨だろう。

 みるみるうちに元気になっていくのが遠目からも確認できるほどピンピンしていた。まさに踊り出しそうな勢いでだ。



 だけど、人間からしたら雨はそんなにいいものじゃない。


 床に置かれたいくつもの器と鍋は聞いたこともない楽しげな音楽を奏でている。それをBGMにしながら夜見と美穂は奥の戸棚においてあった古めかしい本をいくつか脇に積み上げ、その内の一つを手にとって呑気に読書に耽っていた。



 ランタンの火はまだゆらゆらと燃えていた。



 最近買った鶏が玄関を突く。

 どうやら餌が欲しいらしい。この鶏夜見ちゃんに懐いているようで片時も離れようとしない。

 玄関を開けるや否やその翼を広げて夜見ちゃんのお腹の上にドスリトとその身を置いた。


「グハッ!」


「はぁ、またか……」

 少しだけ羨ましいと思いつつも、ベタベタに濡れた鶏をお腹の上に置いて、未だに本を読もうと必死になっている夜見ちゃんはなんか可愛そう……。


 鶏そう言えば名前つけてなかったな……。

「夜見ちゃん。この子名前なににする?」

「フライドチキン」

「夜見ちゃん他の名前何かない?」

「テリヤキチキン」


 鶏が夜見の胸を突く。


「グヘッ」


 多分、氣功を突かれたのだろう……メチャクチャ苦しんでる。


「ファ◯チキ」


「夜見ちゃんそれ以上はいけない!」

「コケコッコー」


 耳元で大声で鶏は鳴いた。


 流石の夜見ちゃんも答えたのだろう。

 本を脇に置き、鶏を掴み床に下ろそうとした。が、鶏も夜見の服を口で掴む。その間美穂は昼ご飯の用意を進めていた。


 暫くその様子を美穂は横目で見ていると、何故か抱き合っている人と鶏……何これ……。


「ご飯出来たよ」


 青椒肉絲と味噌汁の凸凹フレンズに白米といったごく一般的なお昼ご飯となった。


「こいついつか食ってやる」

「はいはい、捨て台詞はもっと決めポーズをしてからじゃないとダメって前言ったよね〜」


「はーい」



 サングラス入りまーす。

 髪は後ろで留め、口は三日月型……香ばしいポーズ、さらに一回転し、夜見は呟く。

「いつかお前にフォーリンラブ」

「よろしい!」



 私のこの目に狂いは無かった。

 歓喜に震え私は目から涙を流していた。

 よし、食べよう。


 御釜で炊いたご飯にしゃもじを突き刺し、かき混ぜる。

 今日は成功だ。

 焦げてないからだ。


 最初は何度も焦がしたり芯が残ってたりと色々あってのを覚えている。


 ホカホカのご飯を茶碗に盛り付け、椅子に座った。

「いただきます」

「いただきます」

 手を合わせ、お決まりの挨拶をした。




 食べ終え食器を流に入れ、私は洗い物を……夜見ちゃんは外に行き木刀を降っている。


「やっぱり戦いは忘れられないのかな……」

 ズキリと痛む胸を左手で抑え、心を落ち着かせた。


 フクロウが泣き始めた夜の二十一時時……汗をたっぷりとかいた夜見ちゃんが家に入って来た。


 タオルを渡してあげると、体をくまなく拭いていた。

「お風呂お先にどうぞ〜」

「うん! ありがとう!!」


 タオルを肩に担ぎ、私の後ろを歩いて行った。





 夜も更け、カラスが鳴く夜の二十三時……。私と夜見ちゃんは一緒にお布団に入り夜の長いそれは長い夢を見ることとなるだろう……。










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