34
暑くて死にそー
34
夏帆の優しさを一身に受けた夜見は少しだけ救われたような気持ちになった。心が軽くなったというか肩の荷が下りたようなそんな感じだ。
痛む身体は言うこと聞いてくれない。
一体私はどこで傷ついたのだろうか? 全くもって見当がつかない。
師匠……? まさか…………。
だが、私はあの人の事を信用したわけではなかった。お爺様の中繋ぎみたいな人だとばかり私は思っている。強い人であることは変わりは無いが、安心感は与えてくれはしない。
抱きしめてくれるような包容力が皆無で、信頼するにあたってこれ程までに当てはまらない人物はそうはいない。
それにしても師匠は一体なにを考えてこんな事をさせるのだろうか? あの家を出てから約三ヶ月……いろいろなことがあったような気がする。
夜見は目に涙を貯めると飲み込むように目を瞑り笑顔になった。
時刻は二十一時……まだ消灯の時間では無い。
お姉さんや両親方は八時頃に帰っていった。お姉さんは若干渋ったが、夏帆の親御さんが来て引っ張って行った。
その様子をちょっぴり寂しそうに眺めていた私はさみしがり屋なのかな?
そんな自分の気持ちにクスリと笑い今日貰ったお見舞い品のリンゴを齧った。
そうこうしているうちに消灯のアナウンスがかかる。
『ただいまの時間を持って消灯とさせていただきます。それではおやすみなさい』
ゆったりとした音楽がなる。いい感じに睡魔が遅い、夜見はゆっくりとまぶたを閉じるのであった。
◇
喉の渇きで目を覚ます。
目ヤニのついた目をこすり、腰を起こす。
「ん、んっ〜〜」
両手を上にあげ背筋を伸ばした。
ベッドの脇にある刀があるのを確認し、水を飲むためにベットから降りた。
自身が寝ていたところを見ると汗で濡れた跡があった。寝苦しかったのかな?
時計を見ると五時とかなり早い……。お爺様の所でもこんなに早く起きたのは数回は無いだろう……。
冷蔵庫に入れてあるお姉さんが買って来ておいてくれたパックのりんごジュースを紙コップに注ぎグビッと一気飲みした。
と言ってもそんなに量があるわけでは無いのだから……。
喉を潤した夜見はテーブルの上に置いてあるリンゴの齧りかけを手に取り、あと少しだけ残っている身を齧りとった。
「甘くて美味しい〜!」
あまり働かない脳みそでも味の感想くらいはどうやら言えるらしい。
窓の外が少しづつ明るくなってゆく、夜見はカーテンをめくった。
山肌から太陽が顔を出す。少し大きく見える赤い太陽がゆっくりと出てくる。
そして街をゆっくりと照らし出すのだ。
夜見は唾を飲み込んだ。
◇
時は遡る事五時間前……。
そこには武鬼が街に現れていた。
後は想像に容易いだろう。
街は一時間もしないうちに半壊させられた。
死者行方不明者は数えきれぬほどに、幸いなことにけが人などはいない……。
何故か、見つかったものから食べられ、頭を潰されたりしたからだ。
まさにそこは阿鼻叫喚だっただろう。
地獄と言っても遜色ない……。
鬼は散々暴れ回った後飽きたのか街を離れどこへ行ってしまった。
人々はその様子に安堵した。
◇
半壊した街を夜見は眺めていた。
何故気がつかなかったのだろうか……私は戦うためにここに居るのに。
そう言えば今気が付いたが外からの音が全くもって聞こえない。
まさかと思い、防犯ブザーを扉の外におき鳴らし扉を閉じた。
案の定だった……全く音が聞こえない。ここは防音部屋……何故なのだろう。どうしてここに私を入れたの?
病室の外では慌ただしく人々が運ばれてはうめき声をあげたり、悲鳴や苦しむ声が聞こえて来た。その声に胸が締め付けられる息苦しくなる。
「どうしてなの……」
痛む身体に鞭を打ち、点滴棒を支えにして病室を出る。
防犯ブザーの音がかすかに耳に残る。
足で踏み潰し、音を止めた。
骨が軋むような痛みが足腰を襲う。
「くっ!」
歯を食いしばりさらに鞭打つ。
腰には愛刀を差し感覚を確かめる。
腕に付く腕輪は相変わらず無骨に黒光りする。
お姉さん大丈夫かな?
ただそれだけが頭から離れない。色々してもらって大好きなお姉さんだった。
それに町の人たちもみんな笑顔が素敵でみんな…………どうか、神さまみんなを助けてください。
祈る事しか出来ない私には女神は微笑むのだろうか?
腹に巻いてある包帯から赤い血が斑点のように浮かび上がる。
傷口がどうやら開いたようだ。その瞬間耐えられないほどの痛みが体全身を蝕む。
声もあげることも叶わず、指の関節一つでも動かそうものなら死んだ方がいいと思うほどの激痛が走るだろう。
「…………」
(助けて……)
溢れる涙、苦しむ体、壊れゆく体、傷口が開く。
そして、気を失ってしまった。
夜見の身体に巻いてある包帯からは赤黒い血が流れるのだった。




