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少女は刀を握り姫となる!剣姫〜いざ行かん  作者: 榊 凪
1章 幼少期 殻を破る時
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その後

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 萎れた体を立て直し、柄を強く握りしめた。

 相手は後ろを向いている! 今が好機。やるなら今だ!!!


 坂巻流剣術……居合……神威!!!



「はぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!」


 怒声をあげ、剣を抜く。

 鬼もその声に気が付いたのか、こちらを向こうとするが、遅い。


 剣は、心臓を捉えている。


 グサリと肉を断つ感覚が夜見の手に伝わる。


「やった!」


 殺した……殺したぞ!!

 自身よりも強い鬼を屠ったのだ。



 ……が、その喜びは杞憂だったようだ…………。



 鬼は胸に突き刺さる刀を手で掴むと、その刀を押し返した。

 夜見はその勢いに負け、後ろに倒れた。


「ひぃ!」

 短い悲鳴をあげ、鬼の顔を見るとその顔は怒りの形相のそれだった。


 殺される。私はここで死ぬんだ……。


 そう感じたほどに……。


 パッーン。


 乾いた銃声。

 ひとしきりの沈黙、静寂が訪れた。


「へぇ?」


 素っ頓狂な声を上げ、後ろを振り向いた。


「師匠……」


 後ろにはあの男がいた。


 禍々しいショットガンを肩に担ぎ、お気に入りの煙草をふかし、やれやれと首を振る。

「なにヘタレコンで居るんだ? そんなに死にたいのならそこらで首でも吊ってこい。死にたくないのなら、ご自慢の剣でも振ってみな」


 私に関心が無いかのように師匠は振る舞う。

 頬に熱いものが掛かる。

 なんだと頬を手で撫でて見ると、どす黒い血。


 鬼の頭付近から猛烈な勢いで吹き出す血だった。


「怖気付いて無いで、止めを刺せ。そいつはもう弱って居るが、死んではいない。ま、さすがの生命力と言ったところだろうな……まさか、こんな所に絶鬼が出て来るなんて、お前も災難だな……と、やれ」


 手には力が入るわけもない。


 腰が抜けて居るのだから。

 先ほどまでの勢いは何処へやら、私はもう、戦えるだけの気力は持ち合わせてはいなかった。

 そして、そのまま私は気絶してしまった。


「はぁ、俺もめんどくさい弟子をとったものだな……あ、これ、あのじいさんにも言われた気がするな。はははぁ!」


 変な笑いをし、師匠は私を担いでいくのだった。




 ◇


 目を覚ますとポロポロと大粒の涙を流す夏帆お姉ちゃんがいた。

 その奥には両親共々がいて子供達はその影に隠れて様子を伺っている。


 少し痛む頭を抱え、上体を起こす。

 夏帆お姉ちゃんは何かを伝えようとしているのは分かるのだけれど、何を言っているのか全く分からなかった。


 徐に肩を掴まれ、ギュッと抱きしめられた私は何が何だか分からずその場で呆然とした。


「あれ……師匠は…………」


 自身の最後の記憶に映るあの顔あの音、あの力……まさしく師匠そのものだった。

 そして、私はショッピングモールにいたはずなのに何故ここに居る?

 考えれば考えるほどにごちゃごちゃになり、頭がズキズキと痛む。


 少しずつ感覚が戻ってくる気がした。


 目には色が戻り、耳は聞こえるようになり、手は痛覚が戻り、そうして気がついた事が一つあった。


 私は極度の重症で、病院にいるということを。


 薬品の匂いが鼻をつく。辺りを見渡すと見慣れない機械がずらりと私を囲むように並ぶ。

 

「なにこれ……」

 訳の分からないまま、抱きしめられている私は跳ね除けるように夏帆お姉ちゃんの腕を振り払った。


 私のしたことにお姉さんは驚きを隠せなかったのか、口をパクパクさせ自身を優しく抱きしめる。

 夜見は若干の申し訳なさと遣る瀬無さを胸に抱き影を落とした。


 コンコン


 病室の扉がノックされた。


「どうぞ……」


 奥さんが声をかけると、扉がゆっくりと開く。


 出て着たのは白衣を着たお医者さん。

 首元には聴診器、目は細くキツネのような目をしている。鼻は低く潰れたような印象を抱く。


 髪の毛はボサボサ、長髪は左右にバラけ一切のまとまりが無い。


 めんどくさそうに、カルテで自身の肩を叩き小さくあくびをしていた。



「……ん〜調子はどうかね。坂巻夜見さん」

 中性的な声でよく聞こえる。

 近くにある椅子に腰掛け、怠そうに話す。


「分からないです。頭が少し痛むくらいで」

「ふむ、そうかね。ま、安静にしてればすぐに治るような傷だからね。安静に出来るかどうかは知らんがね」


 男とも女とも取れるその言葉を夜見は酷く嫌った。



 カルテにあるチェックシートにチェックを入れ、病室から出て行こうとする。

「あの、先生。夜見ちゃんはいつ頃よくなりますか?」

「…………あ〜ん〜分からん。鬼に与えられた傷だからね、詳しいことは話せないが一週間とかそんなもんかね」


 胸あたりにつけてあるネームプーレトを見ると『増田ますだ 俊文としふみ』と書いてある。聞いたことのない名字だが忘れる事もなさそうだ。



 適当な返事をした増田はそそくさとその場を逃げるかのように病室から退室した。

「それでは失礼」


 冷え切った氷のような声……だった。


 糸を張り詰めたような空気が漂う。


 なにを口にしていいか、どう行動をしたら良いかみな迷う……。



「えーと、取り敢えず私の間になにが起きたか説明してほしいな〜……」


 まずは自身の事が知りたかった夜見は第一声をあげた。


「そ、そうね……その事について話さなければいけない事が三つあるの」


 夜見はコクリと頷く。


 母親は口を開く。


「まず一つ目なんだけどね。夜見ちゃん貴方が気を失ってから幾日だったと思う?」


「分かりません」


 夜見は首を横に振った。

「そうよね。夜見ちゃんは私たちの家の前で発見されてから十日間眠っていたの」


 夜見は目を見開く。


「二つ目は夜見ちゃんが発見された所に置いてあった手紙です。本人が起きてからあげようと思ってたんだけど、いい?」


 先ほどの衝撃から抜け出せていない夜見は無表情に首を縦に降る。



「読むね」



 △


 これを読んでいるということは目が覚めたということだな。


 前置きは無しに早速本題に入る。

 私はお前の師匠の鶴巻つるまき 章弘あきひろだ。


 これからお前には試練を与える。


 第1関門を突破したお前には次の試練を与える。


 武鬼を三体殺せ。


 何かは言わずとも分かるな。

 お前が出会った鬼だ


 俺はお前を見ている。

 早く帰りたくば殺せ。


 それにやらなければそこにいる人々が死ぬ事になる。あれは前兆だ。


 △



「だそうよ……夜見ちゃん大丈夫?」



 武鬼……アレを倒せと言うのか。


 無理だ、無謀だ。




「最後に三つ目。これが一番の問題なの……あのね夜見ちゃんはもう人間と呼べるものではないわ。鬼と人とが重なり合って出来た存在なの。お医者さん曰く、生きているのも不思議なくらいよ。どうしてこんなに可愛い子にこんな仕打ちを……」


 母親は泣き崩れ、その肩を父親が優しく支えた。

 夏帆は俯きポロポロと涙を流した。


 子供達はなぜ大人が泣いているのか分からず戸惑っている。



「私……人じゃないんだーー」




 どこか他人事のように夜見は呟いた。

 そうかもしれないな、出なきゃこんな刀持てるはずが無いもん……。

 知らず知らずに夜見は泣いている事に気がつかなかった。

 寂しさと言うのだろうか、虚しさと言うのだろうか。夜見の心にポッカリと穴が空いたような虚無感が覆った。



「一人にしてください……」



 静かな所に行きたかった。

 声をかけて欲しくなかった。

 私を見て欲しくなかった。




 皆後ろ髪を引かれる思いで病室を後にするが、夏帆だけはその場を離れようとしなかった。



「夜見ちゃん、ダメだよ!! こんな苦しい時に一人になったら夜見ちゃん立ち直れなくなっちゃう」

「私が鬼かもしれないのに、あんなに怖がっていた鬼かもしれないのにどうして優しくできるの」


「夜見ちゃんは……夜見ちゃんは鬼じゃないもん! だってこんなに可愛くて、優しくて誰かを助けてあげたいと思う子が鬼な訳がないもん」


「でも、でもでもでもでもでも」


「でもじゃないもん!! 夜見ちゃんは夜見ちゃんじゃない!!」


 夏帆は夜見の肩を強く掴む。

 頬を赤くし、大粒の涙を滝のように流し優しさをぶちまける。


「夜見ちゃん、今まで何があったかは知らない。でもね、夜見ちゃんは夜見ちゃんだよ。例えばその体が腐ってツノが生えてきたとしても優しさがあればそれはまぎれもない夜見ちゃんなんだよ。そうやって生きるのを辞めようとしないで!!!! 私は夜見ちゃんが大好きだからこう言うことを言うの。どうでもいい人だったらこんな事言わないから」



「おねえじゃん……グスンーーわだしは生きてもいいの? みんなに嫌われてる鬼かもしれないのに生きてもいいの?」


 夏帆は満面の笑みで笑いながら。

「当たり前じゃない!」



 そう言ってくれた……。



遅れたなり


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