20森
妹にアイホンのフィルムをめくられてやる気を失せるこの日この頃
20
森が死ぬ……。
人類史で森が死ぬということは少数なからずいくつも点在している。
木々が枯れ、野生動物の姿一つ見受けられない。
なのに騒がしいと言うのは些かおかしな話ではあるが、死んだ森というのはそこに住う神も同様に死ぬという事でもある。
つまりのこ叫びは、神の声。
自らの死を目の前にして怯えて、嘆き悲しむ神の声ともなる。
また、一説には木々が折れたり曲がったりするときに聞こえる声とも言われている。
後者の方が現実的で、当てはまるとは思うが、このご時世、神が死ぬと行った方が現実的に取られることも多々あるのだ。
かく言う師匠もその一人だ。
森が死ぬとして、まず第一に取らなければならない行動は何か……それは。
「テントを畳め、逃げるぞ」
「は、はい」
急かさせるまま、テントを乱雑に畳む。
時折聞こえる悲鳴にも似た音が耳に不快感を覚えさせる。
その音で僅かだが頭痛が頭を襲う。
「いった……」
「何をもたもたしている! そうこうしているうちに飲み込まれるぞ」
あたりを見渡すと黒い霧。
あれが森を殺しているのだと師匠は言う。
あれは死の瘴気、触れたらタダではすまん。全てを殺す悪意に満ちているようにも見える。それ程ドス黒く、生気のある者のことが妬ましいのか……。
「多分あれは昨日殺された町の人間の怨念……だろうな。これ程濃密で悪意に満ちたのは見た事はない」
師匠は震えていた……物珍しく私がそう彼のことを見ていると、脇に差している刀がガタガタと震えだす。
「……え、な、なに?」
「おいおいおい、嘘だろ……呪いに共鳴しているのか? あれ程の濃密な呪いを感じたら生きとし生けるものは皆怯えて、そして死ぬこと間違いなしなはずなのだが」
師匠のその様子とは裏腹に、夜見は少し嬉しかった……町の住人の恨み嫉みが私の元へ来る事に、そして、この剣が共鳴しそして剣もまた喜んでいる事に…………夜見は少なからず気が付いていた。
ーーこの剣は呪いを好んで食べている…………。
だから夜見は剣を抜く。
化け物じみた刀身は嬉しそうにウネウネと気味が悪く動く。
ぬちゃぬちゃと不快音を響かせ迫り来るドス黒い瘴気を今か今かと待ちわびていた。
そしてすっかり怯えてしまった師匠と、夜見と瘴気の間合いが二メートルを切った頃に剣が動きを見せた。
剣についた口が大きく開き大きく息を吸う。
そう、いくつも点在する口どもが一斉に花開いたのだ。
言葉は綺麗なのだが、その言葉は見た目に反し実際には怯えて竦み恐怖さえも感じてしまう。
実際師匠は涙目である。
そうして、いるうちに瞬く間に瘴気に辺りを塞がれ逃げ道がなくなる。
呪いというのは生きているものよりも生き生きとしている……私はそう思う。
なによりも力があり、何かを成そうとする明確な意思がある。
それは本当に強い力だ。
故に、人には扱えない代物だ。
そう、人にはだ……。
剣が口を開く。
瘴気が剣に触れた途端まるで元からそこには何もなかったかのように瘴気が消え失せたのだ。
流石の夜見も驚き、足がすくむ。
師匠はと言うと、腹這いになり股を熱くさせていた。薄っすらと蒸気も出ていたと付け加えておこう。
「う、うそ、だろ……」
誰の声かも分からないがそう聞こえた。
果たして夜見か男かは分からないが耳にそう残る。




