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少女は刀を握り姫となる!剣姫〜いざ行かん  作者: 榊 凪
1章 幼少期 殻を破る時
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 遂に剣を地面に突き刺し肩で息をする。

 ゼェゼェ……体が、うご……かない。

 全身の力が抜け、毛ほども動かない。

 血の気の引いた体には寒気さすら感じる。

 程なくして訪れる吐き気は、この世のものとは思えない血溜まりを吐き出す。

 うぇ、きもぢわるい。

 ドロドロとした嘔吐物はまるで自分の憎悪そのものを吐き出したかの様にも思える。まさに身から出た錆と言うのだろうなこういうのは。

 三半規管が揺れ、乗り物酔いの様な感覚に永続的に囚われる。

 それはまさに快楽にも似た酔い・・だった。

 口に付いた血を手で拭い、布で作られた水筒を取り出す。

 新鮮な山水が胃酸で傷ついた喉を癒すイガイガする喉は胃酸によるものだろう。それとも、呪いなのだろうか?

 今の私には皆目見当はつかない。


 力無く、無様に剣を地に突き刺す姿は歴戦の英雄を想像させる。彼女の立つ地面は元が何色かも分からないくらい地で塗れている。

 散々恨みを晴らし、そして殺されるそれもまた私の人生…………なのだろうか。


 心にもない言葉を短く口にする。

 重い口から放たれた言葉とは思えないほど、その言葉は軽かった。


「軽口言う暇があるなら立て」

 顔を上げると師匠の顔が覗く。

 眉を寄せ、口を酸っぱくし小言を言う。

 夜見は疲れているのにもかかわらず、剣を強く握り立とうとする。

「無理はするな。戦場で立てない奴は後ろに下がっていろ」


 クソッ……。


 悪態を吐くほどの力もなく、その場に片手をつく。


 可愛げもなく地面に伏した少女は、体中に付いた血を気にすることなく血溜まりに体を落とした。

 荒い息が血溜まりに波紋を生み、小さな波を起こす。

 それを見て満足している私がいた。

 全てを出し切った……自身の力を。

 そして憎き鬼をこの手で殺せた。

 その快楽が体全身にピリピリと痺れさせ思わず笑みを浮かべてしまう。その笑みは少女のものとは思えないほど汚らしいものだ。

 近くでは師匠がどこから持ってきたかわからないミニガンをフル稼働させ鬼どもをミンチにしていた。


 その顔は無表情そのものだ。

 まるで氷を見ているかの様だ。鬼を殺す事に対し快楽は覚えないのだろうか。

 圧倒的な力を弱者に向けるのはこれほど楽しいものだと言うこともわかり以前お爺様から弱肉強食の言葉がぴったりとくる。

 心の中でクスクスと笑い力無く持つ剣を見つめる。


 剣を見ると血を吸っていた。

「ん!!」


 動かせない口を小さくパクパクさせ驚きを露わにする。

 今まで見たこともない現象。

 その様子は悪魔を想像させる。


 気持ちが悪い…………。

 そう感じてしまうのは人のサガだと思う。

 その時、頭身に付いている目がギロリと私を見た。

 その様子に身震いする。

 身体中には鳥肌が立ち、金縛りにあう。

 そもそも、体が動かないのだから金縛りにあったと言うのは些か違うとは思うが、そんな事は些細な事であった。


 汗が吹き出し、体が震えだす。


 剣にある口が開いた。


『血を寄越せ』


 人間の声とは程遠い声で語りかける。

 ゴクリゴクリと数ある口から地面に垂れている血を舌を使い器用に舐め取る。


 舌一つ一つ三十センチ程あり一度に五百ミリリットルは飲み干しているだろう。


 その長細い頭身のどこに入っていくのかは知らないが、刃に通る血管の脈が強くなるのが目に見えてわかる。


 頭身の中心にある心臓に似た臓器からは黒い血がたらりと滴る。

 その血は熱いのか黒い煙を立てながら重力に引っ張られ下へ下へと垂れ流れる。


 それにしてもこの剣は不思議だ。

 見ていて飽きないとはまさにこの事、

 常に同じと言うことがなく、生きているかのようだ、痛みはあるのだろうか、感情はあるのだろうか、死はあるのだろう……。

 そして、何よりに不思議なのが刃が付いていない事だ。




 その剣は、剣全てが赤く脈打ち斬れる場所など見当たらないのだ。

 なのにあの切れ味、やはりおかしい。

 まさかとは思うが、あの舌なのではないかと思う。


 恐々戦慄していると、殲滅を終えた師匠が戻ってくる。

「どうした」

「け、剣が」

「ん? ん!!」


 舌を出し血を舐める姿を見る。

 頭を抱えやれやれと剣を引き抜く、そして夜見の腰元にある鞘に無理やりしまい込むと、夜見の肩に自らの腕を通し、担ぎ込む。


 暫く歩くと疲れたのか、背中に背負いこむと、よし、と一声出し一歩一歩大地をしっかりと踏みしめ帰宅するのであった。

「はぁ、今夜は酒……なしか」


 空元気で笑う男の足は元気なく歩いている。

 よっぽど酒が飲みたかったのだろうなんとなく表情も硬い。


 血に濡れた夜見は思っよりも重く何度も位置を整え直したことか数えるのも面倒だ。


 やっとの思いで、テントに着いた俺は夜見を寝かせる。


 流石に服を着替えさせるのはまずいだろうか、年端もいかない女の子まだ成長しきっていないその柔肌に触れることさえ恐ろしい。

 三十も半ばの俺が十二歳の子を……考えただけで震えが……ふぅ、俺も寝よう。

 警察怖い……。




 相変わらず町からくる風は血生臭い。

 寝れたものじゃないが、それでも、いびきを立てて寝るこの子は可愛いとも感じてしまう。

 これが、父性だとでも言うのだろうか? 結婚もしていない俺が言うのはお門違いなのだろうが、そう感じてしまうのは多少なりとも人が好きだからだろう。


 俺らしくないと首を振り、頬を叩く。

 ヒリヒリとする頬をさすりながら、何でこんなことをしたのだろうかと若干の後悔と、さっぱりとした気持ちで寝る。

 まぁ、血だらけの服でサッパリとはいかないが、それでも気持ちだけでもと言う彼なりの心変わりというものなのだろうか。

 以前は戦場で血に濡れたとしても、毛ほども気に留めなかった、が、この子を預かると心に決めてから予定が少しずつ狂ってくるような感覚に襲われる。


 空虚を見つめ、乾いた笑みを浮かべる。

 悲しそうに笑う彼は、騙された・・・・そう思うのも悪くない。


 俺らしくないと喉を鳴らし、昨日買っておいたウイスキーのから瓶を逆さにし口元に近づける。


 水滴のようにポツリと落ちてくる度数の強い酒は、まるで空っぽの俺とどこか重なる。

「ん、ん〜……」


 横で寝返りをうつ夜見を糸目でチラリと見て、自身の頭を抑える。


「何してんだろうな、俺」


 俺とこの子の才能について嫉妬しているのか、それともあの人の子供だから守らなくてはと言う思いが働いてるのか、それとも使い勝手のいい駒として俺が位置付けてしまっているのかは今の俺では答えが出ない。


「まぁ、いいか」

 現状維持と言う素晴らしい言葉を吐き捨て、今日は泥のように眠るとするか。




 ◇


 騒がしい森と言われても数多の人々は首を傾げて、「何を言っているんだ」と非難してくるだろう。だが、この状況を見て首を縦に振らない人物は恐らく存在はしないだろう。


「木が折れてる」

「いいや、これは森が死にかけてるんだよ!!」


 森が死ぬ……そう、この辺り一帯が死にかけている証拠でもあった!!















楽しんで頂けたでしょうか?

まぁ、暇つぶし程度には良いやもしれませぬ……。


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