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はい、エイプリルフールのやーつです。
本編には決して出すつもりのなかった物語
エイプルリルフール
この様な企画は初めてなのでご容赦を
夜見は夢を見た……覚えているはずのない過去の日々を……。
「ねえ、お母さん。あのね」
「なぁに、言ってごらんなさい」
お母さんと呼ばれた女性は優しく夜見の頭を撫でる。
夜見は嬉しそうに身をくねらせると、母親に抱きつく。
側から見るととても幸せそうに見えた。
「ねぇ、お母さん。これから食べに行かない?」
「えぇ、良いわよ。でも今日はダメ……明日なら良いわよ」
顔を膨らませ、夜見はどんどんと足をとを立て自身の部屋へと戻るのであった。
もう、お母さんなんて知らない!
心ではそう思うのだが、口には出さない。そう躾けられた夜見はその教えを忠実に守る姿はとても健気だ。
リビングにいる母親は悩んでいた。
それは父親の死だ……それをどう夜見に伝えると言うことに悩んでいた。
彼の仕事は危険でいつ死ぬかも分からない。
あの子がいつも外食に行きたいというのも、父親の勇姿を見たいからであって私の料理が不味いわけではない。
「どうしたものか」
父親が死んだのはかれこれ五日前のこと。
とある任務でドイツに遠征に行った時の話だ。彼はいつもと同じ様に準備を済ませ、全てを最善に行える様にした。
だけど、その日は違った。彼の想像を超える強者が現れたのだ。名前は知らない。ただ、分かるのは鬼と言うことだけ。彼の死体は残らなかったらしい。唯一届いたのは彼の通帳と、一枚の手紙、そして彼の愛用していた手織りのマフラーだ。
手紙には『君に会いたいよ』と書いてあるだけのもの。
通帳には十五億円程の貯金、そしてマフラーには彼の血が付いていた。
嘆き悲しむなと言うのが罪ならば私は未来永劫牢屋に入っていなければならないなと、笑った程に私は泣いた。
決して、その泣き顔を夜見に、娘に見せることなく。
帰ってこない父親を待ちわびる娘はとても可愛い。こんな子を泣かせたくない。けれど、いずれは知らなくてはならない。
そうだ、お父様に来てもらって……いえ、ダメだわ。お父様は彼を嫌っていた筈なのだから。
でも、娘だけは好きだったから。
話が逸れたわ。
「はぁ」
小さく溜め息を落とし、通帳に目をやる。
いくら金があったとしても彼は生き返らない。
「明日、夜見と一緒にご飯でも食べに行こうかしら? その時、お父様も」
そうね、そうしましょう。
その時に、彼の話もしましょう。
また、明日あの子に伝えることに来た女性は自身の目に涙が溢れていることに気がつかなかった。
◇
「夜見、お帰りなさい。今日はお母さんと食べに行きますよ」
「え! 本当に?」
「えぇ、本当ですよ」
幼稚園から歩いた帰ってきた夜見が手を洗い、お菓子を食べている時に私は言った。
夜見は喜んでいた。お父さんに会えると、何をして遊んでもらおうかと悩んでいた程に。
私はそれを見て、胸が苦しくなる。
出かけるために、服を着替えさせる。
私も化粧をし、身なりを整え服を着る。
何を持っていくかも分からない様な少し大きめのカバンを手に下げた夜見は少し大人びて見えるのは親バカからくるものなのでしょうか? 私には分かりません。
私が向かった料理屋さんは和食でした。理由は簡単。彼が好きだったからです。
そのせいなのか、夜見も好きでした。
特に煮物が……?
好き嫌いがないのは親としてとても良いことなのだろうけど、やはり少しくらいわがままを言う方が可愛いとも私は思う。
お爺様は少し遅れるらしい。
会合があるとか無いとか、言っていたが、必ずくると最後に付け加えていたのを私は覚えている。
あまり当てにはしていないのだが、夜見もまた当てにしてはいなかった。
夜見はお父様のことをどの様に思っているのかは私には分からない。
分かるとしたら、あったことがない。が最善の答えだと私は愚考する。
何故なら、彼が合わせなかったからだ。お父様と反りが合わないという理由で。
確かにあの人は厳格だ、厳しくて強くて、私もその人に育てられたのだから。
お父様もまた鬼殺という仕事に就き、そして、私の旦那も鬼殺という職に付いていた。何がいけなかったのだろうと思わない日はあの日を境に考えるのを止めた。
味噌汁、漬物、魚の塩焼き、ご飯。
どれを食べても味はしない。
色がなくなってしまったみたいなこの現実はいつから感じ始めたのだろう。
やっぱり彼が死んでしまったからなのだろうか?
誰しもが描く幸せを見たいと願い、それが実現させる為に努力を惜しまなかった私はどうしたらよかったのだろうか?
もう、答えは出てこない。
「夜見、一つ話があるの」
「何? お父さんのお話?」
上手にフォークとスプーンでお子様ランチを大口をあげもぐもぐと食べている夜見は手を止めた。
「ねぇ、お父さん遅いね」
「夜見、聞いて。話があるの」
「だから何?」
少し怒り気味な夜見は机を小突く。
「あのね、お父さんね」
なんと言ったらいいのだろうか?
簡単に言えることじゃない。彼の葬式は明後日、教会で執り行われる段取りとなっている。今日を逃したらもう言えない。
でも、この子になんと言えばいいのだろうか……なんて……なんて言えばいいのかしら。
知らず知らず涙をこぼす。
その様子を夜見は覗き込む様に見ていた。
「ねぇ、お母さん。もしかしてお父さん……死んじゃったの?」
可愛らしい声で夜見は言った。
満面の笑みで夜見は言った。
私は驚いた。夜見の顔ではなく、その奥に住まう闇を見て驚いた。
「ねぇ、お父さん。死んだんでしょ」
「え、あ、いやその、じゃなくて」
「そんなに驚くことでもないんですよ」
夜見の声が違って聞こえた。
男の声だ、見知らぬ男の声だ。
「貴方は誰なの?」
落ち着きを取り戻し、投げかける。
「私、ですか?」
夜見のはくすくすと笑い続ける。
「私は闇です。彼女の中に住まう闇そのものです。そうですね、二重人格とでも思っていてくれて構いません」
闇、そう答えた。
私には答えが出ていた。
これはだめなやつだ。
夜見は血を吐く。
咳とともに小さく吐血した。
布巾で血を拭い、更に続ける。
「私は私の父親が死んだことを五日前から知っていた。何故なら父親を殺したのは鬼だから。そして、彼もまたそれを知っていた」
水を口に含む。
「戦場に立つもの全てが己の死期を察することが出来る。何故かは分からないが」
母親は唖然としていた。
あの人はいつもはしてくれないキスを私にしてくれた。
これが彼なりの別れだったのかもしれないとその時彼女は思った。いや、思わされたのかもしれない。
それでも、彼が死んでしまったのには変わらない。
踏み潰されそうになる現実からなんとか踏みとどまり、話を聞く。
「つまり父親が死んだ。のは間違いようのない真実であり、そしてお母様はそれを私に伝えようとしたということで間違いないかな?」
そういう闇顔は笑っていた。
「えぇ、間違いないわ」
「ありがとう」
の、一言を残し闇は消えた。
私は怖くなり夜見と一緒に店を足早に出た。
その帰り、私は死んでしまった。
悔しくも、彼を殺した鬼と言う奴に殺された。
あぁ、なんて悲しい人生なのかな……こんなことなら生まれてくるんじゃなかったかな……。
END
読んでくださりあとうございます。
これが以前に書いた夜見の背中に貼ってあったお札の伏線回収の一歩となります。
まぁ、貼ったのはお爺様なのですが、貼らなければならないきっかけがこのエピソードになります。
そして、母親の気持ちと夜見の幼い頃の異常性を知ってもらいたかったのが一番です。
それよりも読者の方に読んでもらえることが私の喜びなのでw
それでわ……




