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遅れたー
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「う、うぅ〜頭痛い」
ヒリヒリとする頭を抱え、重い腰をあげる。
うわ、なんだこれは!!
私の周りに広がる赤い霧。
お寺でも出ていた赤い霧。
あれ? でもなんともない。
臭くもないし、気持ち悪くもない。
寧ろ心地いい程だ。
遠く離れた所に師匠がいる。
痛む頭を押さえて師匠の元へテクテクと歩いて行く。
私に気がついたのか、スコープから視線を外し、声をかける。
「起きたか」
「はい。それと、今のこの状況を説明して欲しいのですけど」
「……そうだな。取り敢えず剣をとってお前の後ろにいる鬼を切れ。話はそれからだ」
「へ?」
剣を抜き、そのまま回転をする要領で斬りつける。
咄嗟の判断だが、見事に後ろにいた鬼は心臓諸共斬り伏せられ絶命した。
「いや〜流石だなその剣。かの御仁が作っただけはある。剣名『鬼斬・神威』噂の名刀は鬼をバターみたいに切れるんだな」
思わぬ事にびっくりしつつも、お爺様の形見がこれほどの力と知り何故か頬を赤らめる夜見、その様子を見た男は身震いを禁じ得なかった。
多分、身の危険を体から察知したのだろう。
「夜見、剣は体に馴染むか?」
「い、いえ、でもお爺様の匂いがして心が安らぎます」
「そ、そうか」
(そんな血なまぐさい剣から匂いがするのか? 嘘だろ?)
血が付いた剣から匂いがするってどんな嗅覚だよ。犬か!
心の中でそんなツッコミをしつつ、サブマシンガンを手に取り素早く引き金を引く。
パンパンパン!!
軽快なリズムで弾が打ち出され、次々と鬼の心臓や頭を撃ち抜いていく。
「サボってる暇はないぞ! 一人でも命を救う。油を売る暇なんてあり話しないからな」
「はーい、怨みを込めて惨殺しまーす」
抜き払った剣に付いた鬼の血を剣を振るい血を落とす。
黒い血が人の血の海に鬼の血が混ざり、赤黒いまだら模様が出来上がる。
唾を吐き捨て血を踏みにじる。
靴に付いた鮮血はネットリとし糸を伸ばす。
穢らわしい……そう心で思うのも訳わない。
死んだ人間は何も出来ない、まさに死人に口なし。
働くことも出来ないただのゴミ。
私はそう思う。
だからこそ、生きているものは救わなくてはならない。
「私はそう思う」
私は取り敢えずのために人を救う。
そして、剣を振るう。
私に貼られていた札は私の中の闇を封じるもの。過去、私は悪魔の様に暴れまわっていた。
母を殺され、父は行方知らず。
鬼を憎まないはずはないだろう。そして、生きていない人は鬼になる時もあるらしい、だから殺す。
心臓を刺し、脳髄を抉る。
歯茎を見せて笑う。
その顔は誰にも見られることはないだろう……そう、鬼達にもだ。
何故ならは目の前にいるのはこれから死ぬのだから。
私が力を押さえつけられないのは、鬼がにくいからだ。
ふふ、さぁ、パーティの始まりだよ!
ユニットバスにいっぱいの血を流してね〜!
その言葉を残し、夜見の姿は影に消えた。
「援護は任せろ。思う存分って……すでに暴れまわってるよ」
剣を振るい、狂ったように剣を振るい鬼を惨殺する。
ある鬼は手足を全て切り落とされ、命乞いをさせる。
ある鬼は、体がギリギリで繋がる所だけど残し、乱れ斬り。指の一つでも動かせばポロポロと肉片が落ちる。
ある鬼は、自身が死んだということも分からず、首がない状態で剣を振るう。
ある鬼は、全身の皮を剥がされ痛みに苦しむ鬼の目を潰しのたうち回せ、火を灯す。
ある鬼は、内臓を生きたまま引き摺り出され、その内臓を自身の口に詰められ血反吐を吐く。
ある鬼は、心臓だけを取り出され息絶え絶えの鬼を放置。
あらゆる惨殺行為を施し、鬼達に絶望を与える。
どれもこれも位の低い赤鬼達ばかりだ。
翁を殺した鬼とは全く違い弱すぎる相手、これならあの化け物を殺した夜見が遅れを取るはずもない。
スコープ越しに夜見を捉え、逐一確認を怠らない。
爺さんから託されたあの娘は絶対に殺させはしない。
「それにしても、殺し方がえぐい。あれでは鬼も死に切れないだろう。まぁ
人々を殺した報いと思えばお釣りが帰ってくるだろうけどな」
既に二十体は殺しているであろう夜見には限界が近づいていた。
殺したという現実に苛まれ、心が折れかけている。それと、単純に疲れているだけだろう。
「やれやれ、力加減と体力調整がまだまだか。課題ば体力調整と心の問題かな」
次回の問題点を冷静に上げていく男の目はどこか冷めていた。
口元についた、自身の血を手で拭うことも忘れたままに……。




