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第三話。はじめてのだんじょん! その1。 パート3。

「さて、ボーナスも受け取りましたし、次の階層にGOですよ」

 意気揚々と、目の高さにいる大魔王ちゃんは、右腕なんぞ突き上げている。

「ご機嫌だな、まったく」

 そんな愛らしい様子に表情が緩む。

 

「階段はそこ、薄暗いところですよ」

 指差しされた方を見やり、位置を確認。一つ頷いた。

「わかった。うし、いざ二階へ、だな」

 

「おーっ!」

 またも右腕を天高く突き上げて、気合充分。

 見てるだけで、心からダンジョン探索を

 楽しんでるとわかるディバイナは、最早大魔王どころかマスコットだ。

 

 ーーなんだ、このかわいい生き物。

 

「こりゃ、目が慣れるまできついな」

 階段を下り始めてすぐ、俺はその薄暗さに目をしばたかせながら声を上げた。

 周りからは、掘っ立て小屋から鳴り続けてる、空気がうねる音が鳴ってて、

 ちょっと気味が悪い。

 

 踏み込む足に力が入る。着ている鎧が、ガシャリガシャリと派手な音を立てた。

 

 

「この怪談は次階つぎかいの暗さに慣れる

クッションの役目もあるんですよ」

「なるほどな。至れり尽くせりだ」

 階段を下りる速度はゆっくりと。慎重に、手すりに掴まりながらだ。

 ダンジョンに手すりがあるなんて、ほんとサービス良すぎである。

 

 

「お、ついたな」

 階段が終わり、ついに次のフロアに到着した。

『二階でございます』

「なっなんだ?」

 突然女性の声がフロア中に響いて、俺はたたらを踏んじまった。

 

「このダンジョンのアナウンスであり、このダンジョンそのものであるゴーレママです」

「え、あ、え?」

 言われた言葉が理解できない。今、こいつはいったいなんと言ったのか?

「今、なんていったんだ?」

 

「ゴーレママのことですか? このダンジョンそのものですよ」

「……は?」

「どうしたんですか? そんなパトパトが

ビーンズブラスター喰らったような顔して?」

 

「……鳩が豆鉄砲喰らったような顔って言い回し、あるんですね」

 首をかしげて問うて来たディバイナの破壊力より、

 俺はその厨二病的言い回しに精神を持って行かれた。

 

「ってか、ビーンズブラスター。ビーンズブラスターってなんだよ」

 爆笑。訪れたのは腹を抱えるほどの爆笑。

 彼女の方もまた、鳩が豆鉄pククク、ビーンズ

 ビーンズブラスターッハッハッハッハ!

 

「そんな必殺技みたいなの喰らったら、

間の抜けた顔なんてできねえだろ!

ひーっ! ひーっ! は、はらいてー!」

 気が付いたら、ダンジョンの地面をゴロゴロ転がりまわって、笑い悶絶してました。

 漏れなく床もバッシバシ叩いて。

 

 とりあえず、パトパトって名前は地味にかわいいと思いました まる。

 

「ふぅっ、手いてぇ」

 しばらくして、やっと笑いが収まった。半身を起こした状態で、

 叩きすぎて少し腫れあがった右手を見ながら呟く。

「なにがそんなに面白かったのか、わたしにはよくわかりませんけど。

あの……もう、進んで大丈夫でしょうか?」

 

「ん、ああ。大丈夫だ」

 言いながら立ち上がる。

「んじゃ、今回もフルコンプ目指してマッピングだな」

 

「一階のようにはいきませんからね」

 声は挑戦的。できるもんならやってみろオーラを、ひしひしと感じるぜ。

「たしかこっからはトラップがあるんだったよな。慎重に進まなイトっ?!」

 ドチャ。

 いきなりツルーンと足元が滑り、俺は派手にずっこけた。

 

「いってぇ」

「クスクス。早速ひっかかりましたね」

「嬉しそうに言いやがって……」

 

「ああ、安心してください。通過した場所は

ちゃんと踏破とうはしたことになってますから」

「そいつは助かる。数歩のために戻るのはめんどくさいからな」

 起き上がりながら頷く。このゴーレママダンジョン括弧仮について、

 また一つ情報を得たぜ。

 

「く。マジにモンスターが動き回ってんな。足音が聞こえて来るぜ」

「武器、準備した方がいいですよ。一階は突進だけで突破できましたけど、

階層が深まれば全部それで通れるとは限りませんから」

 

「ん、お、おお。そうだな」

 左腰に刺してある剣に右手をかけて、何度か抜剣後すぐに納剣を繰り返す。

 左手は剣の鞘に添えてある。

 そうじゃないと、剣がすっぽ抜けそうで心配なんだよな。

「よし」

 

「あれ? 納めちゃうんですか?」

「おお。こういうのは、敵と出会った時にスラっと抜くのがいいんじゃないか」

「見た目に拘ってると、痛い目みますよ?」

 

「無害ダンジョンの生みの親が、そんなこと気にするなって。ん」

 近づいて来る足音。それは上階うえと同じピチャリピチャリだ。

 スライムの移動音を、足音って言うのかは、この際気にしない。

 だが、俺は微動だにしない。今回は一つ、策がある。

 

「今回は逃げないんですね?」

「おう。策戦があるからな」

 正直ただやりたいだけで、策戦なんて大層な物じゃないんだけどな。

 

「策戦、ですか。あれだけの恐怖を、

たったこれだけの時間で克服するなんて。

カズヤさん、すごいです。流石はわたしを、むかえてくれた人」

「なに顔真っ赤にしてんだよお前は……」

 また出たよピンクシンキングタイム。やれやれだぜ。

 

 

「さて。近づいて来てるな。けど、まだはっきりとは見えないか」

 音の方向はおそらく正面。少しずつはっきりして来た音は、

 どうにも前から聞こえる感じがするんだ。

 薄暗いせいで、意識を集中する感覚が自然と目以外の四感に偏る。

 そこから現状必要ない感覚を消去法。有効なのが聴覚とわかった。

 

 だから普段は気にも留めない、音がする方向なんかを気にして

 そして理解できてるんだろう。

 

「よし、見えた」

 ザッザッと地面を足で擦る。軽く二度ほど足踏みをして深呼吸。

 そして、

 

「おーいスライムー、サッカーやろうぜー」

 手でメガホン作って呼びかける。

「ふぁい?」

 変な声が俺の目の高さでしたがスルー。

 

「お前」

 走り出しながら声を出す。

「ボールなっ!」

 ジャストタイミングっ! 右足を振り抜けば、

 ちょうどそこに、黒緑の饅頭だっ!

 

 ボゴーン!

 

 気持ちいい。

 まさにジャストミートの右シュートで、

 スライムは元来た方向にぶっ飛んで行った。

 

 ついつい、ヒューっとお調子な口笛なんて吹いちまった。

 まったくキャラじゃねえのに。

「いよっし! 策戦大成功ミッションコンプリート!」

 

 

「え、えーっと、あの」

「ん? どうした?」

「今の台詞、必要だったんですか?」

 若干ヒいたような声色だが、なに 気にすることはない。

 

「むしろあの台詞こそが必要だったんだよ」

「そう……なんですか。こちらの世界の人は、よく……わかりません」

 

「俺みたいなのは、特殊なぶるいらしいから、

そう簡単にはわからないと思うぞ。

とりあえずスライムが来た方は安全だろう、進んで行くとしようぜ」

 

「あ、はい。そう、ですね」

 納得行ってない様子のディバイナ、それでもふよふよと

 俺の前を飛行する。

 これ以上間抜けな、トラップの引っかかり方はしませんように。

 

 

***

 

 

『フルコンプリート』

「よ……ようやくかー!」

 地面にうつ伏せ大の字に滑り倒れる。

 

「お疲れ様ですカズヤさん」

 頭にぽむぽむと、二度の感触。

 どうやらねぎらってくれているらしい。

「大変だったぜ。ステータスウィンドウ見えたら赤いんじゃねえかな今?」

 それぐらいヘトヘトなのである。

 

 

 あれから後。

 吹っ飛ばされるトラップ踏んで壁に激突するわ、

 また滑るトラップ踏んで、滑った先に狼っぽいモンスターがいて、

 それに追っかけ回されるわ。

 

 逃げてる最中、今度は垂直に打ち上げられるトラップ踏むわ。

 まあそのおかげで狼倒せたんだけど。

 なんでこんなに、移動系トラップばっか置いてあるんだ

 このダンジョンは?

 

 で、そうこうしてたら、騎士っぽいのと狼に挟み撃ちに遭うわ。

 んで、ラストに踏んだトラップが、

 巨大な石柱が目の前に降って来るって言う、

 気付かなかったら即死じゃねーかな物で。

 

 とはいえ、そのおかげで括弧撃破できて、今に至った。

 一息ついてから、巨大石柱について突っ込んだら

 魔王さまはしれっと言ったのだ。

 

 ハリボテですから痛いで済みますよ、と。そんな風には見えなかったと追及したら、

 石柱を軽くパンチすることで、その柔らかさを証明されて、

 ぐうの音も出なくなった俺なのだった。あれ……発砲スチロール性だわ。

 

 

「立てますか? ボーナスもらった方が、疲れとれるの早いですよ」

「そう、だな。いくか」

 よっこいしょと起き上がったら、クスリと笑われてしまった。

 しかたねえだろ、起きるのに力いったんだから。

 

「カズヤさん、次はいよいよ中ボスフロアです。

武器は絶対使ってくださいね」

「おう、わかってるぜ。はたして、なにが出て来るか」

 

「ゴーレママがなにを生み出すのか、わたしにもわかりません。

この世界で生成されるモンスターなので」

「そうなのか?」

「はい。でもきっとカズヤさんが喜ぶモンスターだと思います。

それだけは保証しますよ」

 

「お、それは楽しみだな」

 白いパネルを発見、そこに踏み込み回復してもらう。

「ふ~、すっきりさっぱりだぜ」

 笑顔でのびをして、感想ひとこと。

 ディバイナはそんな俺を見て、フフフと笑みを浮かべている。

 

「うっし。いくぞ、中ボス!」

「はいっ!」

 気合一発。

 

 

 俺達は地下三階への階段に向かうのだった。

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