表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/41

第十五話。だいまおうさま喜怒哀楽。 パート3。

「あの、えっと……」

 意識が抜け殻大魔王から開放されたらしく、

 瞳を左右に慌ただしく動かしている。

「やっぱ、いつもと違ったみたいだな」

 

「どういうことだそれ?」

 クルミチャンに一つ頷いて、俺は自分が見た

 たった一度の、抜け殻吹き替えの終わり際の様子を答えた。

「なるほどな、こんなにきょどってなかったのか」

 

 

「わーっ! クルミチャンさんの鎧が、バキバキじゃないですかっ!

いったいなにが?」

 飛ぶことも忘れて、こっちにトテトテと走って来る。

 よっぽどの衝撃だったんだな。

 

 進むたびに汗が飛び散ってる、掌サイズのディバイナから。

 そこまで汗かいてたようには見えなかったけどな?

 

「どうも、こっちにお仕事大魔王としての動きが

反映されてるとは思わなかったみたいね」

 必死で走ってるディバイナを見てだろう照が言うのに、

 俺もクルミチャンも、「だな」と頷いた。

 

「大丈夫なんですか あああっ!?」

 突然ギャグ調な声になったかと思うと、

 踏み込み間違えたのか、こっちにすっ飛んできた。

 

「はい、っと」

 照が見事に着地点を見切って、少し前に出てディバイナを右手に乗せた。

「すびばぜん」

 

「鼻、おもっきしぶつけたな、ありゃ」

 俺の苦笑いに、「痛そうー」と同情の、軽い裏声のクルミチャン。

 

 

「それで、クルミチャンさん。

いったいなにがどうして、そんな傷を?」

 ぴょんと跳ねて立ち状態に戻ったディバイナ、

 改めて、本題に話を進めたらしい。

 

 照がバックして来る。横顔が見えたんだけど、

 困ったような表情だ。

 

「せめて肩に乗ってやれよ……」

 俺のぼやきが聞こえたか、はっとした顔をした直後、

 ディバイナはまたジャンプ。照の右肩に飛び乗った。

「ナイスぼやきよ仁武和也じんむかずや

 

「褒められても嬉しくねえな、それ」

「で、どうして俺の鎧がこんなボロボロかっつうとな」

 話が進まないと判断したのか、クルミチャンが

 ちょっと食い気味に、ディバイナに答え出した。

 

「吹き替え放棄した、お前さんからの一発を、

もろにもらっちまったんだ。それも、

本気でぶち切れた時の奴をな」

 

「え?」

 どれのことなのかわかったのか、聞き返すような感じのわりに、

 声の直後に、周囲に素早く視線を走らせ出した。

 

「そのわりには、一切破壊の跡が……」

 周囲を見回しながら、不可解そうに呟いてるディバイナ。

「どうも、あっちでの破壊力はものすごかったみたいだな」

 

「そ、それはもう。口にするのも恐ろしいほどの威力で……!」

 俺の声にディバイナは、腰巾着キャラにでも

 ジョブチェンジしたかのような調子で、

 己の攻撃の威力を、いつものような両腕バタバタの

 オーバーリアクションで表現した。

 

「仮にも大魔王が、自分の攻撃の威力を、

口にするのも恐ろしいなんて表現するかね?」

 かわった奴だなほんと、とクルミチャンの感想だ。

 俺も照も、「ほんとね「ほんとな」」と同意する以外にない。

 

 特に俺は、この一日ほどで何度こう思ったことか。

「でも、チート勇者相手にはなんともなかった感じかしら?」

 からかってやろうって言うのが見え見えの、ニヤリ声で照はつっついた。

 

 

「そうなんですよ。余波で多、少なりとも

ダメージあると思うじゃないですか。

奴等ピンピンしててですね。ふざけるなーって話ですよ。

わたしの怒りを、なんだと思ってるんですかまったく」

 ほっぺたぷーっとふくらませて、不満をマシンガントークしたディバイナ。

 

「って言うより、大魔王の怒りの一撃が

蚊ほども効かないってなんですか!

チートにもほどがあるでしょうが!」

 

「まだ続くんかい!」

 ひょっとしたら、描写されてなかったから

 ダメージがなかった、って可能性があるかもしれないな。

 ギャグ作品でもなきゃ、台本如きが邪魔するな、なんて

 メタ発現すぎて、最終決戦に入れる台詞じゃないからな。

 

 まあ。シリアスでも、人間を神のシナリオに従うだけの人形、

 ってみなす大魔王がいてもおかしくないけど。

 特に今回は、理知的な大魔王役だったんだしな。

 ……リアル大魔王が、大魔王役やるって。やっぱ、奇妙だな。

 

 

「まあまあ抑えて抑えて大魔王ちゃん」

 俺の突っ込みに続いて、照は宥めるように言いながら

 

 ディバイナを、

「うぶぶぶぶぶぶ!」

 左手で、彼女が乗っかってる自分の右肩に

 うつ伏せに押し倒し、そのまま押さえつけた。

 押さえつけられたディバイナ、両腕両足をジタバタさせている。

 

 

「以外とえげつねえな、ピカリン」

 そんな様子を見て、クルミチャンは一滴汗をたらした。

 冷や汗だろうかな?

 

「で、ディバイナ。親友と再会して、相手はどんな様子だったんだ?」

 出会った時のやりとりと終盤のやりとりで、

 ディバイナの態度が、逆転してた。

 この変化。ディバイナより、親友がどんな様子だったのか

 の方が気になる。

 

「んー! んうー!」

 ディバイナ、バシ バシ バシ、と照を強く叩いている。

 声の調子を考えると、ギブアップ宣言だろうな。

 

「ああ、ごめんごめん。大魔王って考えると、

ジタバタしてるのが面白くって」

「「わかる」」

「ぶっはーっ! 殺す気ですかリンさん!

男子二人も頷いてないでください!」

 

「「わりいわりい」」

「んもう」

 ようやく、と言った感じで。

 ディバイナは、怒らせてた肩から力を抜いた。

 

「それで、親友。ヌオッドの話でしたよね?」

「ん? ああ、それ名前だったのか」

「はい。ヌオッド・ドルロウ。わたしといっしょに、

大魔王を目指していた女魔族です」

 

「魔王って、生まれた時から魔王、ってわけじゃないんだな」

「だんなさまには話しましたけど、大魔王って言うのは

魔界で最強であることが条件で、血筋は関係ありません。

 

だからわたしたち魔族は、一つの処に集まって

大魔王候補として、実力を磨いていきます。

わたしたちはこの場所を、魔王学校って通称で呼んでます」

 クルミチャンの疑問に返した説明。後半部分は初耳だ。

 

「お前の返す言葉は聞えてたわけなんだけど、その親友。

実力が、お前より下だったみたいじゃないか」

「まあ、はっきり言っちゃえば、ヌオッドの実力は、

わたしよりも劣っていました」

 俺の問いに、ちょっと言い難そうにこう答えて、

 

 更に

「でも、わたしの夢を応援してくれたのは彼女だけでした」

 と続けた。

 

 

「夢って?」

「そいつは、人も魔族も分け隔てなく

みんなが笑って暮らせる世界を作りたい、

って夢を持ってるんだそうだぜ。

 

その融和の足掛かりの手段が、この

ゴーレママだんじょんらしい」

 照の呟きに、うっかり俺が答えちまった。

 

 が、ディバイナは俺の言葉に頷くだけで、

 それ以外ノーリアクション。

 「わたしが言うところじゃないですかだんなさま~」

 って怒られるかと思ったから、肩透かし喰らったかっこうだ。

 

 クルミチャンも勿論照も、俺の話に驚き、

 そして、信じられない様子で、顔を見合わせている。

 

「でも彼女は、いつからか変わってしまいました。

それがショックで悲しくて、わたしは彼女と距離を取るようになって。

それからわたしは、大魔王として認められるまで一人っきりで……っと。

わたしの話はいいんです。今回のヌオッドの話ですよね」

 慌てて話題の脱線を自ら修正したディバイナ。

 

「なるほど。裏切ったあげくに殺しに来た、ってのはそういうことだったのか」

 こいつの抱えてる孤独感は、不意に来る

 一人暮らしの寂しさなんかとは、比べ物にならないんだろうな、

 やっぱり。

 

 規模は違えど、孤独感を共有できたからこそ、

 俺はこの掌サイズの否日常少女を、放置できなかったんだよな。

 振り返るには、あまりに過ごした時間が短すぎるけどさ。

 ま……まあ? 泣かれたってのもあるけど?

 

「はい。でも、刃を交えるうち、彼女の心が

少しだけわかりました。わたしのことを

裏切ってなかったことも」

「だからお互いに逃げろって言い合ってたのか」

 

「彼女は台本勇者たちの隙を作って、変わり果てた姿のわたしを、

それでもディバイナ・パンドラートだと信じて、逃がそうとしてくれました。

でも、わたしも台本の一部。だから逆にわたしが

彼女が逃げる隙を作りました。おもいっきり、地面に魔弾投げつけて」

 

「やっぱり目くらましだったのね」

「はい。それで、彼女はあの場を離れる時に、こう言いました。

『遅れてごめん。大魔王、おめでとう。今度は親友じゃなくて腹心として、

あなたの夢を応援できるように、もっと強くなるから待ってて』って」

 親友……えっとヌオッドだったか。

 

 別れ際の言葉を考えると、ある程度ディバイナの現状を

 理解したみたいだな。台本って具体的な台詞もあったし、

 なにかに囚われてる、ってぐらいの察しはついたか?

 

「勇者、それもチート勇者ご一考に加わって、

なおかつ大魔王と互角にやりあえてんのに、

まだ強さが足りないってのか、親友ちゃんは?」

 クルミチャンの、驚くよりも呆れの方が強い感じの言葉に、

 

「ほんとは、嬉し号泣したかったです」

 と残念そうにディバイナ。

 

「どういう理由で彼女が、力の象徴としての大魔王を

わたしに望むようになったのか。

 

それを聞く、時間もタイミングもありませんでした。

もし、またあうことができるなら、その理由が聞きたいですね」

 

「親友と腹心は魔族の中じゃ、

腹心の方が親密度が高いのか?」

 俺の疑問には、そんなことはないんですけど、とディバイナ。

 

「彼女の中ではそうみたいですね。それにも、なにか理由があるのかもしれないですけど。

っと、彼女の様子は、ザックリ言うとこんな感じでした」

「なるほど。だいたいディバイナの声と行動からの推測、

そのまんまって感じだったんだな」

 

大魔王様マスター、よかったですわね。

ヌオッドさまが大魔王様マスターの敵じゃなくって』

「ほんとです。ほんどでずよゴーレママー!」

 途中から嬉し号泣し始めた。

 

 

 が、テンションがギャグシーンのそれで、

 シリアスだったヌオッド関連話の落ちを、

 見事につけやがりやがったのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


関連作品。

俺らのこんなホワイトデー
主人公たちが和也の後輩。


小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ