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第十五話。だいまおうさま喜怒哀楽。 パート2。

「大丈夫っ!」

「な、なんつう威力だ。よく俺全身いてえ程度で済んだな」

 そんな声の主を、ひかりに追いついて見た。

 どうやら、かろうじて後頭部の激突はさけられたようで、

 気絶せずに済んでて密かにほっとする。

 

「そこまでのダメージじゃなかったようだな」

「バカ言えよく見ろ、鎧に罅入ってんぞ」

 のっそりと上半身を起こしながら言うクルミチャン。

 

「ほんとだ。罅入ってんな。しかも、上半身全域に細かいのが」

「胸の部分が、えぐれたようになってるわ。着弾地点はそこだったわけか」

「つまり、あの球体の中の回転は、激突後にドリルみたいに

対象を削ってたってことかよ。なんてもんを

不意打ちでぶっぱなちやがったんだあいつは?」

 

「お前らよくそこまで見てたな、あの僅かな時間で。動体視力どうなってんだ」

 ガシャリと立ち上がりながら、悪態のように言うクルミチャン。

「元気じゃねえかクルミチャン、なによりだぜ」

「お前なぁ……」

 

大魔王様マスターが、あの大きさで助かりましたわねクルスさま。

そうでなければ、その程度では済まなかったと思いますわよ』

「だろうな。なんとなく、そんな気はする」

 

「ディバイナは相変わらずだな。どうやら、まだ戦いは続きそうだぜ。

まあ。チート勇者が、たったの一撃でやられるとは思えないから、当然か」

「物語に取り込まれてるってことは、どうあっても殺されるのよね。

抜け殻の方は」

 照は気の毒そうに吐き出した。

 

「実際に殺されるよりは、遥かにましだろうぜ。

抜け殻と一体化してる状態で、殺され続けるのがいやで

逃げ出したんだからな、あの大魔王は」

 同じように答えた俺。

 

「ダメージあれども不死、か。良し悪しどっちもって感じだな」

 たしかにな、とクルミチャンに相槌を打つ。

 

 

「え? ヌオッド、どうして?」

「親友、どうやら勇者に攻撃したみたいだな」

「よく今のだけでわかるな和也?」

 

「驚いてるからな。とどめを刺されたんなら今のリアクションはおかしい。

殺すために自分の前にいるって考えてる相手に、とどめを刺されて、

どうしてはないだろ? その一撃は想定内のはずだ」

「たしかに、言われてみりゃそうか」

 

「そうとう入れ込んでるわね、仁武和也じんむかずや

「ま、いろいろ聞いたからな」

 

「逃げるって、わたしにどこに逃げろって言うんですか!

それより逃げるならあなたですヌオッド!

あなたはイレギュラーです。それが大魔王に手を貸した。

 

彼等は敵となれば容赦しません。

特に終盤で突然現れて味方になり、

この土壇場で裏切ったとなれば!」

 

 

「なるほど。だてに、数多くチート勇者話にねじこまれてないな。

打ち切り漫画的な展開にもなれっこってことか」

 ディバイナの援護を、思わずしたって感じっぽいか。

 どうやら親友は、完全な敵になっちまったわけじゃなさそうだな。

 

「理由はいいんです、早く逃げてっ!!」

「やばい! またでかいのが来るぞっ!」

 クルミチャン、様子で察したか。

 こっちには、圧力が突っ込んで来たから言われるまでもないぜ。

 

「いえ、おそらく狙うのは敵じゃないわね。着弾点は地面。

やるなら敵に対する目くらまし。ゴーレママ、けっこう痛いと思うわよ」

 ほんとこいつ、なんでこんなに冷静なんだ?

 まるで戦い慣れしてるような発現だし。

 ほんと、どういう環境なんだよ、ティル・ナ・ノーグってとこは。

 

大魔王様マスターの言葉で理解してますわ。覚悟はできています。

修復できないダメージにはならないはずですから、問題ありませんわ』

「自己修復ついてんのかよ?」

 クルミチャンの驚き声には、『当然ですわ』と肯定。

 

『そうでなければ、ダンジョンをし続けることなんてできませんもの』

 続く答えにはクルミチャンのみならず、

 俺と照も同時に、そうなのかっと言うリアクションだ。

 

『あなた方が考えるほど、わたくしたちの世界の方々は

非力ではありません。特に、大魔王を目指している魔族の方や、

大魔王を倒すべく、魔界に来るような方々相手では

傷を残していたら、あっと言う間に破壊されてしまいます』

 更に続いた解説には、そうなのかっと言う関心の声が、三人から漏れた。

 

 まるで俺達の言葉を、聞き終えたかのようなタイミングで、

 ディバイナのいる地面で一撃が爆発。

 激しく土埃が上がるのと同時に、フロアの床が大きく揺れた。

 

 バランスを崩しかけた俺。照は、腰を落として踏ん張ったみたいだ。

「うわっ」

 一人、クルミチャンだけは、バランスを保てず尻餅をついた。

 

「とりあえず、親友が裏切ったわけじゃないことは

確認できた感じだろうな」

『簡単に解ける、わだかまりではないと思いますけれど、

それでもすれ違いは解消できた感じ……なのでしょうか?』

 俺の感想にゴーレママは、煮え切ってない感じだ。

 

「お互いフォローし合ったんだ。今後あったとしても、

即座に殺し合いをし始めるとは思えない」

『そう、ですわよね』

 

「あれだけ必死に煙幕張ったんだ。

親友ってえのは、逃げててくれるといいよな」

「親友の方は、大魔王と違って不死じゃないでしょうからね。

だからこそ、彼女があれだけ声を荒げたんでしょうし」

 

 クルミチャンにそう照が答え、

「だな。はたして残る勇者戦は、どんな感じに仕上がるんだろうな」

 と俺が続いた。

 

「おとなしく、台本に戻るとは思えないわよね」

「だな。じゃあ、ピカリンはまた魔弾よけだな」

「しょうがない。最大出力を無駄打ちしたから、

けっこう疲れてるんだけどなぁ。肉体より精神面で、だけど」

 

『ごめんなさいリンさま。使わないって言っていたので、

回復効果の床は出してませんの』

「いいわよ。あたしたちの選択だし、条件を満たせないのに

出すわけにもいかないでしょ」

 さて、と言いつつ一歩踏み出した照は、

 

 ディバイナと、一定の距離になるまで歩いて行く。

 

 

「変にきちんとしてんな」

「まあ、仮にもティル・ナ・ノーグ。遊園地関係者だからな、

緊急事態でもアトラクションのズルはいやなんだろうぜ」

 クルミチャンの答えに、そういうもんかねぇ、と思案顔になる俺。

 

「しかし和也」

「なんだ?」

「お前、とんでもないのに好かれたな」

 

 傷だらけの純白の鎧に、視線を落として言うので、

「小さな大魔王。その力を直に味わって理解したか」

 と大きく頷き、

 

「まあ、それほどの力、そうそう開放することはないだろうから

日常生活には支障ないだろうと思うわ」

 同じく、クルミチャンの鎧に視線をやって続けた。

 

 

「だんなさまは、物わかりのよろしいことで」

「あいつが俺のことをそう呼ぶ限りは、

俺に危険を及ぼすことはないだろうぜ。

今回みたいな場合を除いてな」

「そう願うぜ」

 

「ありがとよ。さ、また見学組みだな」

 そうして俺とクルミチャンは、またディバイナの魔弾を捌く

 照の様子を眺める時間を過ごすことになった。

 

 ーーいや。そうなると思ったんだ。

 

「あ、ぐ。力が、押さえつけられる。これ、は……!」

 ディバイナが苦しそうな声でうめいた。

「いったいどうしたんだ、掌娘?」

 

「押さえつけられる、って言ったわね。

勇者パーティーの中に、そういう魔法の使い手がいるのかしら?」

『もしかすると。物語にない行動を数多く取ったから、

物語によって、弱体化させられたのかもしれませんわね』

 

 流石に、付き合いの長そうなゴーレママ。

 物語に取り込まれた時の、ディバイナの受ける制限を知ってるらしい。

「物語の強制力って奴か。作者が予想外の展開に焦ったか?」

 

「まあ終盤にイレギュラーキャラが突然出てきて、

その上味方のふりした、獅子身中の虫だったからなぁ。

そこら辺で読者が減ったかで、

ちょうどいいから、打ち切り展開にしちまえとでも思ったか、

ってとこか」

 

 俺の分析に更に、こんな推測をかぶせたクルミチャン。

 獅子身中の虫は、そもそも味方の振りしかしない気がするけど、

 めんどいのでスルーする。

 

 

「作者と物語で、強制力のぶつけ合いしてんのか。

どんな状況だよ」

 シュールすぎて吹いちまった。

 

 ディバイナの親友と大魔王様の台本無視は、物語の外からの干渉だけど、

 状況的には、作者と物語で強制力バトルだからこう言った。

 

「あんたたち。大魔王のリアクションとゴーレママの言葉だけで、

よくそこまで思いつくわね」

 呆れたような声色で、溜息交じりの照である。

 

 

「バカな、たったあれだけのことで、魔力が枯渇するなど……!」

「台本入ったな」

「それしか対処法ないだろうからな」

 クルミチャンのひとことに、俺が続いた。

 

 俺達の言葉を肯定するように、ディバイナは瞳を閉じている。

 完全に吹き替えモードに戻った。

「まさに『話が進まない』ってことだものね」

 ふぅっと安堵したような息を吐いた照。

 見れば、肩の力を抜いたのがわかった。鑑賞会モードになったようだ。

 

「ぐああっ!?」

 ガックリと、膝をつくディバイナ。どうやら、とどめの一撃をもらったらしい。

「見事だ。大魔王たるこのわたしが、

魔力の枯渇を視野に入れずに戦ってしまった。

知らず、お前たちのペースで動かされていたようだな」

 

「「絶対本音だろ」」

「どこが台本で、どこがアドリブなのかわかんないわね。

高等テクニックだわ」

 

「お前もお前で、どこ見て台詞聞いてんだよ?」

 妙なところに感心するので、思わず声が出てしまった。

 

 

「だが、お前たちには一つ、感謝しなければならない。

彼女に出会わせてくれたのだからな」

 おそらくこれは、親友のことだろう。

「親友、女だったんだな」

 クルミチャンの言葉に、「そうだな」と同意する。

 

 親友だったこ、としか聞いてなかったから、

 俺も性別不明だった。

 

 

「もう、悔いはない。彼女の心を知れたことが、なによりの喜びだ」

 その言葉の後、ディバイナの前身から力が抜けた。

「どうしたんだ掌娘?」

「たぶん、お仕事終了だな」

 

「死んだってことね、今の物語の大魔王は」

 頷く俺。

 

 すると、ゆっくりとディバイナの目が開いた。

 定まらない焦点で少し荒く呼吸してるその様子は、

 

 

 まるで悪夢から覚めた時みたいに見えた。

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