第十五話。だいまおうさま喜怒哀楽。 パート1。
「勇者VS魔王。たしかに考えてみれば、
一撃二撃で終わる戦いじゃないよな」
なんだかもどかしげな表情で、攻撃振ったり魔弾を飛ばしたりしてる
ディバイナを見て、俺は一人頷く。
「チート勇者でもか?」
クルミチャンからの質問に、
「それは、作者の技量にもよるだろうけど、
大抵、大した文章量じゃないよな。他の雑魚との差って言ったら、
攻撃の規模ぐらいのもんか」
敵の強さとのパワーバランスにリアリティがなくて、
その手の話を好んで読む気にはなれない、俺なりに答えた。
「あんたら、気楽で、いいわよねっ!」
照はディバイナの魔弾を、
まるでテニスのラリーでもするように、
弾の射線に行っては、例の防御魔法で弾き飛ばしている。
「しょうがねえだろ、俺達魔法なんか使えねえんだから」
クルミチャンに便乗して、俺は頷く。
「ところでよ照。弾き飛ばした魔弾、
なんでどこにもぶつからねえんだ?」
ピカリンって呼ぶのを、とりあえずやめたらしい。
「弾き飛ばすってことは、あたしの魔力である程度相殺してて、
吹っ飛ばした時点で、魔力の残りの飛距離が決まってる状態だからね。
って言うか! 余計なこと、喋らせないでっ!
体力使ってんだから!」
解説してる間にも、いくつか飛ぶ魔弾を弾き飛ばしている。
怒られたクルミチャンは、「ぅぇーい」っと、やる気のない返事を返した。
「しかし。毎回どうやって、適格に射線に先回りしてんだろうな?」』
「目を見てるからよ」
「ああ、答えてはくれるのな」
照の言葉を確かめるため、ディバイナの目線を観察してみる。
なるほど。たしかに、ディバイナの目線が、そのまま射線の予告になってる。
「この話の作者。けっこう、戦闘を引き延ばししてんのかな?」
クルミチャンはそう言うけど、
俺はそれに、おそらく違う、と切り返す。
「ディバイナは、今台本よりも素で戦ってるはずだ。
あの様子からすると、名前からして白い鎧を着た親友だって話の奴と、
話がしたいはずだ。通常魔弾と、攻撃だけしか使わないのも、
わざとそうしてるんだろうぜ。ところでゴーレママ」
『なんでしょう?』
「ディバイナのあっちでの様子、見られないか?」
『すみません。わたくし、そんな力はございませんの。
それができれば、リンさまの疲労を少しは和らげられますし、
皆様に大魔王様の様子を、見せてさしあげられますのに』
「そっか。しょうがねえさ、できないもんはできないし」
『お気遣いありがとうございます。
元の世界、できないことを責める方が多い世界でしたので、
そう言っていただけると気が楽です』
「そうだったんだな」
「RPGとかやってると、能力でパーティーメンバー選別するからなぁ。
できないことを攻めるって、ようはそういうことだろ、たぶん」
「たぶん、そういうことなんだろうな」
そう俺はクルミチャンの話に同意した。
「はぁ……はぁ……。流石は覇導剣マイロード・オブ・ロード。
見事な切れ味です。この体では、その剣閃を完全によけるのは大変です。
剣圧だけでもヒリヒリしますよ」
一息つける状況になったらしく、明らかに息を上げるディバイナは、
それでもまだ余裕だ。
「相手は剣士か」
「なんか今、ややこしい名前言ってなかったか?」
『覇導剣マイロード・オブ・ロードのことですわね』
クルミチャンの、疑問とも呟きとも取れる声を受けて、
ゴーレママが声を出した。
「そうそれ。ロードが二つあるのは、異世界センスなのか?」
『センスについてはわかりませんけれど。
覇王へ導く剣こそ我が行くべき道
と言う意味があるそうですわ』
「ああ。後ろのロードは、じゃない方ロードなのか」
どんな納得の仕方だよ。
「鎧が使用者を選ぶってのは、
不適合者を、なんらかの基準で判断してるってことか?」
『おそらくは』
「なるほどな。で、さっきディバイナが、
あいつの装備してる黒い鎧と対になる、って言ってたけど、
ディバイナの方には、剣ないよな?」
『ええ。大魔王様の魔皇黒鎧には通常、
鎧以外にはなにもありません。拳撃を補助する装備を、
開放、出現させることはできますけれど。
一方の対になる魔帝白鎧は、
覇導剣を抜くことで、このだんじょん入り口に入った時と同じように、
抜剣者に鎧をまとわせる作りになっているんですの』
「片方は鎧が本体、片方は剣が本体。
まるで、白黒一組セットで使われることを、
想定してるようなデザインしてんな」
「そうか?」
『カズヤさまのおっしゃる通りです。
魔界に存在する白の剣と黒の鎧は、
大魔王になる者と、その腹心が、手にすることを許される
と言い伝えられている装備ですの』
どう聞いても、RPGにおける、いわゆる伝説の武具にしか思えない説明だ。
若干ゴーレママの声色が誇らしげなのは、ご主人様が
その、大魔王になる者の装備を、身に着けてるからだろうな。
ディバイナ本人も、扱われ方はともあれ、
大魔王って照合にはプライド持ってるし、
あの黒い鎧を装備してる現状は、誇らしいんだろうな。
「おいおい。それじゃあまるで、勇者専用装備じゃねえか」
俺が思ったことを、まんまクルミチャンが言ったせいで、
軽く吹き出しちまった。
『黒き鎧は魔王を守り、白き刃は魔王にあだなす者を切る。
一対は揃い、装備者の絆によって
その力を更に高めるとされていますわ。
言い伝えを考えると、武具の力ではなく、
この人を守るべき、その決意によって振るう力が強くなる、
と言う意味なのでしょうね』
「「ますます勇者サイドっぽいな」」
俺たちの感想に、クスっと微笑するゴーレママ。
マジでこのゴーレム、実は人間なんじゃないのか?
しかし、自分たちのあれこれを勇者っぽいって言われても、
ゴーレママが、特に腹を立てないのは面白い。
ディバイナが聞いたら、ほっぺたふくらましてむくれそうだけど。
『ですが現状。どうやら、言い伝えの通りではなさそうですわね』
気の毒そうな色のゴーレママの声に、
どういうことだとクルミチャン。
『装備者としては、まさに大魔王様の望み通りなのですけれど……
今魔帝白鎧を装備している様子のヌオッドさまは、
大魔王様と、とても仲が良かった方なのだそうですわ』
「らしいよな」
「裏切ったあげくに殺しに来たのか、って言ってたもんな。
なにがあったんだろうな、その相手と」
俺の相槌とクルミチャンの疑問。
答えてくれたゴーレママは、
『わかりませんの。わたくし、大魔王様がお一人でいらした時に
生み出されましたので。
ヌオッドさまのことは、
大魔王様の思い出話でしか、聞いたことがありませんので』
と申し訳なさそうだ。
生み出したってことは、召喚式なのは作って以後、ってことか。
「そうなんだな。それでも付き合いは長そうだけど」
「ぐああっっ!?」
突如、ディバイナが苦痛の悲鳴を上げた。
慌てて声の方に目をやったら、右斜め後ろに吹っ飛び、
地面に背中を叩きつけられるところだった。
「ディバイナっ!」
向かおうとしたら、照に遮断機状態で腕でも出されてたのか、
思いっきり腹に衝撃が来て、「う が あっ!?」と
悶絶する羽目になった。
「角度がおかしかったわね。横合いから叩き込まれた感じだわ。
これまで攻撃は角度ついてたけど、回避の動きは正面を捉えてた。
となると。しかけた相手は、親友ってのじゃなさそうね」
照、どうやら俺達の話をしっかり聞いてたようだ。
「って、いったい、どういうことだ、それ?」
うずくまって、軽い吐き気に耐えながら質問を投げ込む。
「おそらくだけど、あのちっちゃい大魔王は、
たぶん今親友と向き合ってる。他の奴は牽制射撃してる程度で
ろくに相手してないはずよ。そうじゃなかったら、
今ごろこの場がどうなってることか」
「手加減なしって読んでたもんな、お前」
「ええ。あ、起きるわよ」
「おい、目付きがかわってるぞ」
「うわぁ、ありゃかなりお怒りあそばしてんなぁ」
当然ながら、俺達のことをまったく無視して、ディバイナは
俺達には見えない敵を、睨みつけている。
ーーこれまでとは迫力が違う。本気の怒りだ、これたぶん。
「勇者さんたち。わたしは今。
ヌオッドと話をしてるんです」
「あれ、思ったほど怒ってねえのか?」
「バカクルミチャンお前っ。この、物理的に押し出されるような圧力、
感じねえのか?」
「むしろお前がそれを感じることに驚くぞ」
「台本如きが……!」
「声が、二つ同時に出てるぞ?!」
聞いた瞬間の違和感を、俺はとっさにそう聞いてとった。
「もしかしてこれ。お仕事の側の大魔王の声と
いっしょに喋ってる状態なのかしら?」
なにかを耐えるような照の声。みれば、髪が
下から風が吹いてるように、ゆらゆらと動いている。
「やべえ、圧力、強くなってるぞ!」
「ああ。今なら、そっちの感覚がない俺でもわかる。
これは、やばい!」
「魔神力壁、最大出力でどの程度抑えられるか……」
つまり、照の髪の動きはディバイナよりは、
自分の魔力でってこと……なのか?
たしかに、正面と左から圧力を感じる。
驚くべきことに。照の方が、ディバイナのより圧力が弱い。
簡易の魔法だからなのか、それともポテンシャルの違いなのか。
「邪魔を。するな!」
「す」と同時に、ドギュンっと言う音と共に、
ディバイナの体よりもでかい物が……。
今の今まで存在してなかったはずの固まりが、
こっちに飛んで来た。
「しまっ!」
「ぐおああっっ?!」
照の声の直後。俺と照の間の少し奥、
ディバイナから僅かの差だけど、一番遠くにいたクルミチャンに、
渦巻くなにかを内包した、球体が激突した。
気が付いたのが遅すぎたのか、照は歯噛みした顔。
「ぐはっっ」
まったくの無警戒だったクルミチャンは、派手に背中を打ち付けた。
それも地面ではない。おそらく数メートル後ろの壁に、だ。
「マジかよ?」
クルミチャンの激突時のうめき声の遠さが、
その、吹っ飛んだ距離を教えて来てて、ただただ驚くことしかできない。
「ヒロシ!」
照は声と同時にガバっと反転。
壁に叩きつけられた、クルミチャンに駆け寄って行く。
「っ! 博士!」
あまりの反応の早さに驚いたものの、俺も続く。
シリアスなテンションだけど、ついあだなの一つで呼んぢまった。
大魔王からの怒りの一撃……
大丈夫だよな?




