第十四話。取り越し苦労と怒りのディアボリックエリミネーション。そして。 パート2。
「こうしてあなたに、ディアボリック・エリミネーションを放つのは
二回目ですね。今回は耐え切れませんよ。なんせ威力は
ゴーレママ指定の、撃破可能威力ですからね」
そう、まるで因縁のライバルに、とどめを刺すが如き台詞を
感慨深げに放つディバイナ。
一方の相手方は、今渦巻いているディバイナの魔力に気圧されたのか、
グルルルルルとうなっている。
「つまり。本物は、本来の背丈のディバイナが打った
この大破壊魔法に耐え切ったってことか?」
驚愕の声は俺のだ。
「そんなにすげーのか、この大破壊魔法って?」
「ああ。暫く本来のディバイナでは打ってねえってことで、
正確な威力は、おぼろげらしいが。
全力で打った場合、町一つ消し飛ぶらしいぞ」
「おいおい。そいつぁあまさにバトル漫画、
それも超人クラスの領域じゃねえか」
「なるほどね。それなら、大破壊なんて物騒な看板
背負ってても納得ね」
「だーかーらー! 和也もピカリンも、どうしてそう
あっさり納得すんだよ! 理解力と順応能力カンストしてんのか?」
「キれんなキれんな。俺はディアボリックなんちゃらを、
この目で見たから納得してるだけだぞ」
「あたしは単純に、威力と看板のつり合いが取れてるって思っただけよ?」
「理解力チートどもが」
吐き捨てられた。
威力聞いただけで納得する照はともかく、
なんで、ミニマムな現状ディバイナ版の、
全力ディアボリックなにやらを見た俺まで、
理解力チート扱いされんだ?
心外だわ。
「また。ボスとして、あいまみえましょう。
今度は、純粋に楽しめればいいのですが」
不安そうに言うと、
「本日二発目」
勢いをつけるためなのか、そんなことを言い放ち、そして。
「ディアボリック! エリミネーション!」
さきほどの声に乗ってた不安を消し飛ばすように、
高らかにその名前を叫び、
ついにそれは放たれた。
放たれた夕日のような魔力の本流。抗うすべを持たなかったか、
ボスド・ラディオスはそれに、あっさりと飲まれた。
魔竜と衝突した夕日のような魔力は、目の前をホワイトアウトさせる。
「こんだけ勝利フラグ建ってると。『やったか』フラグも
同時に建ってそうだよなぁ」
視界が白一色に染まる中、不穏なことを言うクルミチャンを睨み付ける。
場所は、それまでの位置からの推測だけどな。
「いいじゃない、それならそれで。アトラクションとしては、
お約束要素完備って言うのも、ポイント高いし」
照は面白そうに言っている。
「まあ。ゴーレムが、主に嘘言うとも思えないけど」
「ゴーレママなら、嘘だの冗句だのは平気で言うと思うけどな」
などと雑談を始めたところで、空間を塗りつぶしていた白が晴れ始め、
ほどなく白から元の灰色に戻った。
「すげー。跡形も残ってねえ」
「なるほど。たしかに、これの倍の威力なんて打ったら
ボスド・ラディオスどころか、ゴーレママの命があぶないな。
拡散させたからって、あの程度で済んでるのが謎だけど」
「ゴーレママの命、ねぇ。ほんと、お前の順応能力どうなってんだよ?」
「拡大させた上に、目標物が大量にありましたから、
ゴーレママには大事がなかったんですよ。
ちゃんと、計算してやったんですからね?」
「信じられん」
「むぅ」
「なるほど。この威力、たしかに本物ね。
しかも、これで手加減してるって言うんなら、
大魔王って言うのもあながち間違ってないかも。
本人の人格は、どうにも大魔王には見えないけど」
微笑で言う照に頷く俺。
スルーされて「っんぬぁ……!」と、ちょっと面白くなさそうな
クルミチャンを更にスルーして、俺達で話を進めて行く。
「ほら。だから、言ったじゃないですか~」
最早定位置の、俺の顔の右横に飛んで来ながら、
大して疲れた風もなく、ディバイナはどうだと、また胸を張った。
「勢いで全力で打たない辺り、かなり冷静なんだな、お前」
気を取り直したらしいクルミチャンに言われて、
「自分で召喚しただんじょんを、自ら破壊するようなまね、
したくありませんからね」
とあたりまえのように答えた。
「ほんとに。あなた、大魔王に見えないわよ。勇者よ勇者」
照は楽し気な微笑。
「いいえ、わたしは大魔王です。勇者は敵です、いろんな意味で」
だろうなぁ、と思わず出てしまった俺。
「例の、チート勇者に殺されまくる魔王生活、って奴か?」
「だんなさまから聞いたんですね?」
クルミチャンの疑問に疑問符を返し、それに頷かれたディバイナだ。
「そういやさ照」
「どうしたの、改まって?」
「うん。ボスド・ラディオスのブレス、
いったいどうやって防いでたんだ?」
「あ、そうですね。それ、不思議だったんですよ」
「ああ、あれ? あれは魔神力壁、簡単な防御魔法よ」
「「魔法使える奴イター!」」
ドレミファソラシド的に、徐々に音程を上げて行く言い方で、
クルミチャンと綺麗にハモってしまった。
「じゃあこっちも聞くけど仁武和也」
「ああ……まだフルネーム呼び、続けるのな。で、なんだ?」
「さっきの警告。あたしたちがここに来るまでの間に、
あんた。あのブレス喰らってたのよね?」
「ん、ああ。見事に対空ブレスをな」
「よく、なんともないわね」
「それが、ここがエンジョイだんじょんたる所以らしいぜ」
「どういうこと?」
「ボスド・ラディオスの力を、完全再現できてた場合。
この防具ありでも、範囲の狭い打撃みたいな感覚では
済まなかったらしい」
「そんな感じだったんだ」
「ああ。けっこう痛かった」
「パートナーが、化け物身体能力持ちでよかった
ってこったな、俺は」
「そういうことだなクルミチャン」
『皆様。ボスモンスターの撃破おめでとうございます。
これで今回のだんじょん。八階層のわたくしの攻略、
完了ですわ』
「会話が途切れるの、待ってたのね」
「空気の読めるゴーレムかよ。すごいなそれ。って、どうした和也? なんか面白いとこあったか?」
「い、いやーハ やっぱしハハハ八階層のわたくしって
フレーズが、ハハハ、面白くってなハぁ」
笑いながら喋ったもんで、妙な感じになってしまった。
「わからなくはないけど。そこまで、大笑いするとこか?」
「ちょっと。ツボがかわってるのね、仁武和也」
照は、楽しげにフフフと笑う。今朝を考えると
びっくりするほど、好意的な反応をよくしてるけど、
フルネーム呼び捨ては、固定のままらしい。
そのボーダーは、いったいなんなんだよ?
『クリアボーナスの、回復効果ございますが。
踏んでいきますか?』
「うーん。あたしはいいわ、いい運動になったから
この疲労感持って帰ることにする」
「俺も、ただの散歩みたいなもんだったしな」
『カズヤさまと大魔王様は、いかがいたしますか?』
「んー。俺もやめておこう。照と同じ理由で」
「半分の威力の、ディアボリック・エリミネーションくらいで
回復にたよっていては、大魔王失格ですよ ゴーレママ」
諭すように、笑顔で言うディバイナである。
こいつ自身が、隠すつもりがあったのかはともかく、
俺は、大魔王カミングアウトについて
誰もシリアスな反応をしなかったことで、
杞憂だってわかって、気が楽になった。気疲れもしたけど。
『あらまあ。皆さまは今回、回復しないと言うことですわね。
予想外でしたわ。どなたか、一人ぐらいは使うと思いましたのに』
「案外、俺達はタフだったってことだな」
自分で言っといて、こう言うのもおかしいかもしれないけど、
キャラじゃねぇなぁ今の。
『そうですわね』
微笑した感じの声で、そう言うゴーレママ。
すべったわけじゃあなかった……のかな?
「さて。んじゃ、帰りますか」
照のひとことに全員頷き、俺達は初のだんじょん踏破の達成感を、
疲労と言う形で持ち帰ることになった。
「ゴーレママ。エレベータどっちだ?」
『そのまま真っ直ぐ進んでくださいな』
「わかった」
「え、エレベータあるの?」
「ああ。なかったら、いきなりB5からとかむりだろ?」
「たしかにそうだけど、魔法世界からの転移者なんだから、
転移魔法で移動させるのかなー、とか思うじゃない?」
「あ、そっか。ぜんぜん思いつかなかった」
「変なとこ常識人ね、あんた」
驚いたような、でも呆れたような声で照に言われてしまい
苦笑を返すはめになった。
「ファンタジー世界にエレベータ。
そういえば、国内二大RPGにも、
エレベータある作品あったな」
クルミチャンの言葉だ。ファンタジー異世界基準がRPGなのは、
俺達の世界じゃ当然の話である。
が、世界そのものを娯楽と比較されるのって、
地元民はどう思うんだろうな?
もっとも、ディバイナはその娯楽である物語から、
毎日のように殺されてたわけだから、気にしてないかもしれないけど。
「だんなさま、どうしましょう」
「どうした?」
「抜け殻のお仕事時間です」
「このタイミングでか?」
「はい、来ちゃいました」
「マジか」
『この場でかまいません大魔王様。
せっかくですし、お二人にも見ていただいては?』
「そう、ですね」
「なによ、大魔王のお仕事って?」
「って言うか、大魔王が大魔王を仕事扱いにするって、どういうこった?」
ディバイナが大魔王って話は、あっさり信じるんだなクルミチャン……。
まあ、あの大威力見たらむりもないけど。
「これが、さっき話した吹き替えだ」
「つまり、チート勇者がご来訪ってことか?」
「タイミングがいいんだか悪いんだか、ね」
照の感想には、「そうだな」と苦笑いでそう答えた。
「んでな。こいつは、どうやら物語の大魔王になった体の、
いわゆるコア。一番重要な部分らしいんだ」
「吹き替えする必要がある理由は聞いてる?」
照からの質問に、「ああ、ちらっとな」と一つ頷く。
流石に、こんな奇妙な状況を見ちゃ、理由知りたいよな。
「コアがない状態の、元の世界の大魔王は
ようするに抜け殻らしくってさ。
ディバイナが声を出さないと、物語上ですら無言になっちまうらしいんだ」
「なるほどね」
「なるほど。こいつはいわば「中の人」ってわけか」
感心して頷きつつ言うクルミチャン。
「今コア、つまり中心部分って言ったじゃない。聞いてた?」
呆れた息の混じった照。俺はクルミチャンの
言わんとしてることがわかったけど、照はわかんなかったようだな。
「話は聞いてたぞ。俺の言う中の人は、いわゆる声優のことだからな」
「そうなの。なるほど、たしかにそれなら、話は聞いてたわね」
一息おいて。照はもっかい、なるほどねと頷いた。
「それで、大魔王のお仕事、ってわけか」
「お前らの理解力、俺のことをどうこう言えないレベルだぞ。
特にクルミチャン、お前はな」
「あ、あはは」と苦笑する。
ゆっくりと目を閉じたディバイナ。
チート勇者、いよいよ魔王の座にご到着のようだ。
「始まるぞ」
照とクルミチャンから、生唾を飲む音が聞こえた。
さて。俺が見る二度目の今回は、どんな大魔王を
演じることになってるんだかな。




