第十四話。取り越し苦労と怒りのディアボリックエリミネーション。そして。 パート1。
「まずは様子見っ」
言うと地面を蹴り、まるで三段跳びのように
怒りで真っ赤になってるドラゴン、ボスド・ラディオスの
懐へ接近して行く照リン。
「バカっ跳ぶな! ブレスが来るぞ!」
なにをしかけるつもりなのか、跳躍した照に俺は叫んだ。
「っほら言わんこっちゃない!」
上に顔を向けたドラゴンを見て、俺は
舌打ちのように言葉を吐いた。
竜の口が開く。そして一瞬の紅の光。
ーーだが、俺とはここからが違った。
「空中で……」
「押し合ってます。リンさん、いったいなにをして?」
ポンと軽く押し出されたように、
危なげなくブレスの衝撃においやられ、
少し距離が離れたところに、少し腰を落としただけで
余裕の着地をした。
「忠告ありがと」
俺にだろう、軽くそう言い終わるが早いか、
いっきに踏み込んで、間合いを詰めるのと同時に、
「今度は!」
俺がひたすら切りつけた右足を、
踏みつけるように蹴り、
「こっちの」
軽く飛びながら左足で、ボスド・ラディオスの腹を蹴る。
それでわずかに体勢を崩したか、ふらっと揺らぐ竜。
それを気にせず照は、腹を足場にでもしたのか、
左足で蹴った勢いだけで更に上へと飛ぶと、
「番よねっ!」
角度の関係か、ボスド・ラディオスは対空ブレスの構えに入らない。
それを知っていたかのように、照はなんの警戒もない動きで、
奴の脳天になんと、
華麗な、右のカカト落としを叩き込みやがったっ!?
苦痛に吼える、ボスド・ラディオスの頭を踏み台に軽く飛び、
左の翼 左足と言うルートを通って、地上へと降り立った。
ここで止まると思った照の攻撃は、まだ終わらなかった。
「飛びなさいっ!」
その言葉と同時。
まるで赤い竜巻のような回し蹴りが、竜の腹に炸裂!
彼女の長い赤い髪が、照自身に巻き付くようにうねった回し蹴りは、
俺には赤い竜巻みたいに見えたんだ。
ドガンとでも表現すべきだろう。そんなにっぶい音がし、
鋭い蹴りを受けたドラゴンは、照の言葉の通りに軽く吹き飛び
ダウンしたのである。
「やっぱり。このままのかっこうで、問題ないわね」
満足げに頷く、化け物娘照リン。
そんな少女に対して出た言葉は、
「「「人に向けてはいけませんっ!」」」
クルミチャン ディバイナと同時のこれだった。
「わかってるわよ」
どこまでも、さらっとしたリアクションである。
こっちを向かないと言うことは、まだボスド・ラディオスには
余裕があると判断してるんだろう。
「この強さ。D いえ、もしかすると、Cクラス程度はあるかもしれませんね。
あるいは。ひょっとしたら、魔壁鎧装を
拒絶してたことを考えると、それ以上かもしれませんが」
ディバイナが、なにやら驚愕している。
「なんだ、そのランク」
「わたしたちの世界における強さ、戦闘能力の高さのランクです」
俺の問いに答えたディバイナ。
「ああ。web小説によくある、SSSがなんちゃらとか、
Fランクなのになんとかー。みたいな奴か」
クルミチャンの分析に、俺ではなくディバイナがあっさりと頷く。
クルミチャンは目を見開いて驚いたけど、俺は軽く頷く。
「なんで和也は驚かないんだ??」
なおも目をかっぴらいて驚きつつのクルミチャン。
「こいつは、その手のラノベの大魔王に変化させられて、
その主人公たちに殺される、って生活を強いられてたらしいんだ」
「なんだそりゃ?」
今度は、目を丸くしてポカーンとしている。表情豊かな奴だぜ。
「だから、そういうランキングの説明でも、
ディバイナは理解できるんだよ」
「よくそんな、とんでもねえ話を信じたな、お前?」
「大魔王化……と言うか、吹き替えするとこ見たからな」
「吹き替え?」
「いつか。話せる時が来るさ」
「おんまえ、それさっきの俺じゃねえか!」
「あの。話、出だしだったんですけど。続けても……いいでしょうか?」
俺達がワチャワチャしてたら、そんな控えめな声がした。
「ん、ああ。わりい、あんまりにも
予想外なリアクションだったんでな。
それで? Cクラスってのは、どの程度なんだ?」
シレっと話を戻しやがったな。
「あ、はい。じゃあ、続けますね。
わたしたちの世界は、魔界も人間世界も共通して、
戦闘能力の高さを、EからSまでで指針を設けてるんです。
異世界の人間、まして魔力の存在が多くに知られていない世界で
ここまでの強さを持ってるのは、驚きなんです。
異常って言ってもいいかもです」
「なるほど。えーっと?
E D C B A S。中間ぐらいか」
「指折り数える必要あったか?」
クルミチャンの、ランキングの数カウント方法を見て、
目をぱちくりしてしまった。
「E始まりでC。ラノベ換算でSを規格外として、
Aまでの五段階にしたとしても、ド真ん中の中堅か。
強さ測定可能な、全生物の中で中堅クラス。
たしかに凄まじいかもしんないな」
「おそるべし、超人ピカリン」
うなるように言ったクルミチャン。「お前、なんでそんなすぐ変換できんだよ?」
「あんたたち、暇そうね。なんなら、ブレスの一発でも
そっちに誘導してあげましょうか?」
突然の照の発言に思わず、
「「けっこうです」」
と俺が言ったのと同時に、クルミチャンも言ったようだ。
「ドラゴンは起きないし、あんたたちは暇そうだし。
一人で構えてるあたしが、バカみたいじゃない」
「一騎打ちするって言ったのはお前だろ照」
「うん、まあ。そうなんだけどさ」
照までもが、暇そうな様子で答えた。
「グダグダですね」
苦笑いのだいまおうさまである。
「あ、そうだディバイナ」
グダグダな空気を変えようと、俺は話を振ってみた。
「はい、なんですか?」
「さっきのランクだと、お前は何ランクなんだ?」
「え? ああ、Sですよ。なんせわたし、大魔王ですから」
あっと思った時には遅かった。
えっへんと、自慢げに胸を張る掌大魔王。
「……え?」
「大魔王?」
クルミチャンと照が、きょとんとした間の抜けた声で言い、そして。
「いやいやねーわそれは!」
「そうよ、そんなちっちゃくてとぼけた大魔王なんて、いるわけ アハハハ!」
予想に反して、爆笑し始めた。
照は魔力の巨大差で、少しはシリアスな反応するかと思ったんだけど、
取り越し苦労だったみたいだ。
「むぅぅ……!」
が、ここで反応したのは大魔王当人。
そりゃ、大魔王って言う照合……で、いいのか?
それに並々ならぬ思い入れがあるこいつが、
大魔王であることを笑われれば、
腹を立てるのはしかたないだろうな。
「笑いましたね。わたしを。大魔王であるこのわたしを……!」
さっき放出しそこねた魔力なのか、
再び急激な勢いで、魔力を高め始めた。
その圧力は、やっぱりさっき放ちそこねたあれの領域だ。
「いいでしょう。そんなに、わたしが大魔王であることが
信じられないと言うなら。そのボスド・ラディオス。
一撃で
撃破してみせましょう」
「お、おいおいディバイナ。流石にそれは、ハードル上げすぎだろ」
「さきほどの、リンさんの攻撃。あの程度を考えれば、
六階でのディアボリック・エリミネーションを
一点に収束させれば、いけます」
『大魔王様、それは流石に』
「……な、なるほど。たしかに、あれほどの破壊力を一点に集中させれば、
本来の能力より、ダウングレードしてるらしいし
いけるかもしんない。すげー自信なのも頷ける……けど、なあ?」
クルミチャンを見て同意を求めるが、
「なんでこっち見るんだ?」
わかってくれなかった。
今度は、照を見て同意を求める。
すると、
「威力のほどは、わかんないけど。あれを生み出した
ダンジョン本人が止めるってことは、おそらく」
察してくれたようだ。
『ええ。お二人がお察しの通り、オーバーキルですわ。
それもかなり過剰な』
だんじょんさんからの、イエスが聞けたぜ。
「やっぱりか。って言うか、そっちの世界でも言うんだな、
オーバーキルって」
「むう。じゃあ、どの程度ならいいんですかゴーレママ?」
『そうですねぇ。あれの半分程度で、問題ないかと』
「そうですか、わかりました。六階の半分ですね」
「なんか、ファミレスの注文確認みたいだな」
クルミチャンが言った言葉に、「俺も思ったわそれ」と頷く。
「いきますよ。しっかりと見てるといいのです、わたしの。
大 破 壊
魔法を」
「お前。それ、別に珍しいもんじゃないって言ってなかったか?」
明らかに、大破壊部分を強調した言い方に、思わず突っ込みが漏れた。
「だっ、大破壊魔法だって?!」
オーバーなほどに驚くクルミチャンと、
「その魔法の呼び方は、大したものだけど。さて、威力はどうかしらね」
とシリアスな反応。
まさか、ここでシリアスが来るとは思わなかった。
「煉獄の主、怒れる焔の帝」
それよりも気になるのは、照のこの魔法慣れしすぎな反応だ。
魔力に慣れてることと、魔力の存在がこいつにとって
日常であることは、察することができる情報はある。
だからと言って、魔法に慣れてることとイコールには、俺の頭ではならない。
「お前。なんで、そんなに魔法に慣れてるんだ?
それも、大破壊魔法なんて物騒極まる規模の奴に」
「貴殿が左手、我が右手を取りうる物ならば」
魔力が。ディバイナが纏う魔力が、熱を持ち始めた。
「大破壊魔法って言う規模の奴は、お目にかかったことはないわ。
ただ、魔法魔力にはなれっこってだけよ。
魔力に慣れてれば魔法にも慣れてる、そういうものよ。
少なくとも、あたしの環境ではね」
「この、魔力が架空として認識されてる世界で……か?」
目を見開いての俺の問い返しに、
意味ありげに、口元をほころばせる照。
「ますます謎だな、ティル・ナ・ノーグ」
やっぱ。ディバイナといっしょに、行ってみるしかないぜ。
「共に炎渦を放ちて、災禍祓わん」
「なんか。とても、大魔王が打つ魔法の詠唱じゃないよな?」
「だな。主人公って言うか、少なくとも味方っぽい」
クルミチャンの感想に、俺も同意した。
照は、どういうわけだかクスクスと笑っている。
「大魔王って言うより、勇者な呪文じゃない、今の」
ってことだった。だよなぁ、と俺は頷く。
クルミチャンも、同じ気持ちだったらしく、
だよなぁの声が二つあった。
そうして俺達は、掌サイズの大魔王、ディバイナ・パンドラートと
その相手の様子を、見守る体勢になった。




