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第十三話。合流、そして轟く竜。 パート1。

「流石にちょっと疲れたわね」

「お前……バトル漫画の主人公かよ? まさに無双じゃねえか」

 俺、胡桃栖博士くるすひろしひかりリンの二人、ダンジョン初見組は、

 六階をたった今攻略したところだ。

 

 

 いったいなにに俺が呆然としてるかって言うと。

 このフロアはなんと、モンスターがウジャウジャいる

 モンスターの巣とでも言うような、地獄フロアだったのだ。

 

 だが。だが、だ。

 

 今、俺達はピンピンしている。

 それどころか、照の奴が若干疲れを見せただけで、

 俺にはなんの被害もない。

 

 これまでも無双風景を眺めてはいたものの、

 それはあくまで散発的に、数匹のグループを瞬殺してただけだった。

 しかしこの六階は、今さっきも言ったとおりの、

 右も左も、敵 敵 敵、だったのだ。

 

 なにより信じがたいのは、こいつはこのダンジョンの入り口こと、

 あの掘っ立て小屋に入ったと同時に装備される、

 ファンタジック防具への換装を、自ら拒絶していると言うところ。

 

 つまり。

 この無双は、一歳の補助なしにやらかしているのである。

 

 あの装備換装を、どうやって拒絶したのかわからない。

 それができたことが、既に俺の理解を超えてるってのに、更にこの無双。

 いくらこのダンジョンがエンジョイ仕様で、

 そこまで身の危険はないらしいって言っても、

 この身体能力は、異常と言うべき物だ。

 

 さっき照の奴は、ティル・ナ・ノーグのおさ関係者に常人はいないって言ってた。

 魔力って言う、ファンタジックエネルギーの存在を、

 あたりまえのように感じ取ってるところからしても、

 その言葉の信憑性はとんでもない。

 

 そうなると。俺の友人、仁武和也じんむかずやも、魔力を理解してる上に

 謎の掌サイズ少女を連れていると言う、否日常の姿になっている。

 極め付けが、今いるこの場所。

 

 ダンジョンだけでも首をひねるのに、

 それがなんと、ゴーレムの体内だと言うことらしい。

 しかもこのゴーレムが、また親しみやすい性格の女声なのである。

 まさに意味不明のバーゲンセールって奴だ。俺が照の奴ときっちり交流を持ったのも、和也があの掌少女と出会ったのも、どっちも同じ七夕だった。

 

 ーーいったい、七月七日になにがあったんだ、この世界に。

 こんな疑問を持つのも、いたしかたなしだろう。

 

 

「疲れてるようなら、フルコンプボーナスもらっときなさい。

あんた凡人なんだし」

「ぼんやりつったってるだけで、疲れてたまるか。

お前、流石に馬鹿にしすぎだぞ。

そこまで運動不足じゃねえぞ、俺は」

 

 不満を声に乗せて答えると、

「ちょっと、なに本気にしてんのよ? 冗談よ冗談」

 照の奴は、そうケタケタ笑いやがったのだ。

 

「ったく、真顔で冗談言うんじゃねえよ。判別できねえだろ」

 床を蹴り付けるようにして、いらだちを吐き出しながら歩く。

「そんな怒んないでって、これから気を付けるわよ」

「そんなこと微塵も考えてねえ声で、なに言ってんですかね?」

 右に来た、赤毛長髪の少女を一睨み。

 

 するとあろうことかこいつは、ウフフと楽しそうに微笑しやがったのだ。

「このオリハルコンメンタルが」

 やれやれ。ちょいとつっついてやろうと思ってんのに、効きゃしねえ。

「そこまで強くないわよ、あたしの精神」

 

「ずぶといのは、たしかだろ?」

「自覚、あると思う?」

「考えて見ればねえよな。ずぶとい自覚って、普通」

 溜息が混じったのは、しょうがないんだ。

 

 たしかに、わたしずぶといですから、なんて言う奴は

 見たことないもんな。

「けどさ。皮肉が効かねえのって、

充分メンタル強いと思うんだけどなぁ」

 

「オリハルコンほどには、強くないってだけよ。言ったでしょ、

『そこまでは』強くないって」

「分かりにくいんだよ」

 また、疲労の息交じりに、言葉を吐く俺。

 

 

「やっぱり、フルコンプボーナスもらっときなさいって」

「体の疲れじゃねえよ」

 まったく。誰のせいだと思ってやがるんだ、こいつは。

「で。そういうお前は、ボーナスいらないのか?

疲れてるんだろ?」

 

「この程度、問題ないわよ。ちょっと疲れただけだからね」

「言葉通りってか、やれやれ。超人さまの体力は、底なしっすか?」

 っとまあ。こんな雑談をしながら、俺達は最終フロア一歩手前

 地下七階へ向かうべく、階段を下りて行くのだった。

 

 

***

 

 

「ちくしょ、野郎。なにするんでも余波が来るせいで、近付けねえ」

 最下層地下八階。

 

 ダンジョンボス、漆黒の魔竜ボスド・ラディオスの攻撃を

 なんとかやり過ごしている俺、仁武和也と 俺の前に陣取って

 まるでバリアシステムの如く、よけ切れなかった攻撃を

 防御魔法で無効化する掌サイズの大魔王、

 ディバイナ・パンドラートだ。

 

 

 このボス。

 大元は、ディバイナが大魔王としての箔を付けるために、

 戦力を備える際、遭遇したと言う。

 魔界の一部地域にしか、存在しない種類の竜らしい。

 

 それも、どうやらその危険度 攻撃力は、大魔王お墨付きみたいだ。

 

 

「はぁ……はぁ……」

「おい、大丈夫かよ大魔王さま?」

 初めてだ、こいつが息を揚げてるの。

 つっても、出会ってまだ二日目だけど。

 

「だ……大丈夫、です。気にしないでください」

「むちゃ言うな。そんなゼェハァしてたら、気になるだろが。

大魔王、MP切れか?」

「え、えむぴーってなんですか?」

 

「魔力の総量のことだ。その息の上がり方、

かなりヤバイだろ?」

 

「まだまだ、大丈夫ですよ。ただ、本来のサイズなら、

この程度物の数じゃないんですけど、

流石に十分の一ぐらいになってると、

障壁に来る衝撃が痛いですね」

 苦笑したような声で答えたディバイナ。

 

 物の数ではない、とは流石の自信だ。

 

 

「すげーな。自分の大きさを、正確に把握してんのか」

 自分の戦闘能力への自信もすごいけど、

 今言ったように、自分がどれだけ縮小されてるのかを、

 把握してることもすごい。

 

 で、そうなるとこいつ。本来は、だいたい150cmぐらいになるのか。

 それでも、俺からすればやっぱりちっこいな。

 ーーって。俺はなに、リアルサイズのディバイナとか想像してんだ?

 

「なんとなくですけどね」

 また苦笑い声。こいつ、ゼェハァしてたと思ったら、

 もう息が整ってやがる。

「そうなんだな。ところで、削りダメージもらってるんだろ?

大丈夫なのか?」

 

「心配性なんですね、だんなさま」

 「うれし」、そうひそやかに呟いたその声に、

 不覚にも息の吸い方を間違えて、変な呼吸になっちまった。

 あぶねえあぶねえ、むせるところだったぜ。

 

「言ったじゃないですか、大丈夫ですよ」

 普段通りにそう言うディバイナ。

 くそ、コロコロと調子を変えやがって、こいつはもう……!

「それに。守り切るって、言ったじゃ ぐぅっ!」

 

「っ! おい!」

 これまでは、動きの余波の風圧とか衝撃波だった。

 しかし、今のは翼で叩くような一撃で、今うめいたのはそのせいだ。

 

 障壁に押さえつけられるような感じで、空中にとどまったディバイナ。

 その状態はまるで、壁に叩き付けられたようで。

 

「あ、ぐ。い……いきが……」

 苦しそうに、なんとかそう吐き出した声を聞いた瞬間、

「んのっ!」

 思わず俺は、地面を蹴って飛んでいた。

 

「だんなさまっ!」

 必死な声が下からする。どうやら、呼吸を取り戻せたらしいな。

 それはほっとした。

 

 けど、わりいなディバイナ。

 空中を自由に動けない俺には、どうすることもできないっ!

 

 ーーなに? ドラゴンが、こっち向いた?

 

「間に合わないっ!」

 そんな必死な声を聞き取ったすぐ後。

 

 ドラゴンの口が、一瞬だけ紅に光ったような気がした。

「がはっ!」

 その紅を認識した直後。

 俺は胸、心臓部分をピンポイントに殴られたような衝撃を感じた。

 その衝撃を感じるのと同時に、後ろに吹き飛ばされていた。

 

「ぐぅっ!」

 全身に、背中から衝撃が広がった。

 受け身なんて取る余裕はなかった。

 なにが起きたのかわからなかったんだからな。

 

「くそ、なんだってんだ、このダメージ。鎧越しだぞ。

それでもじんわりいてえって、どんなバカげた威力だ、今のは」

 拳で地面を支えて、その力を使って起き上がりながら

 俺はぼやいた。

 

「ボスド・ラディオス。空中からは仕掛けませんでしたが、こんなすぐに対空攻撃に移るんですか。

なんて判断力。流石、と言うところですね」

 そう言ったのに続けて、

「ゴーレママは、ボスド・ラディオスの思考能力をいったいどこで知ったんでしょうか」

 と、不思議そうに呟いた。

 

「にしても。今の鋭い一撃。いったいなんだったんだ?」

「っ! 大丈夫ですかっ!」

 激突しそうな勢いで、掌ちゃんが飛んできた。

 

「ああ。全身いてえけど、命に別状はなさそうだぜ」

 よかったぁ~! と、心底安心した声が返って来た。

 二度、エンジョイの領域なのかどうか聞いたことといい、この慌てっぷりといい。

 本物のボスド・ラディオスの危険度、よくよく理解してるらしい。

 

 流石に、一度手合わせしたことがあるっぽいだけあるな。

 もしかしてその時に、痛い目を見たのかもな。

 

 

「で、今の攻撃。いったい奴は、なにをしかけて来たんだ?」

「ブレスです。炎を圧縮して、攻撃範囲をめいっぱい絞った炎の息です」

「今のがブレス? なんだか、棒で突かれたみたいだったぞ」

「めいっぱい攻撃範囲を絞ってますから、

当たったところがそれぐらい狭かったんですね」

 

「なるほどな、器用なドラゴンだぜ」

「おそらく本来なら、その痛みは熱を伴っている物ですね。

その鎧とこのだんじょんのおかげで、だんなさまは動けるんです」

 

 こうして会話してる最中も、実は翼を振るうことによる風圧や

 足を踏み鳴らすことによる地面の揺れなんて言う、

 攻撃なのか体を慣らしてるだけなのか、わかりづらい余波が飛んで来ている。

 が、そこはディバイナの、俺を守り切るの宣言通り、

 防御魔法の力で事なきを得ている。

 

 

「なるほど。大魔王さまさまだな」

「当然のことです。それに、守り切るって言いましたからね」

 にこり。笑顔でそういうディバイナ。

 安心させようとしてるんだろうか?

 

 一回吹っ飛ばされた程度で泣くような、子供じゃねえってのに、こっちは。

 これでも高校生だぞ。

 

「さて」

 若干不服な俺ではありますが、それはそれとして。

 

「準備運動して、余裕しゃくしゃくの魔竜殿に」

 背伸びでもするように、翼をピンと伸ばしてる奴を睨み、

「一太刀浴びせてやりますか」

 ガシャリ。立ち上がって、剣に手をかける。

 

「うんっ、その息ですだんなさまっ、

一太刀と言わず何太刀でも浴びせちゃってくださいっ!」

「まったく。調子のいい奴だぜ」

 こいつのこういう、騒がしいのを見ると、

 自然と口元が緩んぢまうんだよな。

 

 

 

 癒し系大魔王か。とんだ大魔王もいたもんだぜ、まったくよ。

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