第十二話。超人娘と不動の寂しさ、そして最終フロア。 パート2。
「ていやっ!」
一方こちらは中ボスフロア。
ってことで俺、胡桃栖博士がいったんマイクをもらうぜ。
今のは、ピカリンこと照リンの気合の声だ。
「えげつねぇ。いくら相手はゴーレムったって、
正面から顔面はがすか? 普通」
そのまま喉を蹴りつけて、その反動で左腕 腹 右太腿と
軽快に踏み渡って、ピカリン……しまらねえからやめるか。
照リンは戻って来た。
長い紅の髪を振り回しながら、よくもまあこんな軽々動くなぁ。
邪魔じゃないんだろうか、腰まであんのに。
自然とまとまってるけど、動けば広がるし。
なんか……赤いカーテンしょってるみたいだったな、
暴れるピカリン……あ、言っちまったけどいいか。
ナレーションモードじゃねえし。
「だって、ゴーレムを手っ取り早く倒すには、
顔のお札をはがすのがいちばんじゃない」
そうだったのか。俺は和也ほど、そっちの知識に明るくねえから、
知らなかったわ。
「ったってお前……」
「ああ、後。囮 サンキューね、ヒロシ」
いい笑顔してんな。
俺が攻撃よけたら、
「受け止めなさいよ、飛び移りにくいでしょうが」
とか、
「よけるなって言ってんでしょうが、足場が不安定になるんだから」
とか。
凡人の俺相手に、ずいぶんと無茶振りばっか、要求しといてよ。
そりゃ俺も、
「無茶言うな、こちとら凡人だぞ」
とか、
「死ぬだろこのパンチ、どう考えても」
とか叫びで返すわ。
最終的に、やけくそと勢いで抜き放ってぶん回した剣が、
うまい具合に足首切り付けたおかげで、
動きが止まって今に至るけど。
「その呼び方やめろって言ってんだろが」
なんてやりあってる間に、俺達の前にいるデカブツが、
バラバラと音を立てて崩れ始めた。
「形を維持できなくなったゴーレムか。なんか、かわいそうね」
こいつにも知り合い……って言っていいのかわからんけど、
ゴーレムがいるから、きっとそいつを思い浮かべたんだろう。
照リンは、ちょっと寂しそうに目を伏せた。
『リン様、そのカード。いかがいたしますか?』
ゴーレムが崩れて、なくなって少し。
たぶん一秒ぐらいの余韻を持って、ダンジョンさんからの問い。
「いかがする、って。どういうこと?」
俺も言ってる意味がわからず、目をパチクリしてしまった。
『ゴーレミートの顔のカードは、セーブアイテムなんですの』
「セーブって、ゲームじゃねえんだから」
苦笑いして言う俺だが、
『いいえ、これはダンジョン体感型の遊びですわ』
と笑顔になってるような声で返された。
「あ、ああ。そういや、そんなこと言ってたような……」
天井を見上げてしまう俺である。
「それで? これを持ってると、どういう効果があるの?」
『はい。それを持っていますと、次の攻略の際に
ここまでを攻略し終えた物として、
この次のフロアからの再開になりますわ』
「って、ことはつまり」
「仁武和也みたいに、ってことね」
『そういうことですわ』
「なるほど、便利なアイテムくれるじゃない」
と、言い終えたところで。
照リンは、俺にそのセーブアイテムを投げてよこした。
「っとぉなんとかキャッチィ。なんで俺に持たせる?」
「だって。アトラクションを途中からやるなんて、邪道だもの。
それに。この程度のアトラクション」
「何度だってやり直してやるわよ」って言いながら、大きくのびをした。
「つまり。アンタみたいな、ひ弱君が持ってれば、
ちょうどいいってこと」
「言ってくれるぜ。この超人が」
「ティル・ナ・ノーグ関係者に常人はいないわよ。
少なくとも、長の関係者にはね」
「おさって……普通、そこは社長とか園長とか、そう言うだろ」
「長でいいのよ、あそこは。さ、いきましょ」
言うなり照リンは、サクサクと歩き始める。
「ほんと、なんなんだよ。あの遊園地は」
それに続く俺。
「面白いところよ」
「気付かなければただの遊園地だけど」、と小さく続けた。
「神様いる時点で、ただの遊園地じゃねえのはわかったけど。
他になにがあるってんだよ」
「よくあれでと……長を、神様だって信じたわね、ヒロシ」
「雰囲気みたいな、なんて言うか。他とちょっと、違ったんだよな。
まとってる気配、みたいなのが」
「なるほど。凡人でも、神と人との違いって感じとれるのね」
「で、だ。感心してるように言うのはいいんだけどな」
「なによ、じとめでこっち見て?」
「お前、いい加減クルスって呼べやコラ?」
「いやよ、そんなかっこいいの。アンタに似合わないじゃない」
「言ったなこのぉ!」
『フフフフ。お二人、よく似ていらっしゃいますわね』
心底楽しそうなダンジョンさん。
人の顔があったら、さぞかし嬉しそうな微笑みだろう。
「似てる?」
「誰にだよ?」
『カズヤさまと大魔王様に、ですわ』
「マスターって、もしかして……あの掌娘?!」
初めてだ。こいつが、こんなでかいリアクションするの見たの。
『ええ。わたくしは、彼女によって召喚されたゴーレムですから』
「ずいぶんかわったゴーレムね」
苦笑いだ。俺も同じ表情で、だよなぁ、と続く。
『ええ。元の世界でも、よく言われてましたわ』
「のわりに嬉しそうね」
『ええ。この世界で。魔力魔法の存在が、知られていないこの世界でも。
わたくしを気味悪がらないんですもの』
「なるほど、そういうことな」
『あなた方が来るまでにも、何人かがわたくしを発見いたしましたが。
突然できた家と、そこに入ると姿があっと言う間にかわってしまうこと。
そして、わたくしの存在を、気味悪がる方ばかりでしたから』
「ま、むりもねえわな。
いきなりグラウンドに、妙な掘っ立て小屋ができてるわ、
調べてみようと中に入ったら、
いきなりファンタジックな装備になってるわ」
「おまけに、誰だかわかんない謎の声に話しかけられて、
ダンジョンで遊んでいきませんか。だもんねぇ」
地下五階に続く階段を下りながら、俺達は雑談している。
『子供たちも来たのですが、変身したー と喜んでいたかと思うと、
わたくしの声を聴いて逃げ出してしまいました。
遊んでくれると思ったのですけれど』
寂しそうな声で、そうダンジョンさんは言う。
「お前さん。ずーっとここにいるんだよな。
それで、やっと誰かが来たと思っても、怖がられるだけ」
「大変ね、それ……」
「どうしたよ、急にマジんなっちまって」
「ちょっと。掛け合ってみようかな、ってね。
もうすぐ、新しい展示スペースがオープンすることだし、
ついでになんとかできないか。って」
「お前。どんな立ち位置なんだよ、あの遊園地で」
案外すげー奴なのかも、こいつ。
『大魔王様は、素晴らしい方をだんなさまになさいました。
わたくしのような異形の物にも、
こうして、温かく接してくださる方を、お友達に持った方を。
わたくし、幸せ者ですわね』
「だんなさま?」
「マジなわけじゃねえだろ。どう考えても、和也は了解してねえし」
「そうよね。びっくりしたわ」
「とっても、そうは見えねえけどな。って、なんか……
ちょっと暑くなってないか?」
『ああ、すみません。感動してしまって、つい』
「あ? どういうこったそりゃ?」
口が悪くなってしまったぜ。
予想外すぎること言うのが悪い、うん 悪い。
『わたくし、感情が高ぶると音頭が上がってしまいますの。
びっくりさせてしまいましたわね』
恥ずかしそうだ。
「また音頭上がったわよ、ちょっとだけ」
『ぁぅ。ごめんなさい』
「やめてやれって。また恥ずかしさの上塗りで、更に音頭上がるぞ」
「あ、ああ、そうね。ごめんなさい」
苦笑いの俺と照リンである。
『こちらこそ、すみません。元の世界でも、
感情豊かすぎだろこのゴーレム、って呆れられたことがございますの』
ダンジョンさんまで苦笑い。なんとも言えない空気である。
……気まずいわー。
『お二人とも、五階でございます』
「おっと、ついてたか」
お仕事に戻ったらしいな。
よかったぁ、空気かわってくれたー。
「よし。じゃ、後追い攻略といきますか」
「おう。任せたぜ、超人ピカリン」
「ご当地ヒーローみたいな名前で呼ぶんじゃないわよ!」
「ご」と同時の左の裏拳で、俺は。
「ぐはっ!」
派手に吹っ飛ばされてしまった。
「あ、ごめん。ただ突っ込み入れただけのつもりだったんだけど……」
「裏拳で突っ込み入れる奴があるか、いてて……いててで済むとは」
「ファンタジック防具さまさまだぜ」と、むっくり起き上がりながら、
溜息交じりに安堵のひとこと。
『光栄ですわ』
嬉しそうなダンジョンさん。
「んじゃ、改めて。攻略、開始だ!」
口だけで微笑して気合のひとことだ。
ってところで。七階にお返ししまーっす。




