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第十二話。超人娘と不動の寂しさ、そして最終フロア。 パート1。

「くそ、あの黒いゴーレム。上のキラバンゴーレムより

マジモンじゃねーかよ!」

 ズシン ズシンと、後ろから迫って来る、

 サイズは劣るが攻撃性は勝る、黒いゴーレム。

 

 アイアノ・ゴーレムとか言うらしいんだけど、

 それから逃げつつ言っている。

 

 比較対象は、上のフロアにいた中ボス、

 カースド・ゴーレミートである。

 あっちが3m超だとしたら、こっちは2mぐらいだろうか。

 

 キラバンって言うのは、カースド・ゴーレミートの元になった、

 カード付きチョコウェハース、綺羅綺羅万象きらきらばんしょうチョコの通称。

 そういや、なんか十周年記念でリバイバル……じゃなくって、

 転生発売してるって、前に弟分のはやてが言ってたっけか。

 

 

 やっぱ、素材の違いか?

 アイアノ・ゴーレム、名前は鉄っぽい感じだからな。

 いくらここが、ゴーレママのさじ加減一つで

 いかようにもできるって言っても、

 

 流石に、鉄がチョコウエハースより柔らかい、

 ってのは考えにくい。

 

 

「中間地点より、到達地点に近いからって、ゴーレママ。

この攻撃頻度の違いは、なんですか」

 少し前を飛行びながら、俺の顔の高さにいる、

 掌サイズの少女、いや自称大魔王、

 ディバイナ・パンドラートが、声を上げた。その声色は抗議の色。

 

 改めて言うけど。ゴーレママとは、俺達が今いるこのダンジョン、

 もとい、だんじょんのことである。

 

 ディバイナの声には、

『ゴールの手前のフロアまで、簡単に突破されてしまっては、

大魔王製ダンジョンとしての、面目が丸つぶれですもの。

妨害しなければ』

 と言う答え。

 

 中ボス戦突破時に、回復ゾーンが出ないとはいえ、

 基本的にフロア全周りと、フロアモンスター全滅で得られる

 完全回復ゾーンの、フルコンプリートボーナスがある以上、

 

 撃破不可モンスターの一匹もいないんじゃ、

 たしかに大魔王のダンジョン、

 イメージとしてのラストダンジョンの、

 再現アトラクションとしては、たしかにぬるすぎるかもしれない。

 

 

「むぅ、それじゃあしかたありませんか」

 ディバイナ、ゴーレママの言い分を、多少不満がりながらも納得したようだ。

 

 この二人は、大魔王である 大魔王製であると言う一点には

 プライドを持ってるらしく、大魔王と言う言葉の重みとやらを、

 大事にしてるらしい。

 

「わたしの魔弾を弾いたのは、誤算でしたよ」

 困ったように、息を交えて付け足すディバイナに、

 たしかにな、と俺が相槌。

 

 さて現状。なにゆえ彼女が、俺よりも前を行ってるのかだけど。

 それは、トラップを俺が踏む前に、起動させようって言う作戦だからだ。

 

「今のところ、トラップはないですね」

 と言いながらディバイナは、一定のリズムで、

 15cm程度の、彼女の体からすれば大き目の魔力弾を、

 床に発車している。

 

 フルコンプリートボーナスを、一つ上の階でもらってるおかげで、

 ついさっき大技ぶちかましたのに、元気いっぱいである。

「余裕だな、だいまおうさま。こっちはけっこう、きついんだぞ」

 軽く息を弾ませながら、お気楽に空中浮遊で移動するディバイナに、悪態をつく。

 

「フルコンプリートボーナスもらってるのに、ですか?」

 いやみじゃなく、心底不思議そうな声色と声で、

 こっち向きながら聞いてきた。

 

「肉体的な理由じゃねえ、精神的な理由だっ」

 後ろからズシンズシンと、時々うめき声と同時に、

 ビュオっと風切り音、そして風切り音の直後に

 床が砕ける破砕音。

 これが、付かず離れずの距離を保ちながら追っかけて来るんだぞ。

 

 これが汗をかかずにいられるか!

 

 

「精神的な理由……」

 考えるように復唱。

「なぁんだ、そぉゆうことなら言ってくれればいいのにぃ」

「なんだ? その、語尾に『ン』がついてそうな、ご機嫌ボイスは?」

 

 

「『妻が夫の前を歩くんじゃない』、ですよねっ」

 「で」と同時に、輝くスマイルで、

 またこちらを向きなさる、だいまおうさまでありやがる。

 

「ちげぇよ! つうか、いつまで夫婦めおとネタ

引っ張り続けるつもりだお前は!」

「ネタもなにも、あなたとわたしは夫婦じゃないですか。

んもぅ、恥ずかしがっちゃってぇ」

 

「やかましいわ。って言うか、俺がお前が前を飛んでることに、

どうあったら不満持ってると思うんだよ、うおっと!」

 ちょっと風切り音が、近づいて来た気がしたから、慌てて右に小さく飛んだ。

 そしたら、俺がいた位置を黒い拳が通り抜けて、地面を砕いた。

 

「ふぅぅ、あっぶねぇぇ」

 っと一息吐いた俺の一方、変な理論でご機嫌だった大魔王様は、

 まったく背後に気を回してなかったようで、

「うわー?!」

 そんな声と共に、ヒューっと飛ばされた。

 

「流石の拳圧。エンジョイダンジョンっつっても、

今の喰らったらやっぱしヤバイな。

もしかして。俺の危機感知能力……成長したのか?」

 己の変化に不思議な気持ちを抱く。が、それはそれとして。

 今注目すべきは、そこじゃない。

 

 

「あの距離の間は、トラップがあるかは未知数か」

 ディバイナが吹っ飛んだ間の空間を見て、俺は軽く奥歯をかむ。

「……いくかっ」

 意を決して、俺は走った。ディバイナが飛ばされた方に向かって。

 

「な、なんかすんごい、床がガチャガチャ言ってるんですけど?!」

 とりあえず。下からなにかが出て来るとか、また落とし穴とか、

 そういう心配はなさそうだけど。床踏むたんびにガチャンガチャンと、

 

 明らかに、なにかしらの装置のスイッチ踏んでますよ、

 って言う音がするのは勘弁してくれ!

「ううん。なんか進んでる感じがしないな?」

「だ、だんなさまっ! 床が飛び出して進行をふさいでますっ!」

 

「なにっ? このガチャンガチャンは、床がせり出して来る音だったのかよ!

気付くか、そんな微妙にして効果的ないやがらせ!」

「っ! だんなさまよけてっ!」

 

「なっ!?」

 声に押されて、思わず垂直ジャンプ。顔を下に向けたら、俺のいた位置に、

 なんか……二次元的レーザービーム的な物が、通過して行ったのが見えた。

 

 ーーガチャン。

 

「……前に飛びゃよかった」

 着地したらまた、微妙な床せり出しトラップである。

「ゴーレママ!」

 突然ディバイナが大声出したんで、

 反射的にビクってなっちまった。

 

『なんですの大魔王様マスター?』

「『なんですの?』じゃありません! いくら最終階直前だからって、

簡易のディアボリック・エリミネーションで、魔砲を打つトラップ

なんてしかけちゃ、あぶないじゃないですか!」

 

「なんか……お母さんみたいな怒り方だな」

 ゴーレママのものまねがちょっと似てて、

 吹き出しながらリアクションしちまった。

『大丈夫ですわ。威力そのものは、鎧で防げる程度ですから』

 

「そうなのか? とてもそうは見えなかったけど」

『見た目は、光属性を混ぜましたから、派手に見えるはずですわね』

「なんだ、その無暗やたらなハイスペックは?」

 呆れる俺に、『「大魔王製ですから」』とディバイナまでもが自慢げだ。

 

「今さっきのお母さん怒りは、どこ行ったんだよディバイナさんよぉ?」

 じとっと言うと、「え、ああ。あはは……つい」と苦笑で、

 左手で頭をポリポリしている。

 

」やれやれ。ほんと、お前は見てて飽きないな」

 と苦笑のような微笑のような、

 自分でもよくわからない表情になってしまった。

 ので、誤魔化すついでに、「ふっ!」っと前方ジャンプ。地味ーなトラップ突破である。

 

「っと」

 ガシャっと着地。

「さて、黒ゴーレムは?」

 そう言いつつ振り返る。

 

「マジかよ?! 問答無用でついて来てる!

しかも、トラップが発動してねえ!」

『モンスター側には、発動しないようになっていますの』

 

「嬉しそうだな。ちくしょう敵補正かよ」

 敵補正、たしかにこれまでのフロアでもあった気はする。

 覚えてるのは、昨日のテストプレイ。

 

 床が勢いよく飛び出して来て、上空やら横やらに

 吹っ飛ばされるトラップ。あれを利用はしたけど、

 思い返すと踏んだのはたしかに俺だ。

 

 上からハリボテ柱がおっこって来るスイッチ、

 あれを踏んだのも、やっぱり俺だった。

 

 

「なるほど。たしかに、思い返してみればそうだったな。

じゃ、ディバイナ。先頼む」

 

「了解です、だんなさま!」

 再び、ディバイナのマッピングシュート(今命名)と

 アイアノ・ゴーレムに挟まれながら、

 俺はダンジョンを探索して行く。

 

「なんだか。あのゴーレムに、誘導されてるような気がする」

「そうですか?」

「なんとなく、だけど。そんな感じがするぜ」

 俺の思考の声に、ゴーレママはフフフと意味ありげに笑う。

 

「進んで見ろ、ってことか」

「ですね」

 相変わらず絶妙な間合いを保ったまま、アイアノ・ゴーレムはついて来る。

 時折振り下ろす拳も、これまた絶妙に当たらない距離感だ。

 

「やっぱ。誘導されてるな、こりゃ」

 少し進んで、俺はそう確信する。

 

「とはいえです。わたしの魔弾も、だんなさまの斬撃も

ぜんぜん通りませんから、倒して戻るって言うルートを使うのは

難しいですよね」

 考えながらのディバイナに、だなと頷く。

 

「素直に誘導されるか」

「それしか、ないですか」

 結論が出たところで、まあやることはかわんないんだけどな。

 

 

 と言うことで、アイアノ・ゴーレムに追い立てられる形で、

 俺達はこのフロアのどこかへと向かって、

 引き続き歩いて行くのだった。

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