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第十話。これのどこがエンジョイだ! パート1。

「ゴーレママ。だんなさまの援護、わたし してもいいかな?」

『勿論ですわ。もうテストではなく本番なのですから』

「ありがとう。よっし、だんなさまとの共同作業ですよっ!」

 

「参加交渉を終えたと思ったら、いきなりそれかよ。

って言うかなんだ、そのおもっきし腕まくりしそうな張り切りっぷりは?」

「なに言ってるんですかだんなさま。共同作業ですよ共同作業、

それも、初めての。気合を入れない女の子がどこにいるんですかっ」

 

「え、ああ。そうなの?」

 この痴れ者がふざけるんじゃない、

 と言いたげな力説っぷりに、俺はぼんやり言うしかない。

 ……昨日さくじつのボス戦は記憶から抜け落ちてらっしゃられるのでしょうかね?

 

 

「当 然 ですっ」

 めいっぱい広げた両腕を上下に振りながら力強く言って。

「初めての共同作業……ああ、なんて素敵な響き」

 そうかと思えば、ふわっと両手を胸の前で組んでうっとり。

 

「いきなり乙女全開でうっとりするんじゃねえよ。ついていけん」

 だいまおうさま相手には、頭を抱えることが多いぜ。

「って言うか、昨日のゴーレミート戦は共同作業じゃなかったのか?」

 スルーしたかったけど、つい聞いてしまった。

 

「はい。あれは予行演習ですから、ノーカンです。

今回が本番ですから、これが初めての共同作業です」

「キリッと言うのはけっこうだが。昨日も

初めての共同作業、っつって

ワーキャーしてなかったか?」

 

 

「よ……よこうえんしゅうですっ、

すべてにおいてよこうえんしゅうだったなのでするっ」

 空中で立ったまんま、ジタバタしながらディバイナ。

 器用な奴だな。

 

「なるほど」

『一度言ってしまって』

「引っ込みがつかなくなったんだな」『引っ込みがつかなくなったんですわね』

「にゃー! 二人でわきゃわきゃうるさいですーっ!」

 

「おわっ!」

 唐突に、魔弾を四方八方にばら撒き出したもんだから、

 俺は慌てて姿勢を低くした。デジャブかよって。

 

「テンションに任せて暴れ打ちすんなっ! 当たったらどうするっ!」

 なにやら遠くの方で、ガシャリやらパキャリやら、

 なんかが壊れたような音がしてるな。敵に当たったのか?

 

「ぜぇ……ぜぇ……」

「気は済んだか?」

 立ち上がって、やれやれと聞いてみる。

 

「……はい」

 ぷーっと頬を膨らませて言うディバイナに、思わず吹き出してしまい、

 「なんですか」っとじとめを喰らった。

「んな顔すっからだこのマスコットめ。動くぞ」

 

 歩き出す俺に、

「大魔王つかまえて、マスコットとはどういうことですか」

 となおもむくれて言う。

 大魔王って物にプライドもってるのはいいけど、

 自分の大きさと言動考えて物言えよな。

 

 

「なんか、上よか暗くないか?」

 歩いてみてわかった。中ボス部屋より上の回想よりも、

 暗いような感じがする。目が慣れてないだけか?

 

『そのとおりです。視覚的にも、深い階層に来てることを

分かり易くするために、階層を下りるごとに

少しずつ暗くしていますの』

「なるほど。そうなのか」

 そういや、ゴーレママって演出に拘る人なんだっけ。

 

 

「なんか、変な音がするな。妙に乾いたような?」

 カラカラって言う音で、骸骨兵的なのが動いた時、

 アニメなんかで、ちょうどこんな音するな。

 

「ソードス・ケルトン、骸骨の剣士ですね。

ほら、正面見てください。黄色い小さな光があるでしょう?」

 ディバイナに言われて、足元から正面に目線を向ける。

 先の床に、トラップがないのかを調べながら歩いてるから、足元を見てるんだ。

 

「たしかに。豆電球みたいなのが二つ並んであるな」

「あれ、彼等の目の光です。ちょっとずつおっきくなってますね。

こっちに来るみたいですよ」

 俺も歩いてるから、お互いに間合いを詰めてるかっこうだ。

 

「なんかさ。カシャリ カシャリって、

目の高さで鳴ってるんだけど……」

「そうですね。どうやら、構えながら動いてるみたいです。

……なんででしょうか?」

 首をかしげてるような声のディバイナだが。

 

「お前のせいだろうがこのおとぼけ大魔王っ!」

「えっ? わたしのせいなんですか? なんで?」

「解説してほしいのか?」

 じわっとトーンを落として睨み聞く。

 そしたら「はい」と、当然じゃないですか みたいな声で頷いた。

 

「今さっき、お前が魔弾ばら撒いたろ。

その流れ弾が、あれにも当たったんだよ」

 まだ形がはっきりとは見えない、ソードスケルトン……ディバイナ的には、

 ソードス・ケルトンだっけ? を指さして、

 トーンを変えないままで教えてさしあげる。

 

「うぇーっ? そうなんですかっ?!」

 むちゃくちゃびっくりしてるぞ、こいつ。

 本気でわかんなかったらしい。

 

「気付けよお前は……。音がいろんなとこで鳴ってるだろ、

これたぶん 全部お前の流れ弾でスイッチ入ったぞ」

 そうなのだ。正面のみならず、左右の遠い位置でも、

 なにかが動いているような音がしているのである。それも複数。

 

「あ、あわわわ。しまったですよだんなさまっ!」

「今更バタバタすんな。フルコンプ狙いなんだから、

むしろ敵が集まってくれるのは体力的にお得だ、

ぐらいの落ち着きがほしいところだぞ大魔王」

 引き続き、やれやれ状態で突っ込んだテンションのままである。

 

「そうですね。

フルコンプ狙いなんだから、むしろ

敵が集まってくれるのは体力的にお得ですよ、だんなさま」

「ドヤ顔でコピペかよ、盗人猛々しいなおい」

 

「とりあえず、まずは正面からいきましょうよ。

もう見えてることですし」

 こいつ、スルースキルを身につけ始めてんな。

「そうだな」

 返事と同時に、俺は左腰の鞘 その鯉口に指をかける。

 

 いつでも引き抜けるように。

 

 

「先手必勝っ!」

 駆け込み三歩。俺は勢いよく剣を抜き放ちざま

 昨日の、なんちゃって居合のように、

 左下からの逆袈裟斬りをしかけた。

 

 ギャリリリ!

 

 なにかを削り取ったような感覚と音、

 そして手から重みが抜けた感覚。……ん?

「え、あれ。剣がない?」

 

「はぁあーっ!」

 後ろからディバイナの気合の声。

 直後、俺のすぐ右を通り過ぎ、そして目の前で弾ける光。

 グラリと揺らいだソードスケルトン。

 

「チャンス! スケルトゥーン!」

 勢いで発した声に任せて、俺は目の前の敵の

 その腹の辺りに右足で蹴り込んだ。

 パギャリって言う、スカスカなようで硬い感じの音を立てて、

 目の前から黄色い二つの光は消えた。

 

 一秒ぐらいしてから、ドンガラガッシャーンっと

 派手な音で倒れたようだ。

「飛んだなぁー」

 予想外の吹っ飛びっぷりに、呆然と声を出す。

「だんなさま、剣 回収してください」

 

「え、ああ。そうだな。って、どこにあるんだ?」

「右の方に落ちてます」

「わかった」

 すり足の早足で右の方へ向かう。

 足元からなにが出て来るかわかんないからな。

 

 

「ところで、なんで俺の手から剣がすっぽ抜けたんだ?」

 銀色を発見、回収して鞘におさめる。

 カシンって音が、やっぱり気持ちいいし、

 自分が今剣士だって確認できるのもいい。

 嗚呼、素晴らしきかな納剣。

 

「たぶん、握りが甘かったんですよ」

 こっちに来ながら教えてくれるディバイナに、なるほどなと頷く。

「たしかに、勢い任せに抜剣したからな。

あんましっかり握ってなかったかもしんない」

 探索再開。

 

 敵さんたちの音は、徐々にこっちに向かって来てるらしい。

 ドンガラガッシャーンが呼び水になったか。

 

 とはいえ、フルコンプリートはフロア全域に

 足を踏み入れる必要があるから、五階を回りつつ

 戦いやすい地点も確保、これを目指して歩き回ってるってわけだ。

 

 

「な……なあ、ディバイナ」

「はにゃい?」

「なんだよその返事……びっくりしてるし。

なんかさ、敵さんの足音」

「はい、どうかしました?」

 

「反響のせいなのか、それとも気のせいなのか、わかんないけどさ」

「なんでしょうか?」

 

 

「……俺には、前後左右、四方向から聞こえて来るんだけど……」

 思わず足を止めてしまった。

 ……うん。間違いなく、四方向から聞こえてる。

「言われてみれば、そうですね」

「サラッと流せることかよっ!」

 

「だって、『フルコンプ狙いなんだから、

むしろ敵が集まってくれるのは体力的にお得』、

なんですよね?」

 

「こ、この……」

 たまにいやみを混ぜて来る、

 こいつのトークスキルなんなんだよコノヤロウ!

「だからって、いっきに詰めて来るこたねえだろ!」

 

「大丈夫ですよ。なんせ、大魔王たるわたしがいるんですからっ」

 勝ち誇った顔で、右拳で胸を叩くディバイナ。

 その拳の位置が紅眼レッド・ガンの辺りで、

 魔弾が暴発しないか軽く肝が冷えた。

「……信じるぞ」

 

「そんな不安そうな顔で言われましても……」

 微妙な空気の中、俺達はフロアを探索する。

 

 

「一方向ずつ叩いた方がいいんじゃないか?

今ならまだ合流する前に、後ろの方には到達するはずだし」

 が。駄目です、と言うにべもないひとことが返って来た。

 

「どうしてだよ?」

 真剣なその顔に問いを投げると。

「後ろの一団を倒してる間に、

今の進行方向の一団から打たれます。ですから」

「挟撃確定コースって言いたいのか。でも、いずれにしても挟撃はさけらんないだろ。代案はあるのか?」

 

「今それを言おうとしてたんですよぅ」

 困ったように眉毛をハの字にして、

 それでも主張したいのか、手でメガホン作って言ってやがる。

「で? その代案は?」

 

「はぃ。わたしがこのまま、進行方向の一団を叩きますから、

だんなさまは後ろの方を。これならいっぺんに

二つの敵団を蹴散らせます」

「不満そうな言い方がひっかかるけど、たしかにか。

よし、採用 行ってこい!」

 

「はいよー!」

 言って前方へと飛んでいくディバイナに、俺は小さく突っ込んだ。

「お前は馬にでも乗ってんのか。

さて、と。逆戻りだな」

 クルッと体の向きを反転。

 

 ディバイナと背中合わせの状態になって、

 俺は元来た道を走る。

 

 

 カチッ

 

 

「え? 今、なんか……踏んだ?」

 認識した直後。

 

「え、こ。これは……?」

 浮遊感が。

「まさか?」

 足場が……消えてる?

「落とし穴かよーっ!!」

 俺の情けない絶叫が五階に響き、そして

 六階へと落ちながら流れて行った。

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