第九話。いざ! 放課後だんじょん! パート2。
「だんなさま」
武器庫扉を閉めたところで、ディバイナが話しかけて来たので、
どした? と軽い返事をする。
「リンさん、ただものじゃありませんよ」
「そうなのか?」
「はい。魔壁鎧装は、肉体強化と防護壁の複合魔法で、
高度な部類に入る物なんです。ああもあっさりそれに抵抗できるのは、
相当の実力者なんですよ」
「そうなのか。
複合魔法の、それもメリットしかない物を拒否するって、
たしかに言葉の響きだけでもかなり大変そうだな」
と言ったところで、例のエレベータに到着。
昨日の要領で、持って来ていたあの石板カードを、ガチャリと差し込んだ。
部屋全体が低い音を立て始め、そしてエレベータ特有の
若干の浮遊感。
「よし。後半戦からのスタートか。気を引き締めないとな」
「はい」
緊張が高まって来る。
この、体中を締め付けるような緊張感をなんとかしようと、
一度深呼吸を終えたところで、ガコーンと言う音。
『五階でございます』
ゴーレママの機械的なアナウンス。
「ついたか」
「付きましたね」
「って、五階? 昨日と数が合わなくないか?」
昨日は三階に中ボスである、カースド・ゴーレミートがいた。
だから、続きからなら四階に止まるはずである。
『現在のダンジョンレベルは、体格 やる気共に2ですわ。
なので、今わたくしの合計階層数は8です』
「そっか。ダンジョンレベルで、
階層数とモンスターの強さが変わるんだっけな」
理解、納得して頷く。
しかし……わたくしの階層数って、すごい響きだな。
『はい。中ボスフロアの前に一階層追加されておりますの』
「それで、後半戦にもボスフロア前に一つ
階層が増えてるんですよ」
続けて、だんじょんの概要だけは把握してる、
ますたーさまからの補足だ。
「そういうことか、了解。把握したぜ」
「ゴーレママ、リンさんたちの様子は?」
俺の答えに頷いてから、そう状況を確認しているますたーさま。
『リン様が、凄まじい勢いでモンスターを撃破していますわ。
ヒロシ様は、戸惑っているようですわね』
「そうですか、ありがとう」
『当然のことをお伝えしただけですわ大魔王様』
ほんのりだんじょんの温度が上がった。お礼言われて照れたらしい。
けっこう照れ屋だよな、ゴーレママって。
「あのさゴーレママ」
『なんですか?』
「できれば、クルミチャン君のことは、
苗字とか胡桃で呼んでやってくんないか?
あいつヒロシって呼ばれるの嫌いだからさ」
『わかりましたわ。では、ミョウジと言うのを教えていただけますか?』
「わかった。苗字は、ディバイナで言うところの、
パンドラートの部分のことだ」
「いえ、あの だんなさま? ゴーレママが言いたかったのは、
クルミチャンさんはなんと言う苗字なのか、じゃないでしょうか?」
「え? あ、ああ。そういうこと?」
『ええ、大魔王様の言う通りですわ』
は……はずかしい。恥ずかしくて顔あちぃっ!
恥ずかしさをどうにか咳払いでおいやって、どうにか気を取り直した。
「え、えーっと。あいつの苗字は胡桃栖だ」
「え? クルミチャンさん。そんな、クルスなんて
名前みたいな苗字だったんですかっ?」
目を見開いて驚いている掌娘。
……そこまで驚くことでもないだろ?
たしかに、俺も最初聞いた時は、かっこいいなぁと思ったけど。
『わかりました、クルス様ですわね』
「ああ、これからそう呼んでやってくれ」
了解いたしました、との返事に一つ頷く。
「さて」
パシンっと、両手を打ち合わせて気合を入れ、
正面にあるドアに近付く。
ゆっくりと開いて行くドアが、否応なく緊張と高揚を
俺に齎すっ。
ーー一足お先に新天地に突入だぜ!




