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第九話。いざ! 放課後だんじょん! パート1。

「これが……ダンジョンなのか? 掘っ立て小屋にしか見えないんだけど」

 放課後になって速攻、俺 クルミチャン君 そして

 今朝知り合ったばっかりのひかりリンの三人は、

 ディバイナといっしょに今。公園の元野球グラウンド、

 あの掘っ立て小屋の前にいる。

 

 

「この公園、魔力が充満してるのよね。しかもここは、

その中でも一番濃い気配だったのよ、前からね」

「そうなのか?」

 照はこの口ぶりからして、この周辺に長いこと

 住んでるみたいだな。

 

 俺は四月からだけど。つっても、ティル・ナ・ノーグって

 遊園地挟んだ、すぐ隣りの町から引っ越してきただけだけどな。

「ぜんぜんわかんねえぞ?」

 クルミチャン君は不思議そうな顔で、ぐるっと周りを見回している。

 

「なるほど。最初ディバイナと来た時に感じた

張りつめたような感覚、魔力だったのか」

 納得したら、

「あれ? だんなさま、わかっててここに連れて来たんじゃなかったんですか?」

 耳のすぐ右から不思議そうな声がした。

 

「魔力の存在を疑問視してた奴が、

どうしたら魔力スポットなんてわかるんだよ?」

 当然の答えを返す。そしたら、それもそうですね、

 って苦笑いだ。

 

 

「で、この掘っ立て小屋。どこがダンジョンなの?」

「それは、入ればわかりますよ」

 緊張した調子で、照に答えたディバイナ。

 

 照はディバイナを認識してからと言うもの、ことあるごとに

 チラッチラチラッチラこっちを ディバイナを見て来てた。

 だからすっかりディバイナが緊張しちまってるんだ。

 

 

 って言うかだな。

 ディバイナをチラチラ見てるせいで、クラスから

 照が俺に気があるんじゃないかとか言う、

 根も葉もないうわさが、いきなりおっ立っちまったんだよな。

 

 俺も照も迷惑千万である。

 どうしたらそう思えるんだよ、今朝のあのやりとりから。

 

 

「おい? 和也? お前どうしたその黒い鎧っ?」

 ガチャっとドアオープン。

 掘っ立て小屋に入っての、クルミチャン君の第一声。

 ま、当然のリアクションだよな。

 

「そういうお前だって、白い鎧姿なんだぞ」

 横目で左を確認して、俺はスルっと言ってやった。

「え?」

 

 俺に指摘を受けて、自分の姿を確認したらしいクルミチャン君は、

「うおあっ?! マジだこれ!? どうなってんだよっ!?

つかこの鎧かっけーな俺もお前も!」

 と大はしゃぎだ。

 

 若干日本語がおかしいところまで、

 いきなりテンションが急上昇した。すごい波だな。

 

 正面に姿見があるのに、俺に言われるまで気にならなかったのは、

 姿見左横の壁に張っ付いてる、例の魅了チャーム付与された

 ルール張り紙のせいだろうな。

 

 ルールがわかってる人間には魅了チャームが無効にでもなってるのか、

 俺はそっちに注目させられてない。

 

 

「たしかに。言われてみれば、なんの装飾もないのが、

逆に渋いなこれ」

 感慨深い。

「白と黒の鎧……」

「なんだよディバイナ、やけに神妙な声出して?」

 

「いえ。昔、親友……だったが、

クルミチャンさんが着てるような、

白い鎧を手にすることを目指してたな、って。

懐かしくなっちゃっただけです」

 表情は寂しそうにかわって。しかも「だった」を言うまでに、

 

 決意したような間があった。

 

 

「やっぱりなんか……あったんだな」

 昨日もだんじょん解説の時に、どこか遠くを見てたディバイナ。

 十中八九、この親友だった子と、なんかしらのトラブルがあったんだろうな。

 

「はい、いろいろと。乙女には、秘密があるものですよ」

 おどけて見せてるけど、表情は寂しさが取れ切って無くて。

 気の利いたリアクションが出てこない俺は、

 そんな掌大魔王をみつめることしかできない。

 

 二日続けて過去を、それも気になる形でちらつかされると、

 気になっちまうのが人情だろう。けど、こう誤魔化してるってことは、

 語れるほど整理できてないんだろうな。

 

 って。そもそも会ってたった二日の、それも

 異世界人の俺に話すわきゃねえか。

 だんなさま呼びしてるから、なんか

 全部知られてもかまわないような、隙だらけマインドなんじゃないか

 って思っちまった。

 

 ディバイナが、話して大丈夫になるまで、

 過去については、詮索しないように気を付けよう。

 あったばっかで、プライベートにドカドカ押し入られるなんて、

 俺だったらいやだしな。

 

 

「あれ? リンさん。どうしてあなたは服装が変化しないんですか?」

 驚きの疑問声を上げたディバイナ。

 調子は取り戻せたみたいで、一先ず安堵。

 とはいえディバイナの言葉が気になって、

 姿見でしっかりと照のかっこうを見た。

 

 

「どういうことだよ?」

 声を思わず上げていた。

「なんでお前はそのまんまなんだ?」

 

「え? あっほんとだ。ピカリンコスチェンしてねぇぞっ?

どういうことだ?」

 俺達の声でだろう、照を見たらしいクルミチャン君も

 まるっきり同じことを言い放った。

 

 

「あぁもぉ! 三人で同じこと立て続けに訊くんじゃないわよっ!」

 床に足をドンっ! 思わずビクつく俺。

「ご……ごめんなさい「わ……わるい「す……すまん」」」

 どうやら空中のディバイナに、クルミチャン君も、ビクっとなったらしい。

 

 照は、はぁと呆れた一息である。ちなみに、真ん中が俺な。

 

「で……なんで照は制服のまんまなんだ?」

 改めて聞く。

「人の領域に入り込もうとする魔力を、抑えてるからよ」

「その顔。不機嫌なんじゃなくて抵抗してたからだったのか」

 理解した俺の言葉に、そういうことよとサラリ答えて。

 

「掌お嬢さん。この魔力、止められないかしら?」

 ディバイナに問いかけている。声にちょっと力が入ってるから、なんつうか

 腹立ちまぎれに言ってるみてえだな。

 

「あ、はい。わかりました。ゴーレママ、リンさんへの

魔壁鎧装マイルクイプの解除おねがいします」

 

 ディバイナの言葉を受けたゴーレママが、

 『わかりましたわ大魔王様マスター』と

 だんじょん内から、声を響かせた。

 文字通り温泉で喋ってるようなエコー付きだ。

 

 

「なっ? なんだ今の声?」

「ふぅ。やっと圧迫が消えたわ」

 額と前髪の間に左腕を差し入れて、額をぬぐった照。

 体力をけっこう使ったらしいな。

 

「今のはこれから入るだんじょん。ゴーレママだぜ」

「え? ダンジョン?」

「ダンジョンの管理者とかじゃなくてか?」

 

「そう。このだんじょんは、ゴーレママだからな」

 不可解そうな二人に、深く頷いて説明した俺。

 無意識的に口角を上げていた。

 どうも……ドヤ顔って奴になっちまってたようだ。

 

 

「ってことは。今の声は、ダンジョンそのものって、ことよね?」

 確認して来た照に、そうだぜと頷く。

 そっか、と感心したように呟いている。

 

「おいおい喋るダンジョンかよ?」

 呟くような小声で、目を丸くしてるクルミチャン君。

「名前からすると、ゴーレムっぽいけど?」

 一方大して驚いてないのか、照が少しだけ首を左に傾けながら尋ねて来た。

 これには、ディバイナがそうですと答えた。

 

 なるほどねぇ、と噛みしめるように一つゆっくり頷いた照は、

「土野さんと違って、感情豊かそうなゴーレムだなぁ」

 そう妙なことをぼんやりと言った。

 

「「土野さん?」」

 俺とディバイナの疑問声。

「え。あっ、なんでもない。こっちの話」

 慌てて誤魔化したな。今のは、思わず出たひとことってことか。

 

「そういや、土野さん。ゴーレムだったな」

「ヒロシ」

 じめっとした照の声。この理由は俺にでもわかる。

あたしのリアクション見てなかったのかアンタは!【

 追及をさけた話題を蒸し返すな、と言うわけである。

 

「いっっってええええ!!」

「な……なんて素早い拳」

「え? 今なんかしたのか?」

 驚くディバイナのリアクションで、初めて俺は

 照がクルミチャンに、なにかしたとわかった。それほどの速度らしい。

 

「クルミチャン君。いったい……昨日、なにがあったんだよ?」

 今朝と同じことを、もう一回言ってしまった。

 訝しい。そして気になる。

「いつか、話せる時が来るさ」

 

「突然気障キャラ作んな」

 呆れた息を交えて突っ込んでやる。

 

 

「しっかし。ゴーレママ、なんて響きで

いきなりゴーレムに発想が行く辺りは

流石だよな、ピカリン」

 スルーしやがった。

 

「どういうことだ?」

 照が睨んでるが、クルミチャンは根性でスルーでもしてるのか、無視だ。

「ファンタジック生物慣れしてるんだよ、こいつは」

 照を指さしながら言うクルミチャン君。一方の照は、もういいやとばかりに

 深い溜息である。

 

「ファンタジック生物慣れ?」

 思わず照に視線をやっちまったぜ。

 ふっと一つ息を吐いた照は、一人さっさと左側ドア、

 ニューゲームな武器庫に向かって歩き出した。

 

「照、ほんとにいいのかそのまんまで?」

 俺は武器を取るために、同じ方向へ向かう。

 クルミチャン君は、俺達の後にこわごわ続いてるらしい。

 足音が遅れてるし、足音のペースが遅い。

 

「問題ないわよ。いざとなったら、あたしには自前のがあるしね」

「自前?」

 また疑問ができた。

「そ。見せることがあったら、その時に説明してあげる」

 

「そうか、期待しないでおくかな」

 使う時はいざって時らしいから、それはつまり。

 こいつが危険な状態ってことで。

 そこに俺がいるってことになるから、

 現場はかなりあぶなそうだからだ。

 

「魔力に慣れてるのと、その、ファンタジック生物に慣れてるってのはイコールなのか?」

 昨日と同じ剣を取りながら訊くと、

「まあね」

 そっけなくそれだけを答えた。もしかして、武器庫に行く前の息は

 しかたないから答えてやるか、って言う意味だったのかもしれない。

 

「たぶん、俺が神様に逢ったってのも、無関係じゃないんだろうぜ」

 ようやく、武器庫に入って来たクルミチャン君だ。

「そうなのか?」

 

仁武和也じんむかずや、ティル・ナ・ノーグって知ってる?」

「唐突だな。知ってる、そこを挟んだ隣町から、四月に引っ越してきた。

入ったことは……ずいぶんとないな」

 

「そうなのね。あたしね。ティル・ナ・ノーグの関係者の娘なのよ」

 そう教えてくれたが、それが魔力とどうかかわって来るのか

 俺にはまるで繋がらない。

 

「うちのスタッフもあたしと同じで、

ここの魔力が気になってるのが、何人かいてね。

だから、ここに来ることあるかもしれないわよ」

 俺とディバイナが、同時に驚きに息を飲んだ。

 

 あたりまえのこととして、こいつは自分以外にも

 魔力が感知できる存在が、複数いると言っている。

 

 

「そうなのか」

 驚きから復帰した俺達。

 

「どうやら。ただの遊園地じゃ、なさそうだな」

「気になりますね、いったいどんなところなんでしょう。

そのティルなんとかって言う場所は?」

 顔を見合わせて、俺達は頷き合う。

 

「もしかしたら、ディバイナつれてったらなにかわかるかもな」

「って、あれ? 和也、どこいくんだ?」

 武器庫から出ようとする俺の背中に、

 クルミチャン君が声をかけて来た。

 

 

「逆側の部屋だ。昨日テストした時に、中ボス倒したんで、

俺らは続きからやる」

「マジかよ。すげーなお前、中ボス倒してたのかよ?」

 振り返って見たクルミチャン君の顔には、よくはわからないが中ボス倒したのはすごい、と書いてあった。

「まあな。んじゃ、お先。合流できるといいな」

 

 

 

 そう言って、俺は武器庫から入口に戻った。

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