第七話。はじめてのだんじょん! その5。 パート2。
「聞こえたなりのリアクションがほしかったな」
あくまでもマジレスを通す。
立ち止まり、一つ頷いてきっちりと伝え、
体を右に向けた。
「わかりました、では」
一呼吸たっぷりと息を吸って、そして言葉は放たれた。
「いえいえ。どう。いたしまして」
ニッコリ。ニッコリと言いやがったのであるっ!
「こんの野郎聞こえてたんじゃねーか!」
「フフ。ウフフフ。アハハハハッ!」
「めちゃくちゃ楽しそうだな、おいっ。こら待て!」
「いやですー!」
「こんのっ、待て!」
左前に向かって飛んでいく、手の平サイズの大魔王を、
俺は右拳を握りしめながら追っかけている。
バンッ!
気が付いたら、俺達は、おそらく脱出部屋に入っていた。
『お疲れ様でした。そこの窪みにフロアセーブアイテムを差し込んでください』
言われて部屋を見回してみる。
「あった。このテーブルにある、まるで
レトロゲーのソフトを差し込めそうな窪みだな」
言って、カードの絵柄を自分に向けた状態で、窪みにガチャリ。
『ガチっと言うまで押し込んでくださいな』
「わかった。じゃ……いくぞ」
「はい」
なぜかディバイナもいっしょんなって、二人同時に少し押し込む。
ガチッ。
音が鳴るのと同時にフロアセーブアイテムこと、
綺羅綺羅万象チョコのカードが張り付いた石板は、
テーブルと同じ高さになって、パッと見見えなくなった。
『では、改めまして。お疲れ様でした、お二人とも。
またの挑戦、お待ちしておりますわね』
そう言うと、部屋がブオーンって低い音を鳴らし始めた。
「なんだ?」
「上に上がってるんです。ここは脱出部屋ですから、
一階まで運んでくれてるんですよ」
「ああ。エレベータになってるのか」
納得したところで、ブウーンって停止するような音。
付きましたね、ディバイナはそう頷いて言った。
「うおっ」
なんと、完全に停止したところで、まるでトースターで焼けたパンみたいに、
フロアセーブアイテムが、勢いよく飛び出したのだ。
驚くなって方がむりだ。
そこで、フルコンプリートボーナスを受けた時のように、
俺達の体を白い光が包み込んで、そして消えた。
「おお、体が軽いですよっ!」
両腕をぐるんぐるん回して、
元気になりましたアピールのマスコットちゃん。
「お、ほんとだ」
俺も軽く腕を回してみたが、たしかにそのとおり。
もうなにも怖くない勢いで、体が軽い。
「この回復魔法受けたの初めてなんですよ~。いつも自動再生でしたからっ」
まだ腕をぐるぐるやりながら、歌い出しそうなぐらい弾んだ声。
思わず吹き出しちまった。
「笑わないで下さいよぅ」
またほっぺた膨らませたけど、
「でもいいです、今は許してあげますよ」
とニッコリ。
そりゃどうも、と抑えきれずでニヤリになってる微笑みで返す。
「さて、出ましょっか」
腕の回転をようやく緩めながら言って、
ふよふよと出口に向かっていく。
一方の俺はフロアセーブアイテムを回収して
ディバイナを歩いて追いかける。
「ああ、ここに出るのか」
ドアを開けた先は、ダンジョンに入る前の掘っ立て小屋、
その玄関ホールだった。場所は、ダンジョン入口と逆の扉らしい。
うねる空気の音に既に懐かしさを覚える。不思議なもんだ。
「なあ、ディバイナ」
「はい、なんですか?」
「鎧はともかく、武器はどうすればいいんだ?
ダンジョン入口の、武器庫みたいなとこに返せばいいのか?」
「はい。そうしてください」
「わかった。これ、他の誰かが来る前に、
基本的なこと、張り紙にでもしとかないといけないんじゃないか?」
「そうですね。ユグドラシールのと同じ紙に書いて
ここにでも張りましょうか。
魅了の魔法でもかけて」
「強制的に見せるってことか?」
「そういうことですね。急がないと」
「そっか」
ダンジョン入口の方の部屋に歩きながら、俺は言葉を続ける。
「ま、とりあえず、だ。俺もお前もお疲れさんだ。
一路うちに帰って、まったりしてから、
そういう仕事はしようぜ」
「そうですね」
カチャっと扉を開き、例の武器庫に剣を立てかけて、
なんの余韻もなく玄関ホールに逆戻る。
「ん、っぁー」
俺は一つのびをして、疲労を少しでも緩和しようと試みる。
「ふうぅー」
どうも、声からしてディバイナもそうらしい。
「では、今度こそ二人の愛の巣へ参りましょうっ!」
ヒューンっと速度を上げて、
掘っ立て小屋出口へと飛んでいくディバイナを、
「やれやれ。テンションの波の忙しい奴だな」
笑みを浮かべて歩いて追いかけるのだった。




