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第五話。はじめてのだんじょん! その3。 パート3。

「だ、だって。だってあれじゃあ……あれじゃあまるで。

も もぅだんなさまったら、これ以上わたしに言わせる気ですかぁっ

このぅ このぅぅぅ」

「なにをペチペチと叩いてるんだよお前は……

いったい、あの状態のなにが恥ずかしいって……?」

 

 もう一回ゴーレムを見てみる。

 ただたんに、下腹部に縦に亀裂が走っているだけだ。

 なにも恥ずかしがる要素はない。

 

「あ あれで気が付かないんですかっ?! この鈍感さんっ」

 叩く力が、ちょっと強くなっている。なにが気に食わないんだ?

「なにがだよ? ただ下腹部に亀裂が走っt」

「ゆわないでくらさいぃっ!」

 

「うおわっ?!」

 慌ててしゃがむ。

「こっこらっ! いきなり魔弾括弧仮を乱射すんなっ!」

 

 ズビュビュビュビュビュビュと小指の先程度の大きさの、

 光の玉としか表現しようのない物体が、

 幸か不幸か、ゴーレムに向かって乱舞している。

 一切途切れない弾列と言うべきそれは、さながらマシンガン。

 

 乱射を受けているゴーレムは、まるで

 なにかに押さえつけられたように、動きを止めている。

 

 

「すげー。あんな小さな弾で、あのゴーレムの動きを阻害してんのか」

 伊達に大魔王じゃなさそうだ。今をもって、

 初めてそれを認識する。

 ……あ。よく考えたら俺、射線に入ってないわ。しゃがむ必要なかったわ。

 

 かと言って、弾幕形成中の射手の居場所まで、

 わざわざ身体をもってくことはないし、

 後ろから飛んで来る、威力不詳の弾丸をよけて立ち回れるほど

 俺は達人ではない。

 

 ってことで、休憩だ。

 身体能力がブーストかかってて、この超短期間で休憩入れてる自分が、

 正直かっこ悪くてしかたない。

 

「このっ! この! 卑猥ゴーレム! ひわいごおれむううう!!」

 乱射は止まらない。止まりそうもない。

 なんか、涙目なんだけど……?

 

 光弾の軌跡が重なってるのか、止まることのない弾幕は

 最早見た目が光線と化している。

 

 

大魔王様マスター。取り乱しすぎですわ』

 はっきり言おう。ゴーレムの破砕音が、バキバキうるさい。

「ああ、普通に会話に入って来るのか。しかし、すげー勢いで削ってんな」

 よくよく見てみれば、光弾は全部亀裂周辺を攻撃している。

 しかも、ものすごい勢いで被弾箇所が削り取られて行っている。

 

 そして削られていくに従って、バランスを取ろうとしてるのか

 ゴーレムがだんだん前かがみになって来ている。

「このっ。このっ。はやく。はやくなくなってくださいっっ!」

 この削れる勢い。アクションゲームのボーナスステージみたいだ。

 

大魔王様マスター。いったいなにをそんなに焦っていらっしゃるのですか?』

 最早、そこに亀裂があったことなんて、微塵もわからない。

 下腹部の下半分が、綺麗に四角に切り取られたようになっている。

 尻の辺りに少し残ってるぐらいで、他は綺麗さっぱりだ。

 

「おいおい、たかが亀裂一つで大魔王が半狂乱って

どういうことなんだよ?」

 ギビシャ。

 砕け散る音を最後に、ゴーレムの下腹部下半分が

 跡形もなく姿を消した。

 

 巨人はふらふらとしながらも、なんとか体勢を直立状態に戻そうとしている。

 が、凄まじい勢いで砕け落ちた体のせいか重量の変動が激しいらしく、

 いまいち安定していない。

 

「まるででっかいヤジロベーだな、ありゃ」

「ぜぇ……ぜぇ……や。やっどげずりどれまじだぁぁ……!」

 俺の右肩に向かって、急速落下したように全身で抱き着くと、

 ディバイナは、肩で荒く息をする。

 

「はいはいお疲れさん。んで? なにをそんなに取り乱してたんだよ?」

 気を抜かずゴーレムを見据えながら、俺は肩の少女に問いかけた。

 敵はようやく直立状態に戻ったものの、

 腕や体を、おっかなびっくり動かしている。

 重みの変化に慣れるためだろう

 

 まだ暫くこっちに向かって来そうには見えない。

 

 

「……だんなさま」

「……ああ、もぉいいやそれで、いちいち訂正すんのめんどくさい」

 深い溜息で、直す気のない呼び方の訂正放棄を宣言したら、

「えっっ??!!」

 

 そんな裏声一歩手前みたいな上ずった声と同時に、

 ビクンっと白黒娘の上半身が跳ねた。

 かと思ったら、なにやら額をこすりつけて来た。

 なにがしたいんだよこいつは?

 

「で? 全身真っ赤になってどうした?」

 華麗にスルーする。右肩がカーっと熱くなったから、

 たとえディバイナの方を見てなかったとしても、

 真っ赤になったのはわかっただろうな。

 このぽかぽかした心地よさ。たぶんお灸ってこんな感覚なんだろうな。

 

 

「あの。だんなさま、は。夜伽の時。

その……子供を、作る、時。

どこに……なにを……どうするのか。

ご存じ……ですか?」

 

 今度はギューっとホールドを強めながらの、

 蚊の鳴くようなボリュームの声。

 お灸状態継続中の上の、俺の肩に顔を埋めてのこのボリューム。

 ゴーレムが動き出さないから聞こえてるようなもんだ。

 

「え、ああ、そりゃー、な」

 突拍子の無い問いかけに、こっちも顔が真っ赤になっちまった

 目までそらしたし。いきなりなにを言い出すんだ、

 この手の平サイズの白黒娘は?

 

「その……にて。いたと。おもいま。せん。か?

えっと。その。女性の。側。に……」

「あちちっ! 湯気吹くなよっ! 火傷するだろ!」

 

「ごっ、ごめんなさいっ。でも、でもっ」

 ガバっと起き上がったかと思えば、人の肩の上で

 左右に細かくステップを踏み出し、そこにズレたリズムの

 両手振りが加わった。

 

「なに踊ってんだ?」

 目が点になる。が、よくよく見たら、水色の瞳は狼狽の泳ぎを見せてて、

 薄紅の唇は、なにかを言いたいのかパクパクしている。

 これは……もしかして、踊ってるのではなくて……。

 

「動揺してるのか?? お前、それで」

 謎のわたわたダンスを、俺は困惑のまま尋ねていた。

 

「きゃっ!」

 答えようとしたのかバランスを崩したディバイナは、

 パタリと前に倒れ込み四つん這いになっている。

 

 人の肩を勝手にオンステージしておいて、

 足を踏み外してこけるとか

 ーーなんだこの、ふしぎちゃんドジっ娘?

 

 

「いたた。すみません、あんまりにも恥ずかしすぎたものですから、

自分でもなにがなんだか……」

 起き上がりながら、また顔面真っ赤になって湯気を吹き上げた大魔王。

 人の肩の上で、まさかの体育座ってしまいやがった。

 

「んで、似てたと……今さっきの、亀裂が」

「そうです っ」

 膝の間に顔埋めちゃったよ……。

 

「だから、すごく いやらしくみえてしまったんです」

 大魔王ちゃん。更に耳まで真っ赤になっても、

 引き続き、体育座りの体勢を維持するつもりらしい。

 

 ……定期的に大魔王って言っとかねえと、

 こいつがそれだってこと忘れちまいそうだぜ。

 

 

「なるほどな。だから卑猥ゴーレムなんて言ったのか」

「はぃ」

『そういうことでしたのね。人型と同じ機能の備わっていないわたくしには、

その辺りの機微はわかりませんわね~』

 のんびりとダンジョンさん。

 

「俺にもわからなかったぞ……」

 不機嫌に呟く。なんだ? 俺の鈍さは

 否ヒューマノイド並だとでも言うのか?

 

 

「さて」

 空気を換えよう。

 改めてゴーレムを見上げる。ようやっと己の変化に対応できたらしく、

 こちらを直立の状態で見下ろしてきている。

 そんな相手の顔面に視線を固定して、一つ頷いた。

 

 

 ーーあれは。あのカードは。手に入れたい。

 「

 

「おい、ディバイナ」

「えっ」

 膝に顔を埋めてた手の平大魔王は、バネ仕掛けかと思うような勢いで

 体をのけぞった。

 

「え、あの、その。今……名前で……っ!」

 ステップなしバージョンのわたわたダンス、

 赤ら顔おめめぱちくりエディション

 をし始めたディバイナ・パンドラートである。

 

「あうっ」

 なので、左手の人差し指と中指で白黒少女の体を挟み込み、

 意味不明踊りを強制的に止めさせた。

「おちつけ」

 

「だ、どぅだだってっ だんなさまがきうになまえでよぶからっっ」

「さっきも呼んだだろ? で、改めてだけどな」

「あ、はい。すぅ……はぁ……おちつきました、はい」

「うむ、よろしい」

 

 挟んでる指を放してから、

「して、おぬしに頼みたいことがある」

 と腕組みし神妙な調子で告げた。

 

「はっ、なんでござろうか殿っ!」

 勢いよく立ち上がると、そう言いながら

 なぜかビシーっとすごい勢いで敬礼した。

 

「なんだよそれ」

 笑いをかみ殺しきれなかった。

 一つ咳払いして、「で、だな」と本題に入る。

 

 

「さっきの紅眼レッド・ガンだっけ? まだ打てるか?」

「あ、はい 問題ないです」

「よし。紅眼レッド・ガンで、ゴーレムに段階的に

目印をつけて行ってほしいんだ」

 

「目印を?」

 首を左にかしげて怪訝そうな声色だ。

 表情もちょっとだけ眉尻が下がっている。

 

 ーーずっと右向いてるせいで首が痛くなって来た。

 

「あれを、上って行きたい」

 指差して言う俺に、

「えっ? 上るんですか? カースド・ゴーレミートを?」

 目を丸くして、白黒娘もゴーレミートを指さしている。

 

「ああ。どうしても、あれを手に入れたくってな」

 刺していた指を、顔面のカード方向へと滑らせる。

「え? あの札を、ですか?」

「ああ。ちょっとした思い出があるんだ、あれには」

 

「思い出……そうですか」

 静かに言った後、これまた静かに頷いてわかりましたと答えてくれた。

 

「第一歩は、こっちでいいですかっ?」

「言いながら紅眼レッド・ガン打ってちゃ訊く意味ないだろ」

 着弾点は右の太腿辺り。

 丸くついたその紅、今回は波紋のように円形に広がった。

 喰らったゴーレムは、今の一撃でたたらを踏んだ。

 

「どうやら。さっきの大魔王様の暴走攻撃で、

相当中身がなくなったな。返ってやりづらそうだぜ」

 立ち上がって屈伸運動しながら、敵の現状を分析。

 パン パン、っと両手を打って気合を入れる。

 

 

「ごめんなさいだんなさま。さっきの魔弾連射で、

まともに援護ができそうにないです。

目印をつけるくらいしかできませんけど、かまわないですか?」

 心配そうに聞いて来たディバイナに、俺は迷うことなく頷いた。

 

「むしろありがたい。じゃ、ガイドは任せる」

 改めて頼む。

「はいっ、おまかせくださいませっ!」

 元気が戻ったようで、満面の笑みで答えると、

 ディバイナは俺の肩から離れる。

 

 ーーこれでやっと首が正面を向ける。

 

 

「うし。じゃ、いくか」

 紅の目印を睨むようにみつめて呟く。

 

 

 

「いくぞ。巨大もってーねーお化け!」

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