第五話。はじめてのだんじょん! その3。 パート2。
「うおっ?」
下から一陣の風。そうかと思えば、足が地に着いた感覚。
目の前には、細かい四角の大量にある壁。
どうやら、高度がゴーレムの上半身ら辺まで下がっていたようだ。
「腕の……上か? でもどうして?」
ヒット音が近くに感じる。もしかして……ガードしてるのか?
「だんなさまっ! 今ですっ!
紅眼の魔力のしみ込んだところに
斬撃してくださいっ!」
「わかった!」
「えっ?!」
なんかときめいたリアクションが聞こえたぞ?
「けど、何度も言わせんなっ」
紅に広がる薄絵の具。それをめがけて剣を振ればいいんだろう?
どこだ?
視線を上から下へと滑らせる。
自分が上昇したのと、かわらないぐらいの流し見だ。
首のところ。いや違う。なんで見当たらない?
下からならあっさりわかったってのにっ!
ーー見つけた!
「俺は!」
ゴーレムの腕を足場に飛ぶため、少し体を鎮める。
「お前のっ!」
足場を蹴り、飛ぶ。上昇頂点は、ゴーレムの頭を超えた。
着地点は腕の内側。ゴーレムと密着する位置だっ!
「だんなじゃねーっ!!」
直感的に大上段に両手持ちで構えた俺は、
重力と勢いで叩き切るべく、その瞬間を待つ。
落下で起きる風圧で、また浮き上がってるんじゃないかって感じるけど、
流れる巨体は上へと滑る。
ーー来たっ! 紅の薄絵の具!
「そこだああっっ!!」
ビュウォンッ!
まるでラスボスにとどめを刺すかの如き裂帛の斬撃。
ザクッ!
剣がめり込んだ感触と音が奇妙だ。
まるで……そう。
まるで軽いウェハースでも切ったような?
確信めいた予測は、今ーー完全な確信へとかわった。
そのまま俺と一緒に地面へ向かいながら、
銀の刃はゴーレムの体を、
ゴリゴリ ーーいや、ザリザリと削り取る。
どうやら、一度突き立ってしまえば、例の結界は役に立たないらしい。
ザンッ! と派手な音を立てて着地する俺。あんな高さから降りてきても、
ちょっと重みが来ただけで悶えるほどの痛みはない。
きっとこれは、鎧と身体能力強化の魔法のおかげなんだろうな。
「ゴーレムは大分切り取れたはずだ」
巨体を見ると、バラバラと破片が滝のように落ちて来ている。
切り口はちょうど下腹部の辺りか。
だいたい1m50の辺りに、縦一文字に亀裂が入っていた。
「だんなさまっ、距離をとって! こっちに来てくださいっ。
じゃないと、潰されちゃいますよっ!」
倒れると読んだか、ディバイナが後ろから叫び呼ぶ。
「しつこいぞ!」
大魔王の方に走りながら、きっちりと突っ込んでおく。
突っ込まない奴はおるまい。
「まったく」
到着。
「っ! このっ! 早くとれろっ! ぬおりゃっ!」
まるで菓子の食べかすのようにこびりついた、ゴーレムの破片を
何度も剣を全力で振って飛ばす。
「うっしゃーとれだぁー!」
ぜぇはぁしながら、銀の輝きを取り戻した刃を眺めて言う。
「素材はわかった。よくあんなもんが、ここまでの生き物になったな」
剣を納めて奴を見れば、下腹部を切り裂かれても
なんてことなく歩いてきている。
奥行の問題で平気なのかもしれないが、
罅が入ってんのに平然としてるのは、はっきり言って不気味だ。
ーー気のせいか? 足音がちょっとかわったような気がする。
少し、力が抜けたって言うか、軽くなったって言うか。
「……気のせいじゃない。足運びが軽くなってやがるぞ」
でも、なんだ? なんだか、
ゴーレム自身が、軽くなった足音に戸惑ってるみたいだ。
足を降ろすのが、俺にはおっかなびっくりに見える。
力強く振り下ろしてた、亀裂が入るまでと違って、
今は歩幅がかわらないのに、足は振り下ろしてない。
そーっと地面に置いてる感じするんだよな。
「んぅぅ」
「どうした?」
なにやら乙女に恥ずかしがる声が右からしたので、
あきれ返って問いかけた。




