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第四話。はじめてのだんじょん! その2。 パート2。

 どれくらい聞いてたろうか? 一分か十分か。

 いや、ひょっとすると三十秒もないかもしれない。

 敵さんの足音らしきズンって言う音は、さっきも言ったように

 音と音との感覚が広く 聞くことに集中するのも一苦労なのだ。

 で、そうして耳を澄まして一つ。相手についてわかったことがある。

 

 それはディバイナの言ったことの真実味だ。

 

 なんと敵さんは、足音と同時に

 ミシミシッ

 そしてそのすぐ後に

 パラパラパラ

 という、

 

 どう聞いてもなにかが罅割れ、そして

 砕け散っているとしか思えない音を鳴らしていたのだ。

 それが毎回である。

 

 これを俺が気付くより早く、聞き取ったってことか。

 流石にそこは大魔王、認識さえできちまえば

 そっから先は超人レベルってわけだ。

 だからと言って、予想もしなかった敵のバカ力っぷりが

 かわるわけじゃねえ。

 

 

「おいおい大魔王っ!」

 食って掛かる。

「ひ、ひゃいっ?!」

 

「変な声出してる場合かっ! お前、

安全保障付ハートフルニコニコダンジョン

はどこ行ったんだよっ! 責任者出てこい!」

 

「ひにゃあああっ! 痛い! 痛いです! やめて!

そんな力で持たれたら、本気で分割しちゃいますからああっ!!」

「ぐうっ!?」

 突然右の前腕に走った、範囲の小さな殴られたような衝撃。

 

 それによって、俺のディバイナを握る力が弱まって、

 彼女は俺の手からスポっと抜け出た。

 

「はぁ、はぁ。ごめんなさい。思わず魔弾を

鎧の紅眼レッド・ガンから打っちゃいました」

「なんだよ、そのヨロイノレッドガンって?」

 打たれた らしい右前腕を、左手で軽く押さえながら聞いてみる。

 

 

「この魔皇黒鎧アームド・ブラッキンの首のところにある紅玉です。

これは簡単な魔法の弾丸程度なら、軽く魔力を流すだけで打ち出せる

優れ物でして。この眼、実は邪竜フアブニルの目なんですよ、

すごいと思いませんか?」

 

「ああわかったわかった。お前が自分の武装を自慢したいのは

よーくわかった」

 呆れるように言う。言ってることはまったくわからない。

 いきなり専門用語でマシンガントークされても、こっちは困惑するばかりだ。

 

 だからな、と続けてテンションを百八十度? 変えて、

 柔らかく続ける。

 

「あ、はい。……はい?」

 俺のテンションの急変に、ディバイナはついてこれてないようだ。

 よしよし。なんとなくいきなり声色を真逆にしてみたら、

 トークを止めるのには成功したぜ。

 

「とりあえず落ち着け。な?」

 諭すように言うと、

「……はい、そうですよね」

 ガックリ。見えちゃいるけど、見るまでもなく項垂れてる声だ。

 

 

『あのぉ……そろそろ、よろしいですか?』

 ゴーレママの声。声をかけあぐねていた、そんな言い方。

 

 アナウンスの声と似た声だったので、

 ディバイナのこれまでの解説と総合して、声のぬしを判断した。

 ずっと待ってくれてたみたいだ。これは謝った方がいいよな、やっぱ。

 

「「あ、はい。お待たせいたしました」」

 同時かよ。

『さきほどから思っていましたけれど。

とても今日あったばかりとは、思えない

仲の良さですわよねぇ』

 

 まるで品のあるマダムと言った調子

 ーー 我ながらどんなたとえだよ ーー で、

 にこやかに聞こえる声のゴーレママ。

 

「そ、そぉですか?」

「ずいぶんと嬉しそうだな……。

仲がいいって言うか、俺からすれば

突っ込みがいがあるって感じだな」

 

 俺達のリアクションに、またも上品にフフフと笑って

 マダムなダンジョンは話を進めた。

 

 

『さて。わたくしがこの世界で生み出した中ボスを、

お披露目いたします。とくとご覧あれ』

 その声が終わると、すぐさま映画の上映が終わった時のように、

 部屋に明かりがフェードインした。

 

 明度を徐々に強めて行ってるおかげで、

 まぶしさに目をつぶる心配がないのはありがたい。

 俺が部屋が明るくなるのをぼんやり眺めてる最中にも、

 さっきからしてるディバイナ曰くの足音は

 一定のリズムを刻み続けている。

 

 僅かな振動が、ズンに付随して起きる。

 ようやく起きるようになった、と言うべきだろうか。

 

 

「で……でけー」

 見えた。

 向かい合ってる『それ』も、あまりのでかさに

 開いた口が塞がらない俺と同じく、

 相手側も動きを止めている。

 

『ご紹介します。我がダンジョンの中ボス。その名は』

 一呼吸。いったいどんな名前なんだろうか?

 

『カースド・ゴーレミート』

 

 名前を呼ばれ、そいつは緩慢な動作で足を上げた。

 ゆっくりと上げた右足を前に出し

 そして、体重を重力に委ねたように振り下ろす。

 その一つ一つは、亀かと思うほどにゆっくりで。

 しかしその体躯ゆえに、迫力は半端じゃない。

 

 ズウン! ミシリ バラバラ

 

 そこへ来てこの大音響と、

「おっと」

 たたらを踏まされるほどになった振動。

 

 

 まさしく巨大。まさしくボス。まさしくゴーレム。

 

 

 改めて相対した俺は、巨人の顔を見上げる。

 のっぺりとした目のない顔。

 額に一枚、まるでお札のように、カードが張り付けられている。

 

 

 ーーううん。なんだかあのカード。どっかで見たような気が……。

 

 

「カースド、あんまりいい響きじゃないな」

 全体像を見られる落ち着きと余裕が出来て、『敵』を改めて観察する。

 見た感じは、ブロックを積み重ねたようなよくあるゴーレム。

 体色が濃い茶色で、体を構成する物質は

 ずいぶんと細かい四角形が多数見える。

 

 顔面以外にも、カードと思しき長方形が、

 いくつか装飾されてるのがわかった。

 あれで魔力を与えて動かしてるってところか?

 んで、なによりも、とにっかくでかい。

 

 頭の位置が推定3mはあろうか。

 横にもでかいし、二本ずつある腕も足も当然ながらぶっとく、

 俺の腰回りぐらいある。

 ……予想外ってレベルじゃあない巨大差だ。

 

 ーー正直中ボスなめてましたっ!

 

 

「カースド・ゴーレミート。ゴーレママ、

いったいどんなモンスターなんですか?」

 心の中で、ドリル並みのその場スピニングからのスライ土下座してる

 俺をよそにしてるのは流石大魔王だな。臆せずだ。

 

『ゴーレムです。ただ、その素材は

人間への憎悪と悲しみにくれた無数の魂。

わたしは彼らに、みんなで協力して人間をこらしめよう

と声をかけたのです。その悲しみと憎悪が魔力となって、生前の姿を得た。

わたしがそれを合体させた物がこちらになります』

 

「憎悪と悲しみを素材にした。

なんとも、魔王の生み出した存在らしい作り方のゴーレムだな」

 落ち着いた俺は、いつものように冷静な感想をさらりと発する。

 ……震えているのはゴーレムが歩いた余波ですよ、

 あたりまえじゃないですかなにいってんですかアハハハ。

 

 ……兎も角うさぎもかどだっ。

 人間への悲しみと憎悪を抱く、真四角の物体か。

 ……いったい、なんの魂をこねくり回したんだ?

 

 

『「無念を晴らすことに手を貸すことの、どこがいけないんですか?」』

「なんでハモった? って え? なんで熱くなったんだこの部屋っ?」

 気のせいじゃない。少しだけじゃあるけど、部屋の温度が上がったのだ。

 今の今まで過ごしやすい温度だったのに、いったいどうしたんだ?

 

「カズヤさんが、ゴーレママをおこらせるからですよ。

後、恥ずかしがったりしても音頭が上がります。

いずれにしても一時的ですけどね」

 とのことである。どうやら、本当にゴーレママは、このダンジョンそのものらしい。

 

「マジかよ……」

 まったく、感情でダンジョンの内部音頭を変化させるなんて、

 はた迷惑なダンジョンだぜ。

 

「しっかし、まさか誕生経緯まで説明されるとは思わなかったな」

 俺の軽い息を伴った言葉に、そうですねって微笑するディバイナ。

 ……っ。どうした俺? いくら顔の位置と距離が比較的近いとはいえ、

 手の平サイズの大魔王が、なんで今一瞬だけ等身大に見えたんだ?

 

 

「それで、改めて問います。カズヤさん」

「え、あ。はい」

 改めて真剣な表情で名前を呼ばれて、

 俺は思わず姿勢を正した。

 

 おかしい。

 握手する場所が、手の指って大きさのディバイナなのに、

 今俺を見る瞳の迫力は、間違いなく

 等身大の女の子とかわらない。

 

「あれと。戦いますか?」

 あれがなにか。言うまでもない。

 しばし黙考。目を閉じて熟考。

 

 安全だと言うこのダンジョン。

 だが相手は素人目に見ても、そののぶとく武骨な四肢から

 繰り出される攻撃は、鎧込み込みでも当たればかなりのダメージだろうことは、

 想像の難しくない巨大ゴーレム。

 

 はたして安全という言葉の保証は、保たれているのか?

 こいつと戦って無事で済むのか? そんな不安はある。

 ディバイナからあのゴーレムについて、

 安全の確約はされてないしな。

 

 

 けど。けどだ。

 

 

 俺は今、ダンジョンにいる。そしてその中ボスを目の前にしているんだ。

 でかい。怖い。あぶない。理性はやめろと言ってるけれど。

 

 一つ頷く。熟考は最終段階。

 既に答えは出ている。足りないのは覚悟だけだ。

 瞳を開かず、決意を吐き出す力をひねるため、歯をギリリと軋る。

 そして、口の中に溜め込んだその力を、いっきに外界へと解き放った。

 

らいでか!」

 

 開眼と同時に決意を音に出したら、

 いっしょに、右拳をギユっと握り、左足で床をドンッ!

 

「きゃぁっ!」

 おまけに思った以上にでかい声で、俺自身が目を丸くすることになった。

「も、もぅ、びっくりさせないでくださいよぅ」

 眉尻を下げて、力なく抗議して来る15センチ。

 

 その手は指をすぼめたパーで、両方とも自身の胸に押し付けている。

 心なしか縮こまってるようにも見えるな?

 

「わり、自分でもびっくりしたわ」

 苦笑するしかなかった、左手で頭をかいて。

 許してあげます、とそれでも納得してない声色で言う。

 

 

『では。覚悟と準備。よろしいですか?』

 調子は変わらず。でも少しだけ真剣なゴーレママの問いかけ。

 それに、俺達は二人同時に、

「おう!」「はいっ!」

 と力強く答えた。

 

 俺の横に来たディバイナと、鋭くゴーレムを見据える俺。

 二人の鎧がガチャリとシンクロして音を立てる。

『では、ゴーレミート。好きになさい!』

 巨人のたがを外すゴーレママの号令が、

 静かなダンジョンに響き渡った。

 

 

 

 戦闘、開始だ!

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