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第一話。七月七日が繋いだ物は? パート1。

「なんだこれ」

 俺はなにげなく通販サイトで、フィギュアコーナーを見ていた。

 ネット版ウィンドウショッピングである。

 で、奇妙な、首をひねる物を見つけたってわけだ。

 ジャンルは美少女フィギュア。

 

 なにがおかしいって言うと。

 このフィギュア、値段が書かれていないのである。

 大手の通販サイトでこのミスはありえないだろう?

 それでも別に買うわけでなし、買いたい奴が問い合わせればいい話だ。

 俺は改めて商品に目を通す。

 

 

「えーっと?

『ただ殺されるためだけの大魔王がいやになったので、

異世界に逃亡することにしました。

ディバイナ・パンドラートより』。

なっげータイトルだなぁ」

 

 ちかごろのラノベ、いやウェブ小説ではおなじみとも言える

 文章タイトルに、俺は呆れた溜息を吐く。

 もしかしたら、ウェブ小説出身作なのかもしれない。

 

「『より』の位置おかしくね?」

 商品名を二度見して、俺はそう呟く。

 普通なら出展名の後ろにつくはずの『○○より』だが、

 これについては名前と思しき文字の後なのだ。

 

 まるでこの、ディバイナって言う少女からの

 メッセージのような書き方である。

「拡大画像か」

 サンプル画像をクリックした俺は、その完成度に驚いた。

 

「すげー。まるで、生きてるみてえだ」

 光を反射しているような、肩まで伸びた白髪はくはつのストレート。

 前髪が眉毛の辺りで切りそろえられてるのが幼い印象を受ける。

 きっと妹系のヒロインキャラなんだろう。

 瞳は、まるで生きてるかのような、瑞々しい光をたたえた青。

 

 しかしそんな、美しいと言ってもいい首から上の造形とは反対に、

 着こんでいる黒い甲冑は、見るからに重々しく、

 胸のところの真っ赤な宝玉は、闇の中から覗く不気味なまなこを連想する。

 この白と黒のコントラストが見事なのだ。

 

 白に青と言う、澄んだ涼し気な印象から視線を下に向ければ、

 そこにあるのは黒と赤。正反対の性質が同居しているこれは、

 いったいどんなキャラクターなんだろうか?

 武器のたぐいを持ってないのは徒手空拳設定なのか、

 それとも武器は箱に入っててサンプル画像に映ってないのか。

 

 俺はこの『ただ殺されるだけの大魔王がいやになったので(以下略)』って作品を

 見た覚えがないから、このディバイナって女の子が

 どういう立ち位置なのか見当もつかない。

 

 

 よし、文明の利器だ。気になったならさっさと調べる。

 俺と向き合ってるお箱様は一つの作業しかできない不器用ちゃんではない。

 ディバイナの製品紹介ページのウィンドウを小さくして、

 検索エンジンを新たに立ち上げる。

 

「作品タイトルコピーしねえとな。手打ちすんのめんどくさい」

 というわけで、ウィンドウサイズを元に戻していざコピペ。

 はてさて、どんな作品が出て来るのやら。

 

 

「……検索結果、0件? おいおいどういうことだよ?」

 我が目を疑う、ってのはこういうことなんだな、

 と今初めて実感を得た。

 

 改めて作品タイトルの文字列を、二つのウィンドウを

 交互にでかくして見比べる。うん、コピペはちゃんとできてるな。

「なら次は」

 今度はディバイナ・パンドラートで検索する。

 

「マジでどういうことなんだ? 今のご時世

検索エンジンにひっかからないなんてあるのかよ?」

 フィギュアが単体で発売してるような作品だ、

 検索にひっかからないはずはない。

 

 だって言うのに、作品タイトル キャラクターネームのどっちも、

 検索エンジン先生はそんなものはないとおっしゃられた。

 検索エンジンのウィンドウを閉じて、ディバイナの製品紹介ページの

 ウィンドウサイズを元に戻す。

 

 

「なんなんだ、これ。マジで」

 だんだん気味が悪くなって来た。気味が悪くなって来たので、

 ウィンドウを閉じようと操作しようとしたら。

 

「あ、やべ。くしゃみが。は。は。はくしょんっ」

 わざとである。わざとはくしょんと言いながらくしゃみをしたのである。

 勿論意味なんてまったくない。

 

 昔挑戦してみてやれてしまったのがきっかけで、

 一人でいる時やダチといる時はこういうくしゃみをしている。

 もう一度言う。まったくの無意味だ。

 

 

「あ……」

 エンターキーが、くしゃみをする時の勢いで、

 押したくないのに押されてしまった。

 

 まあ別に、今はエンター押しても意味ないとこにカーソルあるから

 問題ないけどな。

 

『ありがとうございます』

 今、スピーカーから声がしたような?

 しかもありがとうございます、って聞こえた。

 

 妙だ。俺は購入手続きをしたわけじゃない。

 だって言うのにありがとうございますである。

 そもそも購入したとしても、こうやって音声が流れるような

 サイトではない。そのはずあんおに、今声がしたのだ。

 

「うおっまぶしっ?!」

 反射的に目をつぶった俺。でも、うっすらと刺激がある、

 かなり強い光なんだろうな。

 けど。いったい今の光、どっから出たんだ?

 その刺激が収まったから、俺はそーっと目を開ける。

 

 余韻が残ってたらしく、キラキラとモニターにまとわりついていた

 光を目にした。すぐに消えた光の粒としか言いようのないそれは、

 俺の頭にでっかい疑問符を浮かべさせるにはありあまる現象だった。

 

「なん……だったんだ?」

 不可解な現象が終わった。けど、部屋にはなんの変化もなかった。

 気のせいにしては鮮明すぎる、白昼夢ならぬ

 |白夜夢(はくよるむ、今俺が思いついた言葉)だとでも言うんだろうか?

 

「変かなし、か」

 正直、今の激しい光には期待する気持ちがあった。

 俺も読み専だけど、異世界転移 転生だとかチーレム小説だとか、

 そう言った読み物を読みふける程度には、異世界という物に

 あこがれを抱く人種だ。

 

 異世界への召喚は、大概なんらかの力で強い光に包まれて

 召喚者の下へテレポートする。つまり、召喚され条件としては

 充分だったのである。

 だから。嬉しいような寂しいような、悔しいような、なのだ。

 

 とはいえ、唐突に異世界に放り出されたら出されたで、困ることがある。

 衣 食 住と己の身体能力だ。

 

 だいたい異世界って奴は、俺達の身体能力なんぞでは、

 太刀打ちどころか鯉口こいぐちを切るより前に、

 蚊でも潰すように殺される。

 嬉しい、はここに起因している。

 

 

「変かならありますよ」

 息が詰まった。どこかから、俺の言葉に答える女の子の声がしたのだ。

「なんだなんだ? ストーカーか? スピーカーか?

それともデイブレイカーか?!」

 自分でもなにを言い出してるのかわからないほど、俺は錯乱しています。

 

「世界の橋渡し役、ありがとうございました。

おかげで見つかる前に異世界に飛ぶことができました」

「は?」

 声は意味のわからないことを平気な顔 いや声でのたまっている。

 

「でも、あんなに激しく引き寄せなくてもいいじゃないですか」

「……はい?」

 まったく意味が呑み込めない。なにを言ってるんだ、このデンパボイスは?

 なんかはにかんでるし。

 

「なんですか? どうして行動を起こしたあなたが、

状況を理解してないんですか?」

「つうか、お前はどこの誰だ。話しかけるならツラ見せろ」

 

「言葉遣いが荒っぽいですね。まあ、そういう勇者チートたちは何人も見てますから、

それぐらいじゃ怒りませんけど」

 

 いらっ。

 

「でもですね。そういう強気な言葉は、声の震えをとめてから言わないと。

クスクス かっこわるいですよ」

 

 いらっっ。

 

 

「んなぁっ! だからお前はどこの誰で、いったいどこにいるんだよっ!」

 思わず机を思いっきり殴っていた。

「いってぇぇ……」

 あとに残ったのは、微妙に腫れた右の中指の第二関節よりちょっと上と、

激しい拳の痛み。そして、俺なにやってんだろ、って言う自己嫌悪と後悔だけだった。

 

「んもぅ。いきなり乙女を殴り付けるなんて、野蛮な人ですね」

「……え?」

 目が逢った。

 俺の右手の甲に直立している、白髪はくはつに黒甲冑の美少女と。

 

「気付かないあなたが悪いんですよ。改めまして。

わたしの名前はディバイナ・パンドラート。

異世界で大魔王として存在している者です。

異世界じゃ大魔王としか呼ばれませんけど」

 ペコリ。大魔王ディバイナを名乗る小さな少女は、綺麗に90度のお辞儀をした。

「……」

 

「なんですかじーっとこっちを見つめて。

……はっ! まさかっ!

 

わたしに一目惚れですかっ? もう、殴ったかと思えば一目惚れだなんて、

ツンデレさんなんですか?

 

それとも、無意識に魅了チャームでも

発動しちゃってたのかなぁ?」

 

 

「やかましい!」

「ひゃっ!」

 手の上の白黒少女は、俺の一喝にバランスを崩して

 机に倒れ込んだ、仰向けに。

 

「いったいなにがどういうことなのか、

説明してもらおうじゃねえか。大魔王」

 親指と人差し指で、ディバイナのフィギュアを挟んで持ち上げた。

 雰囲気としては、胸倉を掴んでるような感じだと思ってくれ。

 

 

「い、いたいです! 挟み持たないでくださいっ!

それに腰を持つならもっと優しくっ」

 両腕両足をバタバタさせてもがくディバイナ。

 こんなのが大魔王などとは、片腹どころか完全に腹痛だ。

 

「はいはい」

 離してやった。

「ウワアアアアア!」

 ジタバタしながら床へと落ちていく自称大魔王。

 体勢を立て直すって選択肢はないのかこいつには?

 

 

 

「ごぺっ」

 変な声が足元からした。

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