みらい
ピッピッピッという一定のリズムが耳のすぐそばで聞こえた。目を開けると、白い天井が広がっていた。首に違和感。そっと首の後ろを触ってみる。プラグ……。
「目を覚ましました!」と どこから飛んできたのかもわからない看護師が、ベッドの隣で騒いでいた。
病院……。
「良かった……本当に良かった……」と両親がどういう成分で出来ているのかも分からない涙のようなものを目のようなものから流していた。
Dは死んだ。しかし、わたしは死んでいなかった。
数時間同じ場所で動かないわたしのGPSを不審に思った両親が、警察に通報したようだ。そういえば、あの時足に当たった携帯と大学のIDも、結局壊していなかった気がする。
わたしたちは発見後すぐに病院に搬送された。数日後に機械化手術を予定していたこともあって、身体が完成していて病院まですでに送られていたらしい。対して、Dは発見時点ですでに量産モデルに移し替えることも間に合わない状況だったと聞いている。
「奇跡的生還」
テレビをつけるとそう盛んに報じられていた。どの番組でも必ずと言っていいほど、取り上げられる今一番話題のニュース。わたしのところにも、連日取材したいと言う人が連絡をよこす。
「人の命を救う機械化手術」「奇跡のなせる技」「人類の辿るべき正しい道」
わたしとDの願いとは全く逆の方向へ、事態は進んでいた。
Dと屋上を飛び降りて一週間。窓の外を眺めるのも、取材を断るのも、もう疲れてしまった。首の後ろの充電用プラグを引き抜いて、屋上へ向かった。
手すりを握ると、アルミの冷たさが身体に伝わったような気がした。風が髪を揺らす。頬に当たった時に、なんとなく温かい感覚があった。でも、本当は……。本当は手すりは熱いかもしれない。風は冷たいかもしれない。
もう簡単には死ねなくなってしまった。電池切れになっても、予備電源で脳だけは死なないようになっている。手足を破壊しても替えがある。目を潰しても、すぐに修理されてしまう。この前みたいに飛び降りても、身体の替えはいくらでもある。何をしても無駄だった。
「ねえ、公園に行きたい!」
子どもがそういうので、Dと食事の後でよく立ち寄ったあの公園へ行った。
機械化手術の前に全ての人間は卵子と精子を保存するのが決まりになっているため、機械化手術を予定していたわたしもそれに従った。
この子は人工的に作られた子。そして、機械によって育てられる。
今は生身だとしても、この子も大人になれば機械化手術を受けることになるのだろう。そして、また人工的に子どもが作られる。それが世界の流れなのだ。
流れに流されて、わたしは今日も生きているのかさえ分からずに充電プラグを身体に突き刺す。いつか人類が過去の過ちに気がつくことができるように願いながら。
Dへの贖罪としてこれを記す
Eden Archer
主人公の性別を曖昧にしたつもりだったんですが、まだまだ修行が足りないようで……ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。