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第四章 「二人の英雄」

ある日の放課後、生物部室で疾人、玄森、泰丞、匡、一彰の5人衆は、匡をネタに盛り上がっていた。匡が智香だけでなく、イベントで一緒に遊ぶことの多い、智香と同い年の片岡沙世(かたおかさよ)にまで手を出そうとしているという外道な話題である。

スタイルのいい智香に比べ、沙世はスレンダーで、しかもロングヘアーで片目を隠しているようなヤンキーである。ちなみにコスプレはしていない。ある意味、コミケに来るのが珍しいタイプであるが、グインサーガ評論のサークルに所属しているという「らしい」一面もある。


「やめとけって、智香姫に殺されるだけだからよぉ。姫の怖さは判ってるだろうに」

一彰は笑いながら言った。智香が目的のためなら手段を選ばない傾向にあるのは周知の事実である。

「やらせとけよ、友人から死人が出るなんて滅多にないことだからな」

疾人が真面目な顔をして言う。

「死ね、匡。最高のギャグだ」

更なる疾人の追い撃ち。

「あのなぁ、俺はなぁ」

「浮気者に弁解など不要である!」

泰丞が茶化す。


そのとき、突然、玄森が立ち上がった。

「匡!」

玄森の表情に怒りが見て取れた。

何事かと一同が凍り付いた。

「いいかげんな恋愛なんかするなよ!」

玄森は匡に掴みかからんばかりに迫った。

「な、なんだよ、急に!俺がどんな恋愛しようと勝手だろう!」

迷惑かける時点で勝手ではないのだが、そこは匡の中では整合性が取れているらしい。

「なんで、そこら中の女の子に優しくしてまわるんだよ」

「女の子に優しくして何が悪いんだよ。おまえだって、そうだろ?」

「おまえは、それで妙な期待を持たせるからいけないんだよ」

「そう、思うのは女の子の勝手じゃないか」

「それがおかしいんだよ。無責任なんだよ」

突然の口論。実際は青臭く、まともな論にさえなっていないのだが、この場には青臭い少年たちしかいないのだ。

疾人はふたりをワクワクした表情で見ていた。

一彰は「とばっちり」が来ない内にと、さっさと帰り支度を始めた。

泰丞はどこで口を挟むべきか迷っていた。


元々玄森も匡も、両者の行動の根本原理は「女子にとっての英雄(ヒーロー)」であることであった。それゆえ、個々の正義の解釈の違いから衝突が起こる。

そのことに気づかない若さゆえの衝突。そもそも男子校の高校生が、ある日突然、女子に囲まれるようになったのだから舞い上がってしまうのも致し方ない。


もっとも、基本的に二人のそりが合わないというのが最大の原因である。


結局、匡が怒り出し部室を出ていってしまった事で、その日の論争は終結を迎えた。理詰めで話す玄森に、匡は返せる語彙はわずか、というか、まったく思いつかないからである。


翌日の放課後も同じ事を匡と玄森は繰り返した。わざわざ喧嘩しに部室に来るのだから酔狂なことだ。逃げたら負け感覚なのかもしれないが、昨日の時点で匡は逃げているのでは?

「進展したら教えてくれ」

「あのなぁ」

そう泰丞に言い残して疾人はさっさと帰った。どうも互いに言い合う内容がワンパターンなので飽きたらしい。

一彰は部室に来なかった。これが一番の正解。



結局、昨日と同じように匡が戦略的撤退(負け戦)後、なにか釈然としない表情の玄森を、泰丞は学校の近所のマクドナルドへと連れ込んだ。

一息つくと、玄森が口火を切った。

「やっぱり、匡のヤツ、ヒドイと思うだろ?」

「あのなぁ、ほっとけよ、アイツのことはさぁ」

泰丞の心情は正直面倒くさい以外の何物でもなかった。ただ、玄森も匡も大事な友人だ。こんなくだらない争いでバラバラになるのは、もっとイヤだった。

「でもさ、亜季乃とも昨日電話で話したんだけど…」

「なんだ、裏から手回して、智香姫にチクるんか?」

「いや、そういうんじゃないけど」

「じゃ、なに?」

「いや、女の子は大切にすべきだってことを…」

「おまえなぁ、恋愛論もいいけどさ、恋人同士の会話じゃないと思うぞ、匡の件は」

泰丞は頭を抱えた。

「そっかな」

「おまえが亜季乃嬢を大切にしてやりゃいいんだよ。匡が刺されて死のうがほっとけよ」

「でもなぁ」

「ヒーローを地で行くなよ。誰も彼も助けるのは不可能だぞ。匡の魔の手からなんて」

英雄願望に振り回される。泰丞は何となく二人のやり取りから気づいていた。

「そうかなぁ」

そう言われても納得できない玄森であった。



その日の深夜、泰丞に亜季乃から電話があった。

「ごめんね、こんな時間に」

「いいけど、どうしたの?」

実際は深夜1時。本当は良くない。

「玄森とさっきまで話してたんだけど…」

「あ?もしかして、匡のことで?」

「うん」

亜季乃の声が暗い。

「はぁ・・・女の子は大切にってか?」

「うん、玄森の考え方、悪くないと思うんだけど」

「他人に押し付けるのはどうかなって?」

「そんな気がするの」

「言ってやった?玄森に」

「言ったんだけど」

「自説を曲げないんだろ?」

「さすが、よくわかってるね」

わずかに亜季乃の声が明るくなる。泰丞は、そんな反応を亜季乃がしてくれるのが嬉しい。

それから、一時間ほど泰丞は亜季乃の相談(グチ)に付き合った。

(亜季乃嬢を困らせてどうすんだよ、玄森)

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