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第三章 「それは惨劇」

一九八四年五月。同人誌即売会のコミックスクウェアに一般参加したSST一行。晴れて高校二年生になった匡、泰丞、玄森、一彰、そして中学三年生になった亜季乃、智香、そして、一彰が惚れている女性の一人、智香の友人である増田郁子(ますだ いくこ)

一彰は気が多いのだ。


その日、彼らは入場待ちの最中に恐ろしい事件に出くわした。それは、一彰が引き起こした惨劇である。


一彰は学校であった事などを必死で郁子に話しかけていたが中々盛り上げることが出来ずに苦心していた。そもそも郁子が興味を持っているのは匡や玄森である。今は両者とも自分の友人とカップルになっている。それなりに複雑な心境なのである。

そんな郁子と、無駄な努力を続ける一彰を横目に、匡&智香、玄森&亜季乃の両カップルが盛り上がっている。


一人余った状態の泰丞は黙々とその日に着るコスチューム(重戦機エルガイム ダバ・マイロード)の修正をやっている。一彰は泰丞に心の中で感謝した。泰丞なりに一彰に気を使い、郁子とのチャンスを与えてくれているに違いないからだ(ちなみに泰丞は、寂しさを紛らわせているだけで、一彰に協力しようなんて気は更々ない)。


まだ入場まで時間がある。このまま退屈な時間で終わらせては自分の点数が上がらない。

ここはひとつ、場を和ませて、しかも自分の点数が上がることをしないといけない。一彰は必死で考えた。


いきなり黙り込んだ一彰に郁子は不審な目を向けるが、本人は気づいていない。郁子としては、話をするなら泰丞の方が、まだマシなのだが、今日は何か無理そうなオーラを発している。


例の「血のバレンタイン事件」が全員の耳に届き(言いふらしたのは泰丞)、自分のイメージがトコトン「悪」に寄っている。ここはイメージアップを図ろう!

今思いついたぞ究極のギャグ!さぁ、みんな、行くぞ!

一彰の目が眼鏡の奥で光った。


「なぁ、みんな!」

急に声を上げた一彰に一同ビックリして、顔を向けた。

当の一彰は首からカメラを下げ、前歯を突き出し、


「日本人!」


と言い放った。


刻が凍り付いた。


刻が再び動き出したとき、一彰の運命は決まった。

「なにそれ」

「アホ」

「場を白くしやがって」

と、数々の罵倒が続く中、

「一彰さん、ヘン」

最後に郁子が冷たく言ったセリフが、一彰の心を引き裂いた。

一彰は、なぜここまで言われなければならないのか、理解できない。


その後、この事件がやたらと後を引き、それまで不良=「怖い」というイメージだった一彰は下らないギャグしか言わない=「つまらない」男の烙印が押されてしまった。


そして泰丞のふとした思い付きから、一彰ならぬカスアキと名付けられてしまうに至った。そのあだ名が、匡から女性陣への電話連絡網であっという間に広まり、次に会った時は、いきなり「カス」扱いなのだから女性とは恐ろしいものである。


ちなみに、この当時に携帯電話というものは存在しない。連絡は勇気を出して相手の自宅電話にかける必要があった。特に男子から女子への電話の際、男子が恐れるのは相手の父親が電話に出ること。口説く云々がなくとも後ろめたいのだ!


一生懸命口説こうとしている相手から「ねぇ、カス」と呼ばれるに至っては、泰丞を恨みもしたが、逆に自分の立場はどうあれ、話し掛けられやすくなったのも事実であるので、正面切って文句を言うのはやめようと、一彰は思った。


「ああいう状態を、汚名挽回って言うんだな」

と、まったく反省の色が無い泰丞。

「名誉返上でもいいけどな」

と、返す玄森。

こうして、一彰は完全にいじられキャラへと変貌していった。


後日、学校で日本人ギャグの件を突っ込まれた一彰は

「がぼんね!つまんないギャグで」

と言い返した。

「がぼん?」

意味不明の言葉に泰丞、玄森、匡の顔に「?マーク」が浮かぶ。

「え、あ、ごめんだよ。いい間違えた」

一彰のフォローに一同爆笑。ありえない言い間違いである。

さっそく泰丞は「がぼん」を「ごめん」の最上級とするSSTルールを制定、皆に周知徹底した。

ちょっとしたミスは「がぼん」と言えば許される制度が確立した歴史的瞬間である。

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