序章 「これから始まる物語、そしてある五人の独白」
一九八〇年代。ガンダムを起爆剤にアニメブームが訪れた。
それに伴い、同人誌という存在、それを入手する場所である即売会も拡大の一途を辿り始め、コスプレもまた、同じように人口を拡大させていった。
オタクという表現がまだ一般に浸透していない、そんな時代のコスプレイヤーたち。
彼ら、彼女らは、どんな青春を送ったのか?
どんな恋愛を育み、どんな友情を交わしたのか?
様々な出会いがあれば、別れもある。
これから、極一部のコスプレイヤーたちの物語が始まります。
普通じゃない。
でも特別でもない。
今と何ら変わる事の無い。
これからも何ら変わる事の無い。
そんな物語。
T.Tの独白
最初にあの「場所」で彼女に出会ったとき、ちょっとかわいいな、程度の感想しか抱かなかった。でも、何度も会い、話をしていくうちに、彼女に惹かれている自分に気づいた。
その思いの丈を伝えたい。そう思うようになった。
でも、言えない。
半年前の失恋が、自分を臆病にしている。それに、もし、振られたら、そのあとどんな顔をして彼女に会えばいいのか?
このまま、胸に秘めたままいた方が・・・。
それに彼女は、あいつのことが・・・。
そう、彼女の答えは最初から出ていた。
彼女は親友の恋人になった。
一緒にいられるだけでもいい。このまま。
そう、今は。
G.Mの独白
「自分らしさを愛せますか?」っていう本を読んだ。自分らしさ=個性。俺は俺を愛する。いや、認められるか?だな。自分が嫌いじゃ、他人に接することにさえ臆病にならなきゃいけない。
俺は、認められたい。リーダーであり続けたい。あの「場所」においてだけでも。
なにより、彼女のために。
だから、今度こそ勇気を出そう。
あいつだって応援してくれるさ。
なんていったって、俺と彼女のことを一番よく知ってるから。
そして結果は・・・OKだ。
OKがもらえた。
勇気を出して、告白したかいがあった。
彼女は嬉しいって言ってくれた。
あいつも祝福してくれた。
これから、どうすれば彼女を幸せに出来るんだろう?
T.Yの独白
頼ってくれる、慕ってくれる女の子を無下にするのは男が廃る。
だいたい、生まれてこのかた、ここまでモテた事は始めてだ。
やっぱ、あの「場所」は特殊なのかなぁ。
俺の事を浮気者だなんだと言うけれど、俺は、常に受け身なんだよ。
俺の事、惚れてくるのも、捨てるのも、女からなんだよ。
だから、思う。あいつは本当にまったく、何やってんだって。俺だったら、モノともせずに告白するけどなぁ。
あいつは、その辺の押しが弱いからなぁ。
俺と取り合った時だって、さっさと退いちまうし。
まったく。
H.Hの独白
ほんとに学校の連中には呆れる。
わざわざ、規定外の服装をしたり、トイレでタバコ吸ったり、規約破りの不良気取りのバカが結構いる。
こんな私立のボンボン学校で不良気取ってどうすんだ。学校から一歩出りゃ着替え放題。タバコだって吸い放題。しかもここは男子校だ。女の目を気にするような目立ち方、意味ない。
ま、俺はイイ「場所」を見つけたんだ。刺激的で面白い連中の揃った場所を、さ。
そんな場所でも、恋愛は自由だと思うが。やれやれ、浮かれ男がまたひとり。
まぁ、俺としては、今いる中じゃ好きな女はいないし、どうでもいいけど。
そういや、あのバカが乗り換えた今がチャンスか。
連絡、してみようかな。あの娘に。
K.Iの独白
あいつら、いいよな。なんか好き放題やってる!って感じでさ。
その点、俺ってシャイすぎるのかなぁ。
ま、せっかく声かけてもらって仲間になったんだ。俺も少しずつ積極的にならなきゃな。
女の子から「恐そう」なんて言われんの、そりゃ、中学の頃は気分よかったけど。
今いる「場所」。とっても面白い、この「場所」の中じゃあ、不似合いだもんな。自分を変えたいなぁ。
好きな女も出来た事だし。
あいつはあんなかわいい彼女を作りやがった。いいよなぁ、ほんとに。
ま、俺としては怪我した分、やることはやったけどな。
でも、それっきりだしなぁ。
畜生!