第5話 新たなる日常の始まり
俺は今寝そべっていた。メタリカとの試験という名の殺し合いで疲れた……のではなく、メタリカが試験終了の合図をしないと試験場から出られないらしいので寝そべっていたのだ。
試験が終わり、クラスメイト達がいる観戦所に行こうとしたが、途中結界やらバリアやらに阻まれて試験場から出られなくなった。
困惑してる俺に放送が来る。
『お身体は大丈夫でござるか?兄者』
「この声、まゆりか?」
『この学園ではビティという名前で呼ぶでござる』
「おお、そうかすまん。所でお前達がいる観戦所に行きたいんだがここから出られないんだ」
俺が観戦所に行くと言った途端、観戦所のほうから悲鳴が聞こえた気がした。
「なんか聞こえた気がしたけど」
『な、なんでもないでござるよ兄者!別に兄者の戦いを見て皆が怖がったという訳で無いでござるよ!』
『あっ馬鹿!取り押さえろ!』
『ちょ!何をするでござるか!ええーい!HA☆NA☆SE!』
『あーはい、俺だサイキだ。試験終了おめでとう』
「おい聞こえてんぞ」
確かに俺の戦いは酷いと自覚してるがこうも露骨に怖がれるとなんか凹む。
『あー!あー!そう凹むな!そうだ試験場から出られないという話だろ!?あれはな試験官が試験終了と宣言しないとそこから出られない仕組みなんだ!』
「別に凹んでなんか……ん?試験官?」
サイキの言葉により何か引っかかる俺。ふと後ろを振り向くと首をねじ切られたメタリカの遺体があった。
「酷い……誰がこんなことを……」
『俺はツッコまんぞ』
ということは、だ。試験官であるメタリカが試験終了と宣言しないと俺はここから出られない。で肝心の試験管はそこで死んでいた。
『この訓練館で死んだ場合は5分後に復活するが試験の場合は一時間後でないと復活出来ないぜ』
「なんでそんなに長いんだ?」
『昔生徒の一人に死んでも復活する『不死』という能力があるんだが、その能力はな復活までの時間が30分以上掛かったんだ』
なるほど。それでそういう系の能力があるため学園長が施した時空結界による復活は時間がかかるというわけか。
その説明を聞いて、俺はその場で寝そべった。
『お、おいアッパー?どうした?やっぱなんか身体が痛むのか?』
「いーや。ただメタリカが復活するまで寝そべっていようかなって」
『そうか。なら俺達は俺達でやることがあるからあとでメタリカのおっさんに食堂を案内してもらえ。そこで待ち合わせだ』
「りょーかい」
放送が切れる。俺はメタリカが復活するまで、この学園に来るまでのことを振り返った。
今の名前はアッパー。この学園に来る前の名前は斉藤広樹。俺は捨て子だった。
自分が捨て子だと分かったのは俺が8歳の時に両親が他界しその遺品の中に自分の出自に関する手紙が綴られていたからだ。
もちろん俺はショックを受けた。だがそれだけだった。両親が俺のことを本当の息子と思って育ててくれた。義理の妹が変わらず俺のことを本当の兄のように慕ってくれた。それだけで十分だと当時8歳だった俺はそう思った。
そのあと俺達は祖父母からの援助で生活していた。8歳の子供だが両親と一緒に家事の手伝いをしたため問題なかった。
それから12歳の頃、ある家から妹のまゆりが養子にと連れて行った。どうやらまゆりはその家が必要としていた素質を持っていたらしい。俺がそのことを聞いてもはぐらされたが手紙による文通は認められた。
そうしてまゆりと文通して生活を送り時が流れて高校二年の夏休み明け、ずるずると状況に流されてこの学園に来た。
(超能力ね……随分と不思議な世界に迷い込んだな……俺)
ここまで振り返ると俺はなにやらノイズのような音を聴く。起き上がってノイズの音源を捜すとメタリカの死体が目に入る。
俺はその死体に近づいてみると気付いた。メタリカの死体がテレビのノイズのように明滅していたのだ。
やがていくらか明滅していると死体が消え、瞬時に首が繋がった元の状態のメタリカがその場に出現した。俺はその場で立ち止まって様子を見ているとメタリカの目蓋がゆっくり開く。
「っかぁ〜……酷い目にあったわい」
「おお……!マジで復活した……!」
メタリカは首をポキポキと鳴らしながらこちらに近づいてきた。
「色々言いたい事はあるが一先ず、試験終了じゃ」
「ありがとうございましたー」
そう言って俺はメタリカ先生に頭を下げる。頭を上げるとそこには目を見開いたメタリカ先生の顔があった。
「何驚いてるんだ?メタリカ先生」
「い、いやお主が礼を言って頭を下げ、尚且つ先生と言ってもらえるとは意外と思ってのう……」
「そうか?生徒が先生に礼儀を尽くすのは当たり前だろ?」
「お主から礼儀という言葉が出て来るとはのう……」
「心外だな。一応前の高校ではそれなりに優等生だったんだぜ?」
「人は見かけによらないというのはこのことか……それじゃワシに着いて来い」
「あっそうだ。サイキ達と食堂で待ち合わせしてんだそこに案内してもらえるか?」
「安心せい。ワシ達も食堂に向かう所じゃ」
そう言って歩き出すメタリカ先生。俺はそこに黙って着いていった。
しばらく歩くと俺はメタリカ先生に聞く。
「なぁメタリカ先生、聞きたい事があるんだ」
「なんじゃ?」
「俺はあんた等の疑念を晴らせたか?」
「………」
俺は分かっていた。戦う前からメタリカ先生から向けられる疑念と脅威の眼差しに。
俺は自分の戦い方は異常だと断言できる。だがそれ以上に俺は戦いの最中に笑っているという異常な行為をしている。つい数週間前までは普通の高校生だとは程遠い精神構造だ。
そのことにメタリカ先生は脅威だと思ったのだろう。あの戦いの最中に表に出る残虐性、狂気的だといえる精神性が自分達の生徒に向かないかを。
だからあの試験でメタリカ先生は俺を試していたのだ。
「……正直に言って、ワシは未だにお主の事を脅威だと思っておる」
「………」
「だがな、この戦いでワシは分かった事がある。確かにお主は戦いの時に浮かべている笑みは相手を徹底的に嬲るという物じゃった。じゃがその眼差しは違うものを浮かべていた」
「違うもの?」
「……遥昔にワシらが学園長と共に侵略してくる敵と戦争をしていた時代、その敵兵士の中にワシらに家族や親しいものを殺されたという者がいての、そやつ等全員憎悪の眼差しをしていたのじゃ。丁度、お主がワシに向けていた眼差しと同じようにな」
絶句するしかなかった。俺が憎悪の眼差しをしていただと?俺は生きてきた中で誰かを恨んだことはなかった。ましてや今日初対面であるメタリカ先生にそのような眼差しをするはずがないのだ。
「そこにはただただ目の前の敵を憎んでいる目じゃった。お主の様子を見るにそれは無意識だということは分かっておる。だからお主の扱いは敵対しなければ大丈夫だろうという結論が出たのじゃ」
「そう……か」
そこまで言ってメタリカ先生はそこで立ち止まった。どうやら食堂に着いたらしい。
「そこまで気負うことは無いぞアッパーよ。ここは超能力学園、能力を持つ生徒を保護し教育する場所じゃ。お主の様な問題を抱えた生徒もいる。お主はここでたくさんの事を学び、問題を解決していけばいい。さぁ扉を開けるのじゃ、その先で皆が待っておるぞ」
「……ククッ、ハハハハ……こんなバレバレなサプライズ開けなくても分かるぜ……」
「なんじゃ、分かっておったのか」
「俺はどこぞの鈍感野郎じゃないんだぜ?これぐらい楽勝だよ……でも、まぁありがとうな」
そう言って俺は扉に手をかけ勢い良く開く。これから来る日常に思いを馳せながら。
『超能力学園へようこそ!』
「あっ、ちょ!クラッカーの量多すぎだろ!クソッ出られねえ!!」
「あっゴメン!大丈夫!?」
「兄者ッー!?死んでは駄目でござるよー!?」
「だから俺はクラッカーの量減らそうって言ったのによ……」
「言い訳しないで早く助けろー!!!!」