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ブーストアッパー (旧版)  作者: クマ将軍
第二章 超能力学園
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第3話 試験という名の実戦 前編

 メタリカ。

 俺はこの名前のことを知っている。確か、パンフレットに載っている武勇伝から知った。

 曰く、敵から皆を守る鉄壁の盾。

 曰く、皆の勝利のために道を切り開く最硬の矛。

 その男が今、俺の目の前にいる。


 ―――その筋肉隆々の外見に似合わないスーツを着て。


「一応俺、あの武勇伝のこと結構好きだったのに……幻滅だよ……」

「時の流れは残酷じゃな」

「あんたに言われたくねーよ」


 そんな事が起きて話を脱線しかけたが、俺達はようやく話を元に戻す。


「それで『鬼神』ってなんだ?」

「『鬼神』というのはじゃな……あの時お主がエネミーと戦った際に見せた笑みがあまりにも酷くて、その容赦ない戦い方と相まって『鬼神』と呼ばれることになったのじゃ」

「おいちょっと待て。その言い方だとお前達もあの時の戦いを見ていたということになるが……いや、そうか、学園長か」

「意外と察しが良いのう……」


 あの学園長のことだ。きっとクラス全員に俺の映像を見せて反応を楽しんだんだろう。


「まぁ学園長はクラス全員じゃなくて、全校生徒の前で見せたんだけどな」


 サイキが止めを刺しやがった。


「ちょっとお前黙っててくんない?」

「八つ当たり!?」

「貴方達やめなさい。それではメタリカ先生、さっそくで悪いのですがアッパーに試験をお願いします」

「そうじゃな。ではアッパーよワシについて来い」


 メトリーに咎められた俺達はメタリカと一緒に訓練館の中央に歩いていく。


「ほれ、お前達は観戦所に行きなさい」


 メタリカは俺以外のクラス全員にそう呼ぶ。

 今ここにいるのは俺とメタリカの二人になった。


「そういえば、試験は何をするんだ?」


 もっとも、訓練館という能力の訓練をするという場所に来たことや、この広い場所に移したことを考えれば自ずと答えは分かるが。


「フン。ワシが答える前に自分で分かっとるじゃないか。鏡があれば今のお主の顔を見せてやりたいのう……」



 ―――その戦いたくて戦いたくて仕方が無い、獰猛な笑みをな。



 そう告げると同時にメタリカから放たれる濃密な『なにか』。

 背中に冷や汗をかき、感覚を強化していないにも拘わらず身の毛がよだつほどの『なにか』。

 メタリカの顔を見る。瞬間、俺はこの身に受けている『なにか』を理解した。


「ハッ!なんだ……おっさんも同じじゃねえか……」


 それは『殺気』。メタリカも俺と同じかそれ以上の獰猛な笑みを浮かべていた。


 強化の能力を発動。感覚、身体能力、そして成長速度を強化させる。

 この戦い……ただの試験じゃ終わらせない。メタリカの技術、経験を盗んでやる。


「それでは……試験を始める」


 瞬間、同時にその場で構える二人。

 俺はアクション映画で見た構えの見様見真似。

 一方、メタリカの構えはその経験から来る構えなのか、安易に近づいてはならないと感覚が教えるほど。


 ―――先に動いたのは、メタリカだった。


「フンッ!!」


 感覚を強化してもメタリカの動く速度は早かった。

 気付いた時には俺の目の前に巨大な拳が迫って来ていた。一瞬驚いた俺だが迫って来る拳に両腕をクロスさせて防御した。


 ―――防御して、後悔した。


(グッ重いッ!!そして―――硬いッ!!)


 強化された感覚によりメタリカの一撃を受けた両腕の状態が鮮明に分かる。

 筋肉断裂、血管損傷、複雑骨折、そこまで分かって俺は自分の腕の状態を無視した。

 たとえ分かっていてもどうにもならないからだ。俺の腕は使い物にならない。

 強化された感覚により痛覚も増大されたため、あまりの激痛に絶叫を上げそうになる。

 絶叫を上げる前に痛覚耐性を強化。多少の痛みは治まったが未だに痛い。

 俺の状態を知っていながらも、段々と増していく拳の連打。


(相手の攻撃を受けちゃ駄目だ……相手の動きを、一挙一動を、筋肉の動き、重心の動き……なんでもいい、全神経を研ぎ澄まし、予測して最小限の動きでかわす……ッ!!)


 痛みにより発生するアドレナリンのせいか集中力が増大していく。

 重心を下半身に。最小限にかわすのは上半身。腕は激痛を紛らわすために、ぶら下げる。

 何発か避ける内に腕の痛みが和らいでいく。ふと腕を見ると、外に飛び出していた骨が無くなり傷は消え掛けていた。


(これは……俺の能力が勝手に腕の回復力を強化しているのか?)


「ほう……腕が治りかけているのう……」

「!?」


 そう言ったメタリカは突如攻撃を止め、距離を取る。


「……どうしたんだ?」

「何、お主の腕が治るまで待機しようと思ってな」

「…………」

「有り難く受け取ったか。正直者よのう……では治るまでに一つ、この訓練館のことについて説明をしよう」

「訓練館だと?」

「この訓練館はな、他の施設と違って一つ特別なものがあるんじゃ」


 訓練館にある特別なもの。あの姉妹から聞いた話では能力に対する耐久度が桁違いだと教わった。その他にもあるのか?


「それは学園長が持つ時空結界の技の中でも強力な物の一つ、リワインドタイムという結界がこの訓練館にだけ張られておる」


 リワインドタイム。日本語に訳すと巻き戻す時間。


「結界の効果は結界内にある生物無生物問わず、損傷した前の状態に戻すという内容じゃ」

「それじゃまさかこの腕が治りかけているのも……」

「安心せい、お主の腕が治りかけているのは紛れも無いお主の能力によるものじゃ」

「どういうことだ、この訓練館にはあんたの言う結界が張られているんだろ?」

「そうじゃ、訓練館に張られている結界の内部にはあらゆる怪我や致命傷、果ては事故による死亡等も元に戻すことが出来る。今やってる試験以外はな」


 試験の目的は、生徒の能力を試しそれに見合った環境を探すこと。

 だが、試験の最中に結界の能力で傷を治していたらその生徒の本来の力を見極めることは出来ない。

 故に試験の間は結界による治療はない。


「と言っても、安心せい。死亡した場合はちゃんと生き返るからの」

「……一つ聞いてなかったことがあるんだが」

「何じゃ?」

「この試験はどうやって終わる?」

「簡単なことじゃ、―――どちらか一方が死ねば試験は終わりじゃ」


 そう……言った。

 この試験を終わらせるには一方が必ず死を経験しなければならないと。


「たとえ生き返ると言っても、人は死に対して慣れる事は無い。死に対して恐怖を感じないものはいない。身体から血の気が引き、段々と身体が脳からの命令を受けられず動けなくなる感覚。刻一刻と死へと向かう恐怖。死は孤独じゃ。己が死んだら今を生きている親しい友人はどうなる。家族は?恋人は?己がもうそのような人たちと会えない絶望に叩き込まれるのじゃ。この話を聞いてお主はどう思った?怖気づいたか?この試験を止めたくなったか?だったら何も抵抗せずに其処で突っ立てろ。ワシが苦しまずに一思いに殺してやろう。人は死に近ければ近いほどより命の大切さが分かってくる。その事をワシが教えてあげよう」


 ―――殺される。


「俺の答えなんて分かってる癖に……」


 ―――上等だ。


「逆に殺してやる」


 メタリカは確かに命の大切さを教えてやると言った。そこに嘘偽りは無い。

 だが、それは他の生徒の場合のみ。俺に対してそんなことは微塵も考えていない。


 腕の回復は終わった。両者構える。


 メタリカの話を聞いて怖気づいた?

 ――違う、むしろ聞いて強化の力がより研ぎ澄まされた。

 メタリカの話を聞いて人の死について理解した?

 ――ああ、理解しているとも。それも話しを聞く遥昔に理解しているとも。

 たかが試験で何を必死になっている?

 ――違う、これは試験なんかじゃない。

 俺の戦い方なんて、能力の内容だって、こいつらは見ていた。

 俺がどのカリキュラムに適しているのかはもう決定されていた。

 試験をやる意味。それは―――。


「行くぞッ!!小僧ォォォッ!!」

「来いやジジイィィィッ!!!」


 メタリカは一瞬で距離を詰め、一撃を放って来た。

 俺はその攻撃を後ろへと受け流し、メタリカの後頭部に回し蹴りを入れる。


「ヌウッ!?」


 反撃されると思っていなかったのか、もしくは蹴りが予想以上に重かったのかは分からないが呻く様な声を上げて一瞬よろめいた。

 よろめいた隙を逃さずに一撃を与えようと思ったが、


「舐めるな小僧ォ!!」


 右側から裏拳が放たれてきた。

 即座にしゃがんで回避、頭上に裏拳が通過する。

 すると今度はメタリカの左足から蹴りが放たれる。蹴りがこちらに当たる前に距離を詰め、放たれて来た蹴りを掴む。そのまま蹴りの勢いを利用しメタリカの身体をぶん投げた。

 メタリカは受身を取ったが俺はそのまま追撃し相手の頭に飛び膝蹴りを入れる。

 倒れこむメタリカ。俺はメタリカが起き上がる暇を与えないように手首を持って右腕の関節に蹴りを入れるが、骨が折れない。

 ふと、持っているメタリカの手を見ると手の皮膚が黒く変色していた。

 疑問に持った俺は一瞬の隙をメタリカに与えてしまった。


「ヌウンッ!!」


 吹き飛ばされる俺。流れる景色の中で平衡感覚を強化し受身を取る。


「やるではないか小僧」

「なんだ?その黒いのは?」


 俺の質問を聞くと、突如メタリカは自分の着ているスーツを破り捨てた。

 露になる肉体。そして、メタリカの右腕は黒く変色していた。


「なるほど……それがあんたの能力か」

「さよう、これがワシの能力……『硬化』じゃ。どんな能力かは……自分で確かめろ」


 瞬間、黒く変色した右腕を中心に身体全体を黒く侵食していく。

 やがて顔まで到達すると、身体全体に赤いラインが浮かび上がり目は赤く光る。


「さぁ!どうした小僧。ワシに見せてみろ。あの時戦ったエネミーみたく、容赦の無い戦いを見せてみろッ!!小僧ォォッ!!!!」


 ―――戦いはまだ始まったばかりだ。


「お望み通りにしてやるよ……ジジイィィッ!!!!」

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