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ブーストアッパー (旧版)  作者: クマ将軍
第二章 超能力学園
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第10話 無能共に断罪を 中編

 山奥に続く道にそれはあった。

 和風の巨大な屋敷、それが烏丸家の屋敷。そしてまゆりが住んでいる家。

 俺は学園長から渡された地図を頼りにここまで来れた。もし学園長が烏丸家に続く道を教えてくれなかったら、俺はここに来れなかっただろう。

 それほどまでの困難な道筋。木々が陽光を遮り、人間が整備した道も無く、獣道も無かった。そして道中、俺は三回も橋が落ちた崖を見かけ、俺は自分の身体能力を強化し飛び越えた。そしてその道の先を行くと漸く烏丸家の屋敷に到着したのだ。

 だが俺がその屋敷に近づくと瞬間、俺は黒いスーツを着た10人ぐらいの人たちに囲まれる。その手には刀があり切っ先は俺に向けられていた。


「答えろ!貴様は何者だ、どうやってここに来れた!」

「俺の名前は斉藤広樹。ここに住んでいる妹、烏丸まゆりに会いに来た」

「ふん……ここに烏丸まゆりと言われる人物はいない。もっとマシな嘘を言え!」


 その言葉に訝しむ俺。どういう事だ、確かに学園長はまゆりは烏丸家にいると言っていた。学園長が嘘を言う筈もない。

 まゆりは養子に引き取られた。それなら俺の間違いではなければ今の名前は烏丸まゆりだ。

 つまりこいつは嘘を言っているということ。だがその目には嘘を言っている様な感じはなかった。

 その意味の成すところに俺は気付く。まさかこいつらは―――。


「隊長。もしかして侵入者が言っているのはあの小娘のことでは?」

「ん?……ああ、なるほど。貴様、あの斉藤・・まゆりの兄だな?」


 斉藤まゆり、それが烏丸家に引き取られる前の名前。

 だがこいつらは未だにまゆりのことを旧姓で呼んでいる。つまり、こいつらはまゆりのことを烏丸家の一員と認めていないということ。


 ……こいつらはまゆりのことを家族と見ていない。


 瞬間、俺の中から言いようのない感情が溢れてくる。


「ひっ!?な、なんだその笑みは!?」


 俺はその言葉に自分の顔を触れる。どうやら無意識のうちに笑みを浮かべていたようだ。

 だが笑みを止める事は無い。溢れ出す感情も止められない。

 学園長からの依頼もある。この烏丸家を潰せと。


 ―――いっそのこと今すぐにでもコイツ等から先に……。


 と思った瞬間。


「やめいッ!!!」


 大きな声が辺りに響き渡る。見れば俺の周りを囲んでいる男達はその声に見覚えがあるらしく直立体制をしていた。

 すると屋敷の入り口から一人の老人、その背後にはまゆりと見知らぬ初老の女性が付き添ってやって来た。


「ワシが現烏丸家当主、烏丸玄十郎じゃ。如何様に此処に来た小僧」




 ◇




 そのあと俺を囲んでいた男達は此方に睨み付けながら去り、俺は使用人に烏丸家の来客室へと案内された。

 俺はジジイの対面に座り、ジジイの横に初老の女性とまゆりが座る。今ここにいるのはこの四人だけだ。


「さて話せ」


 開口一番これである。明らかにこちらを舐めている眼差し。話し方が命令形であるからさぞ自分の方が上だと言外に言っている様な様子だ。


「俺の名前は斉藤広樹。そこにいる斉藤まゆりの兄だ」

「ほう……まゆりの兄か。では此処に来たのもその関係か?」

「そうだ。明日はまゆりが16歳になる誕生日、聞くとどうもまゆりが結婚するという話じゃないか」

「そうじゃ。……だがそれがどうした?祝いの言葉を送るために来たのか?」

「冗談はジジイの頭にしろ。髪が薄くなるにつれて耄碌したのか?」

「兄ちゃん!?」


 俺はジジイの言葉に挑発を返す。その挑発に妹のまゆりが驚愕の声を出す。よく見るとまゆりの隣に座っている女性も驚いているようだ。


「小僧……どうやら己の立場を理解していないようだな……死にたいのか?」


 立ってこちらを脅すジジイ。俺もジジイに負けず立って言い返す。


「それはこちらの台詞だ。俺が此処に来たのはまゆりを連れ戻すためだ。邪魔するなら殺すぞ?」


 最もこの家を潰す依頼を受けているため、どの道殺すが。


「邪魔だと?まゆりはワシ等が養子にと引き取った。そして養子であるまゆりを結婚させるのもワシ等の勝手じゃ。寧ろ邪魔をしているのは小僧じゃぞ!」

「誰に断ってまゆりを結婚させるだって?拉致同然に養子を取って挙句にまゆりの家族である俺に住所や電話番号も教えず、気付いた時にはまゆりが結婚するということになってる!妹の未来を勝手に決めて邪魔しない兄はいねぇぞ!」

「貴様の妹の未来でワシ等一族の未来が永らえるのじゃ!何処も悪くない、いや寧ろ光栄の事じゃぞ!」

「そんなもの糞食らえだ!例え、拉致同然に養子を取ったとしても俺達二人で暮らすよりお前等の家にいた方が裕福に暮らせると思ったから我慢してきた!だが結果はどうだ!?俺はお前達の未来のために我慢してきたんじゃない!まゆりの未来のために我慢してきたんだ!」


 口論する俺達。だがどちらも一歩も引かない。俺は妹であるまゆりのために。糞ジジイは自らの一族のために。

 だがその胸に込める気持ちは断然こちらの方が上だ。こんな自分達だけの事しか考えない私利私欲の気持ちなんかに負けてられない。


「貴様がどう言おうとまゆりの結婚は決定事項だ!さっさと失せろ!貴様の様な小僧をワシの屋敷に招き入れたのは間違いじゃ!!」

「こっちはまゆりをお前達にやったのが間違いだ!!いいか?お前達に期限をやる。明日、考えを改めなければお前達を潰してこの家を破壊する!」


 俺の宣言にこの部屋にいる俺以外の全員が驚く。


「貴様正気か?誰が、誰の家を壊す、じゃと?」

「俺が、お前達に跡継ぎを産ませない様に、全員の玉を潰して、全員平等に殺して、家を壊す」


 俺の狂気を抱かせる発言に一瞬、この部屋の誰もが唖然し、沈黙する。

 その沈黙を破ったのは先に我に帰ったジジイだった。


「……クッ……クックック……やってみろ……」


 俺の言葉に嘲笑し、挑発する。その顔は血管が浮かび上がるほどの怒りが宿っていた。


「やってみろ若造がァ!!この屋敷には何百人ほどの重力の能力者がいる!!やれるものならやってみろォ!!明日とも待たずに今この場で貴様を殺すことが出来るのじゃぞッ!!」

「ああ、やってやるさ。だが俺は約束を反故にしない男なんでね。きっちり明日まで待つさ、まゆりの部屋でな」

「えっ!?」


 突然の振りに驚くまゆり。今日だけで俺はまゆりの驚愕を何回も見たな、と楽観する。


「そんなことワシが許可するわけ―――」

「いいか?明日だ、明日までに待つ。それまで良く考えろよ?」


 相手が言い切る前に遮る。それも自分の殺気を全力で強化して乗せながら。

 すると俺の全力の殺気を受けたジジイはその場で尻餅をついた。顔は青ざめ、足も震えている。

 俺はそのジジイの様子を見て、嘲笑いながらこの部屋に出る。

 そんな俺にまゆりは急いで着いてきた。


「に、兄ちゃん!!なんでそんなことをしたの!?」

「俺のためでもあり、お前のためでもある。早くお前の部屋に案内しろ」

「で、でも!」


 暫く歩くと俺が出た来客室から叫び声が聞こえる。

 どうやらあまりの悔しさや怒りが限界を超えたのだろう。

 俺はその様子にちと爽快の気分になったが、まゆりの部屋に向かう途中、いくらか数人すれ違う。

 しかもそのすれ違った全員俺を含めてまゆりに蔑視の視線を向けていた。

 そのことにまた俺のストレスが溜まっていったが、まぁ全員ジジイと同じように強化した殺気を浴びせたが。


「ごめんね、兄ちゃん。私の所為で不愉快な思いにさせちゃって」

「いいさ、お前のほうが俺より長く不快な思いにさせた、寧ろ謝るのはこっちだ」


 だがそれでもまゆりの表情は晴れない。

 まゆりは12歳の頃に連れて行かれ、この四年間さっきみたいな視線を受けながら過ごしていたんだ。

 この屋敷では自分の立場はかなり低い。住むうちに自分の感情、思いを押し殺し、相手の様子を窺いながら過ごす毎日。

 そして相手の機嫌を損なわないように嘘を重ねる内に嘘が上手くなっていった。


「お前はもう気にしなくてもいい。もうあいつ等に遠慮することはないんだ。俺が来たからには大丈夫だ必ずお前を連れ戻す」

「……うんわかった」


 それでも急に変わることは出来ないだろう。あと時間を掛けるだけだ。




 ◇




 ―――夜。

 俺は今まゆりの部屋の前にある縁側にいる。

 本当はもう寝ている時間だがあまりにも鼠・が五月蝿く、そいつらを処分してここで休憩していたのだ。

 そして暫くするとある人物がやって来た。


「お隣いいですか?」

「……お好きにどうぞ」


 やって来たのは昼に出会った初老の女性だ。


「貴女は確か……喜美子さんだっけ?」

「そうです……まゆりから聞いたのね」


 まゆりが寝るまでここで過ごしていた事を話をしていく内に分かったことがあった。

 幸いなことにたった一人だけだがまゆりのことを親身になってくれる人物がいたのだ。

 烏丸からすまる喜美子きみこ。それがこの女性の名前だ。


「実は貴方にお願いがあるのです」

「お願い?」

「はい……必ずまゆりを連れて行くことです」

「そこは当たり前ですよ。……寧ろまゆりから喜美子さんと一緒に連れて行くようにお願いされましたが」


 そう、まゆりは俺に喜美子さんを連れて行くようにお願いされた。それほどまでに喜美子さんはまゆりにとって大切な人物だと分かる。


「そう……でも無理ですよ」

「理由を聞いても?」

「貴方にこの烏丸家を潰すことは出来ない」

「…………」

「例えこの烏丸家が堕落しようとも未だにその古くから伝わる強力な能力は健在です。しかも敵はこの屋敷全員です貴方一人では彼等を殺すことは言わずもがな、彼等から逃げることも出来ません」

「それじゃどうしろと?」

「私が囮になります。その隙に貴方達は逃げてください」

「断ります」

「なっ!?」


 即答で拒否する。拒否した理由は依頼のためでもあるし、まゆりのためでもある。そして何よりも俺が許さない。


「何故です!?貴方だけでは彼等に敵いません!」

「そこですよ。前提条件が間違ってる。何故俺があいつ等に敵わないと決め付けるんです?」

「貴方は何も知らない!まだこの屋敷の恐ろしさを知らないからそんなこと言えるのです!」

「大丈夫です」

「しかし!?」

「大丈夫ですよ」

「……これ以上言っても変わらないのですね」


 漸く諦める喜美子さん。そう俺は変わらない。自分の言ったことは必ず守るし、お願いされたことは必ず果たす。それが俺だ。


「ねぇ喜美子さん。なんで貴女はそこまで俺たちの事を?」

「……まゆりに、私と同じ目に遭わせて欲しくないのです」


 喜美子さんはポツポツと自分の過去を語り始める。


 旧姓、有島喜美子。彼女がこの烏丸家にやってきたのは30年前。

 当時、25歳。彼女はそれまで付き合ってきた彼氏と結婚する日にちを決めていた所だった。

 小学校から知り合い付き合ってきた男性と結婚。彼女は今幸せの真っ只中だった。

 ところがある日、彼女は事故に合う。目が覚めるとそこは病院の一室。傍らには愛しの男性が心配するような顔をしていた。

 彼女が生きていたということに喜びを上げた。だがその日から彼女の人生は変わった。

 彼女に能力が発現した。どうやら事故によりきっかけで能力が目覚めたらしい。そしてその能力は後に悲劇を生む『重力』の能力だった。

 最初は困惑した。だが彼はそれでも変わらなかった。どんな時でも彼女を愛していたのだ。


 だがある日。彼女達の下にやってきた。烏丸家の人たちだ。そして運が悪いことに当時、『重力』の能力を持っているのは彼女だけだった。

 必死の抵抗むなしく、彼女は連れて行かれた。変わり果てた彼の姿を見ながら。


 それから地獄だった。好きでもない人と結婚され子供を産まされた。

 最初は苦痛だった。愛しの彼を殺したこの家にも、我が子にも、憎悪した。

 だがそれでも子供が育っていくうちに憎しみの念は薄れる様になった。


「可愛い私の息子……一人だった私を元気付けてくれる血を分けた私の本当の家族……だった」


 ある日、その子供は事故に合い能力を失った。それでも彼女は愛した。

 いつか彼女が能力を覚醒しても変わらず愛してくれた彼の様に。

 だが烏丸家はそれを許さなかった。

 能力はきっかけさえあれば覚醒する可能性がある。それに着目した烏丸家はその子供に非道で過酷な実験を施した。より過酷であればあるほど能力は覚醒しやすいからだ。

 だがその幼い体での過酷な実験を施せばどうなるかは一目瞭然だった。

 そしてその僅か数日後、子供は死んだ。


 それから毎日、彼女の苦痛は続く。幸か不幸か子供を失ったショックで能力も失った。それにより新しい子供と強引にせがまれる事は無かった。


「それから数年の間、『重力』の能力を持つ子供は現れなかった」


 斉藤まゆりが『重力』に目覚めるまでは。

 ある日、烏丸家に一人の子供がやって来た。

 彼女は思った。ああ、ついにこの時が来たのかと、次はこの子供が私と同じ様な目に遭うのかと。

 彼女はその子供を育てる事に決めた。せめてその時が来るまで幸せでいて欲しくて、その子供を私みたいにこの大きな屋敷で孤独にさせない様に、私がまゆりの味方になろうと。それしか自分の道は残されてなかった。


「…………」

「…………」

「……喜美子さんは今でも烏丸家の事を恨んでますか?」

「恨んでいるに決まっています……何度、この家が無くなればと考えたことか」

「なら大丈夫ですよ」

「えっ?」


 そう大丈夫だ。この家を潰す理由が益々強固になった。

 己の使命を忘れ、先祖の功績を私利私欲に使い、人の未来を汚す。

 元より遠慮することは無い。ただ、あいつ等の最期が変わるだけ。


 ―――俺の中に宿る『何か』が囁く。


「一体何を……?」

「明日、あいつ等がどんな答えを出そうとも俺がやることは変わらない」


 ―――敵は徹底的に潰せと囁いてくる。


「明日、烏丸家はこの代で終わる。いや、」


 ―――この手で終わらせる。


 今、俺の表情は笑みを浮かべているだろう。

 あの時エネミーと戦った時みたいに。

 あの時メタリカと戦った時みたいに。


「あいつ等に明日の猶予を与えたのは考えを改めさせることじゃない」

「…………」




「あいつ等に明日までの残りの人生を謳歌させるためだ」

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