第1話 変わり始める日常
日本のとある場所、とある高校で、一人の少年が二人の少女に出会うことで始まる物語。
あの時、自分は友人と一緒にテストの結果を見せ合っていた。
「やったぜ!また点数上がった!奇跡の98点だ!」
「マジかよ……俺はまた同じ点数だよ。なんでそんななりして点数高いんだよ」
「そこはほら……俺の記憶力が良いって事で」
「いや記憶力が良いって限度があるだろ?広樹は入学した時、一応は記憶力良いって分かってたけどさ。それでも前回の期末までは80点が限度だったろ?勉強してない癖に」
そうそう、コードネームで呼ばれている今と違ってあの時は周りから本名で呼ばれてたっけ。
たしか俺の本名は斉藤広樹。当時は16歳。今じゃ名前は忘れたけど高校に通ってた。
この時はまだ普通だった。二年の夏休み明け以降は俺の記憶力が何故か上がったこと以外は。
「はいよジュース。くっそまた俺の金が減った」
「しゃあない。点数で負けたほうが悪いからな」
「へいへい……。おっ?広樹、またあの転校生がお前の事を見てるぞ」
「えー?マジかよ……あっ」
「またか。お前が気づくとすぐ逃げるんだよな」
変わったこと。それは夏休み明けに転校生が来たこと。それも二人。
一人は切れ目で、黒髪の短めのポニーテールの女子。名前は水島真紀。
もう一人はタレ目で同じく黒髪の女の子。ただし腰まで届くストレートだけど。名前は水島沙織。
二人は双子の姉妹だった。だけど共通しているのは髪の色、苗字、あとどちらも美少女。それだけ。
それ以外は、何もかも正反対な二人だった。
でもいつからか双子の片割れである水島真紀が影から俺の事を見ていた。
そして今みたいに俺が気づくと何処かに逃げる。
「はぁ〜……その内声をかけるか。」
その時の俺はそう考えていた。仕方が無い。変化していたのは転校生と俺の記憶力だけだから。
だけど俺が明確に変化していると認識したのはある日のこと。
その日は学校帰りで友達と一緒に卓球していた時。
「…………」
(おかしい、俺こんなにラリー長く続いたっけ)
いつもは俺が打ち返すのに必死だった。俺は素人だった、対して俺と打ち合ってる友達は卓球部に所属していた。
俺とその友達は明確な力量差があったはずだった。なのに今は長時間ラリーしていた。
相手を見る。相手の目線、鼓動、どこに打ち返すのか、フォアハンドか、バックハンドか、全て予測できていた。
次第に周りがゆっくりになっていく感覚。自分の身体がそのゆっくりになった時間の中でも行動出来る。
友達がスマッシュを放ってきた。だがその予測は出来ていた。自分もスマッシュで打ち返そうとして力を込めて打った。
パァンッ!
つもりだった。
俺のラケットがピンポン球に当たった瞬間、球が弾けたのだ。木っ端微塵に。
その日は解散して家に帰った。
思えばこの時なのかもしれない。俺が自分の力を意識しだしていたのは。
SIDE ???
「こちら、サイキ。予測通り対象は自分の能力を意識しだした模様」
『報告ご苦労様、サイキ。監視していることはバレなかった?』
「か、完璧だ」
『はぁ〜……貴女って尾行下手くそだもんね……』
「ち、ちがっ!?俺は下手くそじゃなくて苦手なだけだ!!」
『まーた「俺」って……その口調は女の子としてどう思うの?』
「へっ、それが俺なんだから問題ないぜ」
『はいはい、それじゃ引き続きよろしく頼むね、サイキ』
「了解了解っと」
その時の俺は知らなかった。俺の知ってる日常は既に変化していることを。