~守護者との契り~
「……守護者?」
御琴は、白夜と名乗った男を階段から見下ろしながら呟く。
───"守護者"。それは巫女を妖から守る存在。
その責任と役目がゆえに、守護者となる者は極めて巫女に従順でなおかつ、巫女を守るだけの力がある貴族の妖のみとされている。
しかし、守護者が守護者として巫女に仕える場合、巫女自身の合意が不可欠である。
守護者は、自らの意志で守護者として在ることを望み、巫女は、己の守護者が守護者で在ることを望む。
両者が自ら望まなければ、契りは結ばれないのだ。
しかし今、御琴が白夜を守護者として認めるのなら、契りは成立する。
だから御琴は────
「断る」
そう、告げた。
「大方、お母様が寄越した守護者というところか……。君が何を言われてここに来たのかは知らないが、わたしに守護者は必要ない」
目を見開く白夜を真っ直ぐと見つめ。
強い口調で言い放つ
「……そう、ですか。なら……」
しゅんと目を伏せる白夜は、スーツの内ポケットをごそごそと探り、取り出した何かをこちらに差し出す。
「これで僕を……」
「待ちなさい」
思わず白夜の言葉を遮った御琴は、差し出されたそれを見て顔を引きつらせる。
「なぜ短刀を……」
「御琴様の守護者としてお側で仕えることが出来なければ、僕の生きている意味はありません!どうかその手で僕を……!」
御琴は頭を抱えた。どうやらこの白夜という男は、そうとうな変人らしい。
「命を粗末にする人間は嫌いだ」
「申し訳ありません……。ですが僕の存在意義は御琴様にお仕え……」
「だがそれも断る」
「っ……」
御琴は踵を返し、
「とにかく、わたしに守護者は必要ない。……悪いが他をあたってくれ」
一歩踏み出したその時。
「あれぇ~?」
可愛らしい声が聞こえ、御琴は背後を振り返る。
歳は自分と同じくらいだろうか。桃色の髪をした可愛らしい少女は、こちらを見つめながら微笑む。
「もしかして、今日引っ越して来るって言ってた新入りさん?」
「あ、あぁ、そうですが……」
「あー!やーっぱり!……はっ、どうしよう詩織ちゃん!まだ歓迎の準備が……」
少女の隣に立つ詩織と呼ばれた女性は、慌てる少女とは裏腹に落ち着いた様子で少女をなだめる。
「ほらほら、慌てないの」
その落ち着いた雰囲気から、おそらく彼女は成人済みだろうと察しがつく。少女と肩を並べる姿は、まるで仲のよい姉妹のようだ。
「騒々しくてごめんなさいね。あなた、南条御琴さんよね?私達もここの住人なの」
女性の言葉を繰り返すように呟く。
「住人……」
「そう!でね、今日御琴ちゃんの歓迎パー……むぐっ」
少女が何かを言おうとした時、女性が少女の口を押さえてそれを制する。
「くれはちゃん、それはまだ秘密よ」
「あっ、そうだった!」
(なんなんだ、いったい……?)
何やらひそひそと話している二人の様子に首を傾げていると、
「詳しい話はまた後で。御琴ちゃんも荷物の整理とか、色々準備しないといけないことがあるでしょ?」
「そうだね。準備が出来たらまた呼ぶね」
そう言いながら、二人は手を振って館の中へと入っていく。
「……準備?」
御琴は少女が言った言葉に首を傾げながらも、キャリーケースに手を伸ばそうとし────
「お部屋までご案内致します」
伸ばした手がキャリーケースに届く前に、白夜がひょいとそれを持ち上げる。
見上げると、彼はにこにこと微笑みを浮かべている。
「一人で大丈夫だ。荷物も自分で持つ」
重なった視線を外すように俯いた御琴だったが、
「では行きましょうか」
「……って、人の話を聞け!」
そんな御琴を無視して、白夜はさっさと行ってしまう。
「まったく……」
御琴は溜め息をついてもう一度空を見上げると、館への一歩を踏み入れた。
今回はちらっと新キャラが出てきました!今後重要人物になってくる…はず?