表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の恋はバッドエンドから始まる  作者: yukine
第一章「二回目の高校一年生」
8/15

07「美里莉衣」

「倒れたって聞いた時はとても心配したんですよ。それなのにスヤスヤと眠っていて、心配して損しました」

校門で生徒が倒れたと聞いて駆けつけてみれば、あなたでビックリしたのです。

その後、琴春が迎えに来てくれましたが、心配で心配で仕事を早退してまでお見舞いに来ちゃったのです。


「すぅー、すぅー。りーちゃん」

「は、はい!何ですか?」

「すぅー、すぅー」

なんだ、ただの寝言ですか。

急に名前を呼ばれたから、驚いて返事しちゃったのです。


「き、キス…」

「ふ、(ふゆ)くん、そ、そんなエッチな夢はダメです〜。でも、言ってくれれば、いつでもしてあげるのに……って、私は何を言ってるのです」

今日の私はすごく変なのです。

朝から動悸が止まらないし、ずっとこの子のことを考えてるのです。


「ん、んん。りーちゃん?」

「お、おはようです。調子はどうですか?」

「ああ、おはよ。絶好調とまではいかないけど、悪くはないかな」

どれぐらいかはわからないけど、俺を心配して、ずっと手を握りながら見守っていてくれたのか。ありがとうな。


「面倒見てくれてありがとう。どれぐらい寝てた?」

「二時間ぐらいかな。私はお礼をいわれるようなことは何もしてないのです」

そんなに眠ってたのか。

まだ少しだけ頭がぼーっとしてるが、動くのに支障はない。

「そろそろ離してもらってもいいかな?」

忘れてるようなので、手を揺すりながら言うと、慌てながら後ろに下がっていった。


「無意識のうちに…迷惑だったのです?」

迷惑なんかじゃない。

夢の中までこの温もりはちゃんと伝わってた。おかげで心がとても暖かい。

「全然迷惑じゃないよ。むしろありがとう」

俺はベッドから起き上がり、身体を軽く動かして、元気なことをアピールした。


「それだけ動けるなら、もう大丈夫なようですね。良かったです」

「心配おかけしました」

大袈裟に頭を深々と下げた。

「本当に心配したのです。これからは体調に気をつけてくださいね。ちゅっ!」

いきなり顔を近づけてきて、ほっぺにキスをして離れた。

しかも、涙目で俺の心配をしてくるとか、これは反則級の可愛さだ。

今すぐに抱きしめたい。でも、俺たちはそういう関係ではない。


「あ、ありがとう。気をつけるよ」

そんな気持ちを押し殺し、そっと頭を撫でた。

「さっきも思ったのですが、急に優しくなるのはズルいのです。今まで私に興味もなかったのに、何でなのです?」

指を組みモジモジしながら、上目遣いで尋ねてきた。


「好きだからに決まってるだろ!」

「ほら、好きな子には意地悪したり、素っ気ない態度とったりするだろ。今までは興味がないフリをしてたんだよ」

しまった。

起きたばかりで、頭が回ってないから本当のことを言ってしまった。


「うそ、嘘です!だって、冬くんは姫ちゃんのことが好きなはずです。こんな嘘は嬉しくないのです」

そう、俺は二人に恋をしてしまった。

いけないと思っていても、二人を同じぐらい好きになっちゃったんだ。


「嘘じゃない!確かに俺は姫奈のことが好きだ。でも、りーちゃんのことも好きなんだよ!!」

この人にだけは嘘はつきたくなくて、つい本当のことを言ってしまった。

これがいい選択だったのかはわからないが、あとはなるようになるさ。


部屋のドアの向こう側で、何かが落ちたような鈍い音がした。

「きっと姫ちゃんです。今の話を聞いて、ショックだったんだと思うのです。私は後でいいので、追ってください」

「でも、俺は…」

「今、どっちかを選べないのなら、姫ちゃんを追ってください」


くそっ、こんな大事な時でも、どっちかを選べない自分が情けない。

「ごめん。ちょっと行ってくる」

「いってらっしゃい。私は待ってますね」

さっき、決めたのに!

何で、何で選べないんだ!!

でも、彼女はそんな俺を笑顔で見送ってくれた。



琴春は二人が家から飛び出ていったので、気になって部屋の様子を見にきた。

すると、一人残された莉衣はベッドの前で両足を抱えて俯いていた。

「大丈夫…じゃなさそうね。今の気持ちを話してみな。そしたら少しは楽になるだろ?」

「ことは〜。私、私ね。(ふゆ)くんのことが大好き。姫ちゃんに取られたくないのです」

私は近づいてきた琴春の胸に飛び込んだ。


「誰にでも優しくするし、優柔不断な男のどこがいいんだ?」

「確かに誰にでも優しいし、優柔不断だけど、それでも彼は私の人生を変えてくれたのです」

あれ?おかしいのです。

涙が…止まらないのです。


琴春は「なるほどね〜。それはあいつにお礼がしたいから、彼女になりたいってことかい?」と言いながら、後頭部を優しく撫でた。

「違うのです。彼を思う気持ちは本物です!」

「はいはい、その目を見れば本気で弟のことを好きなのはわかるよ〜」

改めて言葉にすると、余計にポロポロと涙が出てきた。


私の目元を拭いながらこう言った。

「でもね、私は反対かな」

はんたい?私の気持ちを知っているのに、そんなの酷いのです。

「何で、何でなのです?」

一瞬、声を荒げた私にビックリして、何も言わなかったが、一呼吸すると口を開いた。

「勘違いしないでね。これ以上、莉衣が辛い思いをしてるのを見てられないのよ」


えっ、私のことを思って…

「ことは〜、私はあなたに会えて良かったのです。こんなに優しくしてもらえて嬉しいのです」

「よーしよし、お姉さんが一肌脱いじゃうぞ〜」

「ありがとうです。でも、私の方がお姉さんですからね!」

こうやって、琴春に励まされるたびに高校時代を思い出すのです。

勉強したり、遊んだり、何をするんでも一緒だったあの頃はとても楽しかったのです。


「わかってるって。冗談だから泣くなよ」

「いえ、高校時代の琴春とのことを思い出したら、涙が…」

もし冬くんが同級生だっら、こんな辛い思いはしなかったのでしょうか?

…その答えはおそらく、いいえです。

現実の恋はドラマや小説のように上手くいかないのです。


「あの頃か〜。何も考えないで騒いだりしてたよね。大人になると子供が羨ましくなる時があるよ」

そうかもしれないのです。

さっきは変に大人ぶって、姫ちゃんを追いかけてって言ったけど、本当は行って欲しくなかったのです。

「ですね。大人は色々大変ですからね」


「まぁ、私は自分勝手に生きてるけどね。あー、私だけの王子様が現れないかな」

「ふふふ、それは難しいのです。琴春は外見は良くても中身は問題ありなのです」

「そこは嘘でもさ、そのうち現れるよとか言うべきよ」

たわいもない話をしているうちに、少し元気になれたみたいです。

気を使ってくれた琴春には感謝です!


「お酒でも飲んで、冬弍のことなんか忘れちゃおー!」

「それは困るのです。でも、今日は飲みたい気分なので付き合います」

「冗談よ、冗談。飲みながら、これからの作戦会議でもしようか!」


こうして、莉衣は参謀に琴春を迎え、冬弍を攻略するために動き出した。


茅秋(ちあき)は気配を殺して、莉衣たちの会話をドアの向こうで、電話をかけながら聞いていた。

蓮夜(れんや)、聞いてた?」

「バッチリっす。これからこっちに来るっすよね?」

「もちろん」

「じゃあ、待ってるっす。ちーちゃん」


男は電話を切ると、遠くに見える女の子を指差しこう言った。

「あなたを必ず、冬弍さんとくっつけてみせるっすよ!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ