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俺の恋はバッドエンドから始まる  作者: yukine
第一章「二回目の高校一年生」
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02「出会いと別れ」

俺の恋はバッドエンドから始まる

第一章「二回目の高校一年生」

02「出会いと別れ」


ドアを開けると、幼馴染みの後ろ姿が目に入ってきた。

春風で艶のある黒髪がふわりと揺れていて、ドアを閉めるのを忘れ、見入ってしまった。


姫奈の魅力はなんと言っても、手入れが行き届いたあの黒髪。腰ぐらいまで長さがあるから大変そうだけど、本人はそうでもないよと言う。

そして、人前だと何でも完璧にこなすのに、俺の前だと何故か失敗ばかりをしてしまうところも可愛かったりする。

だからこそ、あの華奢な身体で、背伸びをして物を取ろうとしていると、代わりに取ってあげてしまう。



「…キレイだ」

「そうね、この季節になるとキレイよね。桜」

うちの庭には母さんが植えた桜が生えている。

この桜は琴姉が手入れをしてくれてるおかけで、毎年春になるとキレイな花を咲かす。

「さ、桜っていいよな。いつまでも見てたくなる」


俺は桜じゃなくて、姫奈に言ったんだか、この様子だと気がついてないか。

「桜をいつまでも見てたら、遅刻しちゃうよ」と笑いながら言われた。


遅刻で思い出したが、こんなところで時間を使ってる場合じゃないんだった。

「待っててもらったのに悪いんだが、ちょっと用事ができたから、今日は先に行っててくれないか?」


「えー。私、待ってようか?」

「いや、春になったとはいえ、まだ少し寒し、冷えるだろうから先に行っててくれ!」

「ふーん、冬弍も立派な男の子になったんだね!」

「じゃあ、先に行ってるから、遅刻しないようにね〜」

姫奈は嬉しそうに手を振ると、背を向け走って行ってしまった。


てか、『立派な男の子』って何だよ?

俺の秘蔵コレクション(アイドル写真集)の隠し場所が…バレたのか?

「あんた、そんなもの持ってるの?」

なんか、とてつもなく痛い視線を感じるんだけど…


「その、い、いやらしい写真集とかじゃなくて、普通のアイドルの写真集だ!」

「そんなに必死に言われると、ますます怪しいわね」

そう、本当に普通のアイドルの写真集で、中には少しだけ水着とかのちょっとエロいページもあるけど、健全な男なら普通じゃないか!


「まぁ、水着ならセーフじゃない?」

「だよな!良かった〜」

セーフなら姫奈にバレていても大丈夫だと思うと、少しほっとした。


「あんた、ほっとしてる場合じゃないわよ。急ぐからちゃんと着いてくるのよ!」と言うと幽霊は学校とは反対側の商店街の方に移動を始めた。


「ちょっ、速すぎだろ〜」

自転車ぐらいのスピードで飛行しているようだが、俺が走っても十メートルぐらいは差がある。

「軟弱なこと言わないの!男の子でしょ!」

出た〜!男の子差別。

こういう女の子がたまにいるんだよな〜

男の子なんだから、ちゃんとしてよねみたいなのを言うやつ!


幽霊は「悪かったわね!もう少し速度落とせばいいんでしょ!」と眉を吊り上げながら、強く言った。

「…………」

これをきっかけに沈黙が続いた。


商店街に入ると、顔なじみの肉屋のおばちゃんや魚屋のおやじが話しかけてきた。

(ふゆ)くん、学校の方向逆じゃない?」

「おい坊主、どこ行くんだ?」


足を止めて、理由を説明してると時間がもったいないから、適当にやり過ごすか!

「俺、不良に憧れてるんで入学式をばっくれてみようかと思って……なんてのは嘘で、友達と待ち合わせしてるんだ」


おばちゃんたちは納得したみたいで、「いってらっしゃい」と見送ってくれた。


「さっきはわがまま言って悪かった。すまん」

黙っているのに耐えられなくなり、沈黙を破ったのは俺だった。

「…べ、別に怒ってないし、許してあげなくもないわよ」

俺が謝るとは思ってなかったみたいで、驚きながらツンデレっぽい口調になっていた。

そんな姿を見て、少しだけだが可愛いなって思ってしまった。


俺が姫奈と家族以外で可愛いと思った女の子はこれが初めてだ!

「今度は本当に可愛いって思ってくれたんだ〜」

さっきまで怒って、シカトをしていたやつが、急に顔を赤らめて照れるのは反則だ。

「幽霊じゃなきゃ、惚れてたかもな」

顔だけではなく、耳までも赤くなっていた。


二人とも気まずくなり、再び沈黙が訪れた。

商店街を抜けて、細い裏路地に入ってしばらく経つと、男には嬉しいイベントが発生した。

「あのー、避けてくださ〜い!」

突然、十字路の横道から、食パンを咥えた女の子が飛び出してきた。


避けきれず、ぶつかってしまったが、とっさに女の子の腕を軽く掴み、転ぶのだけは阻止した。

「あ、ありがと。それから本当にごめんね」と言うと女の子は逃げるように去って行ってしまった。


「今時の女の子が食パンを咥えて、走ってるってどうなのよー」

「だな!あれって、小説とかのフィクションの世界だけに存在するもんだと思ってた……って何か落ちてる」

地面に落ちている薄い手帳のような物を拾い上げた。


表紙には紗々美(ささよ)学園高等部生徒手帳と書いてあった。

「これを持ってるってことは、さっきの女の子は先輩か…」

「この学校ってさ、いろんな意味で退屈しなさそうね」


幽霊の言いたいことはよくわかるよ!

実際に三年間で退屈したことはなかったほど、ユニークな人ばかりだったな。

……そういえば、この幽霊もうちの制服を着てるよな…


「失礼ね!私は幽霊ってこと以外は普通よ」

うーん、どっかで見たような。

「人の話を聞きなさいよ〜!」

……そうだ!中等部の頃に校内新聞に乗ってた気がする。


「あっ、ちょっとヤバい!間に合わないかも」

あとちょっとで思い出せそうなのに。

「急いで!全速力で着いてきてね!」

くそっ、まずは人助けが先か!

拾った生徒手帳を鞄にしまい、走りやすいように鞄を背負った。

「了解!中高合わせて六年間帰宅部の全力ダッシュを見せてやるよ!」


全力ダッシュ宣言から五分ぐらい経った。

「同じようなところをぐるぐる回ってないか?」

帰宅部をずっとしてたとはいえ、運動を全くしてなかったわけじゃないが、だが俺は運動部じゃない。さすがにもう限界だ。


「そう?似てるだけじゃない?」

確かに似てるだけと言われれば、そんな気もするぐらいそっくりな道だが、家の表札までは同じ名前が何回も出てくるのかおかしい。


「お前、何か隠してるだろ?」

「説明してる暇はないわ。私の役目はあなたを彼女のところに届けることなの!邪魔しないで!!」

すごい剣幕で怒鳴りつけられ、言葉が出なかったというか、なんて声をかければいいのかわからなかった。


「ごめんね、あなたは何も悪くないの」

怒ったかと思えば、今度は道路に座り込んで泣き出した。

「そんなに泣いたら、可愛い顔が台無しだ。もう余計な詮索はしないよ!」

俺もとんだお人好しだ。

幽霊の女の子ですら、放っておけないと思っちまうなんてな!


「さっ、行こうぜ!」

触れられるはずもないのに、手を差し伸べた。

「ありがと。やっぱりあなたはいつでも優しいのね」


幽霊は俺の手を取り、立ち上がった。

その時、一瞬だったが俺の手と幽霊の手は触れ合っていた。

その手はとても暖かく感じた。


手を離すと、幽霊に異常が発生した。

「おい、お前の身体が…」

ただでさえ、半透明だった身体がさらに透け始めた。


「タイムリミットよ。あなたは過去に戻る条件をクリアしたの!良かったわね」

「俺はまだ人助けをしてないのに、条件をクリアしたってどういう意味だよ」

それに俺は…お前も助けたい!


「まだわからないの?」

「さっきの女の子よ。本当ならあの子は車にひかれて死んじゃうはずなの」

さっきの女の子?

ああ、食パンの先輩のことか。


「それに私のことも、もう助けてるの」

それって、まさか…

「そのまさかよ!食パン女は過去の私だったの!!」

なんだ、そうだったのか。

だから、思い出そうとした時に邪魔をした。


「本当はね。正体をバラすつもりはなかったの。でも、あなたには言っておきたいと思ったの!」

やっと思い出したよ。

天ヶ(あまがさき)中学の校内図書館の本を一番多く借りた人に突撃みたいな記事に載ってた。


「私の名前は…」

萩野(はぎの) 華美孤(かよこ)先輩ですよね?」

「はい。正解です!」

嬉しそうな顔をしているのに、目から大粒の涙が流れていた。


そんな萩野先輩を強く抱きしめた。

「先輩のことは絶対に忘れませんから!」

「ありがと。でも、それは無理なの」

「過去の私が助かったってことは、過去自体の歴史が変わるから、三年後に校舎裏で私たちが出会うことはないの!」


てことは、高校三年間の記憶もリセットされるってことなのか。でも…それでも!

「俺、結構記憶力が良い方なので、思い出してみせます!」

「うん、わかった。待ってるね」


「ありがと」と言うと萩野先輩は完全に消えてしまった。

幽霊を抱きしめるという奇跡が起こったんだから、きっと記憶がリセットされても思い出してやる!


目の前が真っ白になってきた。

「俺もそろそろかな。…きっとまた会えますよね?」

左手を空に伸ばすと、萩野先輩が両手で包むように握って「きっと会えるよ〜」と言ったような気がした。


こんな幻覚が見えるなんて俺、萩野先輩のことを好きになっちゃったのかもな!

「萩野せん、ぱい…」

頭が真っ白になり、その場に倒れこんだ。

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