01「タイムスリップ」
「お兄ちゃん。朝だよ〜、起きて〜!」
我が妹、沖 夏実は毎朝、俺を起こしに部屋までやってくる。
「もう朝かー、今日もありがとな」
「えへへ、お兄ちゃんはアラームじゃ起きないからね」
なぜかアラームじゃ起きられないのに、妹が起こしに来てくれると、すんなり目が醒めるんだよな。
「可愛い女の子が起こしてくれるからかもしれないな」
「ない、絶対ないよ!私、可愛くないもん」と言いつつ、顔が赤くなっていて可愛い。
夏実は中等部の天使と呼ばれるほどの可愛さを持っている。
どれぐらい可愛いかというと、風でなびくほどサラサラな海色の長い髪、手足は細く、艶のある白い肌、出るところはしっかり出ていて、何と言っても一番は張りのある美声だ。
歳は俺と二つしか違わないというのに、信じられないぐらいの高スペックな女の子で、噂では毎日告白されるとかなんとか。
「私はもう行くけど、遅れないようにね」
慌ただしく、部屋から出て行ったと思うと、その後すぐに家を出て行った。
「夏実は何であんなに急いでたんだ?」
気になって、ベッドから体を起こし、ケータイの画面をつけて日付を確認すると……三年前の四月九日に戻ってる⁈
誰かのイタズラかと思い、ケータイを再起動して、再度日付を見ると、やっぱり三年前だ!!
驚きのあまり、ケータイを落としてしまった。
「何驚いてるのよ。あんたが入学式の日に戻りたいって言ったんじゃない」
聞き覚えのある声がして、隣を見ると幽霊美少女が浮いていた。
「確かに言ったけど、本当に戻れるとは思わないだろ!」
「私を見て驚かなかったくせに、タイムスリップしたら何で驚くの?」
彼女の言う通り、過去に戻った今は本当に驚いている。
「どうやって過去に戻ったんだ?」
「ひ・み・つ!教えないよ〜」
なんだよそれ。ミステリアスな女の子気取りかよ!
「あのー、全部聞こえてるんだけど!!」
そういえば、この幽霊には心の声も聞こえるんだった。
「いや、ほらさ、ミステリアスな女の子って可愛いよなー。あはは」
ベッドから立ち上がり、気分を変えるために、洗面所に向かおうとすると呼び止められた。
「ちょっと、どこに行くの?」
「顔を洗いに行くんだよ。何か落ち着かなくてな」
「いってらっしゃい。あと言い忘れてたけど、タイムリミットがあるから、急ぎなさいよ!」
「あっ、忘れてた」
そうだった。
俺は人を助ける約束で過去に戻ってきたんだったな。
「しっかりしなさいよね〜!」
あはは、幽霊に怒られるって…斬新だな、二度とそんな機会はないだろうけど。
洗面所の扉を開けると、琴姉が倒れていたというよりは、酔いつぶれて寝ているが正しいな。
琴姉こと、沖 琴春は六つ上の姉である。
琴姉は桜色のロングヘアで、色気漂う大人な女って感じの外見だが、内面に問題があり、男ウケが悪く、彼氏いない歴史=年齢なのだ。
記憶が正しければ、琴姉と茅秋の面倒を見てたら入学式に遅刻しそうになったはず。
茅秋は俺の一つ下の妹の沖 茅秋のことだ。
茅秋は淡い紫色のロングヘアで、基本的にぼーっとしていて、眠そうな目が特徴的な美少女。
もちろん、スタイルもいいが、本人は胸がぺったんこなことを気にしている。
なぜか、うちの姉や妹は全員美少女という共通点の他に、ロングヘアなんだよなー。
まあ、女の子の髪型で一番好きなのはロングヘアだから、俺的には何も問題ないけど。
ここで、琴姉と茅秋にかまってる暇はないから、一言だけ声をかけておくか。
「琴姉。ちゃんと部屋に戻って、寝ろよな」
「は〜い、とーじのお姉ちゃんで〜す」
ダメだ、会話が噛み合ってない。
酒に強くないくせに、何で飲むかな。
「茅秋に声かけておくから、ちょっと我慢しろ」
ちゃっちゃと顔を洗うと、倒れている姉を背に、洗面所を後にした。
自分の部屋に戻ろうと、廊下を歩いていると見覚えがある人影が、俺の部屋へと消えていった。
あいつ、またわざと部屋を間違えたな!
「おい、部屋間違ってるぞ!」
ドアを開けるなり、ベッドの前まで直行し、狸寝入りしてる妹の頭にチョップした。
「痛っ!わぁ〜、ホントだ。間違っちゃったみたい」
朝から相変わらずの見事な棒読みだな。
無視して、着替えを始めるか!
「俺、急いでるから、もう行くから」
「おにぃ、タイム、タイムだよ!で、出ていくから少し待って!」
時間がないため、そのまま着替えを続けると、顔を真っ赤にして部屋を飛び出した。
「さっきの子、無垢で可愛いわね〜」
「そうか?俺はお前の方が可愛いと思うぞ」
「そうよね、私の方が可愛いよね」
思ってもないことを言ってみたのだが、それを間に受けたのか、少し機嫌が良くなったようにも見えた。
準備が終わり、さっき言い忘れたことを思い出した。
「洗面所に琴姉が倒れてるから、よろしくな。なるべく早くどうにかしてくれ」と茅秋宛にメールを送信した。
よし、今度こそOK!
「それじゃ行きますか。それで、場所を教えてくれ」
「どうせ教えても、場所わからないでしょ?私に着いてきて」
確かに何丁目とか言われても、地図とかわからないし、ごもっともな意見だ。
「わかった。道案内は任せるぜ!」
こうして、幽霊との約束である人助けが幕開けした。