ほたるの長屋
50代の二人が出会い、初めて旅行に行く。そこで、感じた光は・・・。
月曜の朝は、曇っていた。近くで工事の音がしている。ひんやりとした空気が窓から流れてくる。
昨日、かずやさんと関係をもってしまった。
知り合って一か月。
山里の高級温泉旅館「ほたるの長屋」。ここは、数年前まで離れの別荘タイプの旅館として多くのメディアに紹介されたとこだ。おかげでひなびた温泉には多くの観光客がくることとなった。
かずやさんは、国立大の医学部助教授・国立癌センターの医師である。
私の食指が動いたのは、この肩書きだけではない。
綺麗な顔だ。長い睫、鼻筋が通り、色白で唇がくっきりしている。
左右対称の綺麗な顔立ち。
上から眺めた彼の顔は、うっとりとしてしまい、腰を動かすのを忘れてしまうくらいだ。
創作懐石と銘打ったお料理が運ばれてきた。女将がつくったという懐石は、創作過ぎて笑ってしまう。一生懸命さはわかるが、作りすぎなのだ。高級とはいえ田舎の旅館の頑張りが裏目に出てしまっている。
居間は掘りごたつ形式になっていて和室だが足を下せる。かずやさんが足をのっけてきた。あったかい。好きなようにさせておく。仲居の人はどう思うだろう?私たちは夫婦ではないでしょう?
居間の横は寝室になっている。
マシュマロのような白い布団がこんもりとふくらんでいる。
マンゴープリンを食べるとそそくさと彼は歯磨きにいった。
ふむ。
私は、持ってきたキャンディーを一個口に入れる。大きめの飴は右の頬を膨らませた。
カランコロン。飴玉に夢中になっていると、彼がベッドから呼ぶ。
「おいでよ」
「飴玉食べてる」
「いいよ。仲良くしようよ」
飴玉食べながらベッドに引き寄せられる。
「飴、食べてるってば」
男の人はいつも早急だ。
待つことができない。
かずやさんの唇が私の口を覆っている。
飴玉食べているってば・・・。
私のランジェリーが白く暗闇に浮かび上がる。
彼が私の長い足を見てくれるように、足を伸ばす。
ほお~~。彼は、じっと見とれている。
コンパスのような白い脚はこれから彼の腰に巻きつくのかしら。
彼が胸に舌を這わせている。
飴玉は、まだ私の口の中にある。
「いやん」
私の大切な芯をとらえて吸っている。
あん。私は今、医学部の助教授とセックスしているのね。
素晴らしい肩書き。
端正な顔が私の股間をなめている。
鼻が高いから、ちょうど芯に当たっている。
彼の固くなったものが、入ってきた。
「いたい・・・」
「やさしくして・・・。」
「うん、ゆっくり入れる」
「いやん、動かないで・・・。」
私の襞がなじむまで味わってほしいのに・・・。
本当のセックスを知らないみたい。
「処女みたいだね。高校生みたい。」
勘違いしている。
「痛いから、私が上に乗っていい?」
綺麗な顔。両手で顔を包み込むように、彼の唇に軽くキスをする。誰かに似ているわ。白い枕に夕方の光がプリズムとなって線を引いている。脳天を突き抜くように彼が動き出した。この人誰に似ているのだろう?
白いベットの上で私は漂流していた。プリズムの怪しい光がチラチラと彼の肌をなめる。
初めてだから行きそうで行かない。動きを止めて、サイドテーブルに手を伸ばす。コップに入った水を飲む。集中しろよ・・・。彼が呆れて下から見ている。
「僕の顔が好きなの?」
「顔も好きよ。でもね、とろけるようなセックスがあるように、とろけるような会話があなたにはあるでしょう。」
彼の声は、甘い。眠ってしまいそうに甘い。これで、大学の講義受けたら、みんな寝ちゃうわ。その声で素粒子の話やNYの研究室の話を聞くのは私にとってセックス以上のものだ。脳の真ん中に響いてくる。質問したら、全部返ってくる楽しさ。甘い声で化学記号を奏でる音楽。そう、音楽なのだ。
「桂子さんのセックスは、お能のようだね」
気持ちいい。綺麗な顔が下から見ている。甘い声で、素晴らしい肩書きのかずやさんが、果てていく。
初めてのセックスは、なじませたといった方がいいだろう。皮膚と皮膚がなじんでいく。これからねじんでいく。そういう余韻を持たせたまま終わった。
初めて書きました。つたない文章を読んでくださってありがとうございます。