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大帝国ヴェドレーナの5神  作者: シリウス
M.S メインストーリー
6/11

Ep.6 神の再来/敵の姿

開かれた扉の先、ヴェドレーナ大要塞都市外部の草原には、一人の少年、本物の徳神 大志の姿があった。そして、その瞬間まで身柄を偽っていた砂王は、その場で変身を解いた。否、解くしかなかった。徳神は砂王にアイコンタクトを送る。それを砂王も無言のまま頷いて受け取り、制服を脱ぎ、徳神へ手渡す。その一連の動作が、いかにも極普通を思わせたので、水神はその瞬間、何が起きたのか理解出来ていないようだった。


「…案外、早かったな」

「あぁ。だが早く来てしまったのはどうやら間違いだったらしいな」

「いや、彼はおそらく僕をここから通さないつもりでいたハズだ。いつ君が帰って来てもこの状況さ。僕はここ以外に外部への出入口を知らないからね」


この扉は、音神と一緒に利用したあの出入口だった。眈々と進められていく会話に、水神はついて行けていなかった。何故見知らぬ少年が徳神の変装、変身をしていたのか。何故徳神はそれを黙認しているのか。今の水神の頭の中は、それらの謎によって埋め尽くされているのだ。


「と、徳、これはどういう事だ?」


不信感による緊張のせいか、声が僅かに強張る。それに対し、徳神は冷静に答える。


「見ての通りだ。砂王は敵ではない」


徳神は砂王の隣に並び、砂王が危険な存在ではないと水神へアピールした。だがしかし、それでも水神は納得出来ない。


「そ、そういう事ではない!敵か味方かなどはどうでもいい!…いや、よくはないが、今はそういう問題じゃない!」


徳神へのセリフに熱がこもる。現在、というより徳神が不在の間のヴェドレーナの5神の指揮をとっていた水神からすれば、突然帰って来たと思っていた仲間が偽物で、その少し後になって現れた方が本物でした、という何とも理解不能なこの状況は何としても説明をして欲しいものだ。


「水神さん、許して下さい。これは全て、僕達で練った計画には必要だったんです」

「計、画…?」


そう。これもつまりは計画…非平和的武装組織『ザドゥラス』を壊滅させるという計画の為なのだ。

そうして、水神に計画の内容を理解させる為に、一度司令室に戻る事にしたのだった。



「覇王さんよ、もう、行くのか?」


ロディパーネの中央部に位置する司令本部内で、戦闘狂症バトルディズィーズを患う一人の少年、次王じおう 直人なおとは声を発していた。そんな彼の目の前には、ロディパーネの5王を総統するリーダーである覇王が、戦闘の装備や外部へ出掛ける準備を行っていた。計画に基づいて行動する覇王に対し、今のところ何も知らされずにただ指示されるままに行動して来た次王にとっては、納得がいかない事も多々とある。


「あぁ、もう行かなければならない。暫くは…そうだな、5日以内には戻る予定だ」

「5日!?一体何しに行くんだよ!?」


1日や2日ならまだしも、5日ともなると流石に行動が気になって仕方がない。それだけの時間を費やす程の事なのか、不思議に思えてくる。


(ただでさえこのところはザドゥなんとかとかいう非平和的武装組織の影響で情勢が悪いのに、何を考えているんだ…?)


次王はそう思いながら、覇王が口を開くのを待った。しかし、覇王は何も言わず、静かに頷いただけで、その後すぐに出口に向かって歩いていった。


(…何なんだよッ!?大体、何で一人で行動してんだよ!…くそ、こんな時、ザドゥ…さえ存在しなければ襲撃なんて気にせずに『武器装備ヴァッフェ』出来るのに…)


そこで次王は気付いた。そう、それは徳神や覇王、砂王といったメンバーによって進行中の計画とほぼ同じ事に。


「まさか、あの野郎…ッ!」


出口を見た時には、既に覇王の背中は見えなくなっていた。



ヴェドレーナ大要塞都市のとある外部との連絡出入口にて起こった出来事を説明するされるべく、徳神と水神、砂王は司令室に入った。室内には、パーティーの片付けをする音神と、それを手伝う流護と天護の姿があった。一神はどうしたのかと問うと、音神は「疲れちゃったみたいよ」とロフトスペースで自らの使魔アガシオンである『ファルウィーダ・スコイアットロ』こと旋風を巻き起こすリス(通称『ファーロ』)を抱き枕代わりにしてすやすやと眠る少女を指差した。こういうところを見ると、本当に可愛らしい事この上ない。ファーロが苦しそうにしている事を除けば。とりあえず首を持つ手くらいは離してやれ。


「ところで音神。貴様は何故平然としている?」


発言したのは徳神だった。音神はその言葉に冷静に、かつ言葉を選んで応える。


「もともとこの人があなたじゃない事くらい、私なら簡単に見破れます」


今『この人』と指しているのはもちろん砂王の事だ。そのセリフを聞いた直後に砂王が吹き出しそうになったのを徳神は見逃さなかったが。


「…そうか。つまりは計画関係者になってしまった、という事か」

「本当にすまない。僕は、そんなつもりでここに来たんじゃないのに…彼女の意志に、負けてしまったんだよ」


砂王は徳神に対して謝っていた。計画に関与する事がそんなに悪い事なのか、もしくは不運な事なのか、それらはまだよく分からないが、密かに進められていた計画が危険なものであった、というのは理解出来て。音神は何と言えばいいのかも分からずにその場に立ち尽くしているしかなかった。パーティーの片付けをしていた事もあり、その右手には数枚の使用済みの皿があったが。


「おーい、次の皿まだかー?早く終わらせちまおうぜ」


何処からともなく聞こえてくる声。料理・食器洗いを担当する羅神の声だ。流し台に水が多量に流れる音が聞こえて来る。調理室は司令室に直接繋がっているために、声や音は簡単に届く。ただ、調理時や食品の保存などのために壁を作っているので、姿は見えない。無論、現在のこちらの状況も羅神には見えていない。


「あ…、分かってるわよ、次、持って行くわ!」

「おう!出来るだけ早くしてくれよな!油汚れとか時間が経つとなかなか落ちないからさ」


お前は主夫か。


「…で、だ。水神、聞きたい事があるのだろう?こちらも始めよう」


徳神はこんな余裕綽々なメンバーを見ても何も注意する事なく、本題を直球で水神へ投げた。


「そうだな。まず、最低限、聞いておきたい事がある。徳神、本当はヴェドレーナとロディパーネは、どういう関係なんだ?」


これは誰もが知りたかった事であろう。何故なら、敵だと思い込んでいた連合国の中枢を担う一人の砂王が今ここにいて、ヴェドレーナを支える最上位の徳神がそれを認めているのだから。

もし、敵であると言うのなら、砂王についての説明が難しくなる。また、味方だと言うのなら、今までの辻褄が合わなくなる。どちらに転ぼうが、謎なのだ。


「簡単に言えば、味方だ」


徳神はあっさりと答える。その潔さに、徳神の答えに振り向いた音神も何を言われたのか分からないかのように瞬きを繰り返す。


「おいおい、遅ぇよ!早くこっちに皿持って来…」


そんな時にこちらの状況を見てしまった羅神は、言葉を途中で切ってしまった。流し台に重ねようとしていた皿が一枚割れる音が響く。この場面を脳が理解出来ずに指先への指令を怠った為だろうか。


「徳神…?」


恐らく、先程までとは全く雰囲気が違うので認識が出来ていないのであろう。


「羅神か。貴様、そんな所にいたのか」

「あ、あぁ。そうだが…、おい水神、これ、どういうことだ?」


徳神のセリフに軽く答えながらも、その声と表情は強張っていた。ヴェドレーナの5神の副リーダーに状況説明を求める。

だが、水神もよく理解出来ていない訳で。


「申し訳ないが、俺にもよく分からない。さっき徳の様子がおかしいと思って後をつけてみたら、どうやら行き先は出口っぽかったから、先回りして何処へ行くのか今度こそ聞いておこうと思って」


なるほど、水神のあの行動にはそういう経緯があったようだ。そして。


「先回りして少しすると、後をつけていた徳の顔が一瞬だけだが変化したんだ。それで俺はこいつがスパイなんじゃないかと思って声を掛けた…と、ここまでは良かったんだ」


羅神は水神の言葉を一つ一つ正確に理解し、頭の中でシミュレーションしている。その羅神の様子を確認して、水神は次の状況説明へ移る。徳神と砂王、そして音神は黙ってそれを聞いている。


「俺も理解出来ていないのはその次からなんだ。出口が開いて、外部から徳が入って来たんだ」

「!」

「そして、徳だと思っていたやつを見たら、既にこの顔だったんだ」


この顔、と言いながら指を差したその先は砂王だった。

すると、羅神は言った。


「まさか…、徳神が、ロディパーネに寝返った…のか…?」


これを聞いた音神は、最低限の反論をした。


「それは違うわ」


徳神はその後に続けて話し始めた。


「あぁ、音神の言う通り、それは違う。何故なら初めから寝返る寝返らないの問題ではないから、というのもある。…水神、羅神、それと音神。まだ貴様らが知らないであろう情報を、今から伝える。これから我が言うことが、全てだ。そして、これからの我らの行動に繋がるものだ」


重々しい言葉によって真実が語られ始める事となった。


「…とりあえず、一神は起きた時で良い。それまではそっとしておけ」


そう言って、徳神は一神を起こそうとしていた音神の動きを止めさせた。


「でも…」

「はぁ、貴様らは一体何年一緒に活動している?一神の寝起きの悪さは分かるだろう?」


その言葉を聞き、音神は今度こそ本物の徳神だと確信したのだった。



ヴェドレーナの基地へ徳神が到着したのと同じ頃に、ロディパーネの基地を出発した覇王は謎の集団に包囲されていた。

包囲した謎の集団の一人と会話が始まる。


「どういうつもりだ」

「それはこちらのセリフだ。誰だ?ゴミ共が」

「ほぅ…、デュガンザ様の仰る通り、いかにも短気そうな男だな」

「デュガンザだと?」

「あぁ、そうとも。我らのぬしの名だ」

「主…」


覇王はデュガンザという人物を知っていた。何故『主』などと呼ばれているのかは謎だが、実際、その主とやらはとある組織をまとめる役職をこなしている。

無論、そのとある組織とは、言わずもがなあの非平和的武装組織『ザドゥラス』だ。


「こちらも、一筋縄ではいかないという事か」


覇王は一言だけ呟いて周囲を包囲する敵を睨み付けた。


「5分だ」


その発言と同時に覇王は武器装備ヴァッフェしていた。


「早々に片を付ける」


虚空へ向けて放たれたセリフと共に、武器同士が激突したときの金属音が響き渡り始めた。



「徳神、それは本当の事なのか?」


ヴェドレーナ大要塞都市中枢、司令室内で徳神によって語られた『計画』の全貌は、世にも恐ろしく、危ないものであり、常人なら2秒で断るものだった。それを聞いた羅神は、未だに上手く処理しきれず、内容をよく把握出来ていなかった。


「あぁ、本当の事だ。つまり、これから先は、ロディパーネと戦闘する事は無くなるが、代わりにこの世界…いや、全ての並行世界パラレリアにおいて最強の敵と戦う事になる」


徳神の言う並行世界パラレリアというのは、砂王や徳神が送られた世界のように、『時』が存在する限り無数に存在すると言われている『異世界』の事だ。

徳神が話したのは、ザドゥラスの活動目的、その組織の情報、そして壊滅計画の3つだ。


「ねぇ、もしかして、そのザドゥラスが支配出来てない世界って…」


音神が不安気に声をあげる。徳神は水神からも同様の質問意図を含んだ視線を感じつつ、答える。


「あぁ、そうだ。今、支配されずに残っている世界は2つ。しかしこれも時間の問題だ。この世界が最後の1つとなる事はもう分かっている。いつ異世界が全支配されてもおかしくはない」

「そんな…」


ザドゥラスの支配によって引き起こされる事、それは『再構築リセット』。これは、ザドゥラスの中枢にある一つの不思議な力を持った鏡によって発動するという。

そして、一度発動してしまった『再構築リセット』は、取り消す事は不可能であるらしい。


「つまり、発動すれば、支配下にある世界は一瞬にして『無』に戻る、という事なのか!?」


流石の水神も冷静を装えず、声を荒らげる。だが、それもそうだろう。こんな話を聞いて泰然自若としている方がおかしいのだから。無論、そこにいる一神と徳神を除いたヴェドレーナの5神が事の大きさを把握し、水神同様の感情を抱いている事には間違いなかった。


「そういう事だ」


徳神も許せないのだろう、自らの手を震わせながら答えていた。

と、そこでお姫様が一人起床する。


「ふぁああ…、あれ?」


大きな可愛らしい欠伸の後、はて?とこちらの状況を確認した一神は首を傾げていた。彼女の目に映っているのは、普段通りのヴェドレーナメンバーと、さっきまでとはちょっと雰囲気の違う徳神、そして一神にとって知らないであろう少年の砂王だ。


「ん?ねー、何々?真菜にも聞かせてよー」


そう聞かれたが、一応この状況から推察してそれなりの心の準備が出来ているのかを確認しておく。


「何を聞くつもりだ?」

「えーっと、大志の旅物語!」


ほれみろ、この期待通りの柔軟な発想。ツッコミどころ満載な発言。ここで今話している事が旅物語なら、砂王の事はどう説明すれば良いのだ?


「あのな…」


だが、その時徳神は気付いた。他のメンバーは気付いていないようだが。


「真菜」


徳神は一神を呼んだ。そこにいる一同が徳神へと視線を合わせる。


「なぁに?」


それでもなお変わらない口調に少し敬意を払って、言った。


「我の旅物語は、今じゃなくとも聞けただろう?」


そうだ。砂王がヴェドレーナ基地の司令室へやって来てから明らかに十分な時間は経過している。パーティーのような事を開催していたのなら、なおさら聞きやすかったハズだ。


「えー!ダメだよ〜。大志のじゃなきゃ面白くないもん」


このセリフに、周囲のメンバーは驚きの表情を隠せなかった。


「やっぱりか…」


徳神の独り言の後、今度は砂王が。


「という事は…」

「あ、うん!知ってたよ!名前は、えーっと、確か遊羅くんだよね!」


完敗だった。一番抜けてそうだった一神は、既に最初の再会の瞬間に見抜いていたという。そしてさらに凄いのは。


「あとねー、真菜は、ザドゥラスは強いと思うなぁ」

「「!!!」」


お見通しなのは事の内容もまたそのようだった。何故それを知っているのか…徳神は砂王を見るが、砂王も首を横に振る。教えていない、という事だ。


「どうしてそれを知っているんだ?」


徳神は一神に質問する。


「えへへっ、真菜に分からない事は無いんだよ〜」


はぐらかされてしまった。こう言われてしまっては、何も言えなくなってしまう。そんな一神に対して、砂王はある一つの仮定を取り付けようとしていた。


「真菜ちゃん、だっけ。キミ、本当に、ヴェドレーナの5神?」


その一言に音神が素早く反応する。


「何言ってるのよ!?」


水神も同様に反応を示す。


「それ、どういう意味だ?」


だが、砂王の言いたい事も理解出来ていた。万が一、という事もある。

しかし、何の動揺も示さない少女は一言だけ呟いた。


「真菜は、5神だよ〜?」


おそらく嘘偽りの無い言葉に、一同は若干の安堵を得た。あまりにも軽い声だったので、現実味を強く帯びていたのだ。

その後、3時間かけて5神は一神に対して複数の検査を行い、生粋のヴェドレーナ育ちであることを確認した。

そしてその間に徳神は砂王を外部へと誘導し、数時間後に連絡が入り、彼を無事ロディパーネへ帰還させることに成功した。


「遅かったな、また」


ロディパーネへ到着した砂王を最初に出迎えたのは例の如く通路にもたれていた次王だった。


「やぁ。久しぶりだね、次王。覇王さんは?」


困ったような顔で頭をガシガシ掻く次王に、砂王は聞く。


「覇王なら、ちょっと前に出て行ったぜ。…全く、俺らにも言ってくれればいいのにな」


次王のセリフには、既に計画を知っている、という響きが混じっていた。覇王は仲間を簡単に巻き込んだりはしない。おそらくは次王が覇王の動きを見て悟ったのだろう。まぁ、相当な戦闘準備をして出て行けば、ある程度は勘付かれるとは思っていたが。


「それにしても砂王、お前は何処行ってたんだよ。長かったじゃねーか、今回の出張」


とりあえず今回の行動は、ロディパーネの5王に対しては出張という形で伝えてある。たった今その事を思い出した砂王は、はっとしながらも答える。


「え…あ、あぁ、そうだな、まぁまぁだったよ」


慌て気味に冷や汗をかきながら曖昧に答える事しか出来ず、次王は瞬間的に眉を顰めたが、すぐにやれやれといった表情へと頬を緩めて言った。


「ま、何か困ったらすぐ言えよな。幼馴染だろ、俺ら」


この時改めて、砂王はロディパーネの5王へ入隊できた事に感謝した。


「ただいま」

「ひゃわわ〜!ゆうらんが帰って来ちゃいましたぁ」


砂王はロディパーネ基地内の中枢、司令室に入るなりすぐに気の抜けるような言葉を漸王に貰った。


「相変わらずだなぁ、みんな…」


小さな幸せを感じつつ、砂王は次にすべき仕事へ取り掛かった。



一方、砂王をロディパーネへ還したヴェドレーナは純度100%となった5神による話合いが行われる事となっていた。


「…そういう事だ、また後程集まれ。召集を掛けるまでは自由に過ごせ」


これはヴェドレーナの5神にとって休憩時間に入るために必ず使われるセリフ。発言者はもちろん徳神だ。

決まり文句を言い終えた徳神に、一神が近寄って来た。


「ちょっと話したい事があるの!いいかなぁ?」


内容までは上手く理解出来ないが、さっきの言葉通り、この少女にはただならぬ洞察力や思考力が備わっていると思われる事から、徳神は承諾した。


「あぁ、分かった。それなら、中庭へ行こう」

「えへへ、さっすが大志!分かってんじゃ〜ん」

「何をだ?」

「ううん、なーんでーもなーいよーっだ」


素で分からなかったのだが、一神は昔から意味不明な事を言う事があるのでそこまで気にはしなかった。


「…私も、言えば一緒に…。はっ!バカバカ!私のバカ!何考えてるのよこんな時に!そうよ、この計画が終わるまではダメ!ダメなんだから!」


司令室の奥で外部監視モニタを見ている振りをして徳神を見つめていた音神は、自分自身の思考の甘さを躾けていた。


(そういえば、さっき真菜、ちょっとこっちをチラ見してたような…)


この一神の仕草の意味に、徳神と彼女の二人が司令室から出た後に気付く音神だった。


「なッ!よ、余計なお世話なんだからッ!」


顔を真っ赤に染めて叫ぶ音神。しかし、既に司令室内に残っているのは一人だけなのであった。


休憩を言い渡されてからすぐ、羅神は炎護を連れて資料室へ向かった。ザドゥラスについて、過去の経歴などを調べる為だ。


「なぁ、炎護」

「お、珍しいですな、話し掛けて来るなんて。で、何ですかな?」

「俺だって普通に会話はするぞ…。あのさ、ザドゥラスの『計画』の事なんだが」


そう言った瞬間、炎護の顔から表情が消えた。


「はい。その計画が、どうされました?」


どうやら、炎護の真剣なモードへ移行するスイッチか何かを押してしまったようだ。


「いや、まぁ…その、もしその計画が完了したら、何が起きるんだ?俺的には、『無に還る』って言われても正直ピンと来ないっつーかなんつうか…、よく分からないんだよ」


すると、炎護は顔に表情を宿し、微笑みながら言った。


「何だ、そんな事かよ!…まぁ、そうっスね、簡単に言えば、全てを無に還して再建すれば、その現象を起こした人が全ての世界の頂点に立つ、こう言う事さ」


実に分かりやすい説明だったが、まだ今一納得出来ない羅神はもう一つ質問した。


「じゃあさ、ザドゥラスは、どうしてそこまでその頂点とやらになりたがるんだ?」


炎護は大量の資料の棚の一つから黒いファイルを一つ取り出して羅神へ手渡した。そのファイルの表紙には、『大帝国ヴェドレーナ 第7国“ザドゥラス” 活動報告録 No.544』とあった。このヴェドレーナは複数の国の集まりで形成されている、言わば合衆国的な存在で、その中で7番目に登録された国がザドゥラスだった。他にも、雷護が徳神失踪している間、トレーニング期間として過ごしていた養成所のある“レヴィラス”や今はもう無いがウエスタンな雰囲気の“サーフェロル(現在称:A-51)”などがある。

その黒いファイルを受け取り、炎護に指定されたページを開いた。


「!?」


そこに記されていたのは、ザドゥラスの長である“デュガンザ”の野望だった。この記録は、その国の長ではなくヴェドレーナの5神直属の部下に任せている為、その国の本質を見極めるのに良い判断材料となる。つまりここに記されている事は紛れもない事実なのだ。


「そういう事だ。少し噛み砕いて言えば、嫁さん候補だった女性を失い、狂った訳だ…。気持ちは分からんでもないが、ここまで来ると正直迷惑だよな…」


実際、現在のヴェドレーナやロディパーネにとってザドゥラスは最大の脅威とも言える存在になってしまっている。羅神はまさかその始まりが愛する人を失った喪失感だったとは思いもしなかったのだ。


「そして、もう一つ。まぁあいつらも一応は人間だ、考えた事には考えたんだろうよ。その婚約者の遺体を墓に入れてやろうとしたんだ。それで、毎日そこへ参ればその内心も晴れるんじゃないかとか、そういう考えだろうな」


ここまで聞いて、羅神は気付く事があった。


「おい…、まさかとは思うが…」


羅神の考えには、とある実験が関連していた。


「あぁ、そのまさかだ。ザドゥラスの長、デュガンザの婚約者が亡くなって、墓の話が浮上していたのはそのファイルの通り9年前。それと、アドゥリーノが実験によって並行世界パラレリア初の無人異界接続に成功したのも9年前」


そう、つまりこれで辻褄が合う。このファイルにある『「私の婚約者を無へと還した異界…いや、全ての並行世界パラレリアなど、消してしまえばいいだけの事。あの鏡を使えば可能なハズだ…」(デュガンザ)』という(咄嗟に記録したのであろう)殴り書きと事実の。

炎護はさらに続ける。


「多分だが、デュガンザは遺体搬送中、異界接続によって生じた時空間嵐に巻き込まれて遺体を無に還されたんだと思う」

「それなら何故奴は巻き込まれなかった?」

「さぁな、そこまではよく分からないが」

「それに、あの鏡だって、どうやって手に入れたんだ?」

「うぅむ…、まだ謎は多いな…」


結局、それ以上の事は分からないままに資料室を後にする事となった二人だった。


休憩開始直後、真っ直ぐに自室へ戻った水神は万一に備えて武器装備ヴァッフェの確認をしていた。眩しく光ったかと思えば形や色の違う斧が出現して、それを数回素振りする、という練習も兼ねていた。


「『NVASナヴァス』の武器装備ヴァッフェ練習もしておくか…」


水神にとって何としても防ぎたいのはこの世界の破壊。それだけは自分が守ってみせる、そういった意気込みだ。

それから暫くは、部屋の中が光って落ち着いてを繰り返していた。


中庭へと移動した徳神と一神はとりあえず一番広いベンチを選び、そこに座った。


「真菜、話というのは?」

「あ、うん。ええっとね」


相変わらずなその態度にはどうも真剣味が足りない気がしたが、それは多分幼いせいだろう。


「あの事、みんなには言わないのかなって」

「あの事?」


一神とは特別な関係でも何でも無いので、意表を突かれた徳神は瞬間理解を停止した。


「あの、ほら、時空間嵐の時の事…」


一神のこの一言で、徳神は思い出した。


(そうだ…。9年前、ロディパーネへ行った時、真菜も一緒だった…)


そして、言いたい事も全てが伝わった。

一神が言いたいのは、


どうして、デュガンザが時空間嵐にあった理由を言わないのか。


どうして、デュガンザを救けようとして人生初のケガを負ったという事を言わないのか。


…どうして、あの鏡を壊さなかったのか。


全ては徳神がまだ幼かった、仕方がなかった、という事で収まるハズなのに、何故か。

それは、簡単な事だった。



「真菜、我は責任転嫁という言葉が嫌いだ」



風の音がする中庭に、二つの影は只々、佇むだけだった。

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