光り出す世界/闇の晴れ
世界から悪という概念は消え去った。
…そう思っていた。
実際消失したが、代わりに…。
「…もう、いいのか?」
覇王の一言に、砂王は頷いて答えて見せた。
「すべき事は、とりあえず終わったところなので」
砂王は、「覇王さん、少しだけ…寄り道しても、いいですか?」と告げた後、鏡の中へと入って行った。彼のすべき事。すなわちそれは徳神の返還だった。砂王は、デュガンザを倒す計画の為に異世界に住む徳神を利用したのだった。ヴェドレーナへ侵入する際、徳神の姿をすればすんなりと入れる、というのが理由であった。この世界の徳神本人をその役に抜擢しなかったのは、単に彼には他にしなければならない事があったからであった。
「それなら、行くぞ」
覇王の落ち着いた口調の言葉を聞き、少しばかりの安堵を覚えながら起き上がり、そして歩き始めた。
ロディパーネ勢が移動を始めたちょうどその頃、ヴェドレーナ勢は弥生を囲むようにして唯々立っていた。唯一、徳神だけは弥生を心配しているのか、片膝を付いて彼女の安否を伺っていた。
…呼吸はある。
どうやら深刻な状況ではないようで、一同は安心した。だが、その安心も直様崩される事となる。
「一つ、聞いてもいいか?」
声を発したのは水神だった。
「その女性は、異世界の住人、なんだよな?」
そう、弥生は間違いなくこの世界の住人ではない。つまり水神の言いたい事とは、弥生がこの世界で目覚めた場合、時空間嵐の発生トリガーとなり兼ねないだろう、という事のようだ。
「心配するな、水神。トリガーにはならない」
「!?」
一同は徳神の台詞に驚いた。
「どういう事?」
音神が、徳神に怪訝な瞳を向ける。徳神は、冷静に答えた。
「貴様ら、ついさっきまで我々がやっていた事を忘れたのか」
…それを聞いて全員が納得した。
今この世界は、全世界支配下計画の拠点となっており、またこの時空間も一定、つまり異世界との時空間的干渉を受ける対象にはならないのだ、と。
「しかし…、彼女にとってはこの世界にいる事自体、おかしな事だと思うんだが…」
水神はそれでもなおそう聞いて来た。徳神もその質問には答える必要性を感じた。先程の質問は答えなくても分かるものだったが、これはそうでもないと思ったからだ。
「そうだな。このことは、言わなければならないとは思っていた。彼女は…」
「お母様!?」
その女性の正体を明かしたのは徳神ではなかった。
「砂王!」
驚いて振り向くと、そこにはロディパーネの二人が例の鏡を持って5神のすぐそばまで来ていた。
「これは一体…!?」
砂王がヴェドレーナ側へ訊く。しかし、彼女が何故この世界にいるのか、という事は、流石の徳神にもまだ理解が出来ていなかった。
「ちょ、ちょっと待てよ!その前に、徳神!砂王!『お母様』って、どういう事だよ!?」
羅神が一番謎に思った部分を指摘した。徳神よりも先に、砂王が答えた。
「僕ら三人が全世界支配下計画を阻止しようと考えていた頃に企てた計画の実行の時に、僕が異世界の徳神さんに一時的な憑依みたいな事をしていたのはもうみんな知ってると思う」
「それは、知ってるわよ…」
音神は特にその事を憶えていた。あれだけ恥ずかしい思いをしたのは、今まででもこれからも一番なのではないだろうかと思う程だ。
「その時、僕は向こうの世界で徳神さんのお母様に会った…。まぁ、まさか息子の精神が異世界の住人に乗っ取られてるなんて、普通じゃ考えられないから、彼女も何をする事なく多分いつも通りの日常を過ごしていたんだと思う。だから、僕は彼女を知っているんだ…。そして、それを徳神さんに伝えたのも僕だ」
その場で、全員がそういう事か、と納得の色を漸く示した。
しかし、羅神はもう一つの疑問を投げかけた。
「それは、理解出来たが…。だが、ここにその人がいるこの状況は、どう説明するんだ?」
「それは…」
「それは我が知っている」
一同は徳神へ注目した。
正確には知っている、ではなく、漸く理解したという事なのだが。
「彼女は、世界は違えど我が母…。そして、我が実の母でもある」
「んなッ!?」
砂王が思わず驚きの声を口にした。
「我が母は、我がその顔を知る前に死んだと聞かされていた。だが、それにしてはどうもおかしい事に気が付いた…。真菜、貴様ならもう既に気付いていたんじゃないか?」
「…なぁんだ、知ってたんだ…」
真菜がそう言った途端、音神が混乱し始めた。
「あ、え、え…と、何で真菜が事情を知ってるの?」
謎めいた性格や、いつ仕入れたのかも分からない情報を持っている一神に、音神は何か表現し難い感情を抱いていた。
一神が言う事によると、全世界支配下計画が実行される直前、施設内でデュガンザが現れた方向とは正反対の方向にある部屋が、今一同がいるこの場所だという。計画実行後、強い光に包まれたザドゥラスの施設は、その力の大きさに形を留める事が出来ずにバラバラに砕け、その破片は悪魔達と共に鏡の中へと吸い込まれてしまったらしい。しかし、重要になるのはその情報ではなく、弥生の居場所、だという。
「居場所…?」
水神は左手を口元へ運び、考えているという事を示す典型的な態度をとった。すかさず続きを話し始める一神の前では、その行為自体無意味なのだが。
弥生の居場所が重要になる理由は、一神が指差した一点にあった。
「…で、この指に嵌めてあるあるその指輪が、真菜に教えてくれたの。…大志の本当のお母さんが、この人だ、ってね」
そこには、計画に使われたハズの徳神の父の黄色い指輪があった。もちろん、あの指輪そのものがここにあるわけではない。所謂エンゲージリングと呼ばれるものだ。しかも、この指輪はこの世界のものである事に間違いなかった。デザインと、何より徳神に反応して光っていたからだ。どういう事かというと、徳神が腕に着けていたAISに反応しているという事だった。
「AISに…?どうして?それは先代の5神が遺したもののハズ…。徳神のお父さんは、守護使だったわよね?」
音神は率直に思った事を述べた。それに答えたのは徳神だった。
「我が父は、先代の5神、特に“磁場の神”に対して絶大な信頼を置いていた。つまり、その神に結婚の話をしていてもおかしくはない。また、我が確信に到った理由は、それだけではない。それは、父は我が目の前より姿を消す前に、我に言った。『もし俺が帰って来なかったら、“磁場の神”であるヴァリティに伝えてくれ、例の事を頼む、と。大志、これは絶対だからな』と。しかし我は、ヴァリティにその事を伝える事は出来なかった。心の何処かで、父は必ず帰って来ると思い込んでいたのだろう」
これは徳神の父が話していた、父自身が恐怖した部分の徳神の動きだ。『貴方は悪魔と話をしているのですか』と聞かれた父は悪魔の事が5神に誤った形で伝わってしまうと恐怖していた。…そう考えると、その時5神とコンタクトを取ったのは自然に行けば徳神になるハズだ。しかし、徳神も現実を受け入れようとせず、ヴァリティどころか、どの5神にも会う事をしなかった。そうなって来ると、考えられる当時に先代の5神へこれらの情報を全て話せる人間は、限られてくる。
「貴様だったんだろう?5神に伝えたのは」
徳神は、一神に対して言った。一神は、ふわっと笑って言った。
「ばれちゃったぁー」
音神は酷く驚いて、だがそれにもまして怒りを見せた。
「真菜!?あなた、何をしたのか分かってるの!?あなたのせいで、先代の5神は動き始めてしまったのよ!?徳神のお父さんが、帰れないようにしてしまったのよ!?」
しかし一神は、笑顔を崩さずに、一言だけ。
「真菜はね、壌護が、大好きだったの…」
その意味が分からないので、音神はさらに眉を顰めた。
「何が言いたいんだ、それではあまりにも説明が足りない」
水神の言葉に頷いた一神が、ゆっくりと語り始めた。
「みんな、知らないと思うんだけどね…、もう、いいか。あのね、真菜はこの計画の事、ずーっと昔から知ってたんだ」
「「!?」」
全員が一神に対して驚愕を示す。
「この計画はね、本当は、壌護と二人で『全部の世界から悪者がいなくなるといいね』って話してた内容だったんだ。だからつまり、まず一番伝えなきゃって事はー…」
なんとなく察しがついて来た水神が、目を見開いた。
「まさか!?」
「デュガンザはね、壌護だったの」
瞬間、突如として静寂が訪れる。全員が何も言えなくなったのだ。
一神の衝撃の告白の後、暫く微動だに出来なかった一同だったが、徳神によってその空気は破壊された。
「…事情は、分かった。結局、デュガンザ…金子…いや、壌護の方が呼びやすいな。壌護も、時空間嵐の悪魔も、最初から我々側にいた、という事か。…それと、何年も前から計画を実行して来た、という事か」
「うん…。ごめんなさい!でも、真菜はみんなが幸せになれるようにって思っただけで…」
一神が次の言葉を紡ぎ出す前に、水神が一神の頭をくしゃっ、と柔らかく撫でながら冷静に声を発した。
「真菜の言いたい事は伝わってるよ。いくらこんな事に巻き込まれたとは言え、真菜の事を疑ったりはしない。…だが、今までの説明だと、どうしても理解出来ない事がある」
ロディパーネの5王の二人も、客観的に考えて、その説明では理解出来ない違和感を覚えていた。
「俺様にも、どうも腑に落ちない事がある。…真菜とやら。お前の言葉が発端なのかもしれない、というのは一理あるが、俺様の記憶が正しければ、お前は9年前辺りからこの計画を考えていた事になる」
「そう、だね」
一神の顔から表情が消え、俯く。
そして周囲をピリリとした空気が襲い始める。
「まだ責任能力が十分とは言えない年齢で、お前は、先代の5神をある意味で見殺しにした、という自覚はあるのか?」
刹那、静寂が訪れた。誰もが、その質問は出来るだけ避けていたからだ。
一神は、唯々、俯いたままだった。
「真菜、その事は貴様が一番辛く感じているハズだ。だから、その事は話さなくていい」
徳神は一神を気遣ってそう言った。すると音神も一神へ同情を始めた。しかし、その二人の同情が余計に辛く感じたのか、一神は口を開いた。
「ほんとは、辛い。物凄く、辛い。死にたくなるほど、辛い。真菜は…、真菜は結局、壌護も見殺しにしちゃったもの…。でも、こうなる事は、初めから分かってた…。だから最初は、真菜が壌護の代わりをするって言ったの。そしたら壌護、急に怒り出しちゃって…。それで、その後暫く経ってから同じ提案をした時にはもう壌護は一人で何もかもを背負っちゃってて。真菜は…、真菜は壌護に、みんなに、何もしてあげられなかったのに!」
一神は声を荒らげた。涙声になりながらも、必死に言葉を紡ぎ出していた。その言葉はきっと、ここにいるみんなへのものではなく、何処か遠くへ行ってしまった仲間に聞かせようとしているのだと、徳神は思った。
「…一神」
次に口を開いたのは羅神だった。普段なら一神に話しかける事は滅多にないので、今のは非常にレアな呼び掛けだった。が、今ここでボイスレコーダーとか使っている場合でもないので、一同はとりあえず羅神と一神との会話に耳を傾ける。
「お前が反省しているのは、分かる。だが、協力すると決めた以上、この計画は俺の意志で決めたも同然の事。先代の守護使も、多分言いたい事は俺と同意見のハズだ。…それに、お前には、笑顔以外、似合わない。俺は、笑っているお前でいて欲しい」
羅神の稀な優し目の発言に、音神は驚いていた。
一神は、羅神の目をすっと見据え、俯き、小さく言った。
「…温…かい…」
一神の残酷な告白が終わった直後にも関わらず、不思議と一同は落ち着いた優しさに包まれていた。
「あ、あのー、羅神さん?」
しかしその優しさを破壊したのは砂王だった。
「どうしたんだ?」
「いえ、勘違いだったらアレなんですけれどもー…、真菜さんに対して何か特別な感情でもあるのかなー、なんて思っちゃいまして」
このシチュエーションでそんな話題を振ってくる砂王のK・Yレベルの高さに敬服しながら、羅神の反応を確認すると、
「は、は、はははぁ!?なっ!別にっ!ちょっ、そんな!ちがっ!いや、ちが…いや違う!」
明らかに動揺を始めていた。
「…実は、俺様も気になっていた。羅神とやら、お前はあの真菜とやらに気があるのか?まさかとは思うが、気があるから今までの事を許す、と言っているのか?」
覇王に睨まれては、羅神は自由に行動出来なくなった。
「待ってくれ!違う!違うんだ!ただ、あまりにも卑屈になられると、ほら、その、後が困るじゃねーか!一神だって話し辛くなるし!俺も嫌だし!」
「『俺もいやだし』?」
ここで水神も参戦。
「おいちょっと待てお前ら。真菜の事をどうこういう前に、肝心の真菜本人の了解は取らないつもりなのか?」
先程まで恐ろしくシリアスだったのが嘘のように明るい話題へと変換されていた。
しかし、こういう会話が出来るのも、一応、全てが終わった今だから。そして、一神が、壌護達が行ってきた計画の過ちは、消える事は無くとも、それ以上話すことはなかった。何故なら、皆の心に深く刻まれていたからだ。
数日後。
5神はヴェドレーナの大要塞都市にてミーティングを行っていた。議題は、言うまでもなく。
「…じゃ、じゃあ、あの女性が徳のお母様っていうのは、本当だったのか?」
弥生の事だった。
「不思議な事もあるものだろう?我も正直、初めは驚いていた。理解した今ではもう驚きはしないがな」
徳神は水神の質問を綺麗に返した。
だが、肝心の問題はそこではない。
「それなら、なおさら厄介だな…。徳の関係者、という事はつまり、この世界に既に干渉しているという事だ。どうして今まで異世界にいられたのかが不思議でならないし、次に異世界へ帰したとして何も起こらないという保証は何処にも…」
そんな言葉を、音神が遮った。
「あのさ、私の意見なんだけど、ちょっといいかな?」
「ん?あぁ、構わないが」
「えーっと、徳神のお母様だ、って事が分かった決め手はシュウィーなのよね?」
そうだった。徳神が弥生が自分の母であるという事を認識したのは、シュウィーが寄り添っていたからだ。元々5神のように武器装備が出来ない異世界の住人にはシュウィーは懐く事はない。つまり、シュウィーが懐くという事は、少なからずこの世界の住人であるという事を示唆する。また、使魔の中でもシュウィーのような鍵としか触れ合えない種が腕にとまったという事から、徳神と同じ系統である事が言えた。それらを総合して考えると、そういう事になるのだ。
「それなら、さ」
音神がその次に言うセリフは、驚くべきものだった。
「徳神、一緒に異世界に帰りなよ」
「「!?」」
「吏子、お前何を言って…」
音神は、微笑んでいた。
だから、誰も何も言えなくなった。
「…分かった。そうしよう」
「大志!?」
「いいんだ、これで」
徳神は静かにそう言った。音神を見て、同時に頷く。そして、また口を開いた。
「よろしく頼むな」
「えぇ。分かってるわ」
羅神は終始無言だったが、表情は強張っていた。
徳神と弥生が異世界へと帰る日が来た。
「…まだ、目覚めないんだな」
これでもう五日間連続で眠り続けている事になる弥生を心配した羅神が言った。
「雷護の言うところによれば、息はあるらしい」
突然雷護の特技が明かされた。
「あいつ、そんな事も分かるのか…」
羅神は若干驚きながらも笑っていた。
「しかし、まぁ…。本当に、これで良いんだよな?」
羅神もやはり、徳神が異世界へ行く事を心配していた。
徳神はフッと笑って、
「貴様がいれば戦闘力での問題は我がいなくてもなんら変わりはない」
と軽く冗談めかして言った。
「そろそろ時間だ」
「あぁ」
そして、徳神はその世界に別れを告げた。
数分後、走ってやって来た一神が、羅神に向かって泣き崩れていた。何故引き止めなかった、と強く迫っている。しかし羅神は、これがあいつの選択なんだ、邪魔は出来ない、とその要求を弾いていた。
最終的に、声を上げて泣き始めてしまった一神の気合いの入った可愛らしい結び方のー…、徳神に見せる為であったのであろう髪を、しばらくの間撫でてやることしか、羅神には出来なかった。一神の手に握られていた一輪の花は、どこからともなく吹いて来た風に流され、空高く舞い上がっていた。
音神は、ただ虚空を眺めていた。
もう徳神がいなくなって三日以上が経過しても、生気を抜かれたような表情が音神から消える事はなかった。
「吏子、徳の事がそんなに気になるのか?」
水神はからかうように言う。音神の気持ちをよく知っている…ハズなのに。つまりはわざとそう言っている事になる。
「…大志は、本当にこうなる事を望んでいたのかしら…」
悪が消えた全ての世界において、誰かを恨むという悪の感情は起こり得なかった。代わりに次々と生成されていく感情は、後悔や責任感。全世界支配下計画によって総統され、一度 鍵によって施錠されてしまった世界には、誰かに対しての負の感情を得ることが出来ず、全てを自分の責任として処理するようになっていた。
「私、どこで間違っちゃったのよ…」
涙と共に零れた弱音に、水神は掛ける言葉を見つけ出せなかった。
音神は自ら提案しただけに、徳神が母親である弥生と共に異世界へ帰還した事がどうしようもなく辛かったのだ。
「大志…。あなたは今、幸せですか…?」
放たれた言葉に、誰も答えを出してはくれなかった。
異世界。
ここは新しい場所…のハズなのに、どうしてか既視感がある。
しかし何より、今一番問題なのはそこではなくー…
「貴様は…?」
「え、ちょっと待って。その前に貴様は誰なんだ!?ここは我が部屋なのだが!」
二人の徳神 大志が、一つの部屋にいた。
弥生を帰す為、そして自らも彼女の護衛として異世界へやって来た徳神は、この家で自身の過ごす部屋を探していた。そして丁度良いと選んだ場所が、この部屋だった。
「…そうか、ここはこの世界の我の部屋なのか」
「いや訳分かんないから!」
「貴様は砂王に憑依された時の記憶を完全に持っていないのか…?」
「さおう?誰だよそいつ。その前に、我に憑依など不可能だ!我は雷を司る神だからな!まぁ、不思議に思う事が数日前にあったが…。だが、やはり不可能なのだ!」
「そうか。まぁ、間違いではないな」
「え」
否定されなかった事が意外なのだろう。しかし記憶が無いとなると困る事もある。自分と出会う事で時空間的干渉が発生しないかどうか、である。
いくら世界的に接続が為されているとしても、人の記憶に干渉するような出来事が起これば話は別だ。
「…なぁ、貴様の母親は、誰だ?」
徳神、5神の方は異世界の方へと聞いた。
「我が母は徳神 弥生だが?」
答えは分かっていた。だが聞いておきたいのはその次だった。
「ならば、貴様はその弥生とやらをどんな事があっても護る事は出来るか?」
すると、少しの間異世界の徳神は悩み、言った。
「あ、あぁ、もちろん、だ」
どこかぎこちない。それもそうだろう。突然こんな事を聞かれれば困るに違いない。
「そうか。分かった。それなら、今から我が貴様を鍛える。…そうすれば、我が安心出来る…」
最後の方はディミヌエンドしてしまった為、聞こえたかどかは分からなかったが、異世界の徳神は納得してくれた。
「なんだかよく分からないが、頼む事にしよう。我も新たな力が欲しかった頃だからな」
このセリフに若干不安になる5神の徳神だったが、この世界で頼れる唯一無二の少年に、自分の役割を果たせるだけの力を与える事にした。
「いきなり現れた我より、貴様の方が、確実に護れるハズだ」
「おぉ、おう」
言われ慣れていない事を言われて、異世界の徳神は見るからに困惑していたが、5神の徳神の申し出を了承していた。
「よし、ならば始めよう」
二人の徳神は、世界を超越した特訓を開始した。
リビングで横になっていた弥生は、その頃漸く目を覚ました。
「あれ…?あたし、一体どうしちゃったのかしら…?大志の部屋を掃除中に…うーん、よく思い出せないわねぇ」
鏡の中に吸い込まれた時から記憶が無いようで、辺りをキョロキョロ見回していた。
「ま、いっか」
そういって時計を見、「あら、こんな時間」とでも言いそうな顔になって台所へと向かった。
二人の徳神が二階から下りて来た時は驚いていたが、何か思い当たる節があるのか、5神の徳神の方を居候としてすんなり受け入れてくれた。特訓が終わるまでは、実の母親と暮らすのも悪くないな、などと思いながら弥生の作った夕食を食べ始めたのだった。
数年後、5神は再会を果たすことになる。
その時に抱く感情は、喜び、悲しみ、後悔、嘆き、その他諸々のどれになるのかは分からない。
ただ、言えることはただ一つ。
「おかえり」
この一言だけは、たとえどんな世界になったとしても変わらないものなのだと、彼ら5神はいつまでも信じると決めたのだった。
今まで大帝国ヴェドレーナの5神を読んで下さり、本当にありがとうございました☆
♪( ´▽`)
本当に感謝あるのみです!
今後も、『水時計』や、『ほかきろ』などでまた会いましょう!
それでは!
本当にありがとうございました!!
シリウス




