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第二章『宿命の邂逅』(2)


「あなたが警備会社にいることをそこの子から聞きました。花を贈って鎌をかけてみましたが……本当に出てくるとは。正直驚きましたよ、まさか裏切り者が警備員なんてやっているなんて」

「似合わねぇことは百も承知だよ。……あんたこそ、怪盗なんてやるガラじゃねーだろ」


「ちょっと待ってよっ! これってどういう事なの!? なんで……どうしてお姉さんがこんな所にいるのさっ!?」

 大きく腕を振り、純也は一歩踏み出す。混乱する……何なんだ、この状況は……っ!

「そうですね……あなたも巻き込んでしまったのですから、幾つかお話しなければなりませんね」

「やめろ、こいつは関係無いっ」

「自分の裏切り行為が仲間に知られるのが怖いのですか? いつまでもその本性を隠し通せるとでも?」

「時雨、あんた……!」

 歯を食い縛る遼平に、時雨しぐれと呼ばれた怪盗が睨み返す。純也は一体二人が何を話しているのか理解できなくて、行動できない。


「昔、東京のある一帯を管理下に置いた若者のグループがありました……」

 時雨が瞳を閉じ、ゆっくりと語りだす。


「そのグループにはリーダーの下に三人の幹部を持っており、その下に数百人の人間をつれていました。グループは混沌とした東京の裏社会に秩序を取り戻す事を目標とし、帰る場所無き人間を救い、上位の四人はその為に日々活動していました。しかしある日、幹部だった一人の人間が同じく幹部だった男を殺害し、グループを裏切ったのです。……そう、あなたの隣りにいるその男―――蒼波遼平こそが、私達『スカイ』を裏切った犯人なんですよ」


「な……っ!」

「結果的にあなたを利用する事になってしまったのは謝ります。ですが、その男の側にいるのは危険です。あなたも裏切られたくなかったら早く離れることをお勧めします」

「そんな……違う! 何かの間違いだよっ!」

 今度はじっと自分を見つめてきた時雨に、純也は抗うように叫ぶ。そんな事は有り得ないと信じていた。遼平は目を細めたまま黙っている。

「……しかし、あなたが信じなくても私には関係ありません。私は、彼の復讐を果たすだけ。《邪鬼の権化》、蒼波遼平! 裏切り者よ、覚悟なさい!!」

 金属の接続音がして、時雨の手には薙刀が握られていた。その先についている金の刃は三日月状。優雅に、薙刀を構えると。


 一直線に男の喉もとを狙う三日月、女性とは思えない渾身の一撃!


 三日月の刃が空を切る音に、遼平は全く避ける気配は無い。それを受け止めた風の音が部屋に響いた。

 遼平に薙ぎられた刃を、手前で純也が受け止めていた。薙刀の力に対抗するだけの風が刃を中心に吹き荒れる。しばらく力が拮抗し合い、バックステップで時雨が一度身を引く。


「どうしても、邪魔をするのですね?」

「やめてください……あなたとは戦いたくない!」

「ならばそこを退いてください!」

「それはできないよ……遼を殺させたりはしないっ!!」

「あなたは知らないのです! その男は《鬼》なのですよ!? 自分の名声の為に仲間を裏切る卑怯者なんですっ!」

「違う……違うよ! 遼はそんな事しない!!」


 懇願するような純也の叫び。この人とは戦いたくない。でも遼平を殺すというのならそれは阻止しなくてはいけない。たとえ……そうだ、たとえこの人と生死を争う事になっても、それだけは。

「それならば仕方ありません……、まずはあなたを倒します!」

「くっ!」

 ギリギリで襲い掛かる薙刀の刃を避け、純也は後ろへ跳び退く。次々とくる太刀を純也は回避し続ける。こういった武器は間合いに入らなければ被害は無い。

「あ。おい純也、言い忘れてたんだが……」

「えっ、なに!?」

 やっと口を開いた遼平の言葉に、純也は一瞬気がそれる。薙刀がスッと引かれた。

「その薙刀、分かれるぞ」



 煌めく黄金の月っ!!



「うわあっ」

 中央部分から分かれた薙刀が、間合いを突き出て純也の首元を逸れる! 瞬時に首を引っ込めた純也はよろけて尻餅をついた。

「遼っ! そーゆー事は早く言ってよ!」

「油断すんなよ、時雨はスカイの幹部だからな」

「だったら遼も避けてよっ、どうして動かないのさ!?」

「そこで高見の見物ですか。あなたにとっては仲間などどうでもいい存在ですからね」

「……」

 また黙り込む遼平。まるで何かを待っているように、決して動こうとはしなくて。

 なんとか体勢を立て直し、純也は後方へ宙返りして先程より広く間合いをとる。もう薙刀は元通りに繋がれていた。時雨は距離をとられたまま、動かない。


「ですが、ここまでです。もう、あなた達は動けない」


「えっ……?」

 その言葉が合図であったように、純也の身体がぐらっと揺らぐ。そのまま身体のバランスがとれなくなり、倒れこむ。何故か、身体に力が入らないっ。

 後ろで遼平も膝をつく音が聞こえた、同じような状況らしい。そこで純也はやっと微かな薬の香りに気づいた。こんな初歩的な手にひっかかるなんて。

「く、ぅ……」

「無駄です、これを三分でも嗅げば動けませんよ。トリカブト……魔女の毒草です」

 身体を起こそうと必死になっている純也を見下ろす時雨の手に、紫色の花をつけた茎があった。



「ご覚悟を……」


 振り上がる鋭利な月は、残酷に光って少年の首もとへ落ちた。


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